仮初と本物
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風呂から上がったナツキの提案で二人はテレビで映画を見ていた。
「ああーーー!後ろ!後ろ!」
「・・・るせぇ・・・」
地球外生命体に人間が襲われるというありふれた話。ナツキはネットで面白いと評判だという理由でそれを見ることにしたらしい。
2時間もないくらいの比較的短い映画で、ナツキは終始先程のようなリアクションで楽しんでいた。
「はー、楽しかった。」
「お前は黙ってみれねぇのか・・・・」
XANXUSは映画がお気に召さなかったのか、ほとんど酒を飲んで、映画よりもナツキの反応を見てばかりだった。
「・・・でもよかった。」
「あ?」
映画を停止して、ナツキはXANXUSを見つめ微笑んだ。
「XANXUS、少し元気になったね。」
「!」
優しく微笑むナツキに、XANXUSはまた胸が締めつけられて、気づくとその体を腕の中に抱き締めていた。
「XANXUS・・・?」
ナツキは動揺はするものの、大きな背中に手を回して、トントンと子供をあやすように叩いた。
「・・・・辛かったんだね・・・・・・」
自分を抱きしめる腕に少し力が入った。
きっと肯定だ。彼なりの、精一杯の。
「・・・私はあなたの敵でも、部下でもないから、弱みを見せたって良いんだよ。・・・・・辛いことは、辛いって言っても大丈夫だからね。」
「・・・!」
そしてまた強く抱き締められ、XANXUSはポツリポツリと、何があったのかを吐き出し始めた。
「・・・沢田綱吉の、継承式に出席しろと・・・・・」
「うん・・・」
「いつまでも俺なんぞのプライドは尊重できねえって言いやがった・・・・!」
「うん・・・」
「・・・良い加減、沢田綱吉を10代目として認めろと・・・・!!」
「そっか・・・」
同情の言葉すらもかけられなかった。
それでも今ここでは、少しでも心が落ち着くようにと、背中に手を回し続けた。
9代目はXANXUSになんて残酷な言葉を投げかけるのだろう。
XANXUSに初めて会った時の違和感の正体がようやくわかった。
権力を欲しているような雰囲気が感じられないのに、クーデターを起こしたのはなぜだろうかと、ずっと不思議だった。
「・・・XANXUS、あなたはボンゴレのボスの座なんて、本当はどうでも良いんじゃない・・・・・?」
XANXUSはナツキの言葉に少し驚いて、腕の力を緩めた。
「・・・10代目の肩書は、目的じゃなくて手段・・・・・・」
どういうことだろうかとXANXUSは体を離し、ナツキの顔を見つめた。
「あなたは、10代目になることで、9代目の息子になろうとしたのね・・・」
「!!」
XANXUSは目を大きく見開いた。
おそらくこの言葉を言うのが別人だったら、間違いなく相手を消していただろう。
でもナツキの言葉は、ゆっくりとだが、XANXUSの心に落ちていった。
それは短い付き合いの中で、彼女が誰よりも自分に誠実で、心に寄り添ってくれたからだった。
「俺が・・ジジイの・・・?」
「・・・・違った?」
XANXUSの頭を撫でてそう言った。
自分より少し年上であると言うのに、彼はどこかが子供のまま大きくなってしまったように感じた。
「分かんねぇ・・・・。ずっと、10代目になるのだと、周りから言われて・・・・そうだと信じて疑わなかった・・・・・。だが・・俺は・・・・血が・・・・・・」
XANXUSがまた辛そうに、思いを語る。
きっと、ずっと、溜め込んできたのではないだろうか。
愛しさのような何かが込み上げて、今度はナツキからXANXUSの頭を優しく肩口に抱きとめる。
「・・・辛かったんだね・・・・」
色々と思うことはあっても、それ以上は何も言えなかった。
XANXUSにとっては安い同情心にしか感じられないかもしれないから。
XANXUSの手に力が入ったことで、彼がどれだけの思いを抱えていたのかが窺えた。
「大丈夫だよ・・・。大丈夫・・・・。」
気休めでしかないその言葉が、ひどくXANXUSを安心させた。
そこで漸く、自分か彼女に抱いている気持ちの正体を知った。
それは自分が最も疎んだ"愛"なのだと気づいた。