特別編
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――ちいちいぱっぱ~、ちいぱっぱ~。
――じごくの学校 のせんせいはあ~、ム~チをふりふりちいぱっぱ~。
ちっとものどかではない童謡の替え歌を口ずさむシロ、今は眼鏡をかけて帽子と外套を身につけていた。
一緒に並んでいる柿助とルリオも同じ服装だった。
「ねえねえ、じごくの学校の鬼灯せんせい」
「はい何ですか、学徒シロさん」
シロの質問に答えるのは教壇に立つ鬼灯。
教鞭 を手に取って鞭のようにしならせる。
三匹の注目が集まる中、今まさに授業が始まろうとしていた。
「あのー……すいません」
「はい、凜先生」
「コレは一体何ですか」
おそるおそる声をあげる凜を黒板前に立っている鬼灯が持っていた教鞭で、びしっ、と指す。
「今日はシロ君達に地獄について教えてほしいという事で色々準備してたはずなんですけど……この大仰なセットと衣装は…?」
「普通に教えるよりもこうした方が頭に入りやすいじゃないですか」
鬼灯がくいっと眼鏡の位置を直しながら答えた。
ちなみに眼鏡の位置の直し方は、鬼灯がフレームの真ん中を中指で押さえるやり方。
「鬼灯様の意見に賛成!」
「俺も!すごく楽しみ!」
柿助とルリオも不平不満はない。
三匹はフレームの端を持って動かす方法だ。
「健全な肉体に健全な精神は宿る……ならば知的な肉体に知的な精神は宿るというものです」
「は、はあ」
今日は休日だったのだが、桃太郎のお供三匹に『勉強を教えてほしい』と乞われて学校ごっこ紛いのことをしている。
「さあさあ皆さん、疑問をばんばん出して授業のお尻を蹴っ飛ばしていきましょう」
鬼灯なんかは、銘仙の着物に袴を組み合わせた大正レトロ調に着替えてまで先生役をしている。
意外とノリノリですね。
しかも眼鏡は全員に配られ、三匹どころか鬼灯や凜もかけている。
眼鏡がインテリに見えるのはわかるが、どこから調達したんだこれ。
凜が身に纏うのは和服に袴を合わせた『はいからさん』スタイル。
当然のように彼女の服を用意したのは鬼灯である。
着こなしや柄こそ違え、微妙にペアルックになっていると言う辺りに、上司の陰謀の匂いを感じる凜だった。
「地獄・あの世・神話って日本では結構ごちゃまぜだよね。俺、よくわからないの」
その気持ちはわかる。
日本ほどややこしい国は滅多にないだろう。
あの世から見ていても、現世でどれだけ化学変化並みの事態があったことか。
「お答えしましょう。副担任の凜先生、フリップを」
いつの間にか副担任に位置づけられていた。
ならば鬼灯が担任だろうか。
つまり『地獄年閻魔組 鬼灯先生』ということなのだろう。
「変な事を考えていませんか?このバカチンが」
「ほぼほぼその通りの事は頭によぎりましたね。はい、これがそのフリップです」
凜はあらかじめ用意されていた大きめの図表を黒板に貼った。
そこには仏教の死後世界が描かれている。
実はさっき適当に描いた物なのだが、結構見やすい構図になっていると思う。
「まずは仏教についてお話します。そもそも、仏教において『天国と地獄』は対ではありません」
そして、鬼灯はインドで釈迦が説き始め、奈良時代に日本に渡来した仏教について話し始める。
昔、神話をかじっていてよかったなと思う。
ただの痛い思い出にならずに済んでよかったなと思える。
中二病なんかじゃなかったのだな、と今なら自信をもって言える。
あたしはこの時のために備えていたのだ!
