秘密の部屋
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ミセス・ノリスを見たとたん、フィルチは恐怖のあまり手で顔を覆い、たじたじと後ずさりした。
「わたしの猫だ!ミセス・ノリスに何が起こったというんだ?」
フィルチはハリーを指差して金切り声で叫んだ。
「おまえだな!おまえだ!おまえがわたしの猫を殺したんだ!」
「アーガス!」
ダンブルドア先生が他に数人の先生を従えて現場に到着した。
「アーガス、一緒に来なさい。ミスター・ポッター、ミス・ゴドリクソン、ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャー。君たちもおいで。」
ダンブルドア先生が呼びかけ、ナツキたちは近くのロックハートの部屋へ行くこととなった。
ロックハートの部屋に入ると、ダンブルドア先生は、ミセス・ノリスを机の上に置き、調べはじめた。ハリー、ナツキ、ロン、ハーマイオニーは、目線を交わし、ぐったりと椅子に座り込み、先生をじっと見つめていた。
ダンブルドア先生は長い指でそっと突ついたり刺激したりしながら、ミセス・ノリスを隈なく調べた。マクゴナガル先生も、目を凝らして見ていた。スネイプ先生はその後ろでニヤリ笑いを必死で噛み殺しているようだった。そしてロックハートとなると、うろうろしながら、あれやこれやと意見を述べ立てていた。
ロックハートの話の合いの手は、フィルチが、激しくしゃくり上げる声だった。ナツキはフィルチが好きではなかっただ、この時ばかりは激しく同情した。
ダンブルドア先生ならハリーも私たちも犯人ではないとすぐにわかるはず。
希望も込めてナツキはそう自分に言い聞かせた。
ダンブルドア先生はようやく体を起こし、やさしく言った。
「アーガス、猫は死んでおらんよ。石になっただけじゃ。ただし、どうしてそうなったのか、わしには答えられん・・・・」
「あいつに聞いてくれ!」
フィルチは涙で汚れ、まだらに赤くなった顔でハリーのほうを見た。
「ハリーはそんなことしていません。」
「そうだろうとも、ミス・ゴドリクソン。二年生がこんなことをできるはずがない。」
ダンブルドア先生はきっぱりと言った。
「あいつは見たんだ。・・・・・あいつは知ってるんだ。わたしが・・・わたしができ損ないの『スクイブ』だって知ってるんだ!」
フィルチがやっとのことで言葉を言い終えた。ナツキはフィルチはどうしていつもそこ意地悪く生徒の粗探しをするのか不思議に思っていたが、その理由がわかった。
「僕、ミセス・ノリスに指一本触れていません!それに、僕、スクイブが何なのかも知りません。」
「バカな!あいつはクイックスペルから来た手紙を見やがった!」
「あの、ハリーは自分が魔法使いだと知ったのは本当に最近のことです。スクイブのことを知る機会はほとんどなかったと思います。」
ナツキの言葉にフィルチは納得できないようだったが、言葉を少し詰まらせた。代わりにスネイプ先生が口を開いた。
「ポッターもその仲間も、単に間が悪くその場に居合わせただけかもしれませんな。とは言え、一連の疑わしい状況が存在します。だいたい連中はなぜ三階の廊下にいたのか?なぜ三人はハロウィーンのパーティにいなかったのか?」
ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーはいっせいに「絶命日パーティ」の説明を始めた。幸い、証言してくれるゴーストはわんさか居るだろう。
「それでは、そのあとパーティに来なかったのはなぜかね?なぜあそこの廊下に行ったのかね?」
「僕たち疲れたので、ベッドに行きたかったものですから。」
ハリーは咄嗟にそう答えた。
「夕食も食べずにか?ゴーストのパーティで、生きた人間にふさわしい食べ物が出るとは思えんがね。」
「珍しい光景に夢中になっていたら、もうほとんどハロウィーンパーティーが終わる時間だったので、寮でお菓子を食べようとしていました。」
