仮初に嵐
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柳守の家を出るとすぐにXANXUSはどこかに電話をかけていた。ナツキはその様子をただ眺めていた。
"血のつながった妹なんかより嫁が大事なんだな"
XANXUSがそう言い放った時の兄の顔が頭から離れない。
(・・・・比べて良いことじゃない。兄さんは、私のことも大事に思ってる・・・・・)
嫌なことを、今まで見ないようにしていたことに目を向けてしまいそうで、必死で自分にそう言い聞かせた。
「ナツキ、行くぞ。」
「あ、うん。」
XANXUSに促されるまま車に乗り込み、どこかへと向かう。空港の方向とは違うことはわかった。
「どこに行くの?」
「ボンゴレ傘下のホテルに部屋を取った。お前が前に食いたいって言ってた肉がそこで食えるんだと。」
「え!?あの幻の!?」
つい少し大きな声を出してそう返すと、XANXUSは目を見開いて口角を上げた。
「好きなだけ食え。・・・・太らねぇ程度にな。」
「な、なんでそんな余計なこと言うの・・・!?」
もしかしていつも私の食べっぷりをみて太ることを危惧していたのだろうか。・・・・いや、違うか。
元気づけようとしてくれてるんだろうな。
「・・・XANXUSは、静かな運転をするのね。」
「あ?」
「父も運転の上手な人で、少し思い出したの。」
「・・・そうか。」
先代の父が存命であればと、どれだけ頭をよぎっただろうか。こんな時ほど、恋しくなる。でもそれは、どうしたって叶うことのない願いだ。
そんなことを考えながら、XANXUSの運転する車に揺られていると、目的地のホテルに着いた。
「そこにいろ。」
「え?」
車を降りようとすると、XANXUSにそう言われた。なんだろうかと思っていると、彼は先に降りて、こちらのドアを外から開けた。
「降りろ。」
「あ、ありがと・・・」
どうやらエスコートをしてくれたようだった。差し出された手をとって、車を降りると、ホテルの支配人と従業員が出迎えてくれた。さすがボンゴレクオリティ。と言うより御曹司クオリティというべきか。
「おっきな部屋だね。」
「そうか・・・?」
「・・・・XANXUSってば、どんなところに住んでるの?」
そういえば以前私の部屋を狭いと、文句と言うほどではないがこぼしていたことを思い出す。ナツキとて銘菓の生まれだからそれなりに贅沢している方だが、それでも十分な広さだと思っていたし、このホテルの部屋も相当に立派である。
「来てみるか?」
「いや、そう言う意味で言ったんじゃ・・・というかXANXUSってヴァリアーのお屋敷に住んでるんでしょう?私は部外者だからダメよ。」
「別にかまわねぇだろ。」
「そうかなぁ・・・・?」
部屋を見て回りながらそんな話をしていたが、気づけばそのうちヴァリアーを訪れることになってしまったようだ。
「ナポリまで行くのも面倒だし住んでもいい。」
「いや、それは・・・確かに毎回来てもらって申し訳なくは思ってるけど・・・」
「なら考えとけ。」
「・・・・・」
流石に住むことはないだろうな、なんて考えているとあるものを見つけた。
「露天風呂!」
何かあるな、と思ってバルコニーに出てみると、立派な露天風呂がそこにあった。
夕飯まで1時間半ほどだったため、その前に交代で入浴することになった。
「じゃ、お先いただきます!」
「さっさと行ってこい。」
XANXUSと離れ、体を洗い一人で湯に浸かると、どうしても今日の実家でのことを思い出してしまった。
「・・・・・」
どうしてこうなってしまったのだろうか。
初めはただ、家族の役に立ちたくて、死に物狂いで体を鍛え上げた。勉強だってたくさんした。
なのに、いつの日か、後継者争いに発展してしまった。
程なくして、父が早々と次期当主は兄だと宣言して、ようやく肩の荷が降りたと思った。兄の方がずっと優秀だった。なのに、私は戦闘の一点で悪目立ちをしてしまった。
武の家系であったことをこれほど恨めしく思うことはない。
「・・・・なんで・・・!」
風呂場の水でも蒸気でもない雫が、頬を流れ落ちた。
「・・・っ・・!!」
しばらくその涙は止まってくれなかった。