賢者の石
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クィレルはナツキたちが思っていた以上の粘りを見せた。それから何週間かが経ったが、口を割った気配はなかった。
クィレルと出会うたびに、ハリーは励ますような笑顔を向けるようにしたし、ロンはクィレルのどもりをからかう連中をたしなめはじめた。
ナツキはというと、なんと授業終わりにクィレル先生に声をかけられた。
「ご、ゴドリクソン君、ほ、放課後研究室に、き、き、きてもらえるかい?」
「え?あ、はい。」
今のところ防衛術では優等生で通っているナツキだから、怒られるような何かではないはず。ハリーたちと顔を見合わせた。これは現状を探るチャンスかもしれない。
「ぼ、防衛術に、き、き、興味があると聞きました。ね、熱心に勉強、し、してるとか。」
クィレル先生の研究室はやっぱりニンニク臭かった。
「はい。自分を守る術が大いに越したことはないと思って。先生がよければ少し教えて頂けたりしますか?」
ナツキのそのお願いにクィレルはいつも以上にオロオロした。そして数秒してから、口を開いた。
「い、い、一度、、じ、呪文を見る、くらいなら・・・」
ナツキは研究室から、闇の魔術に対する防衛術の教室へ行き、クィレルに攻撃呪文を打つならと示された的をみる。トロールの時から少しだけ衝撃呪文を練習したのでそれをみてもらいたい。
「フリペンド!」
ドーンと的が吹っ飛んだ。
「先生!どうですか!?」
かなり上手くいったのでは、と思い、後ろにいるクィレル先生の方を見た。ほんの一瞬、0.1秒にも満たないくらいかもしれない。もしかしたら気のせいかもしれない。でも、クィレルが自分を怖い顔で凝視していた気がした。
「す、素晴らしい。い、い、一年生とは、お、思えない!」
クィレル先生は不器用そうに口角を上げながらそう言った。ナツキはやはりさっきのは気のせいだと思った。
「アドバイスとかってありますか?」
クィレルはオロオロしながら、教室の隅の本棚へ手を伸ばした。
「ここ、こ、これを、今日はわ、渡そうとしたのです。よ、よ、読んでみるといいですよ。さ、差し上げます。」
「はい。ありがとうございます。」
クィレルがくれた本の表紙には『勇者の禁じ手』と書いてあった。装丁はボロボロで、ちょっぴりカビ臭かった。
ナツキはその場を後にして、その本を眺めていた。
面白そうなタイトルだった。クィレル先生がこんなに気がきく人だとは。そういえば、双子たちから、マグル学を教えていたときは普通に良い人だったと聞いたことを思い出した。
そしてナツキはハッとする。
「しまった!!!またやらかした!!!」
ボーッと歩いてしまったのだ!あろうことか、見覚えのある場所にたどり着いた。そこはジョージ曰く西棟で、フクロウ小屋の近く。しかしナツキは、やっぱり帰り道を覚えていなかった。
またジョージが勘を働かせて助けに来てくれないだろうか。しかし10分ほど経ってもそんな都合のいいことは起きなかった。
「レオーネーー!聞こえるーーー?」
フクロウ小屋が近いならレオーネを呼べばいいとも思ったが、うんともすんとも返事はなかった。
しかし救済はすぐに訪れた。
「こんなところで散歩かな?」
「だ、ダンブルドア先生!」
そこに突然現れたのは、アルバス・ダンブルドアだった。ナツキは予想外すぎる人物の登場で、心臓が跳ね上がったのがわかった。こんな近くで話すのは初めてだ。
「いやはや、血縁というのは不思議なものじゃ。50年前、わしはこの場所でうろつくアルバ・ゴドリクソンに会ったのじゃ。彼女は考え事をしていたら、こんなところに来てしまったと言っていたが、ナツキも同じかね?」
キラキラと眼を輝かせてダンブルドアはナツキに尋ねた。ナツキは頷いた。
「しかし全く同じというわけではなさそうじゃ。アルバは帰り道をちゃんと知っていたし、その手に持っていたのは大きな骨つき肉じゃった!」
「ほ、骨つき肉?」
ナツキはこれまで、自分の祖母がいかに素晴らしいかという話は聞いたことがあるが、そんな不思議なことをする人だとは初めて聞いた。