ナツキも咄嗟に答えた。
「疑わしきは罰せずじゃよ、セブルス。」
ダンブルドアがきっぱり言った。
「わたしの猫が石にされたんだ!罰を受けさせなけりゃ収まらん!」
フィルチの目は飛び出し、声は金切り声だ。
「アーガス、君の猫は治してあげられますぞ。スプラウト先生が、最近やっとマンドレイクを手に入れられてな。十分に成長したら、すぐにもミセス・ノリスを蘇生させる薬を作らせましょうぞ。」
そして四人はダンブルドア先生から帰って良いとの許しを受けた。できるかぎり急いでその場を去った。誰もいない教室に入ると、そっとドアを閉めた。
「あの声のこと、僕、みんなに話したほうがよかったと思う?」
ハリーの質問にナツキはロンと顔を見合わせた。
「ダンブルドア先生やマクゴナガル先生になら話してもよかったかもしれないとは思うけど・・・・」
「本当に?誰にも聞こえない声が聞こえるのは、魔法界でも狂気の始まりだって思われてる。」
ロンの口調が、ハリーにはちょっと気になった。
「君は僕のことを信じてくれてるよね?」
「もちろん、信じてるさ。だけど、君も、薄気味悪いって思うだろ・・・」
「たしかに薄気味悪いよ。何もかも気味の悪いことだらけだ。『部屋は開かれたり』・・・・これ、どういう意味なんだろう?」
ハリーとロンの会話を聞いて、ナツキもなんだろうと考えるがわからない。
「ねえナツキ、でき損ないのスクイブっていったい何?」
ハリーがナツキに聞いた。 ロンはクックッと嘲笑を噛み殺した。
「ロン、笑っていいことじゃないよ。」
「ああ、ごめん、ナツキ。わかってる。でも、それがフィルチだったもんで・・・・。」
「あのね、ハリー、マグルの中に突然魔法使いが生まれるのと逆で、魔法使いの家系なのに魔力を持っていない人が生まれることがあるの。その人たちをスクイブって呼ぶんだよ。」
ナツキの説明でハリーはフィルチの状況を理解したようだった。その時午前0時の鐘がなったので、四人は急いで寮へと戻った。
それから数日、学校中がミセス・ノリスの襲われた話でもちきりだった。ナツキが図書館で宿題をちょうど終えた頃、ハーマイオニーが声をかけてきた。
「ナツキ、『ホグワーツの歴史』を持っていたりしない?」
「持ってないよ。何か探し物?」
「ええ。秘密の部屋について調べるならそれだと思うの。」
「本に書いてたら秘密じゃないと思うけどなあ。」
ナツキはそう思っていたが、皆は違ったらしい。ハーマイオニーと同じようなことを考えたのか、図書館にいくつかある『ホグワーツの歴史』は全て貸し出されていた。
また数日後、四人で「魔法史」のクラスに向かった。「魔法史」は一番退屈な科目で、ナツキも最初から最後までずーっと起きれたことは一度もない。もちろん起きようとは頑張っている。
今日もいつものように退屈だった。先生が三十分も読みあげ続けたころ、いままで一度もなかったことが起きた。ハーマイオニーが手を挙げたのだ。
「ミス・・・あー?」
「グレンジャーです。先生、『秘密の部屋』について何か教えていただけませんか。」
ハーマイオニーははっきりした声で言った。ナツキはかろうじて起きている状態だったが、ぱっちりと目を開けた。秘密の部屋について尋ねるのにこれ以上の適役はいないと思った。
「わたしがお教えしとるのは『魔法史』です。事実を教えとるのであり、ミス・グレンジャー、神話や伝説ではないんであります。」
そう答えたビンズ先生だったが、ハーマイオニーが繰り返し尋ねたことで、授業を一時中断することにしたようだった。
