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第9話
「龍虎の二重奏」
(変態的なところもやっぱり似ている二人には、凜からのお仕置きが待っています)
※白澤の女癖の悪さを指摘するシーンから抜粋。
「本気になったことがない男はこれだから」
「いつだって本気で遊んでるんだよ」
鬼灯は恒例のように女癖の悪さを指摘する。
すると、複数の女性と交際する白澤を見兼ねて、凜がぼそりと言った。
「見境なく女性に声かけて、腎虚 になっても知りませんよ?」
独り言で言ったにもかかわらず、その言葉は全員の耳に届いた。
――なんだと!?
(※よい子のみんなに説明しよう。腎虚とは……辞書で調べてくれたまえ。間違っても、お母さんに聞いちゃあいけないよ)
あんぐりと、口を開けたまま固まる鬼灯と白澤。
顔を真っ赤にさせた桃太郎は慌ててシロの耳を塞いだ。
「分かりました理解しました。性欲とかのよこしまな部分を吸い取りたいんですね。凜さんでしたら大歓迎です」
「こぉのスケベさんめー!なんていけない子なんだ、お兄さん負けないぞ!」
互いに憎まれ口は叩く二人だが、やることは揃う。
ただ眼前の少女とヤリたい。
波長や息は合わないが、目的は同じである。
「……意思疎通すら困難ですか……変態が二人いるせいですね。致し方ありません。少しだけ、この手をお貸しするとしましょう」
「「え?」」
するりと差し出された彼女の右手を、食い入るように見つめる。
柔らかそうで、しっとりしてそうで、思わず頬ずりしたくなる。
はっきりとした白さの中にも、温もりを感じさせた。
つまりこの繊手が自分に触れるということか?
ごくりと、唾を飲み込む。
「手、手を貸すって……」
「なんだろ、手って……」
すべすべの手。
ふにゅふにゅの手。
「「手なんて、手なんて……」」
このたおやかな手が股間をまさぐり、優しくいじくって撫で上げてくりくりして――たまりません。
「「ぜひ手でお願いしますっ!!」」
「いきますよ――」
様々な意味で直立する二人が見たものは、ひゅるりと宙に舞う白迅 の残像だった。
一声漏らす暇すらなく、頬に猛烈なプレッシャーが迫る。
「このド変態!」
激痛の間際に聞こえた台詞は、いやらしさの欠片もなかった。
第10話
「精神的運動会」
(二つ名がお姉様の他にもう一つ増えそうです)
※鬼灯が無茶振りするシーンから始まります。
「では予定を変更して……凜さん、ケルベロスさんに何か一つ芸を……」
「これもあたしが行くの!?」
「凜ちゃん、ワシからもお願い!」
閻魔からも両手を合わせて懇願され、凜は仕方なく席を立ってケルベロスの方へ向かった。
「うわっ、朱井さん、まっすぐ向かってますよ!?」
「普通ならオロオロするか怒るところなんだけど、こっちが予想だにしなかったことを平気でやってのける子だなぁ…」
桃太郎は慌てふためき、白澤は冷静な意見を述べる。
新卒の応援席からは、唐瓜が心配そうに見つめる。
「凜さん、食われたりしないかなぁ……」
「なー、唐瓜」
すると、茄子がのんびりとした声をかけた。
「お前なぁ、ちょっとは心配しろよ!」
「もし、凜さんがケルベロス手懐けたらすげーよなー」
唐瓜は狼狽し、茄子の突拍子もない発言に耳を疑う。
歓声が飛ぶ中で凜が、長い髪を揺らしてグラウンドに入ってきた。
「「……」」
そして、ズンズンと歩み寄ってくるケルベロスと対峙する。
獣の荒い息。
恐怖は強烈な緊張感と共に彼女の感覚を研ぎ澄まし、唇を引き結ぶ。
犬とは言うものの、ケルベロスは本来犬でも狼でもない。
既存の生態系に組み込めるようなものではないのだ。
でも、こちとら地獄の第二補佐官に任命されてドS上司に毎日しごかれているんだ。
人間なめんな。
「お手」
凜は手を出して優しく微笑みました。
そう、ただ微笑んだだけなのです。
なのに怖いです、マジ怖いです、超怖いです。
慈愛に溢れた、まるで聖母のような微笑みなのに、伝わってくるのは何故か恐怖です。
「お、て」
噛みつこうとしたケルベロスが固まっちゃいましたよ。
ガクガクと震え、顔色も真っ青なケルベロスは前足を彼女の手に置く。
「いい子ね~」
調教完了。
完全にケルベロスを手なずけた少女に向けて、恐ろしいまでの歓声が飛ぶ。
閻魔はひそかに、あっぱれと叫びたい気持ちになった。
――さすがは凜ちゃん!!
