仮初に寒明け
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うわ、」
風呂から上がり、髪を乾かそうと鏡の前に立つと、目を晴らした自分がそこにいた。これは数分で治るものではないけれど、どうしよう、そう思いながら髪を乾かす。
(XANXUSもこの後お風呂入るって言ってたから早く上がらないとだし・・・あんまり顔を合わせなければバレないよね。)
露天風呂と続いている洗面所から出て、ソファに深く座って背を向けているXANXUSにホッとしながら声をかけた。
「上がったよ。えと、ちょっと疲れちゃったから寝るね。」
「・・・あ?」
XANXUSが不思議そうに振り返った気がしたが、顔を見られないように背を向けて、寝室の扉を閉めた。
「・・・・はあ・・」
大きなベッドの淵に腰掛けて、ため息をつく。きっとXANXUSが上がって、夕食を食べる頃には腫れも引いているはずだ。
しかし、そうはいかなかった。
「ナツキ?」
扉の開く音と、XANXUSの声がした。
「あ・・・・」
何も考えずに、扉の方に顔を向けて座っていたものだから、ナツキとXANXUSはばっちりと目が合った。そしてその目の腫れに気づかないXANXUSではない。
「・・・・・カスが・・・」
「あ、えっと、」
どう誤魔化そうかと考える間も無く、XANXUSはナツキに歩み寄り、俯くその顔に手を当てた。
「ざ、XANXUS、早くお風呂入らないと、夕食遅れちゃ・・・」
「後でいい。」
まだ残る涙の跡を親指でなぞると、XANXUSはナツキの横に腰を下ろし、そっとその体を抱き寄せた。
「ざ、」
「一人で泣くな。隠さなくていい。」
「っ・・・」
優しい声と、態度と、温もりで、ようやく収まったはずのなのに、また目頭が熱くなって、涙が溢れる。
いつかの、雨の夜とは逆だ、なんてどこかで冷静に思いながら、耐えきれずにXANXUSの温もりに縋った。
「うっ・・・、ごめ・・・」
「謝ることじゃねぇ。・・・・・俺たちは、上司と部下でも、敵でもねえんだろ。溜まってんなら吐き出しちまえ。・・・お前は少し、我慢しすぎだ・・・・・」
「!」
XANXUSに包まれて、今まで堰き止めていた、誰にも漏らしたことのない感情が溢れ出した。
「・・・普通の家族に・・も、戻りたいだけなの・・・」
嗚咽でうまく声が出なかった。それを急かすでも嫌がるでもなく、XANXUSは腕の中に包みながら、静かに話を聞いていた。
「でも・・わ、私が・・・何をしても・・どこかうまくいかなくて・・・・」
XANXUSは抱きしめながらそっとナツキの頭を撫でた。
ナツキはポツリポツリと、兄との軋轢の始まりを話した。
兄が正式に当主に治まってからも続く、ナツキを当主にという声。それでも、優秀な兄に、いつかは文句もなくなるだろうと楽観視していたこと。初めは仲良くやっていた兄嫁が次第にナツキに不信感を抱き始め、情緒がおかしくなってしまったこと。そしていつしか家に帰らなくなったこと。
「・・・XANXUSが、兄さんはお姉さんの方が大事なんだって言った時・・・・心臓が止まるかと思った・・・・。ずっと、考えないようにしていたの・・・・・。妻と妹なんて、比べることじゃない。私のことも大事に思ってくれてる・・・って・・・」
ナツキはXANXUSの背中に回した手に力を込めた。
「でも・・・何かしてくれたことはなかった・・・・!!いつも、お姉さんの気持ちを優先して・・・私の静かに家に帰りたいってだけの気持ちに、寄り添ってはくれなかった・・・・!」
「・・・・・」
「・・・・ごめんなさい。こんな・・・くだらない、嫉妬みたいな・・・・・」
XANXUSから少し体を離して、まるで自分に呆れたようにナツキはそういった。
「くだらなくねえ。・・・ずっと一人で耐えてきたんだ。謝る必要もねえ。」
「!」
離れた体を引き寄せて、先ほどよりも強くその小さな体を抱きしめた。そしてそれからどれくらい時間が経ったか、従業員が夕食を運んできたと告げる声が聞こえた。
「あ・・・」
「待ってろ。」
ポンと頭に手を置いて、XANXUSは夕食を受け取るために寝室を出て行った。リビングに食事を置くようなやりとりが聞こえた。