「あー、よろしい。さて『秘密の部屋』とは・・・皆さんも知ってのとおり、ホグワーツは一千年以上も前、その当時の、もっとも偉大なる四人の魔女と魔法使いたちによって、創設されたのであります。ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そしてサラザール・スリザリン。・・・・数年の間、魔法力を示した若者たちを探し出しては、この城に誘って教育したのであります。しかしながら、四人の間に意見の相違が出てきた。スリザリンは、魔法教育は、純粋に魔法族の家系にのみ与えられるべきだという信念を持ち、マグルの親を持つ生徒は学ぶ資格がないと考えて、入学させることを嫌ったのであります。しばらくして、この問題をめぐり、スリザリンとグリフィンドールが激しく言い争い、スリザリンが学校を去ったのであります。」
ビンズ先生はここでまたいったん口を閉じた。
「信頼できる歴史的資料はここまでしか語ってくれんのであります。しかしこうした真摯な事実が、『秘密の部屋』という空想の伝説により、曖昧なものになっておる。」
ビンズ先生は少し怒ったように続けた。
「スリザリンがこの城に、隠された部屋を作ったという話がある。その伝説によれば、スリザリンは『秘密の部屋』を密封し、この学校に彼の真の継承者が現れる時まで、何人もその部屋を開けることができないようにしたという。その継承者のみが『秘密の部屋』の封印を解き、その中の恐怖を解き放ち、それを用いてこの学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放するという。」
先生が語り終えると、沈黙が満ちた。
「もちろん、すべては戯言であります。」
「先生――『部屋の中の恐怖』というのは具体的にどういうことですか?」
「何らかの怪物だと信じられており、スリザリンの継承者のみが、それを操ることができるという・・・・。言っておきましょう。そんなものは存在しない。『部屋』などない、したがって怪物はおらん」
その後先生は部屋について話すことはなかった。ものの五分もしないうちに、クラス全員がいつもの無気力状態に戻ってしまった。
授業が終わり、人混みをかき分けながら、ロンがナツキとハリーとハーマイオニーに話しかけた。
「知らなかったなあ、例の純血主義のなんのってスリザリンが言いだしたなんて。僕ならお金をもらったって、そんなやつの寮に入るもんか。はっきり言って、組分け帽子がもし僕をスリザリンに入れてたら、僕、汽車に飛び乗ってまっすぐ家に帰ってたな・・・・」
人波に流されていく途中、コリン・クリービーがそばを通った。
「ハリー、ハリー、僕のクラスの子が言ってたんだけど、君って・・・」
コリンは小さすぎて、人波に逆らえず、大広間のほうに流されていった。
「クラスの子があなたのこと、なんて言ってたのかしら?」
「僕がスリザリンの継承者だとか言ってたんだろ。」
「ハリーが?まさか。」
ハーマイオニーが訝ると、ハリーが突然自虐したので、ナツキは反射的に否定した。不思議なことに、ハリーは驚いたような顔をして、ナツキに微笑みを返した。
「『秘密の部屋』があるって、君、本当にそう思う?」
ロンがハーマイオニーに問いかけた。
「わからないけど、ダンブルドアがミセス・ノリスを治してやれなかった。ということは、私、考えたんだけど、猫を襲ったのは、もしかしたら・・・うーん、ヒトじゃないかもしれない。」
ハーマイオニーがそう言った時、あの事件があった廊下の端に出た。現場はちょうど、あの夜と同じようだった。壁には「秘密の部屋は開かれたり」と書かれたままだ。フィルチはいなかった。
「ちょっと調べたって悪くないだろ。」
ハリーがそう言い、他の三人も何か手掛りはないかと探し回った。
「焼け焦げだ!あっちにも・・・・こっちにも・・・」
ハリーが言った。ナツキは書かれた文字を眺めていた。絵の具か何かであれと思ったが、嗅いでみると血の匂いがした。
「来てみて!変だわ・・・」
ハーマイオニーは一番上の窓ガラスを指差している。二十匹あまりのクモが、ガラスの小さな割れ目からガザガザと先を争って這い出そうとしていた。こんなものは初めて見た。
「ねえ、床の水溜りのこと、覚えてる?あれ、どっから来た水だろう。」
「このあたりだった。・・・・このドアのところだった。」
