ドライフラワー
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俺が朝目覚めると、そこにナツキの姿はなかった。
シーツには昨夜感じたような彼女の温もりも残されていなかった。
「・・・・」
寂しさを感じながらサイドテーブルに手紙と鍵を見つけた。
『スクアーロへ
仕事に行きます。鍵はポストへ入れておいてください。』
たったそれだけだった。
「・・・ナツキ・・・・?」
もしや体だけの関係だと思われているのだろうか。
そんなつもりは毛頭ないのに。
それとももしかして恋人がいた?
だが、万が一体だけの関係は許しても、恋人がいるのに他の男に抱かれるような奴ではないはずだ。
大人になったのだとしても、俺の知ってるナツキはそういう奴だ。
日は高く登っていて、かなり長いこと寝ていたのだと気づく。
幸い、非番だ。
ボスの機嫌取りがヴァリアーに今いないのはまずいかもしれないが、そんなのは俺の知ったことじゃねえ。
ひとまず散らばっている服に身を包み、どうしようかと考える。
ナツキは俺のことをどう思っているのだろうか。
体を許すくらいだから嫌われてはいないだろう。
「だあっ!埒があかねぇっ!!」
どんなに考えても答えがわかることはない。
なら、直接ナツキに伝えるべきだ。
好きだから、やり直そうと。
「・・・・・」
だが流石に家に上がり込んで、挙句仕事終わりまでそのまま待って、その流れで好きだと言うのは違うだろう。
「・・・あいつ、何が好きだったけな・・・・・」
あいつが仕事の間にプレゼントでも買って、それを持って好きだと言おう。
だがあんなにも愛していた彼女のことなのに、6年前の記憶はあやふやで、俺は彼女の好きなものすらも忘れてしまっていた。
「なんかねぇかぁ・・・?」
幸いにもここはナツキの家。
何かしら彼女の好きなものはあるはずだ。
それでもあまり物色するのは良くないだろうと思い、見回すだけにしていると、テーブルに読みかけの本があった。
「何読むんだぁ、こいつ」
ペラペラとめくるが、どうやら推理小説のようで、可愛らしさのかけらもない。
これから好きなものを見つけるのは難しそうだと思って、再びテーブルに置こうとすると、ページの隙間から何かが落ちた。
栞だ。
「やべぇ」
これではナツキがどこまで読んだのかわからなくなってしまうと、焦りながらその栞を手にとった。
「・・・仕方ねぇ・・・、謝るしかねぇな・・・ん?」
どこに挟まってあったか定かではない栞。
正直に言えば、ナツキは怒ることではないと言って許してくれる。
そう思っていると、その栞のデザインが気になった。
「手作りかぁ?」
なんだか安そうなその作りに、押し花を挟んだ手作りの栞なのだと気づく。
その押し花は、なぜか押し花なのに枯れて茶色になっていた。
それでもスクアーロには、その花の元の色がすぐに分かった。
「・・・・・これ・・・」
間違いなく、かつて自分がナツキにあげた花だ。
初めてキスをしたあの日、本当はその頭に自分で作った花冠を被せたかったんだ。
でも不器用な俺にはそれができなくて、仕方なくその帰り道に、街の花屋でナツキが綺麗だと言った花をプレゼントしたのだと思い出した。
「〜〜〜っ!!」
もしこれがあの時の花なら、
彼女も自分と同じように、初恋を大事に大事にしまっておいたに違いない。
それに気づくと胸が締め付けられるようだった。
好きだ。
昔も、今も。
いや、今は昔以上に、愛しく思う。
どうか同じ思いでいてくれと、俺はナツキの家を出て、街中の花屋を巡った。
「これの、青いやつはねぇのか!?」
「青いのはなかなか入荷できないんですよ。」
何度目かわからないその言葉を投げかけられ、気づくと隣町まで来ていた。
「・・・・あった・・!!」
日も暮れてきて、その花屋も店を閉じようとしていた時だった。
ようやく目当ての、青い花を見つけた。
急いで花束を作ってもらい、またまた急いで、ナツキの家へと駆ける。
もう仕事から戻っているだろうか。
喜んでくれるだろうか。
ナツキは俺の気持ちを受け止めてくれるだろうか。
ナツキの家が見えてきたが、灯りはついていない。
まだ帰っていないんだな、と思い、ポストに突っ込んだ鍵を取ろうとすると、そこに鍵はなかった。
もしかして一度帰ってきて、またどこかへ行ったのだろうか。
逸る気持ちで扉を見つめると、中から人の気配がした。
ナツキの気配に近い気がする。
どうして灯りをつけないのかと不思議に思い、扉に手をかけると、中から声が聞こえてきた。
「嫌い・・・こんなの・・・大っ嫌い・・・・・!!」
もしかして、自分のことを言っているのだろうかと焦る。
しかし、そこで俺はヘマをして、扉にかけていた手に力を入れてしまった。
鍵のかかっていなかった扉は、容易く開いた。
ナツキは潤んだ瞳を見開いて、俺を見ていた。
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