秘密の部屋
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
新学期が始まり、ナツキは入院する羽目になったハーマイオニーに毎日授業中に書いたノートを、ハリーとロンは宿題を渡していた。
ある日の見舞いの帰り、三人はフィルチが3階の女子トイレのあたりで水浸しになった床をモップで拭いているのを見つけた。
「マートルの声が聞こえるね。」
ナツキの言葉にハリーとロンは頷いた。そして三人で女子トイレのマートルに会いに行ってみた。
「どうしたの? マートル」
「誰なの?」
ハリーが尋ねると、マートルは哀れっぽくゴボゴボと言った。話を聞くと、何かを投げつけられたのだという。
「あれかな?」
マートルが指し示す方に何かあるのをナツキは見つけた。ボロボロのノートのようなものだ。
ハリーが躊躇いなく拾うと、日記であった。T・M・リドルという名前が書かれていた。用心深く近づいてきたロンが、ハリーの肩越しに覗き込んだ。
「この名前、知ってる。T・M・リドル。50年前、学校から『特別功労賞』をもらったんだ。処罰を受けた時、フィルチに五十回以上もこいつの盾を磨かされたんだ。」
ロンは恨みがましく言った。ああ、車でホグワーツに来た罰則の時か、とナツキは思い出していた。
「ナメクジのゲップを引っかけちゃった、あの盾だよ。名前のところについたあのネトネトを一時間も磨いてりゃ、いやでも名前を覚えるさ。」
ハリーは日記をめっくてみたがそこには何も書かれてない。
「書くのやめちゃったのかな?でもどうして50年前の日記がここで捨てられちゃったんだろう。」
ナツキはそう言ったが、ハリーは別なことに興味を持ったようだ。どうやらその日記はマグルの店で売っているものらしい。
2月に入るとハーマイオニーが退院した。四人で魔法の日記だろうかと色々試してみるも、文字が現れる気配はない。50年前の部屋の事件について何かわかると思ったのに、がっかりであった。
ナツキには一つ、嬉しい知らせがあった。もう何度目かわからない、温室でのマンドレイクの世話(ロックハートを吹き飛ばしたことの罰則)が終わったのだ。
「あなたがあの人を吹き飛ばしてくれたおかげでずいぶん助かりました。もうマンドレイクたちも思春期に入ったので、私一人でも問題ありません!」
マダム・ポンフリーにそう言われ、ナツキはウキウキだ。ちょっとお祝いをしようと、大広間の下の厨房で、しもべ妖精に小さなケーキを頼む。ケーキが出てくるのを待っている一瞬の間に、ナツキの目に大きな骨つき肉が映った。その時、昨年度聞いたダンブルドア先生の言葉が蘇った。
『50年前、わしはこの場所でうろつくアルバ・ゴドリクソンに会ったのじゃ・・・・・・アルバは帰り道をちゃんと知っていたし、その手に持っていたのは大きな骨つき肉じゃった!』
50年前 骨つき肉
ナツキはそのキーワードで背筋が凍った。
祖母のアルバは秘密の部屋が開かれたとき、在学中だった。そして授業には関係なさそうなところで骨つき肉を持ってうろついていた。その肉は、誰に、いや、何に食べさせるものだったのだろう。
待って。私、ミセス・ノリスが石になった時どうしていた?
そうだ。絶命日パーティーで、トイレに行って、パーティー会場への戻り方がわからなくて・・・・一人でいた。
コリンとサー・ニコラスの時は・・・・・・多分マンドレイクの世話の帰りだ。疲れて、歩くのが嫌で・・・・一人で廊下のベンチにいた!
石になった者たちと離れたところにいたとは証明できる人がいないことに気づいた。そしてハーマイオニーとの会話を思い出す。
『でも、スリザリンの血が入っていないとは限らないわ。1000年前の人なんだから。』
『それはそうだけど・・・そしたらスリザリンの血に関しては皆に言えることだよ。』
スリザリンの血は誰にでも入りうるのだ。たとえ苗字がゴドリクソンであっても!