ハリーの問いにロンが答えたが、そのドアは女子トイレのドアだった。ナツキが入ったことのない女子トイレ、つまり嘆きのマートルがいるトイレだ。
「故障中」と大きく書かれた掲示を無視して、ハーマイオニーがドアを開けた。 かなりボロボロで手入れはされていない。
「ここは女子のトイレよ。」
マートルはハリーとロンを見て機嫌を悪くした。結局、彼女から何か有力な情報を得ることはできなかった。マートルのゴボゴボというすすり泣きを背に、ハリーがトイレのドアを閉めるか閉めないかするうちに、大きな声が聞こえて、四人は飛び上がった。パーシーがいたのだ。
「ロン!そこは女子トイレだ!君たち男子が、いったい何を?」
彼は大変怒っていた。しかし、パーシーと折り合いの悪いロンもムッとした表情をした。
「なんで僕たちがここにいちゃいけないんだよ!いいかい。僕たち、あの猫に指一本触れてないんだぞ!」
「僕もジニーにそう言ってやったよ!だけど、あの子は、それでも君たちが退学処分になると思ってる。あんなに心を痛めて、目を泣き腫らしてるジニーを見るのは初めてだ。少しはあの子のことも考えてやれ。」
「兄さんはジニーのことを心配してるんじゃない!兄さんが心配してるのは、首席になるチャンスを、僕が台無しにするってことなんだ!」
「グリフィンドール、五点減点!」
パーシーは監督生バッジを指でいじりながらパシッと言った。
その夜、ハリー、ナツキ、ロン、ハーマイオニーの四人は、談話室で、できるだけパーシーから離れた場所を選んだ。
「だけどいったい何者かしら?でき損ないのスクイブや、マグル出身の子をホグワーツから追い出したいと願ってるのは誰?」
「え?それって本気で聞いてる?」
ナツキはキョトンとしてハーマイオニーを見た。ナツキにとっては皆がハリーをスリザリンの後継者だと噂をしていることが馬鹿馬鹿しくてしょうがない。だって、最も怪しい人たちを忘れているからだ。
「それでは考えてみましょう。我々の知っている人の中で、マグル生まれはくずだ、と思っている人物は誰でしょう?」
ロンはハーマイオニーの顔を見た。ハーマイオニーは、まさか、という顔でロンを見返した。
「もしかして、あなた、マルフォイのことを言ってるの!?」
「モチのロンさ!」
「私もロンと同じ意見だよ。どう見たって、ハリーよりずっと怪しいのに。」
みんな馬鹿じゃない?という言葉をナツキはぐっと飲み込んだ。
「あいつが言ったこと聞いたろう?『次はおまえたちだぞ、『穢れた血』め!』って。しっかりしろよ。」
「マルフォイが、スリザリンの継承者?」
「あいつの家族を見てくれよ。あの家系は全部スリザリン出身だ。・・・あいつらなら、何世紀も『秘密の部屋』の鍵を預かっていたかもしれない。親から子へ代々伝えて・・・・」
ロンが言った。
「そうね、その可能性はあると思うわ。」
ハーマイオニーはそう言って考え始めた。問題は、怪しいことこの上ないが、確実な証拠がないことだ。ハーマイオニーはパーシーが効いていないかチラリと確認して、声を顰めて言った。
「何をやらなければならないかというとね、私たちがスリザリンの談話室に入り込んで、マルフォイに正体を気づかれずに、いくつか質問することなのよ。」
ナツキ、ハリー、ロンは面食らった。ハーマイオニーにしては穴だらけな作戦だ。しかしナツキは魔法薬での授業を思い出し、ハッとした。
「ま、まさかポリジュース薬・・・だっけ?誰かに変身することができるとかっていう・・・・」
「その通りよ。わたしたちで、スリザリンの誰かに変身するの。マルフォイはたぶん、何でも話してくれるわ。いまごろ、スリザリン寮の談話室で、マルフォイがその自慢話の真っ最中かもしれない。」
確かにハーマイオニーがいう通りポリジュース薬があればなんとかなるかもしれない。ナツキはさっきよりも前屈みになった。
「作り方は知ってる?」
「まだよ。禁書の棚にある『最も強力な薬』に載っているはずなの。」
