胎動
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「これでよし、と」
キバナとの約束の日、ナツキはワイルドエリアを歩くにあたって必要だと彼から教えられたものをリュックに詰め込んでいた。そして、手持ちに空きを作りつつ、連れて行くポケモンをやっとの思いで決めた。
「じゃあ行ってきます」
留守番を何匹かのポケモンに任せ、ナツキはマンションのエントランスへと出た。
「あ、キバナくん!お待たせ!」
「ああ。準備はバッチリか?」
「そのはず!」
いつもより上機嫌のナツキを見て、よほどワイルドエリアに行くのが楽しみだったんだろうと、キバナは思った。
そうこうしているうちにナックルシティを出てワイルドエリアに2人は入った。何が起きるかわからないため、キバナはフライゴンを、ナツキはデンリュウをそれぞれモンスターボールから出した。
「楽しみだね。キバナくんの言うことちゃんと聞くんだよ?」
「パル!」
「・・・・ナツキも俺様の言うことちゃんと聞けよな」
「もう!子供扱いして!」
ナツキとデンリュウのやりとりを可愛いと思いつつもそれを口には出せず、ついそんな悪態をついてしまったことをキバナはすぐに悔やんだ。
「とりあえず行くか。こっちだ」
「うん」
キバナとフライゴンに先導されナツキとデンリュウもその跡をついていく。
「とりあえずキテルグマにさえ出くわさなければ大丈夫だ」
「キテルグマってピンクの可愛い感じの?」
「そうそれ。あいつら群れで動くし凶暴だしで厄介なんだわ。いろんなとこにいやがるが、用がなければ逃げるが吉だぜ」
「へー、わかった」
そんなワイルドエリアの歩き方を教わりながらも、一行は着々と目的地に向かっていく。
「歩きにくくなってきたけど大丈夫か?」
「これくらいならなんとか・・・」
あまり運動神経が芳しくないことは自覚しつつも、ナツキだって旅慣れたトレーナーなので多少の悪路は問題無い。そう思っていた。
「お。降ってきたな」
「なんでそんなに嬉しそうなの・・・?」
「まあまあ。レインコートは持ってきてるんだよな?」
「うん。キバナくんが絶対必要って言ってたから」
天候の変わりやすいワイルドエリアの必須アイテムだと教えられたのでしっかりと今朝リュックに詰め込んだ。シンプルなレインコートを取り出してナツキは早速それを着た。
「おし、じゃあ先行くぞ。もうすぐだからな」
「うん。デンリュウ、離れないでね」
「パルル!」
雨が降り、地面がだんだんとぬかるみ始めた。それに加え平坦な道ではなく、ナツキは転ばないよう最新の注意を払っていた。
が、しかし、
「きゃっ!」
「ナツキ!?」
真後ろで悲鳴が聞こえ、キバナは咄嗟に手を伸ばした。
「っと・・・セーフ・・・」
「あ、ありがとう・・・」
ぬかるみに足を取られズルっと転んでしまうと思ったところを、キバナが咄嗟に手を掴んだために、なんとか持ち直した。
「パル?」
「だ、大丈夫だよ。なんとか泥まみれは防いだから」
とは言いつつも心臓はバクバクで、まだ収まらない。
「わり。ペース早かったな」
大柄なキバナと比べると一歩の大きさがまるで違う。ここまでもきっとキバナはナツキに歩幅を最大限合わせてくれたはずであった。
「・・・じゃ、行くか。休憩したくなったら言えよ」
「うん」
そう言ってキバナは一歩を踏み出した。
「・・・・・」
数歩進んだところでナツキはあることに気づいた。
(・・・手、繋いだままだ・・・・)
転びそうになったのを助けられた時に握られた手はそのままキバナに優しく引かれていた。
(離すの忘れてるのかな・・・。それともそんなに心配かけたとか・・・?)
「・・・・・」
「・・・・・」
ザーザーと雨音は響いていたが2人の声は響かない。デンリュウとフライゴンも黙々と主人たちの跡を追うだけだ。
離してもついていけると言ったら、きっと半歩先を行く彼は手を離してしまう。
そう考え始めている自分にナツキは気づいた。
(手、大きいな・・・・・)
レインコートを着ていても雨で体は冷え始めていた。それでも繋がれたその手だけは暖かかった。