秘密の部屋
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10月がやってきた。どうやら風邪が流行っているらしく、マダム・ポンフリーは忙しくしていた。
ナツキはその日、闇の魔女に対する防衛術や呪いについて自習しようと図書館で勉強し、ハリーがクィディッチの練習から戻ってくる頃だから、そろそろ寮の談話室へ行こうとしていると、階段を登るジョージを見つけた。
「ジョージ!寮に行くなら一緒に行こう?」
もちろんジョージがその誘いを断ることはなかった。
「ビッショビショだね。風邪ひくよ。えーと、テルジオ。」
綺麗にする呪文はなんだったかと、記憶をたぐり寄せてジョージに使う。あまりやったことはないけれどうまく使えたようだ。
「おお、サンキュー。フィルチに見つかると面倒だから助かったぜ。」
二人でそのまま寮へ向かうと、ハリーも練習から戻ってきて着替えを済ませていた。
「ナツキ!話したいことがあったんだ。」
「何ー?」
ジョージの隣にいたナツキはすぐにハリーの元へと駆けて行った。
「?」
ジョージはいつかに感じたようなモヤモヤをまた感じた気がするのだった。しかし、風邪が流行っていることもあって、今回も風邪をひいたのかも、と思っていた。
「話って何?」
ナツキはロンとハーマイオニーと共に、ハリーの話を聞く体勢になった。
「絶命日パーティー?ハロウィーンの日に?わかった。サー・ニコラスには私よく道案内をしてもらって、助かってるから協力するよ。」
特に昨年度はしょっちゅう道がわからなくなり、方向音痴のナツキはおそらくどの1年生よりもサー・ニコラスに世話になっているはずである。
「絶命日パーティですって?生きているうちに招かれた人って、そんなに多くないはずだわ!おもしろそう!」
「自分の死んだ日を祝うなんて、どういうわけ?」
ハロウィーンが近づくにつれ、ハリーは絶命日パーティに出席するなどと、軽率に約束してしまったことを後悔しはじめたようだった。
「ハロウィーンは毎年あるけど、絶命日パーティーはなかなか機会はないと思うよ。きっとどっちも楽しいよ。」
落ち込むハリーを励まそうとした。しかしハロウィーン当日、ナツキはその言葉を全力で取り消したくなった。
楽しそうな声が聞こえる大広間のドアの前を素通りし、地下牢のほうへと足を向けた。 階段を一段下りるたびに温度が下がった。ハリーとナツキが身震いし、ローブを体にぴったり巻きつけた時、巨大な黒板を千本の生爪で引っ掻くような音が聞こえてきた。
「このキーキーした嫌な音は何?」
「あれが音楽のつもり?」
ナツキとロンがげっそりしながらそう囁いた。角を曲がると「ほとんど首無しニック」がビロードの黒幕を垂らした戸口のところに立っているのが見えた。
「親愛なるともよ・・・・このたびは、よくぞおいでくださいました・・・・」
ニックは羽飾りの帽子をさっと脱いで、四人を中に招き入れるようにお辞儀をした。地下牢は何百という、ゴーストで一杯だった。まるで冷凍庫に入り込んだようで、吐く息が、鼻先に霧のように立ち上った。
「見て回ろうか?」
「・・・圧巻だけどね。もう少し遠くから、見るのならいいんだけど。」
「誰かの体を通り抜けないように気をつけろよ。」
ロンが心配そうに言った。会場を恐る恐る見物していると、ハーマイオニーが突然立ち止まった。
「あーっ、いやだわ。戻って、戻ってよ。『嘆きのマートル』とは話したくないの。」
女子の間では有名な3階の女子トイレのゴースト、嘆きのマートルが確かにいた。ナツキはそこのトイレがよく壊れていると聞いていたので、行ったことがなかった。
ロンが食べ物を見つけ、ナツキは興味津々で覗き込んだが、すぐにそれを後悔した。
「ゔっ!?」
完全に腐っていて、ナツキは腐敗臭を鼻の奥まで吸い込んでしまった。
「吐く吐く吐いちゃう!!!」
湧き上がってきた吐き気を我慢できずに、ナツキはかつてないスピードで会場を駆けてトイレへ向かった。
「ナツキ、行っちゃった。戻り道わかるかな。」
「薬学の教室の近くだから大丈夫だと思うけど・・・・」
ハリーとハーマイオニーの言葉通り、ナツキはトイレを見つけ駆け込み、しばらく過ごした後、地下牢への行き方を必死に思い出していた。
「薬学の教室はここ。で、確かその奥の方・・・えーと・・・」
間違いなく近いところなのに、ナツキはどっちに向かったらいいか考えあぐねていた。もし間違った方を選んでしまったら、最悪のハロウィーンになる。