「・・・・まさか・・・私が・・・・・?」
「お嬢様?ケーキですよ。クリームたっぷりにしましたよ。」
しもべ妖精の甲高い声が聞こえてしばらくして、ナツキは呼ばれていることに気づいた。
「あ、ああ。うん。」
ケーキを受け取り、ナツキは何も考えられないままグリフィンドールの寮へ向かった。
「あれ、ナツキ、そのケーキはどうしたの?」
ロンに声をかけられ、ナツキはビクッと肩を震わせた。
「ああ・・・えっと・・・・・あ、温室での罰則が終わったから、そのご褒美にって思って持ってきて・・・・・」
「ワーオ!良かったね!ハリーも呼んでくるよ!四人でお菓子パーティーをしよう!」
ロンは男子部屋のハリーを呼んできた。宿題をしていたハーマイオニーも「お疲れ様」と言って、部屋からお菓子とかぼちゃジュースをたくさん持ってきてくれた。
普段なら絶対楽しいはずのその時間だが、ナツキは別のことで頭がいっぱいだった。三人から話しかけられても、耳に入ってこなくて、何度か聞き返すこともあった。
ハリーはナツキがちょっとおかしいことに気づいた。しかし今日も温室での作業をしてきたみたいだから、疲れているんだろうな、と思った。
四人のお菓子パーティーは夜遅くまで続いた。ハリーも、特にハッフルパフからの風評でストレスを感じていたから、楽しい時間を目一杯楽しみたかったんだろう。
「「おやすみ。」」
ハリーとロンが男子部屋に戻っていった。ハーマイオニーもあくびをしながら女子部屋に向かっていった。
ナツキは女子部屋に戻れずにいた。
だってマグル生まれのハーマイオニーに自分が危害を加えるかもしれない。その可能性に気づいてしまった。自分が怖くて怖くて仕方がなかった。
ナツキは暖炉の前に座り、そこから動かなかった。談話室にはナツキ一人だけがいた。
「ナツキ?」
「っ!!」
突然後ろから声をかけられ、ナツキの肩が跳ね上がった。そこにはジョージがいた。
「・・・・どうした?パーティーが終わったのに寝ないのか?」
そう言いながらジョージは暖炉前のソファに座るナツキのすぐ隣に腰を下ろした。
「あ、眠くなくて・・・・」
「ん〜、それは嘘だな。今すぐ部屋に行って寝たいって顔だ。最後の温室の手伝いをしてきたんだろ?ヘトヘトのはずだ。」
「・・・・眠るのが、怖くて・・・・」
そう言ったナツキをジョージはいつもと違って茶化さなかった。
「怖い夢でも?」
「・・・・ううん・・・・そういうんじゃない・・・そういうの、じゃ・・・・・っ・・」
「!」
ジョージは目をひん剥いた。ナツキの目から涙が溢れたからだ。のんびりしているけど、根っこは気が強いナツキが泣くなんてことを、ジョージは想像したことがなかった。只事ではないのだとジョージは悟った。
「俺に相談してみるのはどうだ?特別にフレッドにも内緒にしてやるよ。」
ナツキは躊躇った。自分が、スリザリンの継承者かもしれない。無意識に、マグル生まれの人に、部屋の怪物をけしかけているかもしれない。そんなことを言ってもいいのか悩んだ。でもこの時ばかりは、不思議とジョージが親友のハリーよりも信頼できる気がした。
「私、去年西棟で迷子になったでしょ・・・ヒック・・・あれ、あの後にも・・・何度かあったの。気づいたらあそこにいる時があるの。」
しゃくり上げながらナツキはゆっくりとジョージに何があったのかを話した。秘密の部屋が開いた50年前に、祖母が同じ場所で不可解な行動をとっていたこと。被害者が出た時、自分はいつも一人だったこと。ゴドリクソンの苗字がなんの安心の根拠にもならないと気づいたこと。
「・・・次は・・私・・・ハーマイオニーを傷つけるかもしれない・・・・!!」
「ナツキはそんなことしないよ・・・・」
ジョージはナツキをどう慰めたら良いかわからなくて、両親がジニーを慰めるのを真似して、ナツキの頭を撫でた。すると、ナツキは耐えきれなくなったようで、ジョージの胸に飛び込んだのだ。
「!」
肩を震わせながらジョージにナツキは縋り付いていた。ジョージはナツキの背に遠慮がちに腕を回した。マルフォイを殴るし、ロックハートには衝撃呪文を食らわせてしまうお転婆な女の子が、思っていたよりずっと小さいことにジョージは気づいた。