さて、そんなあたしのうろ覚えな知識と彼の話、そしてごちゃ混ぜな日本神話の考察を教えてあげる。
ま、興味ない人は飛ばしてね。
「仏教の基本は『六道 』です」
六道輪廻。
仏教では、人の魂は死してなお消え去らず、新たに別の魂として生まれ変わるという。
その時、前世で負った宿業によって、次にどの世界に生まれるかが決定される。
「天道、人間道、阿修羅道、畜生道……で、その下が」
「餓鬼道、そして地獄道の六つ。合せて六道です。しいて対にするなら六道と浄土ですかね?」
民間伝承では霊の類だが、仏教では救いのない餓鬼道、畜生道、修羅道。
これらは『なんか辛い場所』として、地獄と混同されやすい。
六道の最下層、地獄道が最も酷な場所。
天人道と言っても、いわゆる天国ではなく六道中最も楽な場所。
人間道はいわゆる現世、生者が暮らす場所。
「ここから抜けるのが、いわゆる『解脱』。自力で悟ると『涅槃』…でもこれは、一般人には厳しいんだよね。そこで『仏様に頼って他力本願で救ってもらって、浄土へ行くことができる』という考え方が追加されたの」
「『生まれ変わったら』なんて言ってる場合じゃないんだね」
シロがそう言うも、鎌倉時代の宗派が分かれた頃に「あんなに信心したのに!」とお門違いな亡者が多発。
逆ギレされても困る。
地獄はかなり以前からシステムを変えていないのに。
多少考慮に入れるが、人間の勝手でこちらに文句を言われても知らない。
そしてうるさすぎる奴は即・地獄逝きだ。
「この考え方は仏教オンリー。しかし日本というのは面白い国でして、この考え方にそっている訳ではありません」
鬼灯は肩をすくめて、日本宗教の複雑さを説明する。
そもそも一般的な日本人に日本の宗教は何かと聞いたら、その日本人はたぶん困って答えない。
日本の宗教はあまり定義されていないので、この答えは複雑だと思う。
日本には神道も仏教もキリスト教の影響があるので、どれが一番大切なのかということは答えにくい。
「そもそもは多神教の国でして、アニミズムや霊といった考え方が普通にあります」
日本最古の歴史書である古事記の伝承の中では、神々が住む高天原(神の世界)と、死者が住む黄泉の国(死後の世界)で別れていた。
「仏教って霊いないの?」
「いわゆる『現世に留まる幽霊』という考え方はしません。でも日本人は普通に幽霊の話をしますよね」
「そうそう。『神様仏様』なんて変な拝み方もするし……」
「結婚式は教会で挙げて最終的には寺の墓に入ったり……」
鬼灯は小綺麗な文字や記号図形でびっしりと埋まった黒板、そしてフリップに描かれた絵を指揮棒で突いた。
「何か質問は?」
質問者は誰もいない。
二人の存在感に圧倒されていることもあるが、質問の余地がないというのが本音だった。
「よく見るとなんだか変……」
誰が言ったか、ぼそりとつぶやく。
「柔軟なのかミーハーなのか」
凜は苦笑しながら新しいフリップに向き直り、咄嗟にこぼれた発言を即座に拾う。
「たとえばクリスマスを祝ったり(キリスト教)一週間後には蕎麦を食べながら除夜の鐘を聞き(仏教)初詣に行く(神道)。バレンタインもそうだよね」
そんなにカップルどもから金を落とさせたいのか企業、そしてそれに引っかかるなリア充ども。
欧州の方ではクリスマスは温かみのある家族のイベントだし、バレンタインは友達同士の交流の場だしねぇ。
日本は外国文化を変に独自解釈しすぎじゃないかな?