――鬼灯君が惚れた人!!
何か動物の本能的な部分で彼女に逆らっちゃダメって感じたんでしょう。
どうやら凜ちゃん、この僅かな間に群れの序列をはっきりさせたようです。
第11話
「ニャパラッチ」
(相変わらず凜の周りにはドSと変態しかいないです)
小判が去ってから数日後、閻魔殿に悲鳴が響き渡り、鬼灯が飛んでくるのをすんでのところで避けると、凜を睨む。
「なんでかわすんですか腹正しい」
「ムチャ言わないでくださいよ!」
凜が背中を見せて逃走に移ると、鬼灯も手をわきわきさせながら追っかけてきて、執務室の周りをぐるぐる逃げ回る。
「あ~もう、記者がいなくなったらコレ!この変態上司!」
「一日も凜さんに触っていなかったんですよ。そりゃあムラムラします」
二人は興奮と嫌悪、対照的な表情で、
「我慢しろよ」
「我慢なんてできません」
じりじりと間合いを取り、まるで試合のように対峙する。
「一日という短い間でも凜さんに触っていなかったから、下半身が熱くなる……」
一瞬、何を言われたのか全く理解できなかった。
意識せずに声が漏れた。
「……………なっ、え?今、何て」
「ですから、下半身が熱いんです」
そう言って、普段のように眉間に皺を寄せていながらも、やはり少し赤い頬をしたまま自分の下腹部を指差した。
ああ、つい目を向けてしまった。
慌てて視線を戻す。
「……鬼灯さん、冗談ですよね?」
「冗談?私はいつも真剣です」
彼の生真面目な表情に、ふざけた色は一欠片だってなかった。
――だとしたら何だ、彼は一日でもあたしに触れないだけで……なるのか、そんなバカな。
「わかりました。とりあえず、あたしから離れてください」
「イヤです」
きっぱりと言った鬼灯に、凜は頭を抱えた。
隣には勃起した成人男性、しかもむっつりスケベ。
「ちょっ、来ないでください!」
「大丈夫です、最後まで致しませんから!先っぽだけでも」
「いやあああああ!!」
今はそんな場合じゃないだろう、本当にお前は官吏か、角切り取るぞ、と凜は思う。
しかし言えない。
ああもう、貞操の危機と羞恥心と理性がごちゃごちゃ。
「ああ、もう!反撃してやる!」
「やれるものならやって…んっ」
「えええ!?」
――何、今の喘ぎ声!?
ただ、彼女は詰め寄ってくる彼の脇腹を押したに過ぎない。
(え?あたしがイケナイとこ触ったみたいじゃない、してない断じて!それとも何、あたしが悪いの!?)
「…凜さんが悪いんですよ」
凜が焦って両手を眺めていると、鬼灯が口を開く。
その目元は自身の手で覆われていて、表情は見えない。
「なっ、何がですか?」
「ずるいです。特にその笑顔と、引き込まれそうな目。ずるくて亀みたいに鈍感で、時々薔薇のように鋭くて、ガムシロップみたいに甘いです。ああもうまったく……どうして貴方はそう――」
そう言って掌をどけると、先程より赤くなった頬。
「私の想いが伝わっていながら嫁にならず、私の気持ちがわかっていながら逃げ回って、こんなにも胸が苦しいんです」
「鬼灯さ……」
「全部…貴方のせいです」
(わかっちゃいたけど、面倒くさい人だなぁ……そんな人の告白に応えたあたしも変わってるし……)
先程までの狼狽も鳴りを潜めているが、自分の変人ぶりに嘆息する。
まずは鬼灯に言葉でもかけよう、と考えて、それも失敗に終わる。
何故なら、鬼灯によって抱きしめられていたのだ。
重量を押しのけようと身動ぎしたが、全く微動だにしない。
「苦しいんです。熱が収まるまで、このままの状態でいてください」
苦しい抱擁の中、凜は思った。
――鬼灯さんの当たってます、どけてください。
第13話
「男と女と衆合地獄」
(SとMの真骨頂)
※唐瓜が責められるシーンから始まります。
「…なんか甘いんだよなぁ」
鬼灯の拷問を見慣れているせいか、マダム達の生ぬるい拷問にちょっと落ち着かない。
(試してみる……かな?)