「ならさ、西棟に行ってみよう。今度は、ナツキが自分から。」
「・・・・え?」
「秘密の部屋がそこにあるか確かめてみよう。明日、授業がない時間は?」
「・・・明日は、午前中は何も授業はないよ・・・・」
ジョージはにっこり笑って「なら決まりだ」と言った。
「朝飯を食ったら、キッチンの絵の前に集合だ。」
「ジョージと一緒に部屋を探すってこと!?そんなの、何かあったら・・・・!!」
「その時はナツキを連れて全力で逃げるさ。大丈夫。ナツキはグリフィンドールだ。秘密の部屋とも怪物とも関係ないさ。」
その後のことはナツキもうろ覚えだ。泣き疲れて、体が勝手にベッドへ向かった。気づけば朝までぐっすり眠っていた。
「ナツキ、そろそろ起きて。あなたあの後、夜更かししたの?」
朝、元気なハーマイオニーに起こされて、ナツキはなんだかまた泣きそうになったけれど、ぐっとそれを堪えた。
ハリーたちと朝食を食べて、ナツキはジョージとの約束のため、緊張しながらキッチンのフルーツの絵の前に向かった。そこでは背の高い赤毛の少年が待っていた。
「ジョージ!」
「ああ、ナツキ、おはよう。ちょっと待ってな。」
絵の扉から屋敷しもべ妖精が顔を出し、大きな骨つき肉をジョージに渡した。
「ナツキのばあさんがこれを持ってたんなら必要かもしれないだろ。念の為な。」
片手に巨大骨つき肉をもつジョージをすれ違う人たちはジロジロと見つめた。ジョージはそんなこと少しも気にしていないようでどこ吹く風だ。
二人は西棟に辿り着いた。ナツキが、いつの間にか辿り着いてしまうこの場所に、自分の意志で来たのは初めてだった。
「しかし、ここら辺に部屋はあったかね。それとも俺が知らない仕掛けがあるのか?」
絵画は飾られていないので、二人で壁や柱を眺めてみる。
「ナツキはここに来てしまったことに、どのあたりで気づくんだ?」
ジョージの言葉でふと気づいた。確か、気づくのはいつも同じような位置だ。その場所にナツキは立ってみた。
「向きもそれ?」
「うん。いつも、こっちを向いてるかも・・・・」
ナツキがふと前を見た。今まで気にしたことがないが、少し影になっているところにある壁にはレリーフが彫られている。古いホグワーツ城のレリーフは凹凸がだいぶなだらかになっていたが、それが獅子であると気づいた。獅子のレリーフはいくつも横に連なっていた。
「・・・何か、ある?」
ジョージが少し緊張したように聞いた。
「わからない。でも、なんか気になる。気のせいかもしれないけど。」
「いいよ。気がすむまで探してみよう。」
かつては非常に繊細であっただろう、獅子のレリーフに指で触れてみる。いくつも連なっている獅子を1匹ずつ指でなぞっていくと、他と違う獅子のレリーフがあった。
「・・・ジョージ・・・・見て。」
「ん?」
その獅子はほとんどが、他の獅子のレリーフのように経年劣化で平らに近くなっていたが、やけに牙が鋭く見えた。
「なんでここだけ・・・痛っ!」
何の気なしに指先でその鋭利な牙をなぞった瞬間、ナツキはチクリとした痛みに眉をひそめた。かすかに赤く滲んだ血が、牙の根元に染み込む。ゴゴゴ、と低い音がなり、目の前の壁が回転扉に変わった。と、気づいた瞬間二人は突然ぐるりと回った扉の裏側に引き込まれていた。
「うおっ!?」
「わっ!」
まさか本当に部屋があったのかとジョージは焦り、杖を構える。しかしナツキの胸には、不思議な暖かさが広がっていた。
回転扉の先にはさらに扉があった。ドアノブがついており、そこには「汝、ゴドリックの血を継ぎし者」と書かれていた。それを見てナツキもジョージも全てを察した。
「まさか、秘密の部屋は、スリザリンのもの以外もあったのか・・・・?鍵はナツキの血ってことか・・・・」
「じゃあここは、グリフィンドールの秘密の部屋なの・・・・!?私は、スリザリンの継承者ではない・・・・・!!」
「だから言ったろ?」
ジョージはニンマリ笑った。