本来の神道、中国から来た仏教、そして西洋のキリスト教に日本の文化や社会が変更されてできている。
(いや、クリスマスもバレンタインも諸説あるんだけど……あんま踏み込み過ぎるとうっかり神様呼び寄せちゃいました、とか普通にありえる身の上だから遠慮させてもらいたいのですよ)
たとえ知識としては既に知っていても、言葉にするかどうかの違いはかなり大きな違いとなるからね。
言霊怖い。
それに比べて七夕はまだ原型を保ってる方だと思う。
元が中国から来ているというのもあるかもしれないけどね。
「国民性でしょうね。受け入れて練り直すのが得意な民族ですから」
日本人の生活に象徴されるように、異なる宗派が喧嘩せず助け合って仲よく共存するシステムを作り上げた(何でもアリの職人気質)。
「パンにお惣菜入れまくったりね。コロッケパンとかね」
「さらには儒教・道教・民間信仰……と、まざりにまざって独特な考え方になったんですね」
自分達に都合がいいように曲解したりするからこうなるのだ。
そのおかげで多種多様で面白い思想が増えたのはいいことかもしれないが。
ナポリタンが日本発祥だと知って驚く人も多いだろう。
起源を辿って思わぬ真実を知るのも、ある意味醍醐味と言える。
学校(この場合は教え処)を久々に体験したのは、なかなか新鮮だった。
しかも今回は教師側、生徒側では味わえなかった視点である。
お供達が知識を蓄えるのもいい兆候だ。
「今日、あたし達が話したことが少しでも理解できるなら、昔の日本人が海外の思想に変化を加えて自分のものにするのがいかに上手だったかわかったはず」
『はーい』
三匹とも元気よく返事するが、おそらく調べないだろう。
この授業が終わった頃には、シロなんかは絶対忘れていると断言できる。
今の話もどこまで理解できたかかなり怪しい。
「このごちゃまぜ観を元に成り立っています。この物語はフィクションですが、本当かもしれません」
「そっかー。よくわかったよ。結局の所、よくわからないってことが!」
やっぱりな。
でも三匹が首を捻るのも無理はない。
自分だって全てを把握しているわけではないのだ。
時代を経るごとに思想が変わり様々な方向へ派生し、結果的にこんなにも稀な考えを持つ国民になったのだから。
「…さて、時間ですね。では、今日はこれまで」
授業終了を宣言すると教室に弛緩した空気が蔓延し始める。
凜は黒板消しを掴んで、黒板に書かれた図式や解説を消した。
――じごくの
ちっとものどかではない童謡の替え歌を口ずさむシロ、今は眼鏡をかけて帽子と外套を身につけていた。
一緒に並んでいる柿助とルリオも同じ服装だった。
「ねえねえ、じごくの学校の鬼灯せんせい」
「はい何ですか、学徒シロさん」
シロの質問に答えるのは教壇に立つ鬼灯。
三匹の注目が集まる中、今まさに授業が始まろうとしていた。
「あのー……すいません」
「はい、凜先生」
「コレは一体何ですか」
おそるおそる声をあげる凜を黒板前に立っている鬼灯が持っていた教鞭で、びしっ、と指す。
「今日はシロ君達に地獄について教えてほしいという事で色々準備してたはずなんですけど……この大仰なセットと衣装は…?」
「普通に教えるよりもこうした方が頭に入りやすいじゃないですか」
鬼灯がくいっと眼鏡の位置を直しながら答えた。
ちなみに眼鏡の位置の直し方は、鬼灯がフレームの真ん中を中指で押さえるやり方。
「鬼灯様の意見に賛成!」
「俺も!すごく楽しみ!」
柿助とルリオも不平不満はない。
三匹はフレームの端を持って動かす方法だ。
「健全な肉体に健全な精神は宿る……ならば知的な肉体に知的な精神は宿るというものです」
「は、はあ」
今日は休日だったのだが、桃太郎のお供三匹に『勉強を教えてほしい』と乞われて学校ごっこ紛いのことをしている。
「さあさあ皆さん、疑問をばんばん出して授業のお尻を蹴っ飛ばしていきましょう」