ナツキは最も賢い方法を選択した。間違いなくハリー達が帰りにここは通るから、ここで待とう。サー・ニコラスには本当に申し訳ないが、今回ばかりは自分を優先させてもらおう。
待ち時間はさほど長くなかった。我慢しきれなっくなった三人は早々に会場から出てきたのだ。
「あ、ナツキ、よかった。ここで待ってたんだ。」
「ごめん、私、行ける自信がなくて。」
ハリーは安心したような顔をしているが、ロンはなんとも言えない顔でナツキをみていた。きっと、先に逃げるように出てきたことをちょっと恨んでいるのだろう。
「デザートがまだ残っているかもしれない。」
ロンはナツキへの恨みよりも、空腹を満たすことを優先してそう言った。まだパーティーが完全に終わったわけではないから、何か食べれるかもしれない。
階段を登っていると突然ハリーがよろよろとして立ち止まり、石の壁耳をそば立てた。そして、通路の隅から隅まで、目を細めてじっと見回した。
「ハリー、いったい何を?」
「またあの声なんだ。・・・ちょっと黙ってて・・・・ほら、聞こえる!」
ナツキには何も聞こえなかった。ハリーにだけ聞こえる声があることは、前に聞いていたが、その時にいたのがロックハートだったようだから、ハリーじゃなくてロックハートがおかしいのだろうと思っていた。しかしどうやら違ったようだ。
「こっちだ!」
ハリーはそう叫ぶと階段を駆け上がって玄関ホールに出た。大広間の楽しそうな声が聞こえてくる。しかしハリーはそれを気にすることなく大理石の階段を全速力で駆け上がり、二階に出た。ナツキとロンとハーマイオニーもバタバタとあとに続いた。
「ハリー、いったい僕たち何を」
「シーッ!」
ハリーはまた耳をそばだてた。
「誰かを殺すつもりだ!」
そう叫ぶなり、ハリーは三人の当惑した顔を無視して、三階への階段を、一度に三段ずつ吹っ飛ばして駆け上がった。ハリーは三階をくまなく飛び回った。
「ハァ、ハァ、ハリー、待って・・」
ナツキだけではなく、ロンとハーマイオニーも息せき切って、ハリーのあとをついて回った。角を曲がり、最後の、誰もいない廊下に出た時、ハリーはやっと動くのをやめた。
「ハリー、いったいこれはどういうことだい?僕には何にも聞こえなかった。」
「どんな声が聞こえたの?」
ナツキの質問にハリーが答えようとした時、ハーマイオニーが、ハッと息を呑んで廊下の隅を指差した。
「見て!」
向こうの壁に何かが光っていた。四人は暗がりに目を凝らしながら、そーっと近づいた。窓と窓の間の壁に、高さ三十センチほどの文字が塗りつけられ、松明に照らされてちらちらと鈍い光を放っていた。
秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ
「何これ。悪戯?」
ナツキはそう言って近寄ると、嫌なものを見つけてしまった。
「なんだろう・・・・下にぶら下がっているのは・・・・・」
ロンの問いの答えにナツキはいち早く気づいてしまった。
「・・・ミセス・ノリスに見えるよ・・・・・」
フィルチの飼い猫、ミセス・ノリスだ。松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がっている。板のように硬直し、目はカッと見開いたままだった。
ナツキもハリー、ロン、ハーマイオニーも状況がわからなすぎて、その場で立ち尽くした。ロンが先に口を開いた。
「ここを離れよう。」
「助けてあげるべきじゃないかな・・・・」
ハリーが戸惑いながら言った。ナツキはどちらかというとハリーに賛成だった。先生を呼びにいくべきだと思った。
「僕の言うとおりにして。ここにいるところを見られないほうがいい。」
すでに遅かった。遠い雷鳴のようなざわめきが聞こえた。パーティが終わったらしい。廊下の両側から、階段を上ってくる何百という足音、満腹で楽しげなさざめきが聞こえてきた。次の瞬間、生徒たちが廊下にわっと現れた。
前のほうにいた生徒がぶら下がった猫を見つけたとたん、沈黙が生徒たちの群れに広がり、おぞましい光景を前のほうで見ようと押し合った。その傍らで、ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは廊下の真ん中にぽつんと取り残されていた。
ああ、ロンが恐れていたのはこれか、とナツキは理解した。ハリーにとって、よくない状況が訪れようとしていた。
その時、静けさを破って誰かが叫んだ。
「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」