「中に入ってみようぜ。さあ、グリフィンドールの継承者様、前をお通りくださいませ。・・・・あ、指は大丈夫か?」
「ジョージったら・・・怪我は全然大したことないよ。」
ナツキはつい笑った。ものすごく久しぶりに笑った気がした。
扉を開けるとそこは書斎だった。壁は赤茶けた石造りで、天井は丸く、ライオンのモチーフが柱に刻まれている。そして大きな本棚には、ぎっちりと本が収まっていた。
「・・・なんだろう・・・」
ナツキとジョージは本棚の本をそれぞれ見てみる。
「防衛術のとびきり応用編だぜ。」
「これは・・・ノート・・・・うわ、ルーン文字がいっぱい。読めないや。」
「・・・・ナツキ、これ見ろよ。」
ジョージがナツキに手渡したのは日記のように見えた。表紙には「アルバ・ゴドリクソン」と小さく名が刻まれていた。
「!」
ナツキは日記を開いた。どうやら祖母が、1年生の頃の日記だ。ホグワーツに入学した喜びが書かれていた。自分と同じ、小さな魔法使いが目に浮かぶようだった。
「やたらと防衛術の本が多いな。呪いもある。呪文学もか。そこの机で宿題でもしてたのか?」
「わかんない。・・・・ねえ、あの扉ってどこに続くのかな。」
グリフィンドールの秘密の部屋は書斎だけではないらしい。ナツキはドキドキしながら奥の扉を開けた。
扉の先には広めの石造りの円形の部屋。床には傷や焦げ跡が残っている。
「呪文の演習にでも使ったのか?」
ジョージのいう通り、特に呪文学の教室で見たことのあるような傷に似ているものが多かった。しかしそれよりも二人の目を引いたものが部屋の中央に置かれていた。
「・・・ライオンだ・・・」
等身大よりも少し大きなライオンの像があった。グリフィンドールのエンブレムのライオンとそっくりであった。彫刻にしては異様なほどリアルで、瞳や爪、たてがみの流れまで見事に再現されている。
「今にも動き出しそうだけど・・これ、像だよな?」
「うん・・・生きている感じはしないけど・・・・・」
二人はそのライオンをまじまじと見た。どうやら突然動き出したりするようなことはなさそうだった。
「何はともあれナツキはグリフィンドールに呼ばれたんだ。スリザリンでも、秘密の部屋の怪物にでもない。これは無駄になっちまったな。ばあさんは肉好きだったのか?」
ジョージは骨つき肉を重そうに持ち上げて齧り付いた。
「もしかしたらそうだったのかも。」
二人は午前中の残りを書斎の本を漁ることに決めた。どうやら呪文の研究の跡があることがわかった。それに紛れるように祖母の日記が何冊も置いてあった。マメな人だったようで、そこから50年前のスリザリンの秘密の部屋についての記述を探すのは一苦労しそうだった。
「ナツキ、ここにも本があった。ちゃんと読んだ方が良さそうなやつだ。」
ジョージが示したのは、火のついていない暖炉の上だった。1冊だけポンと置かれている。表紙には「私の子孫へ この部屋の使い方」という手書きのタイトルと、小さくアルバ・ゴドリクソンという名があった。
「ばあさんからナツキへプレゼントだな。」
「なんだろう。」
ナツキはパラパラと眺めてみた。
『この部屋に出入りするには、もうご存知でしょうが、ゴドリック・グリフィンドールの直系の血が必要です。入り口の作りからして、どう頑張っても二人までしか入れないようです。あなたがたくさん血を流したいのであれば話は別ですが。』
祖母の言葉はまだ続いた。それはナツキにとって非常に悩ましい言葉だった。
『しかしどんなに信頼している人であれ、この部屋のことを教えることはお勧めしません。サイラスが非常に嫌がるからです。』
「「サイラス?」」二人は同時に声を上げて続きを読んだ。
『サイラスが好む食べ物を教えましょう。まず、骨つき肉・・・』
ナツキはギョッとした。どうやらこの部屋には骨つき肉を好むサイラスという何かがいるらしい。好きな食べ物リストを見る限り完全に肉食だ。
「俺、出ていった方良いかな?」
「・・・・今は留守なのか、もう昔のことだから寿命になってるのかわからないけど、その方がきっと良いよね。」
