賢者の石
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「・・・・そんな・・・・クィレル先生・・・・!?」
「僕は・・・・スネイプだとばかり・・・・」
ナツキもハリーも息を呑んだ。
クィレルは笑った。いつものかん高い震え声ではなく、冷たく鋭い笑いだった。
「たしかに、セブルスはまさにそんなタイプに見える。彼が育ちすぎたこうもりみたいに飛び回ってくれたのがとても役に立った。スネイプのそばにいれば、誰だって、か、かわいそうな、ど、どもりの、ク、クィレル先生を疑いやしないだろう?」
ハリーもナツキも信じられなかった。こんなはずはない。これは間違いだ。
「でもスネイプは僕を殺そうとした!」
「いや、いや、いや。殺そうとしたのは私だ。君を救おうとしてスネイプが私のかけた呪文を解く反対呪文を唱えてさえいなければ、もっと早く叩き落とせたんだ。」
「スネイプ先生がハリーを救おうとしていた?」
「そのとおり。」
ナツキは混乱した。スネイプ先生は敵どころか、味方だったのだ。
「彼がなぜ次の試合で審判を買って出たと思うかね? 私が二度と同じことをしないようにだよ。他の先生方は全員、スネイプがグリフィンドールの勝利を阻止するために審判を申し出たと思った。ずいぶんと時間をムダにしたものよ。どうせ今夜、私がおまえを殺すのに。」
クィレルがハリーに向かってそう言うと、指をパチッと鳴らした。縄がどこからともなく現れ、ハリーの体に固く巻きついた。
「フィニー・・・」
「無駄だ。」
ナツキが基本の反対呪文でハリーを解放しようと試みるが、それは阻止され、ナツキもハリー同様縄に縛られてしまった。絶体絶命だ。
「ポッター、君はいろんなところに首を突っ込みすぎる。生かしてはおけない。」
クィレルは次にナツキを見た。
「ああ、安心したまえ、ゴドリクソン。君は、殺さず、生かさず、だ。」
「!?」
ナツキは全身から汗が噴き出した。殺さず、生かさずとはどう言う意味だろう。絶対に良い意味ではない。
「さあポッター、ゴドリクソン、おとなしく待っておれ。このなかなかおもしろい鏡を調べなくてはならないからな。」
その時初めてナツキとハリーはクィレルの後ろにあるものに気がついた。ナツキは見たのは初めてだったが、これはハリーから聞いていた「みぞの鏡」だと確信した。
「この鏡が『石』を見つける鍵なのだ。ダンブルドアなら、こういうものを考えつくだろうと思った。」
ハリーとナツキにできることは、とにかくクィレルに話し続けさせ、鏡に集中できないようにすることだ。ダンブルドア校長先生が来るまでの時間稼ぎをしなければならない。
「スネイプは私に目をつけていて、私がどこまで知っているかを確かめようとしていた。初めからずーっと私のことを疑っていた。私を脅そうとしたんだ。私にはヴォルデモート卿がついているというのに。それでも脅せると思っていたのだろうかね。」
クィレルは鏡の裏を調べ、また前に回って、食い入るように鏡に見入った。
「『石』が見える。ご主人様にそれを差し出しているのが見える・・・・でもいったい石はどこだ?」
ハリーがクィレルの気を逸らそうと彼に話しかけている間、ナツキは縄から出る方法を頭の中から探す。何か、何かあるはずだ。
「この鏡はどういう仕掛けなんだ? どういう使い方をするんだろう? ご主人様、助けてください!」
クィレルの方から別の声が答えた。ゾッとする声だった。
「その子を使うんだ・・・・その子を使え・・・・・」
「わかりました。ポッター、ここへ来い。」
手を一回パンと打つと、ハリーを縛っていた縄が落ちた。
「ここへ来るんだ。鏡を見て何が見えるかを言え。」
「僕がダンブルドアと握手をしているのが見える。」
ナツキはハリーが嘘をついているとすぐにわかった。ナツキは後ろ手で、クィレルに見えないように、右手で杖を握り締めた。
「こいつは嘘をついている・・・・嘘をついているぞ・・・・俺様が話す・・・・直に話す・・・・・」
ナツキとはりーは瞬きすらできなかった。クィレルがターバンを解くのを、石のように硬くなったままで見ていた。
クィレルはその場でゆっくりと体を後ろ向きにした。
「っ!?」
ナツキは息を呑んだ。ハリーは声が出なかった。
クィレルの頭の後ろにはもう一つの顔があった。これまで見たこともないほどの恐ろしい顔が。蝋のように白い顔、ギラギラと血走った目、鼻孔はヘビのような裂け目になっていた。
「ハリー・ポッター・・・・ナツキ・ゴドリクソン・・・・。このありさまを見ろ。ただの影と霞にすぎない・・・誰かの体を借りて初めて形になることができる。しかし、常に誰かが、喜んで俺様をその心に入り込ませてくれる。さて、ハリー・・・・ポケットにある『石』をいただこうか。」
彼は知っていたんだ。突然足の感覚が戻った。ハリーはよろめきながら後ずさりした。
闇の帝王ごとクィレルがハリーに近づこうとした。
「インペディメン・・」「クルーシオ!!!」
ナツキが縛られながら発そうとした妨害呪文は、唱え終わることはなく、反射的にクィレルがナツキに杖を向けた。
「あぁああああっ!!」
苦しい!苦しい!苦しい!!!