ドラコ・マルフォイだった。彼はいつもは血の気のない頬に赤みがさし、ぶら下がったままぴくりともしない猫を見てニヤッと笑った。
ナツキはその日、闇の魔女に対する防衛術や呪いについて自習しようと図書館で勉強し、ハリーがクィディッチの練習から戻ってくる頃だから、そろそろ寮の談話室へ行こうとしていると、階段を登るジョージを見つけた。
「ジョージ!寮に行くなら一緒に行こう?」
もちろんジョージがその誘いを断ることはなかった。
「ビッショビショだね。風邪ひくよ。えーと、テルジオ。」
綺麗にする呪文はなんだったかと、記憶をたぐり寄せてジョージに使う。あまりやったことはないけれどうまく使えたようだ。
「おお、サンキュー。フィルチに見つかると面倒だから助かったぜ。」
二人でそのまま寮へ向かうと、ハリーも練習から戻ってきて着替えを済ませていた。
「ナツキ!話したいことがあったんだ。」
「何ー?」
ジョージの隣にいたナツキはすぐにハリーの元へと駆けて行った。
「?」
ジョージはいつかに感じたようなモヤモヤをまた感じた気がするのだった。しかし、風邪が流行っていることもあって、今回も風邪をひいたのかも、と思っていた。
「話って何?」
ナツキはロンとハーマイオニーと共に、ハリーの話を聞く体勢になった。
「絶命日パーティー?ハロウィーンの日に?わかった。サー・ニコラスには私よく道案内をしてもらって、助かってるから協力するよ。」
特に昨年度はしょっちゅう道がわからなくなり、方向音痴のナツキはおそらくどの1年生よりもサー・ニコラスに世話になっているはずである。
「絶命日パーティですって?生きているうちに招かれた人って、そんなに多くないはずだわ!おもしろそう!」
「自分の死んだ日を祝うなんて、どういうわけ?」
ハロウィーンが近づくにつれ、ハリーは絶命日パーティに出席するなどと、軽率に約束してしまったことを後悔しはじめたようだった。
「ハロウィーンは毎年あるけど、絶命日パーティーはなかなか機会はないと思うよ。きっとどっちも楽しいよ。」
落ち込むハリーを励まそうとした。しかしハロウィーン当日、ナツキはその言葉を全力で取り消したくなった。
楽しそうな声が聞こえる大広間のドアの前を素通りし、地下牢のほうへと足を向けた。 階段を一段下りるたびに温度が下がった。ハリーとナツキが身震いし、ローブを体にぴったり巻きつけた時、巨大な黒板を千本の生爪で引っ掻くような音が聞こえてきた。
「このキーキーした嫌な音は何?」
「あれが音楽のつもり?」
ナツキとロンがげっそりしながらそう囁いた。角を曲がると「ほとんど首無しニック」がビロードの黒幕を垂らした戸口のところに立っているのが見えた。
「親愛なるともよ・・・・このたびは、よくぞおいでくださいました・・・・」
ニックは羽飾りの帽子をさっと脱いで、四人を中に招き入れるようにお辞儀をした。地下牢は何百という、ゴーストで一杯だった。まるで冷凍庫に入り込んだようで、吐く息が、鼻先に霧のように立ち上った。
「見て回ろうか?」
「・・・圧巻だけどね。もう少し遠くから、見るのならいいんだけど。」
「誰かの体を通り抜けないように気をつけろよ。」
ロンが心配そうに言った。会場を恐る恐る見物していると、ハーマイオニーが突然立ち止まった。
「あーっ、いやだわ。戻って、戻ってよ。『嘆きのマートル』とは話したくないの。」
女子の間では有名な3階の女子トイレのゴースト、嘆きのマートルが確かにいた。ナツキはそこのトイレがよく壊れていると聞いていたので、行ったことがなかった。
ロンが食べ物を見つけ、ナツキは興味津々で覗き込んだが、すぐにそれを後悔した。
「ゔっ!?」
完全に腐っていて、ナツキは腐敗臭を鼻の奥まで吸い込んでしまった。
「吐く吐く吐いちゃう!!!」
湧き上がってきた吐き気を我慢できずに、ナツキはかつてないスピードで会場を駆けてトイレへ向かった。
「ナツキ、行っちゃった。戻り道わかるかな。」
「薬学の教室の近くだから大丈夫だと思うけど・・・・」
ハリーとハーマイオニーの言葉通り、ナツキはトイレを見つけ駆け込み、しばらく過ごした後、地下牢への行き方を必死に思い出していた。
「薬学の教室はここ。で、確かその奥の方・・・えーと・・・」
間違いなく近いところなのに、ナツキはどっちに向かったらいいか考えあぐねていた。もし間違った方を選んでしまったら、最悪のハロウィーンになる。
ナツキは最も賢い方法を選択した。間違いなくハリー達が帰りにここは通るから、ここで待とう。サー・ニコラスには本当に申し訳ないが、今回ばかりは自分を優先させてもらおう。