鬼灯なんかは、銘仙の着物に袴を組み合わせた大正レトロ調に着替えてまで先生役をしている。
意外とノリノリですね。
しかも眼鏡は全員に配られ、三匹どころか鬼灯や凜もかけている。
眼鏡がインテリに見えるのはわかるが、どこから調達したんだこれ。
凜が身に纏うのは和服に袴を合わせた『はいからさん』スタイル。
当然のように彼女の服を用意したのは鬼灯である。
着こなしや柄こそ違え、微妙にペアルックになっていると言う辺りに、上司の陰謀の匂いを感じる凜だった。
「地獄・あの世・神話って日本では結構ごちゃまぜだよね。俺、よくわからないの」
その気持ちはわかる。
日本ほどややこしい国は滅多にないだろう。
あの世から見ていても、現世でどれだけ化学変化並みの事態があったことか。
「お答えしましょう。副担任の凜先生、フリップを」
いつの間にか副担任に位置づけられていた。
ならば鬼灯が担任だろうか。
つまり『地獄年閻魔組 鬼灯先生』ということなのだろう。
「変な事を考えていませんか?このバカチンが」
「ほぼほぼその通りの事は頭によぎりましたね。はい、これがそのフリップです」
凜はあらかじめ用意されていた大きめの図表を黒板に貼った。
そこには仏教の死後世界が描かれている。
実はさっき適当に描いた物なのだが、結構見やすい構図になっていると思う。
「まずは仏教についてお話します。そもそも、仏教において『天国と地獄』は対ではありません」
そして、鬼灯はインドで釈迦が説き始め、奈良時代に日本に渡来した仏教について話し始める。
昔、神話をかじっていてよかったなと思う。
ただの痛い思い出にならずに済んでよかったなと思える。
中二病なんかじゃなかったのだな、と今なら自信をもって言える。
あたしはこの時のために備えていたのだ!
さて、そんなあたしのうろ覚えな知識と彼の話、そしてごちゃ混ぜな日本神話の考察を教えてあげる。
ま、興味ない人は飛ばしてね。
「仏教の基本は『
六道輪廻。
仏教では、人の魂は死してなお消え去らず、新たに別の魂として生まれ変わるという。
その時、前世で負った宿業によって、次にどの世界に生まれるかが決定される。
「天道、人間道、阿修羅道、畜生道……で、その下が」
「餓鬼道、そして地獄道の六つ。合せて六道です。しいて対にするなら六道と浄土ですかね?」
民間伝承では霊の類だが、仏教では救いのない餓鬼道、畜生道、修羅道。
これらは『なんか辛い場所』として、地獄と混同されやすい。
六道の最下層、地獄道が最も酷な場所。
天人道と言っても、いわゆる天国ではなく六道中最も楽な場所。
人間道はいわゆる現世、生者が暮らす場所。
「ここから抜けるのが、いわゆる『解脱』。自力で悟ると『涅槃』…でもこれは、一般人には厳しいんだよね。そこで『仏様に頼って他力本願で救ってもらって、浄土へ行くことができる』という考え方が追加されたの」
「『生まれ変わったら』なんて言ってる場合じゃないんだね」
シロがそう言うも、鎌倉時代の宗派が分かれた頃に「あんなに信心したのに!」とお門違いな亡者が多発。
逆ギレされても困る。
地獄はかなり以前からシステムを変えていないのに。
多少考慮に入れるが、人間の勝手でこちらに文句を言われても知らない。
そしてうるさすぎる奴は即・地獄逝きだ。
「この考え方は仏教オンリー。しかし日本というのは面白い国でして、この考え方にそっている訳ではありません」
鬼灯は肩をすくめて、日本宗教の複雑さを説明する。
そもそも一般的な日本人に日本の宗教は何かと聞いたら、その日本人はたぶん困って答えない。
日本の宗教はあまり定義されていないので、この答えは複雑だと思う。
日本には神道も仏教もキリスト教の影響があるので、どれが一番大切なのかということは答えにくい。