「クィレル・・・やめろ・・・」
恐ろしい声がどういうわけかクィレルを制止すると、ナツキの体の痛みと苦しみと絶望が引いていった。
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」
ナツキは目の前が霞んできた。いけない。ハリーが死んでしまう・・・!!
「ああ・・・・忌々しい顔だ・・・。目の前で死んだはずだ。なぜ、また我輩の前に現れる・・・・・」
頭がガンガンする。ナツキは顔が言っている意味を理解しようとするが頭が働かなくなってくる。
「ナツキ!」
ハリーの声が聞こえる。すごくすごく遠くにいるようだ。意識がなくなるその直前にクィレルの悲鳴が聞こえたような気がした。
顔にベトっと何かがくっついた。思わず手でそれを握って、目を開けてなんなのか確認すると、蛙チョコレートだった。
「やあ、ナツキ。こんばんは。」
ダンブルドア先生がいた。見渡すとここは医務室のようであった。隣では、ハリーが寝ていた。
「先生、あのっ・・・」
「落ち着きなさい。もう大丈夫。皆、無事じゃよ。」
ダンブルドア先生は順を追って話してくれた。クィレルがハリーに倒されたこと。あれから三日たったこと。あの戦いのことはホグワーツ中が知っているということ。石を壊したこと。今は夜で、昼間にハリーが目を覚ましたこと。明日は学年末パーティーだと言うこと。
「あの、例のあの人は・・・」
「ナツキ、君はその名を言う勇気と強さを持っている。名前を恐れてはいけないよ。ヴォルデモートと呼びなさい。名前を恐れていると、そのもの自身に対する恐れも大きくなる。」
「・・・・はい、あの、」
ナツキは深呼吸して、生まれて初めてその名を口にした。
「ヴォルデモートも、死んだのですか?」
「いいや。死んどらん。乗り移る体を探しているところじゃろう。」
ナツキはキラキラの半月眼鏡の奥を見つめた。
「・・・・・私の顔を見て、忌々しい顔だと言っていました。目の前で死んだと。・・・・祖母のことを言っているとわかりました。でも、死んだって言い方がなんだか妙で・・・・・。祖母のアルバ・ゴドリクソンはヴォルデモートに殺されたんですよね?」
「そうとも、そうではないとも言える。わしから言えるのはこれくらいなのじゃ。君がもう少し成長したら、言えることが増えるかもしれん。」
つまり、今は言えない何かがあるのだろう。ダンブルドア先生は、どんなに強請っても、きっと今は答えてくれない。
「私は、そんなに祖母に似ていますか?」
「ふむ、興味深い質問じゃ。もちろん似ておる。トロールを吹き飛ばせるくらい優秀な一年生はなかなかおらん。呪文の才はアルバ譲りかもしれん。特に闇の魔術に対面した時の、勇敢さは彼女を彷彿とさせる。」
まるでナツキがヴォルデモートと対面した時、その場にいたようにダンブルドアは語った。
「じゃが、似ておらんところもたくさんある。アルバには欠点が見当たらんかった。それは素晴らしきことじゃ。しかし、欠点がない人間は人の心に寄り添えない時がある。もちろんアルバは寛大でみんなから慕われておったよ。ほんと〜にときどきじゃ。」
ナツキはお祖母さんにもそんな一面があるのかと驚いた。確か前に同じように驚いた時も、ダンブルドア先生に彼女の話をしてもらった時だ。
「じゃが、ナツキは、難しいものに直面した時の辛さと苦労を知っておる。じゃから最後までハリーに寄り添った。それはどんなに素晴らしい人でもなかなかできることではない。ハリーのために、忌まわしい呪文を体に受けた。それでも君は、前を向き続けた。」
ダンブルドア先生はナツキの頭に手を置いて、ポンと軽く撫でた。
「おお!違うところがまだあった!よく迷子になるところじゃ。じゃがこれは遺伝ではなく、弟の教育がうまくなかったのかもしれん。」
ダンブルドアがウインクしてそう言ったので、ナツキは笑いながら返した。
「アブは、大切に私を育ててくれていますよ。」
「おお、そうかそうか。ならいいんじゃ。」
その後ダンブルドア先生は「良い夢を」と言って医務室を出た。静かな医務室の夜、隣のハリーの寝息だけが聞こえた。
次の日の朝、ナツキとハリーは一緒にマダム・ポンフリーからパーティーに出る許可をもぎ取った。
夜になると、二人で大広間へ向かった。最後の診察をされたので、ぎりぎりだ。ハリーとナツキが扉を開けると、一斉にシーンとなって、気まずかった。ロンとハーマイオニーの隣に一人分空きがあるが、二人分席が開いている所がない。
