仮初に寒明け
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昨日ぶりの実家は、やはりナツキを快く迎えてくれることはなかった。
「ナツキお嬢様!?本日はどのような・・・・」
「兄に会いにきたの。通して。」
門番を務める者が恐る恐ると言った様子で尋ねてきたが、強気でそう返した。
「では、海斗様にお伺いして参り・・・」
「私が私の家に入るのになぜ許可がいるの。」
「そ、それは・・・・・」
門番がたじろいだ。それに構わず、XANXUSを連れて敷地に入っていく。すれ違う部下たちが何を言おうとも気にならない。
もう、迷わない。
本当に大事なものが、どういうものかわかったから。
「・・・・・・XANXUS、ただ、後ろにいて・・・・・。それだけで、私は・・・・・」
「ああ。」
当主の間の目の前だった。
「ナツキ!?XANXUS君も・・・一体どうし・・・・・」
「兄さん、」
屋敷の騒ぎを聞きつけて先に襖を開けたのは兄だった。
「渡したい物があるの。」
改めて部屋の中心で兄に向き合った。兄妹間とは思えない緊張感が漂う。
しかし、XANXUSが私の後ろで静かに待ってくれている。それだけで、一騎当千の心強さだった。
「ナツキ、その、昨日は悪か・・・」
「これを受け取って。」
「・・・・な・・・・・・・ナツキ、これは・・・!?」
目の前の兄に、一枚の紙を手渡した。そこの書かれた文字を見て、兄の表情がみるみると変わっていった。
「・・・"私柳守ナツキは柳守家当主の座を永久に放棄することを申述する"・・・だと・・・・!?ナツキ!!正気なのか!?」
私はただ頷いた。
今まで口頭では当主になる気はないと言ってきた。しかし、本当に万が一、兄や、その継承者に何かがあった時のため、正式に継承権を放棄してはいなかった。
何があるかわからない裏の世界。家のためには放棄するべきではないからだ。
「ずっと・・・ずっと悩んでた。私が、継承権なんかを持ってるから、ややこしいことになるんだって・・・・。でも、万が一の場合を考えたら、柳守のために捨てるべきではないことも、もちろん知ってる。」
「なら、なぜ・・・・・」
兄が瞠目していた。兄がこれを望んでいないことは今までも明らかだった。兄は、私が当主の座を乗っ取ろうだとかを考えるとはきっと思っていないし、事実考えてはいない。だから、私と兄の間では、継承権を持っていようが、さしたることではなかった。
けれど、周りはそうじゃなかった。
「・・・・もう・・・私は・・・・家のために我慢したくない・・・・!!」
震える声でナツキはそう告げた。その様子をXANXUSはただ静かに、見守っていた。
「お願いだから、それを受け取ってください。私は・・・・・」
ナツキは膝をつき、深く深く頭を下げた。
「・・・もう・・・私を大事にしてくれない家のためには頑張れない・・・・・・!」
「!!!」
ふぅと、海斗がため息をついたのが聞こえ、ナツキは顔を上げた。
「・・・本当に、いいんだな。」
目の前の兄は、当主の顔をしていた。
「ええ。もっと早くに、決断するべきだった。」
一呼吸置いて、海斗は上申書を懐にしまった。
そしてナツキの奥に座っていたXANXUSを見た。
「・・・XANXUS君が勧めたのか・・・・・?」
「あ?」
「違うわ。全部、決めたのは私よ。」
XANXUSの空気がピリつくのを感じ、すぐにナツキは答えた。
「XANXUSが・・・・XANXUSのおかげで・・・人を思いやることも・・・・大切にしてもらうことも思いだせた・・・・。だから、やっと決心できたの。」
「・・・・そう・・か・・・・」
XANXUSの方は、恥ずかしくて見れない。でも、それが私の本心だった。
「・・・ナツキ、俺は・・・お前に謝らなければならない。柳守の当主としても、お前の兄としても至らなすぎた。・・・・なかなか父さんのようにはいかないな。・・・・・あの頃は・・・幸せだった・・・・・!!!」
「・・・・・兄さん・・・」
父が存命だった頃は、家族皆で仲良く、何も憂うことなどなかった。あの頃を恋しく思わない日はない。
ただ一つの願いは、あの頃のように戻りたい、それだけだった。
「俺はお前に頼りすぎたんだな。お前の強さと野心のなさに、甘えきっていたんだ・・・・。昨日、XANXUS君に言われるまで・・・・俺はその事実を見て見ぬふりをしていた・・・・・。やり直そう、ナツキ。家族として。」
涙が溢れた。
「・・・っ・・・!」
声が出せなくて、ただ大きく頷いた。