「さよう。ナツキはちぃっとばかり道を覚える才能が乏しいが、まあ帰り道はそのうち覚えるじゃろう。しかし、骨つき肉は・・・そうじゃ!チョコレートは好きかね?」
ナツキは頷いた。
「ならばこれをプレゼントしよう。わしのカードが当たるといいんじゃが・・・・」
そう言ってダンブルドアはポケットから蛙チョコレートを取り出した。
「ほれ、これで骨つき肉に近くなった。」
ダンブルドアはナツキの手にあった本をひょいと取り上げて、代わりに蛙チョコを持たせた。
「さて、グリフィンドールの寮まで一緒に行こうか。あの近くに行くのはわしも久しぶりじゃ。」
ありがたくその申し出を受けてナツキはダンブルドアについて行った。道中、ダンブルドアがずっと好きなお菓子の話をしていたので、ナツキはなんだかお腹がぺこぺこになってきた。寮についたら蛙チョコをすぐに食べようと決意した。
「では先生、ありがとうございました。」
「おやすみ、ナツキ。良い夢を。」
ナツキはクィレルにもらった本のことをさっぱりすっぱり忘れてしまっていた。
ハリーたちも談話室についたナツキにクィレルとのことを尋ねるのをすっかり忘れていた。ハーマイオニーが10週間先の試験のための学習予定表をハリーたちに書かせていたからだ。しかも、次の日からいろんな授業で宿題がどっさり出た。復活祭の休みになっても、遊び呆ける暇はなかった。
その日も四人は図書館で勉強をしていた。
ナツキも静かに勉強していたが、「ハグリッド! 図書館で何してるんだい?」というロンの声に、思わず目を上げた。
ハグリッドがバツが悪そうにモジモジしながら現れた。背中に何か隠している。
「おまえさんたちは何をしてるんだ?まさか、ニコラス・フラメルをまだ探しとるんじゃないだろうね。」
「そんなのもうとっくの昔にわかったさ。それだけじゃない。あの犬が何を守っているかも知ってるよ。『賢者のい――』」
「シーッ!」
話し続けようとするロンを制止してハグリッドは急いで周りを見回した。
「そのことは大声で言い触らしちゃいかん。」
ハグリッドは後で小屋に来るように言うと、モゾモゾと出ていった。
「ハグリッドったら、背中に何を隠してたのかしら?もしかしたら石と関係があると思わない?」
「園芸か魔法生物の本だと思う。」
ナツキはハーマイオニーの問いに冷静に答えた。しかし、勉強にうんざりしていたロンがハグリッドがいた棚を見ると言い、ほどなくして本をどっさり抱えて戻ってきた。
「ドラゴンだよ!ハグリッドはドラゴンの本を探してたんだ。」
「ほら、やっぱり。」
ナツキは得意げにそう言った。
「初めてハグリッドに会った時、ずーっと前からドラゴンを飼いたいと思ってたって、そう言ってたよ。」
ハリーが言った。
「でも、僕たちの世界じゃ法律違反だよ。えーっと・・・なんだっけ、法律があるんだ。みんな知ってる。」
「1709年のワーロック法だよ。ドラゴン飼育は違法になったの。マグルに見られると後始末が大変だから。」
ロンとナツキの説明にハーマイオニーは怪訝な顔で「じゃ、ハグリッドはいったい何を考えてるのかしら?」と言った。
一時間後、ハグリッドの小屋を訪ねると、驚いたことにカーテンが全部閉まっていた。中は窒息しそうなほど暑かった。こんなに暑い日だというのに、暖炉には轟々と炎が上がっている。
「それで、おまえさん、何か聞きたいんだったな?」
「ウン。フラッフィー以外に『賢者の石』を守っているのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらなと思って。」
直球で尋ねるハリーのハグリッドはしかめ面をした。
「もちろんそんなことはできん。まず第一、俺自身が知らん。第二に、おまえさんたちはもう知りすぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりのわけがあるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってなあ・・・・。もうすでにそれも気づいておるだろうが。だいたいフラッフィーのことも、いったいどうしておまえさんたちに知られてしまったのかわからんなぁ」