「ナツキ、」
小さな声でジョージが自身と相方の間を指差した。席が一つ空いている!ナツキはそこに腰掛けた。
「また一年が過ぎた!」
ダンブルドアがほがらかに言った。
「それではここで寮対抗杯の表彰を行うことになっとる。点数は次のとおりじゃ。四位 グリフィンドール 312点。三位 ハッフルパフ 352点。レイブンクロー 426点。スリザリン 472点。」
スリザリンのテーブルから嵐のような歓声と足を踏み鳴らす音があがった。ナツキとハリーはガッカリと肩を落とした。
「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて。」
ダンブルドアがそう言い、部屋全体がシーンとなった。
「駆け込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう、まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君。この何年間か、ホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに30点を与える。」
グリフィンドールの歓声は、魔法をかけられた天井を吹き飛ばしかねないくらいだった。頭上の星がグラグラ揺れたようだ。
「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢に。火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに30点を与える。」
ハーマイオニーは腕に顔を埋めた。きっとうれし泣きしているに違いない。なんとこれで60点も増えた。
「三番目はナツキ・ゴドリクソン君。1年生とは思えぬ防衛術で真っ向から闇に立ち向かった。その弛まぬ努力と、友を思う優しさを称え、グリフィンドールに50点を与える。」
ナツキはポッと顔を赤くした。
「うおおお!やったな!!」
「わっ、」
「サイコーだぜ!!」
両隣のフレッドとジョージにグイと肩を組まれ揉みくちゃにされた。でも笑顔にならずにはいられなかった。
「四番目はハリー・ポッター君。その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに50点を与える。」
グリフィンドールだけではなく、ほかの寮からも歓声が上がった。スリザリンに並んだ。寮杯は引き分けだ。誰もがそう思った。
「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に10点を与えたい。」
ダンブルドアはほほえんだ。大きな歓声がグリフィンドールのテーブルから湧き上がった。嵐のような喝采の中で、ダンブルドアが声を張りあげた。
「したがって、飾りつけをちょいと変えねばならんのう。」
ダンブルドアが手を叩いた。次の瞬間グリーンの垂れ幕が真紅に、銀色が金色に変わった。
その夜は、ナツキ達にとって最高の夜になった。入学前は不安でいっぱいだったのが嘘のようだ。
翌日、試験の結果が通知され、ナツキはなんとハーマイオニーに続いて総合2位だった。しかし、呪文学は学年で1位の成績だ。
あっという間にホグワーツでの1年は終わり、ナツキはキングズ・クロス駅のプラットフォームで友人達にしばしの別れを告げていた。
「夏休み、うちに来いよ。」
「庭小人がお迎えするぜ。」
「うん。絶対行く。手紙書いてね。」
フレッドとジョージにそう告げてナツキは笑った。
「じゃあハリー、ロン、ハーマイオニー!夏休みにも会おうね!手紙書いてね!」
ナツキは大きな声でそう言って、遠くの方にいたアバーフォースの元へ駆け出した。
<賢者の石 完>
「僕は・・・・スネイプだとばかり・・・・」
ナツキもハリーも息を呑んだ。
クィレルは笑った。いつものかん高い震え声ではなく、冷たく鋭い笑いだった。
「たしかに、セブルスはまさにそんなタイプに見える。彼が育ちすぎたこうもりみたいに飛び回ってくれたのがとても役に立った。スネイプのそばにいれば、誰だって、か、かわいそうな、ど、どもりの、ク、クィレル先生を疑いやしないだろう?」
ハリーもナツキも信じられなかった。こんなはずはない。これは間違いだ。
「でもスネイプは僕を殺そうとした!」