とりあえずその日ナツキは部屋を出ることにした。アルバのノートに書いてあった通り、退出する際にもナツキの血がほんのちょっぴり必要みたいだった。
「何はともあれナツキの心配事は無くなったわけだ。このことはハリーたちには言うのか?」
「・・・どうしよう。そのサイラスってのがわからないと危険かもしれないからまだ内緒にしておく。ジョージ、もし危ないことに巻き込んじゃったらごめんね。」
「大丈夫さ。」
ジョージはナツキの頭をワシワシっと撫でた。
ある日の見舞いの帰り、三人はフィルチが3階の女子トイレのあたりで水浸しになった床をモップで拭いているのを見つけた。
「マートルの声が聞こえるね。」
ナツキの言葉にハリーとロンは頷いた。そして三人で女子トイレのマートルに会いに行ってみた。
「どうしたの? マートル」
「誰なの?」
ハリーが尋ねると、マートルは哀れっぽくゴボゴボと言った。話を聞くと、何かを投げつけられたのだという。
「あれかな?」
マートルが指し示す方に何かあるのをナツキは見つけた。ボロボロのノートのようなものだ。
ハリーが躊躇いなく拾うと、日記であった。T・M・リドルという名前が書かれていた。用心深く近づいてきたロンが、ハリーの肩越しに覗き込んだ。
「この名前、知ってる。T・M・リドル。50年前、学校から『特別功労賞』をもらったんだ。処罰を受けた時、フィルチに五十回以上もこいつの盾を磨かされたんだ。」
ロンは恨みがましく言った。ああ、車でホグワーツに来た罰則の時か、とナツキは思い出していた。
「ナメクジのゲップを引っかけちゃった、あの盾だよ。名前のところについたあのネトネトを一時間も磨いてりゃ、いやでも名前を覚えるさ。」
ハリーは日記をめっくてみたがそこには何も書かれてない。
「書くのやめちゃったのかな?でもどうして50年前の日記がここで捨てられちゃったんだろう。」
ナツキはそう言ったが、ハリーは別なことに興味を持ったようだ。どうやらその日記はマグルの店で売っているものらしい。
2月に入るとハーマイオニーが退院した。四人で魔法の日記だろうかと色々試してみるも、文字が現れる気配はない。50年前の部屋の事件について何かわかると思ったのに、がっかりであった。
ナツキには一つ、嬉しい知らせがあった。もう何度目かわからない、温室でのマンドレイクの世話(ロックハートを吹き飛ばしたことの罰則)が終わったのだ。
「あなたがあの人を吹き飛ばしてくれたおかげでずいぶん助かりました。もうマンドレイクたちも思春期に入ったので、私一人でも問題ありません!」
マダム・ポンフリーにそう言われ、ナツキはウキウキだ。ちょっとお祝いをしようと、大広間の下の厨房で、しもべ妖精に小さなケーキを頼む。ケーキが出てくるのを待っている一瞬の間に、ナツキの目に大きな骨つき肉が映った。その時、昨年度聞いたダンブルドア先生の言葉が蘇った。
『50年前、わしはこの場所でうろつくアルバ・ゴドリクソンに会ったのじゃ・・・・・・アルバは帰り道をちゃんと知っていたし、その手に持っていたのは大きな骨つき肉じゃった!』
50年前 骨つき肉
ナツキはそのキーワードで背筋が凍った。
祖母のアルバは秘密の部屋が開かれたとき、在学中だった。そして授業には関係なさそうなところで骨つき肉を持ってうろついていた。その肉は、誰に、いや、何に食べさせるものだったのだろう。
待って。私、ミセス・ノリスが石になった時どうしていた?
そうだ。絶命日パーティーで、トイレに行って、パーティー会場への戻り方がわからなくて・・・・一人でいた。
コリンとサー・ニコラスの時は・・・・・・多分マンドレイクの世話の帰りだ。疲れて、歩くのが嫌で・・・・一人で廊下のベンチにいた!
石になった者たちと離れたところにいたとは証明できる人がいないことに気づいた。そしてハーマイオニーとの会話を思い出す。
『でも、スリザリンの血が入っていないとは限らないわ。1000年前の人なんだから。』
『それはそうだけど・・・そしたらスリザリンの血に関しては皆に言えることだよ。』
スリザリンの血は誰にでも入りうるのだ。たとえ苗字がゴドリクソンであっても!