「ねえ、ハグリッド。私たちに言いたくないだけでしょう。でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きてることであなたの知らないことなんかないんですもの。私たち、石が盗まれないように、誰が、どうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね。ハグリッド以外に。」
ハーマイオニーがハグリッドをおだてはじめた、とナツキは衝撃を受けた。
「まあ、それくらいなら言ってもかまわんじゃろう。さてと・・・俺からフラッフィーを借りて、何人かの先生が魔法の罠をかけて、スプラウト先生、フリットウィック先生、マクゴナガル先生・・・・・それからクィレル先生、もちろんダンブルドア先生もちょっと細工したし、待てよ、誰か忘れておるな。そうそう、スネイプ先生。」
ハグリッドのその発言で四人は同じ考えに至った。スネイプ先生は、クィレル先生の呪文とフラッフィーを出し抜く方法以外を知っているに違いない。
「ハグリッドだけがフラッフィーをおとなしくさせられるんだよね? 誰にも教えたりはしないよね?」
「他の先生にも教えてないよね?」
ハリーとナツキは心配そうに聞いた。
「俺とダンブルドア先生以外は誰一人として知らん。」
ハグリッドが得意げにそう言ったので四人は安心した。
一安心したところで、異様なまでの小屋の暑さが気になってきた。暖炉の火の中には謎の黒い卵があった。
「ハグリッド、どこで手に入れたの? すごく高かったろう」
ロンはそう言いながら、火のそばに屈み込んで卵をよく見ようとした。
「賭けに勝ったんだ。昨日の晩、村まで行って、ちょっと酒を飲んで、知らないやつとトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは厄介払いして喜んでおったな。」
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」
ハーマイオニーが尋ねた。
「それで、ちいと読んどるんだがな。」
ロンとハーマイオニーから遅れて、ナツキとハリーはここでその卵がドラゴンのものなのだと気づいた。ハグリッドが法を犯して小屋にドラゴンを隠しているのがバレたらどうなるんだろう。
ある朝、ヘドウィグがハリーにハグリッドからの手紙を届けた。たった一行「いよいよ孵るぞ」と書かれた手紙だった。
授業の終わりを告げるベルが、塔から聞こえてくるやいなや、校庭を横切って森のはずれへと急いだ。
卵はテーブルの上に置かれ、深い亀裂が入っていた。中で何かが動いている。コツン、コツンという音がする。みんな息を潜めて見守った。
突然卵がパックリ割れ、赤ちゃんドラゴンがテーブルにポイと出てきた。全然可愛くない、とナツキは思った。
「ハグリッド。ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」
ハーマイオニーが聞いた。 ハグリッドが答えようとしたとたん、その顔から血の気が引き、はじかれたように立ち上がり、窓際に駆け寄った。
「カーテンの隙間から誰かが見ておった。子供だ。学校の方へ駆けていく。」
「・・・・あの後ろ姿は、マルフォイだね・・・・・」
ナツキが窓の外を見てつぶやいた。マルフォイにドラゴンを見られてしまった。
しばらくしてノーバートと名付けられたドラゴンがすくすく育っても、マルフォイの動きはなかった。どう見てもハグリッドが世話をしきれなくなってきているノーバートは、結局、ロンの兄でドラゴンの研究をしているというチャーリーに受け渡すことになったのだ。ただ、その時間と場所が問題で、誰にもバレずに、土曜の真夜中に一番高い塔へ行かなければならなかった。
ハリーとロンが透明マントを使ってそれを担う予定だった。しかしいくつも問題が起きた。ノーバートに噛まれたロンの手が異常に腫れ上がり、マダム・ポンフリーの世話になったのだ。しかもそれがきっかけで、マルフォイに取引のことがバレたらしい。
「いまさら計画は変えられないよ。」