禁書の棚の本を読むには、先生のサインが必要だ。そんなのにサインしてくれる先生なんて、と思ったが、四人は顔を見合わせた。
「わたしの猫だ!ミセス・ノリスに何が起こったというんだ?」
フィルチはハリーを指差して金切り声で叫んだ。
「おまえだな!おまえだ!おまえがわたしの猫を殺したんだ!」
「アーガス!」
ダンブルドア先生が他に数人の先生を従えて現場に到着した。
「アーガス、一緒に来なさい。ミスター・ポッター、ミス・ゴドリクソン、ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャー。君たちもおいで。」
ダンブルドア先生が呼びかけ、ナツキたちは近くのロックハートの部屋へ行くこととなった。
ロックハートの部屋に入ると、ダンブルドア先生は、ミセス・ノリスを机の上に置き、調べはじめた。ハリー、ナツキ、ロン、ハーマイオニーは、目線を交わし、ぐったりと椅子に座り込み、先生をじっと見つめていた。
ダンブルドア先生は長い指でそっと突ついたり刺激したりしながら、ミセス・ノリスを隈なく調べた。マクゴナガル先生も、目を凝らして見ていた。スネイプ先生はその後ろでニヤリ笑いを必死で噛み殺しているようだった。そしてロックハートとなると、うろうろしながら、あれやこれやと意見を述べ立てていた。
ロックハートの話の合いの手は、フィルチが、激しくしゃくり上げる声だった。ナツキはフィルチが好きではなかっただ、この時ばかりは激しく同情した。
ダンブルドア先生ならハリーも私たちも犯人ではないとすぐにわかるはず。
希望も込めてナツキはそう自分に言い聞かせた。
ダンブルドア先生はようやく体を起こし、やさしく言った。
「アーガス、猫は死んでおらんよ。石になっただけじゃ。ただし、どうしてそうなったのか、わしには答えられん・・・・」
「あいつに聞いてくれ!」
フィルチは涙で汚れ、まだらに赤くなった顔でハリーのほうを見た。
「ハリーはそんなことしていません。」
「そうだろうとも、ミス・ゴドリクソン。二年生がこんなことをできるはずがない。」
ダンブルドア先生はきっぱりと言った。
「あいつは見たんだ。・・・・・あいつは知ってるんだ。わたしが・・・わたしができ損ないの『スクイブ』だって知ってるんだ!」
フィルチがやっとのことで言葉を言い終えた。ナツキはフィルチはどうしていつもそこ意地悪く生徒の粗探しをするのか不思議に思っていたが、その理由がわかった。
「僕、ミセス・ノリスに指一本触れていません!それに、僕、スクイブが何なのかも知りません。」
「バカな!あいつはクイックスペルから来た手紙を見やがった!」
「あの、ハリーは自分が魔法使いだと知ったのは本当に最近のことです。スクイブのことを知る機会はほとんどなかったと思います。」
ナツキの言葉にフィルチは納得できないようだったが、言葉を少し詰まらせた。代わりにスネイプ先生が口を開いた。
「ポッターもその仲間も、単に間が悪くその場に居合わせただけかもしれませんな。とは言え、一連の疑わしい状況が存在します。だいたい連中はなぜ三階の廊下にいたのか?なぜ三人はハロウィーンのパーティにいなかったのか?」
ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーはいっせいに「絶命日パーティ」の説明を始めた。幸い、証言してくれるゴーストはわんさか居るだろう。
「それでは、そのあとパーティに来なかったのはなぜかね?なぜあそこの廊下に行ったのかね?」
「僕たち疲れたので、ベッドに行きたかったものですから。」
ハリーは咄嗟にそう答えた。
「夕食も食べずにか?ゴーストのパーティで、生きた人間にふさわしい食べ物が出るとは思えんがね。」
「珍しい光景に夢中になっていたら、もうほとんどハロウィーンパーティーが終わる時間だったので、寮でお菓子を食べようとしていました。」
ナツキも咄嗟に答えた。
「疑わしきは罰せずじゃよ、セブルス。」