「・・・・まさか・・・私が・・・・・?」
「お嬢様?ケーキですよ。クリームたっぷりにしましたよ。」
しもべ妖精の甲高い声が聞こえてしばらくして、ナツキは呼ばれていることに気づいた。
「あ、ああ。うん。」
ケーキを受け取り、ナツキは何も考えられないままグリフィンドールの寮へ向かった。
「あれ、ナツキ、そのケーキはどうしたの?」
ロンに声をかけられ、ナツキはビクッと肩を震わせた。
「ああ・・・えっと・・・・・あ、温室での罰則が終わったから、そのご褒美にって思って持ってきて・・・・・」
「ワーオ!良かったね!ハリーも呼んでくるよ!四人でお菓子パーティーをしよう!」
ロンは男子部屋のハリーを呼んできた。宿題をしていたハーマイオニーも「お疲れ様」と言って、部屋からお菓子とかぼちゃジュースをたくさん持ってきてくれた。
普段なら絶対楽しいはずのその時間だが、ナツキは別のことで頭がいっぱいだった。三人から話しかけられても、耳に入ってこなくて、何度か聞き返すこともあった。
ハリーはナツキがちょっとおかしいことに気づいた。しかし今日も温室での作業をしてきたみたいだから、疲れているんだろうな、と思った。
四人のお菓子パーティーは夜遅くまで続いた。ハリーも、特にハッフルパフからの風評でストレスを感じていたから、楽しい時間を目一杯楽しみたかったんだろう。
「「おやすみ。」」
ハリーとロンが男子部屋に戻っていった。ハーマイオニーもあくびをしながら女子部屋に向かっていった。
ナツキは女子部屋に戻れずにいた。
だってマグル生まれのハーマイオニーに自分が危害を加えるかもしれない。その可能性に気づいてしまった。自分が怖くて怖くて仕方がなかった。
ナツキは暖炉の前に座り、そこから動かなかった。談話室にはナツキ一人だけがいた。
「ナツキ?」
「っ!!」
突然後ろから声をかけられ、ナツキの肩が跳ね上がった。そこにはジョージがいた。
「・・・・どうした?パーティーが終わったのに寝ないのか?」
そう言いながらジョージは暖炉前のソファに座るナツキのすぐ隣に腰を下ろした。
「あ、眠くなくて・・・・」
「ん〜、それは嘘だな。今すぐ部屋に行って寝たいって顔だ。最後の温室の手伝いをしてきたんだろ?ヘトヘトのはずだ。」
「・・・・眠るのが、怖くて・・・・」
そう言ったナツキをジョージはいつもと違って茶化さなかった。
「怖い夢でも?」
「・・・・ううん・・・・そういうんじゃない・・・そういうの、じゃ・・・・・っ・・」
「!」
ジョージは目をひん剥いた。ナツキの目から涙が溢れたからだ。のんびりしているけど、根っこは気が強いナツキが泣くなんてことを、ジョージは想像したことがなかった。只事ではないのだとジョージは悟った。
「俺に相談してみるのはどうだ?特別にフレッドにも内緒にしてやるよ。」
ナツキは躊躇った。自分が、スリザリンの継承者かもしれない。無意識に、マグル生まれの人に、部屋の怪物をけしかけているかもしれない。そんなことを言ってもいいのか悩んだ。でもこの時ばかりは、不思議とジョージが親友のハリーよりも信頼できる気がした。
「私、去年西棟で迷子になったでしょ・・・ヒック・・・あれ、あの後にも・・・何度かあったの。気づいたらあそこにいる時があるの。」
しゃくり上げながらナツキはゆっくりとジョージに何があったのかを話した。秘密の部屋が開いた50年前に、祖母が同じ場所で不可解な行動をとっていたこと。被害者が出た時、自分はいつも一人だったこと。ゴドリクソンの苗字がなんの安心の根拠にもならないと気づいたこと。
「・・・次は・・私・・・ハーマイオニーを傷つけるかもしれない・・・・!!」
「ナツキはそんなことしないよ・・・・」
ジョージはナツキをどう慰めたら良いかわからなくて、両親がジニーを慰めるのを真似して、ナツキの頭を撫でた。すると、ナツキは耐えきれなくなったようで、ジョージの胸に飛び込んだのだ。
「!」
肩を震わせながらジョージにナツキは縋り付いていた。ジョージはナツキの背に遠慮がちに腕を回した。マルフォイを殴るし、ロックハートには衝撃呪文を食らわせてしまうお転婆な女の子が、思っていたよりずっと小さいことにジョージは気づいた。
「ならさ、西棟に行ってみよう。今度は、ナツキが自分から。」
