賢者の石
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ダイアゴン横丁に行ってからのこの1ヶ月間は、ナツキにとって素晴らしいものだった。買った教科書とついでに買った興味のある本を読み耽り、まだ見ぬ学校生活に思いを馳せた。
ただ一つだけ気がかりがあり、それをふと思い出してため息をついた。
「緊張しているのか?」
アバーフォースがそう尋ねた。ナツキはこくりと頷いた。
「もしかしたら、魔法の才能がないかもしれない。」
「杖のことを気にしているのか?」
あの日オリバンダーの店で選んでもらった杖は、ナツキにとって彼の店で最もマシなもの、という評価らしい。オリバンダーはそこまでは言っていなかったが、ナツキにはそう聞こえた。
「お前の名は?」
「・・・・ナツキ・ゴドリクソン。」
「そうだ。そのファミリーネームは、ゴドリック・グリフィンドールの直径の子孫を意味する。」
それをよく分かっているから、ナツキはあまりフルネームを名乗らない。皆、グリフィンドールの子孫をみる目に変わる。
「お前の祖母はアルバ・ゴドリクソン。俺が知っている中では最も偉大な魔女だ。」
それも知っている。彼女を知っている者は皆、ナツキをアルバの孫として扱った。
「・・・だから、怖い。血筋負けだって思われたらどうしよう。」
「祖父のエリックはマグル生まれの魔法使いだ。そっちに似たっておかしくない。現に、エリザベスはエリックに見た目も、気質も似ていたようだ。」
母であるエリザベスとアバーフォースはあまり面識がないらしい。なぜナツキを育てることになったのかは、何度か聞いたがその度にはぐらかされた。
「エリックは座学が優秀だったようだが、魔法の腕はそこそこだった。正直、パッとしないやつだと思っていたんだ。だから昔、一度だけアルバにどこがいいのかと聞いたことがある。」
その話は初めて聞いた。お祖母さんは、なんと言ったのだろう。
「馬鹿みたいにお人好しなところだと、笑っていた。エリザベスも魔法の腕はエリックに似たらしいが、友人は多くいたようだ。・・・要はな、ナツキ、誰に似ていたって似ていなくたって、自分を誇ればいい。お前にはその資格がすでにもう備わってる。」
ぶっきらぼうにそう言って、アバーフォースは右手をナツキの頭の上に置いた。結局魔法の才能はないかもしれないが、それでもいいのかも、と少しだけ思えた気がした。
「・・・・ありがとう、アブ。」
「そろそろ行くぞ。掴まれ。荷物はどこだ。」
「それ。」
検知不可能拡大呪文をかけてもらったトランクを指差すと、アバーフォースはそれを手に持った。ナツキはしっかりと彼の腕に掴まる。姿現しでプラットフォームまで行くのだ。
体をぐにゃぐにゃにこねくり回された感覚が終わると、ガヤガヤと賑わう声が聞こえた。ホグワーツエキスプレスが停まる9と3/4番線についたのだ。
「じゃあ。風邪ひくなよ。」
「うん。」
ナツキはアバーフォースをギュッと強く抱きしめた。彼を抱きしめるのは、もっと小さかった頃に、怖い夢を見て以来だ。
「クリスマスに帰るからね。」
「ああ。」
寝る時以外はほとんど家にいない彼ではあるが、長期間離れるのは初めてで、ナツキは寂しく思った。一方のアバーフォースはナツキには友人がすぐにできるだろうから、寂しがっているのも今この瞬間だけに終わるのだろうと思った。
育て親と別れ、ナツキは席を探す。早めにきたつもりではあったが、コンパートメントはほとんど埋まっている。気づくとナツキは最後の車両まで来ていた。最終車両の一つのコンパートメントで、ナツキはようやく知っている顔を見つけた。
「ナツキ!」
「ハリー!!」
「席を探しているなら、ここに座りなよ!」
初めての友人の心遣いにナツキは胸をポカポカさせる。ハリーの荷物のシロフクロウを見て、思い出したようにトランクを開け、自分のふくろうを出してあげた。彼らは再会を喜ぶようにホーホー鳴きあった。ハリーは検知不可能拡大呪文に感激したが、これは普通のことなのだろうと思って、そこには触れないことにした。
「ヘドウィグって名前をつけたんだ。魔法史の教科書から見つけて。」
「私は、レオーネにした。強くてかっこいい名前をつけたくて。」
2人でそんな話をしていると、コンパートメントの戸が開いて、赤毛の男の子が現れた。鼻の先が汚れている。
「ここ空いてる?他はどこもいっぱいなんだ。」
ハリーもナツキも頷いた。ナツキは荷物を小さくしているので、彼はナツキの隣に腰を下ろした。
「おい、ロン。」
「俺たち、真ん中の車両あたりまで行くぜ。リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ。」
2人のそっくりな赤毛の男が現れた。ナツキは彼らの容姿から、ロンと呼ばれた隣の少年の兄弟なのだろうとすぐに分かった。
「ハリー、」
「自己紹介したっけ? 僕たち、フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。こいつは弟のロン。」
彼らは、ハリーを見て、次にナツキを見た。フレッドかジョージが口を開いた。