ダンブルドアがきっぱり言った。
「わたしの猫が石にされたんだ!罰を受けさせなけりゃ収まらん!」
フィルチの目は飛び出し、声は金切り声だ。
「アーガス、君の猫は治してあげられますぞ。スプラウト先生が、最近やっとマンドレイクを手に入れられてな。十分に成長したら、すぐにもミセス・ノリスを蘇生させる薬を作らせましょうぞ。」
そして四人はダンブルドア先生から帰って良いとの許しを受けた。できるかぎり急いでその場を去った。誰もいない教室に入ると、そっとドアを閉めた。
「あの声のこと、僕、みんなに話したほうがよかったと思う?」
ハリーの質問にナツキはロンと顔を見合わせた。
「ダンブルドア先生やマクゴナガル先生になら話してもよかったかもしれないとは思うけど・・・・」
「本当に?誰にも聞こえない声が聞こえるのは、魔法界でも狂気の始まりだって思われてる。」
ロンの口調が、ハリーにはちょっと気になった。
「君は僕のことを信じてくれてるよね?」
「もちろん、信じてるさ。だけど、君も、薄気味悪いって思うだろ・・・」
「たしかに薄気味悪いよ。何もかも気味の悪いことだらけだ。『部屋は開かれたり』・・・・これ、どういう意味なんだろう?」
ハリーとロンの会話を聞いて、ナツキもなんだろうと考えるがわからない。
「ねえナツキ、でき損ないのスクイブっていったい何?」
ハリーがナツキに聞いた。 ロンはクックッと嘲笑を噛み殺した。
「ロン、笑っていいことじゃないよ。」
「ああ、ごめん、ナツキ。わかってる。でも、それがフィルチだったもんで・・・・。」
「あのね、ハリー、マグルの中に突然魔法使いが生まれるのと逆で、魔法使いの家系なのに魔力を持っていない人が生まれることがあるの。その人たちをスクイブって呼ぶんだよ。」
ナツキの説明でハリーはフィルチの状況を理解したようだった。その時午前0時の鐘がなったので、四人は急いで寮へと戻った。
それから数日、学校中がミセス・ノリスの襲われた話でもちきりだった。ナツキが図書館で宿題をちょうど終えた頃、ハーマイオニーが声をかけてきた。
「ナツキ、『ホグワーツの歴史』を持っていたりしない?」
「持ってないよ。何か探し物?」
「ええ。秘密の部屋について調べるならそれだと思うの。」
「本に書いてたら秘密じゃないと思うけどなあ。」
ナツキはそう思っていたが、皆は違ったらしい。ハーマイオニーと同じようなことを考えたのか、図書館にいくつかある『ホグワーツの歴史』は全て貸し出されていた。
また数日後、四人で「魔法史」のクラスに向かった。「魔法史」は一番退屈な科目で、ナツキも最初から最後までずーっと起きれたことは一度もない。もちろん起きようとは頑張っている。
今日もいつものように退屈だった。先生が三十分も読みあげ続けたころ、いままで一度もなかったことが起きた。ハーマイオニーが手を挙げたのだ。
「ミス・・・あー?」
「グレンジャーです。先生、『秘密の部屋』について何か教えていただけませんか。」
ハーマイオニーははっきりした声で言った。ナツキはかろうじて起きている状態だったが、ぱっちりと目を開けた。秘密の部屋について尋ねるのにこれ以上の適役はいないと思った。
「わたしがお教えしとるのは『魔法史』です。事実を教えとるのであり、ミス・グレンジャー、神話や伝説ではないんであります。」
そう答えたビンズ先生だったが、ハーマイオニーが繰り返し尋ねたことで、授業を一時中断することにしたようだった。
「あー、よろしい。さて『秘密の部屋』とは・・・皆さんも知ってのとおり、ホグワーツは一千年以上も前、その当時の、もっとも偉大なる四人の魔女と魔法使いたちによって、創設されたのであります。ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そしてサラザール・スリザリン。・・・・数年の間、魔法力を示した若者たちを探し出しては、この城に誘って教育したのであります。しかしながら、四人の間に意見の相違が出てきた。スリザリンは、魔法教育は、純粋に魔法族の家系にのみ与えられるべきだという信念を持ち、マグルの親を持つ生徒は学ぶ資格がないと考えて、入学させることを嫌ったのであります。しばらくして、この問題をめぐり、スリザリンとグリフィンドールが激しく言い争い、スリザリンが学校を去ったのであります。」