「いや、いや、いや。殺そうとしたのは私だ。君を救おうとしてスネイプが私のかけた呪文を解く反対呪文を唱えてさえいなければ、もっと早く叩き落とせたんだ。」
「スネイプ先生がハリーを救おうとしていた?」
「そのとおり。」
ナツキは混乱した。スネイプ先生は敵どころか、味方だったのだ。
「彼がなぜ次の試合で審判を買って出たと思うかね? 私が二度と同じことをしないようにだよ。他の先生方は全員、スネイプがグリフィンドールの勝利を阻止するために審判を申し出たと思った。ずいぶんと時間をムダにしたものよ。どうせ今夜、私がおまえを殺すのに。」
クィレルがハリーに向かってそう言うと、指をパチッと鳴らした。縄がどこからともなく現れ、ハリーの体に固く巻きついた。
「フィニー・・・」
「無駄だ。」
ナツキが基本の反対呪文でハリーを解放しようと試みるが、それは阻止され、ナツキもハリー同様縄に縛られてしまった。絶体絶命だ。
「ポッター、君はいろんなところに首を突っ込みすぎる。生かしてはおけない。」
クィレルは次にナツキを見た。
「ああ、安心したまえ、ゴドリクソン。君は、殺さず、生かさず、だ。」
「!?」
ナツキは全身から汗が噴き出した。殺さず、生かさずとはどう言う意味だろう。絶対に良い意味ではない。
「さあポッター、ゴドリクソン、おとなしく待っておれ。このなかなかおもしろい鏡を調べなくてはならないからな。」
その時初めてナツキとハリーはクィレルの後ろにあるものに気がついた。ナツキは見たのは初めてだったが、これはハリーから聞いていた「みぞの鏡」だと確信した。
「この鏡が『石』を見つける鍵なのだ。ダンブルドアなら、こういうものを考えつくだろうと思った。」
ハリーとナツキにできることは、とにかくクィレルに話し続けさせ、鏡に集中できないようにすることだ。ダンブルドア校長先生が来るまでの時間稼ぎをしなければならない。
「スネイプは私に目をつけていて、私がどこまで知っているかを確かめようとしていた。初めからずーっと私のことを疑っていた。私を脅そうとしたんだ。私にはヴォルデモート卿がついているというのに。それでも脅せると思っていたのだろうかね。」
クィレルは鏡の裏を調べ、また前に回って、食い入るように鏡に見入った。
「『石』が見える。ご主人様にそれを差し出しているのが見える・・・・でもいったい石はどこだ?」
ハリーがクィレルの気を逸らそうと彼に話しかけている間、ナツキは縄から出る方法を頭の中から探す。何か、何かあるはずだ。
「この鏡はどういう仕掛けなんだ? どういう使い方をするんだろう? ご主人様、助けてください!」
クィレルの方から別の声が答えた。ゾッとする声だった。
「その子を使うんだ・・・・その子を使え・・・・・」
「わかりました。ポッター、ここへ来い。」
手を一回パンと打つと、ハリーを縛っていた縄が落ちた。
「ここへ来るんだ。鏡を見て何が見えるかを言え。」
「僕がダンブルドアと握手をしているのが見える。」
ナツキはハリーが嘘をついているとすぐにわかった。ナツキは後ろ手で、クィレルに見えないように、右手で杖を握り締めた。
「こいつは嘘をついている・・・・嘘をついているぞ・・・・俺様が話す・・・・直に話す・・・・・」
ナツキとはりーは瞬きすらできなかった。クィレルがターバンを解くのを、石のように硬くなったままで見ていた。
クィレルはその場でゆっくりと体を後ろ向きにした。
「っ!?」
ナツキは息を呑んだ。ハリーは声が出なかった。
クィレルの頭の後ろにはもう一つの顔があった。これまで見たこともないほどの恐ろしい顔が。蝋のように白い顔、ギラギラと血走った目、鼻孔はヘビのような裂け目になっていた。
「ハリー・ポッター・・・・ナツキ・ゴドリクソン・・・・。このありさまを見ろ。ただの影と霞にすぎない・・・誰かの体を借りて初めて形になることができる。しかし、常に誰かが、喜んで俺様をその心に入り込ませてくれる。さて、ハリー・・・・ポケットにある『石』をいただこうか。」
彼は知っていたんだ。突然足の感覚が戻った。ハリーはよろめきながら後ずさりした。
闇の帝王ごとクィレルがハリーに近づこうとした。
「インペディメン・・」「クルーシオ!!!」
ナツキが縛られながら発そうとした妨害呪文は、唱え終わることはなく、反射的にクィレルがナツキに杖を向けた。
「あぁああああっ!!」
苦しい!苦しい!苦しい!!!