「そもそもは多神教の国でして、アニミズムや霊といった考え方が普通にあります」
日本最古の歴史書である古事記の伝承の中では、神々が住む高天原(神の世界)と、死者が住む黄泉の国(死後の世界)で別れていた。
「仏教って霊いないの?」
「いわゆる『現世に留まる幽霊』という考え方はしません。でも日本人は普通に幽霊の話をしますよね」
「そうそう。『神様仏様』なんて変な拝み方もするし……」
「結婚式は教会で挙げて最終的には寺の墓に入ったり……」
鬼灯は小綺麗な文字や記号図形でびっしりと埋まった黒板、そしてフリップに描かれた絵を指揮棒で突いた。
「何か質問は?」
質問者は誰もいない。
二人の存在感に圧倒されていることもあるが、質問の余地がないというのが本音だった。
「よく見るとなんだか変……」
誰が言ったか、ぼそりとつぶやく。
「柔軟なのかミーハーなのか」
凜は苦笑しながら新しいフリップに向き直り、咄嗟にこぼれた発言を即座に拾う。
「たとえばクリスマスを祝ったり(キリスト教)一週間後には蕎麦を食べながら除夜の鐘を聞き(仏教)初詣に行く(神道)。バレンタインもそうだよね」
そんなにカップルどもから金を落とさせたいのか企業、そしてそれに引っかかるなリア充ども。
欧州の方ではクリスマスは温かみのある家族のイベントだし、バレンタインは友達同士の交流の場だしねぇ。
日本は外国文化を変に独自解釈しすぎじゃないかな?
本来の神道、中国から来た仏教、そして西洋のキリスト教に日本の文化や社会が変更されてできている。
(いや、クリスマスもバレンタインも諸説あるんだけど……あんま踏み込み過ぎるとうっかり神様呼び寄せちゃいました、とか普通にありえる身の上だから遠慮させてもらいたいのですよ)
たとえ知識としては既に知っていても、言葉にするかどうかの違いはかなり大きな違いとなるからね。
言霊怖い。
それに比べて七夕はまだ原型を保ってる方だと思う。
元が中国から来ているというのもあるかもしれないけどね。
「国民性でしょうね。受け入れて練り直すのが得意な民族ですから」
日本人の生活に象徴されるように、異なる宗派が喧嘩せず助け合って仲よく共存するシステムを作り上げた(何でもアリの職人気質)。
「パンにお惣菜入れまくったりね。コロッケパンとかね」
「さらには儒教・道教・民間信仰……と、まざりにまざって独特な考え方になったんですね」
自分達に都合がいいように曲解したりするからこうなるのだ。
そのおかげで多種多様で面白い思想が増えたのはいいことかもしれないが。
ナポリタンが日本発祥だと知って驚く人も多いだろう。
起源を辿って思わぬ真実を知るのも、ある意味醍醐味と言える。
学校(この場合は教え処)を久々に体験したのは、なかなか新鮮だった。
しかも今回は教師側、生徒側では味わえなかった視点である。
お供達が知識を蓄えるのもいい兆候だ。
「今日、あたし達が話したことが少しでも理解できるなら、昔の日本人が海外の思想に変化を加えて自分のものにするのがいかに上手だったかわかったはず」
『はーい』
三匹とも元気よく返事するが、おそらく調べないだろう。
この授業が終わった頃には、シロなんかは絶対忘れていると断言できる。
今の話もどこまで理解できたかかなり怪しい。
「このごちゃまぜ観を元に成り立っています。この物語はフィクションですが、本当かもしれません」
「そっかー。よくわかったよ。結局の所、よくわからないってことが!」
やっぱりな。
でも三匹が首を捻るのも無理はない。
自分だって全てを把握しているわけではないのだ。
時代を経るごとに思想が変わり様々な方向へ派生し、結果的にこんなにも稀な考えを持つ国民になったのだから。
「…さて、時間ですね。では、今日はこれまで」
授業終了を宣言すると教室に弛緩した空気が蔓延し始める。
凜は黒板消しを掴んで、黒板に書かれた図式や解説を消した。