ハリーの言葉は尤もだった。ナツキはロンの代わりに行こうと立候補したが、ハリーがナツキの方向音痴を懸念したため、ロンの代打はハーマイオニーになった。ナツキはこれに関しては、色々と前科があるため、ひどく情けない気持ちになった。
クィレルと出会うたびに、ハリーは励ますような笑顔を向けるようにしたし、ロンはクィレルのどもりをからかう連中をたしなめはじめた。
ナツキはというと、なんと授業終わりにクィレル先生に声をかけられた。
「ご、ゴドリクソン君、ほ、放課後研究室に、き、き、きてもらえるかい?」
「え?あ、はい。」
今のところ防衛術では優等生で通っているナツキだから、怒られるような何かではないはず。ハリーたちと顔を見合わせた。これは現状を探るチャンスかもしれない。
「ぼ、防衛術に、き、き、興味があると聞きました。ね、熱心に勉強、し、してるとか。」
クィレル先生の研究室はやっぱりニンニク臭かった。
「はい。自分を守る術が大いに越したことはないと思って。先生がよければ少し教えて頂けたりしますか?」
ナツキのそのお願いにクィレルはいつも以上にオロオロした。そして数秒してから、口を開いた。
「い、い、一度、、じ、呪文を見る、くらいなら・・・」
ナツキは研究室から、闇の魔術に対する防衛術の教室へ行き、クィレルに攻撃呪文を打つならと示された的をみる。トロールの時から少しだけ衝撃呪文を練習したのでそれをみてもらいたい。
「フリペンド!」
ドーンと的が吹っ飛んだ。
「先生!どうですか!?」
かなり上手くいったのでは、と思い、後ろにいるクィレル先生の方を見た。ほんの一瞬、0.1秒にも満たないくらいかもしれない。もしかしたら気のせいかもしれない。でも、クィレルが自分を怖い顔で凝視していた気がした。
「す、素晴らしい。い、い、一年生とは、お、思えない!」
クィレル先生は不器用そうに口角を上げながらそう言った。ナツキはやはりさっきのは気のせいだと思った。
「アドバイスとかってありますか?」
クィレルはオロオロしながら、教室の隅の本棚へ手を伸ばした。
「ここ、こ、これを、今日はわ、渡そうとしたのです。よ、よ、読んでみるといいですよ。さ、差し上げます。」
「はい。ありがとうございます。」
クィレルがくれた本の表紙には『勇者の禁じ手』と書いてあった。装丁はボロボロで、ちょっぴりカビ臭かった。
ナツキはその場を後にして、その本を眺めていた。
面白そうなタイトルだった。クィレル先生がこんなに気がきく人だとは。そういえば、双子たちから、マグル学を教えていたときは普通に良い人だったと聞いたことを思い出した。
そしてナツキはハッとする。
「しまった!!!またやらかした!!!」
ボーッと歩いてしまったのだ!あろうことか、見覚えのある場所にたどり着いた。そこはジョージ曰く西棟で、フクロウ小屋の近く。しかしナツキは、やっぱり帰り道を覚えていなかった。
またジョージが勘を働かせて助けに来てくれないだろうか。しかし10分ほど経ってもそんな都合のいいことは起きなかった。
「レオーネーー!聞こえるーーー?」
フクロウ小屋が近いならレオーネを呼べばいいとも思ったが、うんともすんとも返事はなかった。
しかし救済はすぐに訪れた。
「こんなところで散歩かな?」
「だ、ダンブルドア先生!」
そこに突然現れたのは、アルバス・ダンブルドアだった。ナツキは予想外すぎる人物の登場で、心臓が跳ね上がったのがわかった。こんな近くで話すのは初めてだ。
「いやはや、血縁というのは不思議なものじゃ。50年前、わしはこの場所でうろつくアルバ・ゴドリクソンに会ったのじゃ。彼女は考え事をしていたら、こんなところに来てしまったと言っていたが、ナツキも同じかね?」
キラキラと眼を輝かせてダンブルドアはナツキに尋ねた。ナツキは頷いた。
「しかし全く同じというわけではなさそうじゃ。アルバは帰り道をちゃんと知っていたし、その手に持っていたのは大きな骨つき肉じゃった!」
「ほ、骨つき肉?」
ナツキはこれまで、自分の祖母がいかに素晴らしいかという話は聞いたことがあるが、そんな不思議なことをする人だとは初めて聞いた。
「さよう。ナツキはちぃっとばかり道を覚える才能が乏しいが、まあ帰り道はそのうち覚えるじゃろう。しかし、骨つき肉は・・・そうじゃ!チョコレートは好きかね?」
ナツキは頷いた。
