継承式
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会場となるホテルにつき、いよいよXANXUSの放つ空気が重苦しくなってきた。すぐ後に到着したヴァリアーの幹部たちも息を詰まらせ、誰一人として言葉を発そうとしない。
「XANXUS、」
そんな空気を気にすることなく、ナツキはXANXUSの腕に手をかけた。スクアーロも含め、その場にいたヴァリアーの誰もが「まずい」と心の中で合唱した。
「エスコートよろしくね。」
「・・・ああ。」
しかし幹部たちの予想とは裏腹に、XANXUSはそのナツキの行動に対して激昂も咎めることもしなかった。それどころか、その雰囲気が幾分か柔らかくなったことに、口には出さずとも皆が驚愕したのだった。
「・・・じゃあ行く?」
「ああ。」
眉間に深く皺を刻み込んだXANXUSと共に、会場内へ入っていく。
周りからは口々に、「ヴァリアーだ」とこちらを畏怖するような声が聞こえた。そんな声に混じって「あれが柳守の・・・」なんてナツキのことを噂する者も聞こえてきた。
「ナツキ!」
「兄さん!・・・お姉さんは?」
声をかけることを躊躇うものがほとんどだという中、海斗がこちらを見つけるや否や即座に声を上げた。しかし、その隣にはパーティーでパートナーを務めるはずの妻ではなく、古参の家令がついているだけだった。
「臨月だから家でゆっくりしてるよ。ああ、XANXUS君、挨拶が遅れた。ナツキとはうまくやってるみたいだな。」
「・・・・ああ・・・」
「お姉さん、体調は?」
どうせ仮初の恋人だと知っている兄にとってはさほど自分達の関係なんて興味はないだろうと、ナツキは気になることを口に出した。
「問題ない。・・・生まれたら子供の顔を見に帰ってこい。今は家の中も、色葉も落ち着いてる。・・・・・ありがとう、本当に。」
海斗はXANXUSに向かってそう言った。ナツキはその様子から、自分の企みがうまくいったのだと感じた。
「よかった・・・!絶対に帰るわ。XANXUSも連れて行っていい?」
「は?」
「ああ、構わない。もてなすよ。」
「だって!一緒に行きましょう。甥かしら?姪かしら?贈り物も用意しなくちゃ・・・!!」
XANXUSを無視して進んでいく兄妹の話に、本人であるXANXUSは呆れてため息をついたが、心から喜んだ様子を見せるナツキを見て、どうでも良くなってしまった。そしてふと、継承式の場でこんな和やかでいれる自分に驚いた。愛を自覚してしまったXANXUSにとって、それが腕に静かに寄り添うナツキのおかげであることは明白だった。
海斗との挨拶をすませると、とうとう継承式が始まった。
ナツキは最前列に9代目と、少年たちがいるのを確認した。彼らが、沢田綱吉とその守護者たちなのだろう。
隣にいるXANXUSを見ると、眉間に皺を寄せていた。しかしその雰囲気から、やはり彼が本当に欲しているのは10代目の座ではないことを感じ取る。
「!」
黙って式の様子を見ていたXANXUSだが、その左手が握られたことで目を見開いた。ナツキが、手を握っているのだと分かって、少しだけ握り返した。
こちらを見て苦笑するナツキに、XANXUSは自分が最も屈辱を感じる瞬間であるのにもかかわらず、心が穏やかになるのを感じた。
そうしているうちに、継承は滞りなく終わり、ボンゴレのボスの座が9代目から10代目の沢田綱吉のものとなった。
「帰る?もう用は済んだでしょう?」
立食式が始まり、すでに義理を果たしたXANXUSに会場を出るよう促してみると、当然のように彼は頷いた。
そしてヴァリアーの幹部は残し、二人で会場を出ようと扉に近づいた時、それは阻まれた。
「XANXUS、よく来たね。ナツキさんも、久しぶりだね。」
「ご無沙汰しています。」
「・・・・・」
XANXUSをチラリと見た後に、優しい目でナツキを見つめる9代目。
「・・・仲良くやっているようで、安心したよ。」
それは心からそう言っているように思えた。XANXUSの親であろうという意思は確かにあるのだとナツキは感じた。
「9代目、この度はおめでとうございます。」
「ありがとう。」
心にもない言葉だったが、そういう場なのでナツキはXANXUSの代わりにそう口にだした。そしてふと隣のXANXUSを見ると、式の最中よりもずっとずっと辛そうにしていた。その辛そうな様子に耐えきれなくて、つい彼の腕に添えていただけの手に力が入った。
「・・・」
XANXUSはそれに気づくと、9代目の前では見せることのなかった目を一瞬だけナツキに向けた。それはナツキにとっては普段のXANXUSと変わらないものであったが、9代目にとってはそうではなかった。
「XANXUSはずいぶんと君には心を開いているみたいだ・・・。お節介だろうが結婚の予定は?儂も歳だからね、元気なうちに孫の顔が見たいんだ。」
9代目はナツキを見て目を細めてそういった。
別段おかしいことは言っていない。
それでもナツキはどうしても我慢ができなかった。
「・・・孫のことを考える前に、やるべきことはありませんか・・・・?」
俯きながら肩を震わせてそう言うナツキに、9代目もXANXUSも目を見開いた。
「あなたはどれだけXANXUSと真剣に向き合って来ましたか・・・・?」
「・・・ナツキ、もういい・・・」
XANXUSがナツキの肩を抱き、会場を出ようとした。
しかしナツキは動こうとはしなかった。
「XANXUSが私に心を開くのは、私がこの人に向き合ったからです・・・。あなたは、ちゃんと彼の目を見たことがありますか?」
「!!」
9代目が目を見開き、悲痛な表情を浮かべた。
「ナツキ、」
「・・・うん・・・」
再度名前を呼ぶXANXUSに、ナツキはようやく従って、二人で会場を抜け出た。
ヴァリアーの車に乗るが、早くに抜け出たため運転手は不在で、XANXUSが運転席に座った。
「・・・・なんか食いに行くか?」
「うん。・・・・・XANXUS、ごめんね。私、余計なことを・・・・」
助手席に座り、冷静さを取り戻したナツキは謝った。
「・・・謝ることはなんもしてねぇだろ。・・・・俺のために、怒っただけだ・・・・」
穏やかな声音でXANXUSはそう言った。
無表情ではあったが、どことなく優しい雰囲気が隣の彼から感じられた。