変わった君
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あのパーティーから1ヶ月、俺はナツキのことは忘れかけていた。
今日は情報屋から次の任務のための重大なデータを受け取るべくイタリア郊外のバーに来ていた。
男性を指名していたことから、情報屋は女で相引きを装うとしているのだろう。
そう思いながら飲み物を一杯注文して情報屋を待っていると、忘れかけていたはずの女が目の前に現れて、目を見開いていた。
多分、俺も同じ顔をしている。
「・・・何してるの?」
「な・・・?お前がじょうほ・・・」
「シーーっ!!」
つい、彼女の素性を吐き出しそうになり、咎められた。
「!・・・・悪ぃ・・・」
「・・・とりあえず、これ。」
「おう・・・・」
呆れながら、綺麗な袋を俺にナツキは手渡した。
傍目には可愛らしいプレゼントだが、その実は抹殺予定のマフィアの要人リスト。
まるで恋人を装う自分たちを象徴しているかのようだった。
「私、かえ・・・」
「お客様、お飲み物はいかがなさいますか?」
明らかにナツキは帰ろうとしたが、店員がその言葉をかき消した。
ここで帰るのは、あまり良くないだろう。
「俺と同じのでいい。」
ナツキも反対する気はないようで、仕方なしと言った様子で目の前の椅子を引きそこに腰掛けた。
「・・・一杯だけね。」
「ああ・・・」
そう言う彼女は、こちらを見て怪訝な顔をしてみせた。
「まだ切ってなかったの?」
昔、ナツキには髪を切らない理由を話した。
だがもう、忘れているかもしれない。
「ああ。てめぇは・・・またずいぶん短くしたんだなぁ。」
「あなたよりはね。」
あの頃は長かった髪が短く切り揃えられていた。
似合ってはいるが、どこか寂しく思った。
付き合っていた頃は、サラサラのその髪を梳くのが好きだった。
「・・・楽よ。おすすめするわ。」
どうやら俺が髪を伸ばす理由なんてのは忘れちまったらしい。
・・・それとも、知っていてわざとそんなことを言っているのだろうか。
「変わったな。」
「・・・・・お互い様よ。」
再び沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは、ナツキの注文したドリンクを手に持った店員だった。
「お待たせいたしました。」
「ありがとう。」
そう店員に微笑みかけるナツキに、思い出の中にあった彼女が少しだけ見えた気がした。
再会してから、初めて、ほんの少しだがその笑顔を見た。
酒を受け取ったナツキはそれを飲みながら適当な話を続けていた。
誰とでも話せるような、当たり障りのない、距離を感じる話。
俺の知っているナツキは未成年だからと酒には絶対に口をつけなかった。
そんな興味なさそうに俺の話を聞かなかった。
これが歳月のなせる技なのかと思うと、嫌に残酷だ。
目の前のナツキは記憶にあるよりずっと綺麗になっていた。
それが余計に悲しかった。
記憶の中の彼女は、美しさなんて繕わなかった。
笑いたい時に笑い、悲しい時は泣いていた。
そんな仮面のような表情は貼り付けていなかった。
「・・・じゃあな。」
「ええ。」
別れ際に、あっさりと俺に背を向けることもしなかった。
ああ、お前は、本当に変わっちまったんだな。
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