「クィレル・・・やめろ・・・」
恐ろしい声がどういうわけかクィレルを制止すると、ナツキの体の痛みと苦しみと絶望が引いていった。
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」
ナツキは目の前が霞んできた。いけない。ハリーが死んでしまう・・・!!
「ああ・・・・忌々しい顔だ・・・。目の前で死んだはずだ。なぜ、また我輩の前に現れる・・・・・」
頭がガンガンする。ナツキは顔が言っている意味を理解しようとするが頭が働かなくなってくる。
「ナツキ!」
ハリーの声が聞こえる。すごくすごく遠くにいるようだ。意識がなくなるその直前にクィレルの悲鳴が聞こえたような気がした。
顔にベトっと何かがくっついた。思わず手でそれを握って、目を開けてなんなのか確認すると、蛙チョコレートだった。
「やあ、ナツキ。こんばんは。」
ダンブルドア先生がいた。見渡すとここは医務室のようであった。隣では、ハリーが寝ていた。
「先生、あのっ・・・」
「落ち着きなさい。もう大丈夫。皆、無事じゃよ。」
ダンブルドア先生は順を追って話してくれた。クィレルがハリーに倒されたこと。あれから三日たったこと。あの戦いのことはホグワーツ中が知っているということ。石を壊したこと。今は夜で、昼間にハリーが目を覚ましたこと。明日は学年末パーティーだと言うこと。
「あの、例のあの人は・・・」
「ナツキ、君はその名を言う勇気と強さを持っている。名前を恐れてはいけないよ。ヴォルデモートと呼びなさい。名前を恐れていると、そのもの自身に対する恐れも大きくなる。」
「・・・・はい、あの、」
ナツキは深呼吸して、生まれて初めてその名を口にした。
「ヴォルデモートも、死んだのですか?」
「いいや。死んどらん。乗り移る体を探しているところじゃろう。」
ナツキはキラキラの半月眼鏡の奥を見つめた。
「・・・・・私の顔を見て、忌々しい顔だと言っていました。目の前で死んだと。・・・・祖母のことを言っているとわかりました。でも、死んだって言い方がなんだか妙で・・・・・。祖母のアルバ・ゴドリクソンはヴォルデモートに殺されたんですよね?」
「そうとも、そうではないとも言える。わしから言えるのはこれくらいなのじゃ。君がもう少し成長したら、言えることが増えるかもしれん。」
つまり、今は言えない何かがあるのだろう。ダンブルドア先生は、どんなに強請っても、きっと今は答えてくれない。
「私は、そんなに祖母に似ていますか?」
「ふむ、興味深い質問じゃ。もちろん似ておる。トロールを吹き飛ばせるくらい優秀な一年生はなかなかおらん。呪文の才はアルバ譲りかもしれん。特に闇の魔術に対面した時の、勇敢さは彼女を彷彿とさせる。」
まるでナツキがヴォルデモートと対面した時、その場にいたようにダンブルドアは語った。
「じゃが、似ておらんところもたくさんある。アルバには欠点が見当たらんかった。それは素晴らしきことじゃ。しかし、欠点がない人間は人の心に寄り添えない時がある。もちろんアルバは寛大でみんなから慕われておったよ。ほんと〜にときどきじゃ。」
ナツキはお祖母さんにもそんな一面があるのかと驚いた。確か前に同じように驚いた時も、ダンブルドア先生に彼女の話をしてもらった時だ。
「じゃが、ナツキは、難しいものに直面した時の辛さと苦労を知っておる。じゃから最後までハリーに寄り添った。それはどんなに素晴らしい人でもなかなかできることではない。ハリーのために、忌まわしい呪文を体に受けた。それでも君は、前を向き続けた。」
ダンブルドア先生はナツキの頭に手を置いて、ポンと軽く撫でた。
「おお!違うところがまだあった!よく迷子になるところじゃ。じゃがこれは遺伝ではなく、弟の教育がうまくなかったのかもしれん。」
ダンブルドアがウインクしてそう言ったので、ナツキは笑いながら返した。
「アブは、大切に私を育ててくれていますよ。」
「おお、そうかそうか。ならいいんじゃ。」
その後ダンブルドア先生は「良い夢を」と言って医務室を出た。静かな医務室の夜、隣のハリーの寝息だけが聞こえた。