「ならばこれをプレゼントしよう。わしのカードが当たるといいんじゃが・・・・」
そう言ってダンブルドアはポケットから蛙チョコレートを取り出した。
「ほれ、これで骨つき肉に近くなった。」
ダンブルドアはナツキの手にあった本をひょいと取り上げて、代わりに蛙チョコを持たせた。
「さて、グリフィンドールの寮まで一緒に行こうか。あの近くに行くのはわしも久しぶりじゃ。」
ありがたくその申し出を受けてナツキはダンブルドアについて行った。道中、ダンブルドアがずっと好きなお菓子の話をしていたので、ナツキはなんだかお腹がぺこぺこになってきた。寮についたら蛙チョコをすぐに食べようと決意した。
「では先生、ありがとうございました。」
「おやすみ、ナツキ。良い夢を。」
ナツキはクィレルにもらった本のことをさっぱりすっぱり忘れてしまっていた。
ハリーたちも談話室についたナツキにクィレルとのことを尋ねるのをすっかり忘れていた。ハーマイオニーが10週間先の試験のための学習予定表をハリーたちに書かせていたからだ。しかも、次の日からいろんな授業で宿題がどっさり出た。復活祭の休みになっても、遊び呆ける暇はなかった。
その日も四人は図書館で勉強をしていた。
ナツキも静かに勉強していたが、「ハグリッド! 図書館で何してるんだい?」というロンの声に、思わず目を上げた。
ハグリッドがバツが悪そうにモジモジしながら現れた。背中に何か隠している。
「おまえさんたちは何をしてるんだ?まさか、ニコラス・フラメルをまだ探しとるんじゃないだろうね。」
「そんなのもうとっくの昔にわかったさ。それだけじゃない。あの犬が何を守っているかも知ってるよ。『賢者のい――』」
「シーッ!」
話し続けようとするロンを制止してハグリッドは急いで周りを見回した。
「そのことは大声で言い触らしちゃいかん。」
ハグリッドは後で小屋に来るように言うと、モゾモゾと出ていった。
「ハグリッドったら、背中に何を隠してたのかしら?もしかしたら石と関係があると思わない?」
「園芸か魔法生物の本だと思う。」
ナツキはハーマイオニーの問いに冷静に答えた。しかし、勉強にうんざりしていたロンがハグリッドがいた棚を見ると言い、ほどなくして本をどっさり抱えて戻ってきた。
「ドラゴンだよ!ハグリッドはドラゴンの本を探してたんだ。」
「ほら、やっぱり。」
ナツキは得意げにそう言った。
「初めてハグリッドに会った時、ずーっと前からドラゴンを飼いたいと思ってたって、そう言ってたよ。」
ハリーが言った。
「でも、僕たちの世界じゃ法律違反だよ。えーっと・・・なんだっけ、法律があるんだ。みんな知ってる。」
「1709年のワーロック法だよ。ドラゴン飼育は違法になったの。マグルに見られると後始末が大変だから。」
ロンとナツキの説明にハーマイオニーは怪訝な顔で「じゃ、ハグリッドはいったい何を考えてるのかしら?」と言った。
一時間後、ハグリッドの小屋を訪ねると、驚いたことにカーテンが全部閉まっていた。中は窒息しそうなほど暑かった。こんなに暑い日だというのに、暖炉には轟々と炎が上がっている。
「それで、おまえさん、何か聞きたいんだったな?」
「ウン。フラッフィー以外に『賢者の石』を守っているのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらなと思って。」
直球で尋ねるハリーのハグリッドはしかめ面をした。
「もちろんそんなことはできん。まず第一、俺自身が知らん。第二に、おまえさんたちはもう知りすぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりのわけがあるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってなあ・・・・。もうすでにそれも気づいておるだろうが。だいたいフラッフィーのことも、いったいどうしておまえさんたちに知られてしまったのかわからんなぁ」