待ち時間はさほど長くなかった。我慢しきれなっくなった三人は早々に会場から出てきたのだ。
「あ、ナツキ、よかった。ここで待ってたんだ。」
「ごめん、私、行ける自信がなくて。」
ハリーは安心したような顔をしているが、ロンはなんとも言えない顔でナツキをみていた。きっと、先に逃げるように出てきたことをちょっと恨んでいるのだろう。
「デザートがまだ残っているかもしれない。」
ロンはナツキへの恨みよりも、空腹を満たすことを優先してそう言った。まだパーティーが完全に終わったわけではないから、何か食べれるかもしれない。
階段を登っていると突然ハリーがよろよろとして立ち止まり、石の壁耳をそば立てた。そして、通路の隅から隅まで、目を細めてじっと見回した。
「ハリー、いったい何を?」
「またあの声なんだ。・・・ちょっと黙ってて・・・・ほら、聞こえる!」
ナツキには何も聞こえなかった。ハリーにだけ聞こえる声があることは、前に聞いていたが、その時にいたのがロックハートだったようだから、ハリーじゃなくてロックハートがおかしいのだろうと思っていた。しかしどうやら違ったようだ。
「こっちだ!」
ハリーはそう叫ぶと階段を駆け上がって玄関ホールに出た。大広間の楽しそうな声が聞こえてくる。しかしハリーはそれを気にすることなく大理石の階段を全速力で駆け上がり、二階に出た。ナツキとロンとハーマイオニーもバタバタとあとに続いた。
「ハリー、いったい僕たち何を」
「シーッ!」
ハリーはまた耳をそばだてた。
「誰かを殺すつもりだ!」
そう叫ぶなり、ハリーは三人の当惑した顔を無視して、三階への階段を、一度に三段ずつ吹っ飛ばして駆け上がった。ハリーは三階をくまなく飛び回った。
「ハァ、ハァ、ハリー、待って・・」
ナツキだけではなく、ロンとハーマイオニーも息せき切って、ハリーのあとをついて回った。角を曲がり、最後の、誰もいない廊下に出た時、ハリーはやっと動くのをやめた。
「ハリー、いったいこれはどういうことだい?僕には何にも聞こえなかった。」
「どんな声が聞こえたの?」
ナツキの質問にハリーが答えようとした時、ハーマイオニーが、ハッと息を呑んで廊下の隅を指差した。
「見て!」
向こうの壁に何かが光っていた。四人は暗がりに目を凝らしながら、そーっと近づいた。窓と窓の間の壁に、高さ三十センチほどの文字が塗りつけられ、松明に照らされてちらちらと鈍い光を放っていた。
秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ
「何これ。悪戯?」
ナツキはそう言って近寄ると、嫌なものを見つけてしまった。
「なんだろう・・・・下にぶら下がっているのは・・・・・」
ロンの問いの答えにナツキはいち早く気づいてしまった。
「・・・ミセス・ノリスに見えるよ・・・・・」
フィルチの飼い猫、ミセス・ノリスだ。松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がっている。板のように硬直し、目はカッと見開いたままだった。
ナツキもハリー、ロン、ハーマイオニーも状況がわからなすぎて、その場で立ち尽くした。ロンが先に口を開いた。
「ここを離れよう。」
「助けてあげるべきじゃないかな・・・・」
ハリーが戸惑いながら言った。ナツキはどちらかというとハリーに賛成だった。先生を呼びにいくべきだと思った。
「僕の言うとおりにして。ここにいるところを見られないほうがいい。」
すでに遅かった。遠い雷鳴のようなざわめきが聞こえた。パーティが終わったらしい。廊下の両側から、階段を上ってくる何百という足音、満腹で楽しげなさざめきが聞こえてきた。次の瞬間、生徒たちが廊下にわっと現れた。
前のほうにいた生徒がぶら下がった猫を見つけたとたん、沈黙が生徒たちの群れに広がり、おぞましい光景を前のほうで見ようと押し合った。その傍らで、ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは廊下の真ん中にぽつんと取り残されていた。
ああ、ロンが恐れていたのはこれか、とナツキは理解した。ハリーにとって、よくない状況が訪れようとしていた。
その時、静けさを破って誰かが叫んだ。
「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」
ドラコ・マルフォイだった。彼はいつもは血の気のない頬に赤みがさし、ぶら下がったままぴくりともしない猫を見てニヤッと笑った。