ビンズ先生はここでまたいったん口を閉じた。
「信頼できる歴史的資料はここまでしか語ってくれんのであります。しかしこうした真摯な事実が、『秘密の部屋』という空想の伝説により、曖昧なものになっておる。」
ビンズ先生は少し怒ったように続けた。
「スリザリンがこの城に、隠された部屋を作ったという話がある。その伝説によれば、スリザリンは『秘密の部屋』を密封し、この学校に彼の真の継承者が現れる時まで、何人もその部屋を開けることができないようにしたという。その継承者のみが『秘密の部屋』の封印を解き、その中の恐怖を解き放ち、それを用いてこの学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放するという。」
先生が語り終えると、沈黙が満ちた。
「もちろん、すべては戯言であります。」
「先生――『部屋の中の恐怖』というのは具体的にどういうことですか?」
「何らかの怪物だと信じられており、スリザリンの継承者のみが、それを操ることができるという・・・・。言っておきましょう。そんなものは存在しない。『部屋』などない、したがって怪物はおらん」
その後先生は部屋について話すことはなかった。ものの五分もしないうちに、クラス全員がいつもの無気力状態に戻ってしまった。
授業が終わり、人混みをかき分けながら、ロンがナツキとハリーとハーマイオニーに話しかけた。
「知らなかったなあ、例の純血主義のなんのってスリザリンが言いだしたなんて。僕ならお金をもらったって、そんなやつの寮に入るもんか。はっきり言って、組分け帽子がもし僕をスリザリンに入れてたら、僕、汽車に飛び乗ってまっすぐ家に帰ってたな・・・・」
人波に流されていく途中、コリン・クリービーがそばを通った。
「ハリー、ハリー、僕のクラスの子が言ってたんだけど、君って・・・」
コリンは小さすぎて、人波に逆らえず、大広間のほうに流されていった。
「クラスの子があなたのこと、なんて言ってたのかしら?」
「僕がスリザリンの継承者だとか言ってたんだろ。」
「ハリーが?まさか。」
ハーマイオニーが訝ると、ハリーが突然自虐したので、ナツキは反射的に否定した。不思議なことに、ハリーは驚いたような顔をして、ナツキに微笑みを返した。
「『秘密の部屋』があるって、君、本当にそう思う?」
ロンがハーマイオニーに問いかけた。
「わからないけど、ダンブルドアがミセス・ノリスを治してやれなかった。ということは、私、考えたんだけど、猫を襲ったのは、もしかしたら・・・うーん、ヒトじゃないかもしれない。」
ハーマイオニーがそう言った時、あの事件があった廊下の端に出た。現場はちょうど、あの夜と同じようだった。壁には「秘密の部屋は開かれたり」と書かれたままだ。フィルチはいなかった。
「ちょっと調べたって悪くないだろ。」
ハリーがそう言い、他の三人も何か手掛りはないかと探し回った。
「焼け焦げだ!あっちにも・・・・こっちにも・・・」
ハリーが言った。ナツキは書かれた文字を眺めていた。絵の具か何かであれと思ったが、嗅いでみると血の匂いがした。
「来てみて!変だわ・・・」
ハーマイオニーは一番上の窓ガラスを指差している。二十匹あまりのクモが、ガラスの小さな割れ目からガザガザと先を争って這い出そうとしていた。こんなものは初めて見た。
「ねえ、床の水溜りのこと、覚えてる?あれ、どっから来た水だろう。」
「このあたりだった。・・・・このドアのところだった。」
ハリーの問いにロンが答えたが、そのドアは女子トイレのドアだった。ナツキが入ったことのない女子トイレ、つまり嘆きのマートルがいるトイレだ。