「・・・・え?」
「秘密の部屋がそこにあるか確かめてみよう。明日、授業がない時間は?」
「・・・明日は、午前中は何も授業はないよ・・・・」
ジョージはにっこり笑って「なら決まりだ」と言った。
「朝飯を食ったら、キッチンの絵の前に集合だ。」
「ジョージと一緒に部屋を探すってこと!?そんなの、何かあったら・・・・!!」
「その時はナツキを連れて全力で逃げるさ。大丈夫。ナツキはグリフィンドールだ。秘密の部屋とも怪物とも関係ないさ。」
その後のことはナツキもうろ覚えだ。泣き疲れて、体が勝手にベッドへ向かった。気づけば朝までぐっすり眠っていた。
「ナツキ、そろそろ起きて。あなたあの後、夜更かししたの?」
朝、元気なハーマイオニーに起こされて、ナツキはなんだかまた泣きそうになったけれど、ぐっとそれを堪えた。
ハリーたちと朝食を食べて、ナツキはジョージとの約束のため、緊張しながらキッチンのフルーツの絵の前に向かった。そこでは背の高い赤毛の少年が待っていた。
「ジョージ!」
「ああ、ナツキ、おはよう。ちょっと待ってな。」
絵の扉から屋敷しもべ妖精が顔を出し、大きな骨つき肉をジョージに渡した。
「ナツキのばあさんがこれを持ってたんなら必要かもしれないだろ。念の為な。」
片手に巨大骨つき肉をもつジョージをすれ違う人たちはジロジロと見つめた。ジョージはそんなこと少しも気にしていないようでどこ吹く風だ。
二人は西棟に辿り着いた。ナツキが、いつの間にか辿り着いてしまうこの場所に、自分の意志で来たのは初めてだった。
「しかし、ここら辺に部屋はあったかね。それとも俺が知らない仕掛けがあるのか?」
絵画は飾られていないので、二人で壁や柱を眺めてみる。
「ナツキはここに来てしまったことに、どのあたりで気づくんだ?」
ジョージの言葉でふと気づいた。確か、気づくのはいつも同じような位置だ。その場所にナツキは立ってみた。
「向きもそれ?」
「うん。いつも、こっちを向いてるかも・・・・」
ナツキがふと前を見た。今まで気にしたことがないが、少し影になっているところにある壁にはレリーフが彫られている。古いホグワーツ城のレリーフは凹凸がだいぶなだらかになっていたが、それが獅子であると気づいた。獅子のレリーフはいくつも横に連なっていた。
「・・・何か、ある?」
ジョージが少し緊張したように聞いた。
「わからない。でも、なんか気になる。気のせいかもしれないけど。」
「いいよ。気がすむまで探してみよう。」
かつては非常に繊細であっただろう、獅子のレリーフに指で触れてみる。いくつも連なっている獅子を1匹ずつ指でなぞっていくと、他と違う獅子のレリーフがあった。
「・・・ジョージ・・・・見て。」
「ん?」
その獅子はほとんどが、他の獅子のレリーフのように経年劣化で平らに近くなっていたが、やけに牙が鋭く見えた。
「なんでここだけ・・・痛っ!」
何の気なしに指先でその鋭利な牙をなぞった瞬間、ナツキはチクリとした痛みに眉をひそめた。かすかに赤く滲んだ血が、牙の根元に染み込む。ゴゴゴ、と低い音がなり、目の前の壁が回転扉に変わった。と、気づいた瞬間二人は突然ぐるりと回った扉の裏側に引き込まれていた。
「うおっ!?」
「わっ!」
まさか本当に部屋があったのかとジョージは焦り、杖を構える。しかしナツキの胸には、不思議な暖かさが広がっていた。
回転扉の先にはさらに扉があった。ドアノブがついており、そこには「汝、ゴドリックの血を継ぎし者」と書かれていた。それを見てナツキもジョージも全てを察した。
「まさか、秘密の部屋は、スリザリンのもの以外もあったのか・・・・?鍵はナツキの血ってことか・・・・」
「じゃあここは、グリフィンドールの秘密の部屋なの・・・・!?私は、スリザリンの継承者ではない・・・・・!!」
「だから言ったろ?」
ジョージはニンマリ笑った。
「中に入ってみようぜ。さあ、グリフィンドールの継承者様、前をお通りくださいませ。・・・・あ、指は大丈夫か?」
「ジョージったら・・・怪我は全然大したことないよ。」
ナツキはつい笑った。ものすごく久しぶりに笑った気がした。