次の日の朝、ナツキとハリーは一緒にマダム・ポンフリーからパーティーに出る許可をもぎ取った。
夜になると、二人で大広間へ向かった。最後の診察をされたので、ぎりぎりだ。ハリーとナツキが扉を開けると、一斉にシーンとなって、気まずかった。ロンとハーマイオニーの隣に一人分空きがあるが、二人分席が開いている所がない。
「ナツキ、」
小さな声でジョージが自身と相方の間を指差した。席が一つ空いている!ナツキはそこに腰掛けた。
「また一年が過ぎた!」
ダンブルドアがほがらかに言った。
「それではここで寮対抗杯の表彰を行うことになっとる。点数は次のとおりじゃ。四位 グリフィンドール 312点。三位 ハッフルパフ 352点。レイブンクロー 426点。スリザリン 472点。」
スリザリンのテーブルから嵐のような歓声と足を踏み鳴らす音があがった。ナツキとハリーはガッカリと肩を落とした。
「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて。」
ダンブルドアがそう言い、部屋全体がシーンとなった。
「駆け込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう、まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君。この何年間か、ホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに30点を与える。」
グリフィンドールの歓声は、魔法をかけられた天井を吹き飛ばしかねないくらいだった。頭上の星がグラグラ揺れたようだ。
「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢に。火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに30点を与える。」
ハーマイオニーは腕に顔を埋めた。きっとうれし泣きしているに違いない。なんとこれで60点も増えた。
「三番目はナツキ・ゴドリクソン君。1年生とは思えぬ防衛術で真っ向から闇に立ち向かった。その弛まぬ努力と、友を思う優しさを称え、グリフィンドールに50点を与える。」
ナツキはポッと顔を赤くした。
「うおおお!やったな!!」
「わっ、」
「サイコーだぜ!!」
両隣のフレッドとジョージにグイと肩を組まれ揉みくちゃにされた。でも笑顔にならずにはいられなかった。
「四番目はハリー・ポッター君。その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに50点を与える。」
グリフィンドールだけではなく、ほかの寮からも歓声が上がった。スリザリンに並んだ。寮杯は引き分けだ。誰もがそう思った。
「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に10点を与えたい。」
ダンブルドアはほほえんだ。大きな歓声がグリフィンドールのテーブルから湧き上がった。嵐のような喝采の中で、ダンブルドアが声を張りあげた。
「したがって、飾りつけをちょいと変えねばならんのう。」
ダンブルドアが手を叩いた。次の瞬間グリーンの垂れ幕が真紅に、銀色が金色に変わった。
その夜は、ナツキ達にとって最高の夜になった。入学前は不安でいっぱいだったのが嘘のようだ。
翌日、試験の結果が通知され、ナツキはなんとハーマイオニーに続いて総合2位だった。しかし、呪文学は学年で1位の成績だ。
あっという間にホグワーツでの1年は終わり、ナツキはキングズ・クロス駅のプラットフォームで友人達にしばしの別れを告げていた。
「夏休み、うちに来いよ。」
「庭小人がお迎えするぜ。」
「うん。絶対行く。手紙書いてね。」
フレッドとジョージにそう告げてナツキは笑った。
「じゃあハリー、ロン、ハーマイオニー!夏休みにも会おうね!手紙書いてね!」
ナツキは大きな声でそう言って、遠くの方にいたアバーフォースの元へ駆け出した。
<賢者の石 完>