「ねえ、ハグリッド。私たちに言いたくないだけでしょう。でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きてることであなたの知らないことなんかないんですもの。私たち、石が盗まれないように、誰が、どうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね。ハグリッド以外に。」
ハーマイオニーがハグリッドをおだてはじめた、とナツキは衝撃を受けた。
「まあ、それくらいなら言ってもかまわんじゃろう。さてと・・・俺からフラッフィーを借りて、何人かの先生が魔法の罠をかけて、スプラウト先生、フリットウィック先生、マクゴナガル先生・・・・・それからクィレル先生、もちろんダンブルドア先生もちょっと細工したし、待てよ、誰か忘れておるな。そうそう、スネイプ先生。」
ハグリッドのその発言で四人は同じ考えに至った。スネイプ先生は、クィレル先生の呪文とフラッフィーを出し抜く方法以外を知っているに違いない。
「ハグリッドだけがフラッフィーをおとなしくさせられるんだよね? 誰にも教えたりはしないよね?」
「他の先生にも教えてないよね?」
ハリーとナツキは心配そうに聞いた。
「俺とダンブルドア先生以外は誰一人として知らん。」
ハグリッドが得意げにそう言ったので四人は安心した。
一安心したところで、異様なまでの小屋の暑さが気になってきた。暖炉の火の中には謎の黒い卵があった。
「ハグリッド、どこで手に入れたの? すごく高かったろう」
ロンはそう言いながら、火のそばに屈み込んで卵をよく見ようとした。
「賭けに勝ったんだ。昨日の晩、村まで行って、ちょっと酒を飲んで、知らないやつとトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは厄介払いして喜んでおったな。」
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」
ハーマイオニーが尋ねた。
「それで、ちいと読んどるんだがな。」
ロンとハーマイオニーから遅れて、ナツキとハリーはここでその卵がドラゴンのものなのだと気づいた。ハグリッドが法を犯して小屋にドラゴンを隠しているのがバレたらどうなるんだろう。
ある朝、ヘドウィグがハリーにハグリッドからの手紙を届けた。たった一行「いよいよ孵るぞ」と書かれた手紙だった。
授業の終わりを告げるベルが、塔から聞こえてくるやいなや、校庭を横切って森のはずれへと急いだ。
卵はテーブルの上に置かれ、深い亀裂が入っていた。中で何かが動いている。コツン、コツンという音がする。みんな息を潜めて見守った。
突然卵がパックリ割れ、赤ちゃんドラゴンがテーブルにポイと出てきた。全然可愛くない、とナツキは思った。
「ハグリッド。ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」
ハーマイオニーが聞いた。 ハグリッドが答えようとしたとたん、その顔から血の気が引き、はじかれたように立ち上がり、窓際に駆け寄った。
「カーテンの隙間から誰かが見ておった。子供だ。学校の方へ駆けていく。」
「・・・・あの後ろ姿は、マルフォイだね・・・・・」
ナツキが窓の外を見てつぶやいた。マルフォイにドラゴンを見られてしまった。
しばらくしてノーバートと名付けられたドラゴンがすくすく育っても、マルフォイの動きはなかった。どう見てもハグリッドが世話をしきれなくなってきているノーバートは、結局、ロンの兄でドラゴンの研究をしているというチャーリーに受け渡すことになったのだ。ただ、その時間と場所が問題で、誰にもバレずに、土曜の真夜中に一番高い塔へ行かなければならなかった。
ハリーとロンが透明マントを使ってそれを担う予定だった。しかしいくつも問題が起きた。ノーバートに噛まれたロンの手が異常に腫れ上がり、マダム・ポンフリーの世話になったのだ。しかもそれがきっかけで、マルフォイに取引のことがバレたらしい。
「いまさら計画は変えられないよ。」
ハリーの言葉は尤もだった。ナツキはロンの代わりに行こうと立候補したが、ハリーがナツキの方向音痴を懸念したため、ロンの代打はハーマイオニーになった。ナツキはこれに関しては、色々と前科があるため、ひどく情けない気持ちになった。