扉を開けるとそこは書斎だった。壁は赤茶けた石造りで、天井は丸く、ライオンのモチーフが柱に刻まれている。そして大きな本棚には、ぎっちりと本が収まっていた。
「・・・なんだろう・・・」
ナツキとジョージは本棚の本をそれぞれ見てみる。
「防衛術のとびきり応用編だぜ。」
「これは・・・ノート・・・・うわ、ルーン文字がいっぱい。読めないや。」
「・・・・ナツキ、これ見ろよ。」
ジョージがナツキに手渡したのは日記のように見えた。表紙には「アルバ・ゴドリクソン」と小さく名が刻まれていた。
「!」
ナツキは日記を開いた。どうやら祖母が、1年生の頃の日記だ。ホグワーツに入学した喜びが書かれていた。自分と同じ、小さな魔法使いが目に浮かぶようだった。
「やたらと防衛術の本が多いな。呪いもある。呪文学もか。そこの机で宿題でもしてたのか?」
「わかんない。・・・・ねえ、あの扉ってどこに続くのかな。」
グリフィンドールの秘密の部屋は書斎だけではないらしい。ナツキはドキドキしながら奥の扉を開けた。
扉の先には広めの石造りの円形の部屋。床には傷や焦げ跡が残っている。
「呪文の演習にでも使ったのか?」
ジョージのいう通り、特に呪文学の教室で見たことのあるような傷に似ているものが多かった。しかしそれよりも二人の目を引いたものが部屋の中央に置かれていた。
「・・・ライオンだ・・・」
等身大よりも少し大きなライオンの像があった。グリフィンドールのエンブレムのライオンとそっくりであった。彫刻にしては異様なほどリアルで、瞳や爪、たてがみの流れまで見事に再現されている。
「今にも動き出しそうだけど・・これ、像だよな?」
「うん・・・生きている感じはしないけど・・・・・」
二人はそのライオンをまじまじと見た。どうやら突然動き出したりするようなことはなさそうだった。
「何はともあれナツキはグリフィンドールに呼ばれたんだ。スリザリンでも、秘密の部屋の怪物にでもない。これは無駄になっちまったな。ばあさんは肉好きだったのか?」
ジョージは骨つき肉を重そうに持ち上げて齧り付いた。
「もしかしたらそうだったのかも。」
二人は午前中の残りを書斎の本を漁ることに決めた。どうやら呪文の研究の跡があることがわかった。それに紛れるように祖母の日記が何冊も置いてあった。マメな人だったようで、そこから50年前のスリザリンの秘密の部屋についての記述を探すのは一苦労しそうだった。
「ナツキ、ここにも本があった。ちゃんと読んだ方が良さそうなやつだ。」
ジョージが示したのは、火のついていない暖炉の上だった。1冊だけポンと置かれている。表紙には「私の子孫へ この部屋の使い方」という手書きのタイトルと、小さくアルバ・ゴドリクソンという名があった。
「ばあさんからナツキへプレゼントだな。」
「なんだろう。」
ナツキはパラパラと眺めてみた。
『この部屋に出入りするには、もうご存知でしょうが、ゴドリック・グリフィンドールの直系の血が必要です。入り口の作りからして、どう頑張っても二人までしか入れないようです。あなたがたくさん血を流したいのであれば話は別ですが。』
祖母の言葉はまだ続いた。それはナツキにとって非常に悩ましい言葉だった。
『しかしどんなに信頼している人であれ、この部屋のことを教えることはお勧めしません。サイラスが非常に嫌がるからです。』
「「サイラス?」」二人は同時に声を上げて続きを読んだ。
『サイラスが好む食べ物を教えましょう。まず、骨つき肉・・・』
ナツキはギョッとした。どうやらこの部屋には骨つき肉を好むサイラスという何かがいるらしい。好きな食べ物リストを見る限り完全に肉食だ。
「俺、出ていった方良いかな?」
「・・・・今は留守なのか、もう昔のことだから寿命になってるのかわからないけど、その方がきっと良いよね。」
とりあえずその日ナツキは部屋を出ることにした。アルバのノートに書いてあった通り、退出する際にもナツキの血がほんのちょっぴり必要みたいだった。
「何はともあれナツキの心配事は無くなったわけだ。このことはハリーたちには言うのか?」
「・・・どうしよう。そのサイラスってのがわからないと危険かもしれないからまだ内緒にしておく。ジョージ、もし危ないことに巻き込んじゃったらごめんね。」
「大丈夫さ。」
ジョージはナツキの頭をワシワシっと撫でた。