「君も一年生だな。名前は?」
「ナツキ。」
「そうか。よろしくな。」
「じゃ、また後でな。」
双子はそう言って嵐のように去っていった。
その後3人は互いに改めて自己紹介をし合う。ロンは最初ハリーに興味心身だったが、ナツキのファミリーネームを知ると目を輝かせた。
「スッゲーや。今年のホグワーツは有名人が2人もいる。」
「私の方は、ご先祖様が有名なだけだよ。」
「じゃあナツキも由緒正しい魔法使いなの?」
ハリーがなんだか不安そうな顔でナツキにそう尋ねた。
「うーんどうだろう。お祖父さんはマグル生まれ・・・って、前にも言ったっけ。だから純血ってわけでもないし。それに、お母さんは魔法が上手だったわけではなかったんだって。だからあんまり関係ないよ。」
ハリーは自分がきっとビリだと確信していたが、ナツキの言葉にほんのちょっぴり励まされた。
「マグル出身の子はたくさんいるし、そういう子でもちゃんとやってるよ。」
ロンが兄たちから聞いたらしいことを言ってくれる。ナツキはハリーだけではなく、ロンのことも好きになった。
「ナツキも、もしかしてお母さんがいないの?」
車内販売のお菓子を食べながら、ハリーが気になっていたことを聞いた。ナツキの話ぶりから、きっとそうなんだろうと思ったのだ。
「うん。例のあの人との戦いで殺されちゃったんだって。お祖父さんとお祖母さんも。お父さんは誰なのか分からないけど。だから養父と2人で暮らしているの。愛想は悪いし、ヤギ臭いけどいい人だよ。」
「そうなんだ。いいな。ダドリー一家がもう少しマシならな。」
ハリーは暗い顔でダドリー一家がどれだけ最悪なのかを語った。ナツキとロンが青い顔をするたびに、「全部のマグルがそういう奴じゃないよ」と付け加えることは忘れなかった。
しばらく話していると、ヒキガエルを探す男の子と、少し間をおいて、ヒキガエル探しを手伝っている女の子が現れた。その女の子、ハーマイオニーが去り際に残した言葉がきっかけで寮の話もした。クィディッチの話にもなった。ロンはクィディッチが好きらしい。ナツキは見るのは嫌いではなかったが、前に箒に乗って見た時うまく乗れなかったことを思い出し、学生生活の不安をまた一つ思い出した。
3人で楽しくおしゃべりをしていると、またコンパートメントの扉が開いた。なんだか意地悪そうな顔の男の子が3人いた。
「このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話で持ち切りなんだけど。あとゴドリクソンの女の子がいるって。それじゃ、君たちなのか?」
「そうだよ。」
ハリーは素直にそう返した。一方ナツキは、ゴドリクソンの女の子と言われたのがなんだか不快で、返事はせずにちょっぴりだけ頷いた。
「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ。そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ。」
それを聞いてロンは軽く咳払いをした。笑いを誤魔化そうとしたらしい。ドラコ・マルフォイは目ざとくそれを見咎め、ロンの家を馬鹿にした。
「ポッター君。そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのとがわかってくるよ。間違ったのとはつき合わないことだね。そのへんは僕が教えてあげよう。」
男の子はハリーに握手を求めたが、ハリーは冷たく返事をしただけだった。
「もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道をたどることになるぞ。君の両親も、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリー家やハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ。まあゴドリクソンは純血では無くなったけどそこまで悪くないだろうね。」
ハリーとロンは怒りで立ち上がった。ナツキはこんなことを言う子とホグワーツで一緒に学ぶのかと唖然としてしまった。ロンのネズミのスキャバーズのおかげで乱闘騒ぎにならずに済んだが、せっかく友達と楽しく話をしていたのに水を注されてしまった。
もうすぐ着くと、ハーマイオニーが教えに来てくれたので、ナツキはハリーたちと交代でコンパートメントの中で着替えた。
「変じゃない?」
「バッチリさ。僕のを見てよ。合ってない。」
ロンのローブはおさがりらしく、ちょっとだけ短かった。
「ロンは背が高いね。お兄さんたちも高いしもっと大きくなるんだろうね。私は小さいから羨ましいや。」
「ナツキっていい奴だな・・・」
自虐のつもりだったので、ナツキが揶揄うことを想定していたロンにとっては思いがけない返しだった。
ホグワーツ特急が停止した。3人はドキドキしながら汽車を出る。
「イッチ年生はこっち!」
元気なハグリッドの声が聞こえてきて、ハリーはホッとした。
ボートに乗り込み、対岸に聳え立つホグワーツ城を見上げる。ついにホグワーツでの生活が幕を開けたのだった。