「故障中」と大きく書かれた掲示を無視して、ハーマイオニーがドアを開けた。 かなりボロボロで手入れはされていない。
「ここは女子のトイレよ。」
マートルはハリーとロンを見て機嫌を悪くした。結局、彼女から何か有力な情報を得ることはできなかった。マートルのゴボゴボというすすり泣きを背に、ハリーがトイレのドアを閉めるか閉めないかするうちに、大きな声が聞こえて、四人は飛び上がった。パーシーがいたのだ。
「ロン!そこは女子トイレだ!君たち男子が、いったい何を?」
彼は大変怒っていた。しかし、パーシーと折り合いの悪いロンもムッとした表情をした。
「なんで僕たちがここにいちゃいけないんだよ!いいかい。僕たち、あの猫に指一本触れてないんだぞ!」
「僕もジニーにそう言ってやったよ!だけど、あの子は、それでも君たちが退学処分になると思ってる。あんなに心を痛めて、目を泣き腫らしてるジニーを見るのは初めてだ。少しはあの子のことも考えてやれ。」
「兄さんはジニーのことを心配してるんじゃない!兄さんが心配してるのは、首席になるチャンスを、僕が台無しにするってことなんだ!」
「グリフィンドール、五点減点!」
パーシーは監督生バッジを指でいじりながらパシッと言った。
その夜、ハリー、ナツキ、ロン、ハーマイオニーの四人は、談話室で、できるだけパーシーから離れた場所を選んだ。
「だけどいったい何者かしら?でき損ないのスクイブや、マグル出身の子をホグワーツから追い出したいと願ってるのは誰?」
「え?それって本気で聞いてる?」
ナツキはキョトンとしてハーマイオニーを見た。ナツキにとっては皆がハリーをスリザリンの後継者だと噂をしていることが馬鹿馬鹿しくてしょうがない。だって、最も怪しい人たちを忘れているからだ。
「それでは考えてみましょう。我々の知っている人の中で、マグル生まれはくずだ、と思っている人物は誰でしょう?」
ロンはハーマイオニーの顔を見た。ハーマイオニーは、まさか、という顔でロンを見返した。
「もしかして、あなた、マルフォイのことを言ってるの!?」
「モチのロンさ!」
「私もロンと同じ意見だよ。どう見たって、ハリーよりずっと怪しいのに。」
みんな馬鹿じゃない?という言葉をナツキはぐっと飲み込んだ。
「あいつが言ったこと聞いたろう?『次はおまえたちだぞ、『穢れた血』め!』って。しっかりしろよ。」
「マルフォイが、スリザリンの継承者?」
「あいつの家族を見てくれよ。あの家系は全部スリザリン出身だ。・・・あいつらなら、何世紀も『秘密の部屋』の鍵を預かっていたかもしれない。親から子へ代々伝えて・・・・」
ロンが言った。
「そうね、その可能性はあると思うわ。」
ハーマイオニーはそう言って考え始めた。問題は、怪しいことこの上ないが、確実な証拠がないことだ。ハーマイオニーはパーシーが効いていないかチラリと確認して、声を顰めて言った。
「何をやらなければならないかというとね、私たちがスリザリンの談話室に入り込んで、マルフォイに正体を気づかれずに、いくつか質問することなのよ。」
ナツキ、ハリー、ロンは面食らった。ハーマイオニーにしては穴だらけな作戦だ。しかしナツキは魔法薬での授業を思い出し、ハッとした。
「ま、まさかポリジュース薬・・・だっけ?誰かに変身することができるとかっていう・・・・」
「その通りよ。わたしたちで、スリザリンの誰かに変身するの。マルフォイはたぶん、何でも話してくれるわ。いまごろ、スリザリン寮の談話室で、マルフォイがその自慢話の真っ最中かもしれない。」
確かにハーマイオニーがいう通りポリジュース薬があればなんとかなるかもしれない。ナツキはさっきよりも前屈みになった。
「作り方は知ってる?」
「まだよ。禁書の棚にある『最も強力な薬』に載っているはずなの。」
禁書の棚の本を読むには、先生のサインが必要だ。そんなのにサインしてくれる先生なんて、と思ったが、四人は顔を見合わせた。