それは邪念と言うべき、不謹慎な思いつきだった。
凜は頭を振って、そのアイディアを捨てようとした。
いくらなんでも冗談がすぎる。
獄卒でもない自分がやったら洒落にならない。
だが、地獄で働いているなら拷問くらいできなくてどうすると、鬼灯にきつく言われている――。
「鬼灯さん」
二分だけ悩んで声をかけると、こちらの内心を察したらしくご自由に、と頷く。
上司の了承を得た凜は木刀を構え、ニタリとサディスティックな表情をつくった。
「お香さん、拷問ってのはこんなに優しくっちゃあ駄目なんですよ?」
バガン、と木刀の切っ先が唐瓜のすぐ近く、地面に突き刺さった。
「……ッ!」
恐ろしい衝撃が頬に数センチ空けて弾ける。
おそるおそる顔を上げれば、すぐ傍に白い脚があった。
踏まれたり、すがりついて舐めちゃいたいくらいにすらりと長く伸びた脚。
「目は覚めた?」
とどめに凜の、なんだか寒気がするような笑顔。
心拍数が一気に跳ね上がる。
「うわあああっ!!」
唐瓜は叫んで跳ね起き、大慌てで退散した。
「逃げられてしまいましたね。追いますか?」
「これ以上の深追いは無用ですね。それにしても…この程度でビビって逃げるなんて、唐瓜君もまだまだだね」
走り去る唐瓜の後ろ姿を見て、手厳しい評価をする鬼灯と凜。
――どうしよう、走っていった時の顔がとてもいい表情をしていたなんて言えない……。
動向を見守っていたお香と茄子は目撃してしまった。
てっきり恐怖で逃げたと思われる唐瓜の顔が、なんだか嬉しそうに紅潮していたことを。
第17話
「溢れ返ってきたヨッパライ」
(珍しく真面目なお話……?)
日本神話の英雄がまさか脱糞をしていたなんて、地味にショックだった桃太郎。
ぐるぐると大鍋の中身を掻き回しながら考える。
――大蛇を退治して英雄へとのし上がったスサノヲって、1話目の俺よりも相当ヤンチャだったんだな。
――そもそも、なんでそんなことになったんだ……?
桃太郎が思い浮かべるスサノヲは、大蛇を退治して娘を助けたという英雄譚 。
姉がいるということはおぼろげながらも理解している。
だが、姉弟の仲が決裂した理由はなんなのだろうか。
懸命に頭を回転させたのち、桃太郎はあっさりと努力を放棄した。
この疑問に答えを見出すには、あまりにも知識が足りなさすぎる。
あの世に関しても、そして日本神話についても。
こんな時は、先達に助言を仰ぐべきではないだろうか。
――そういえば白澤様、こんな事言ってったっけ。
(――「まぁ、もっと詳しい話が聞きたかったら凜ちゃんにでも言ってみな。あの涼しげな美貌と凛々しい声音で豊富に語ってくれるから」――)
そう、彼女ならどちらの知識も十分に持っているはずだ。
しばしためらう。
自分の中の≪純粋に相談したい度合い≫と≪それにかこつけて話したいだけ度合い≫の比率を検討した結果、
――うーん、六:四!
と結論づけて桃太郎は火を止めて薬膳作りを一旦中断、閻魔殿に電話する。
最下層の地獄にいる、亡者にして閻魔大王の第二補佐官にアポを取るために。
桃太郎が凜と話すために用意した場所は、あの世絶景100選に選ばれた桃源郷。
卓の上に置かれたお茶と団子には一切手をつけず、凜は声音を改めて語る。
「アマテラスは天上を支配、ツクヨミは夜の世界を、そして海を担当するはずのスサノヲはヒゲが生える年齢になっても母親に会いたくて泣き叫びまくってね」
母親のイザナギはそんな息子に業を煮やし、スサノヲを追い出すのだ。
家族が解散し、ホームレス状態になった弟が向かったのは、既に一人暮らしをしていたアマテラスのところ。
しかし、天上界を乗っ取ろうとしてんじゃないかしら、と勘繰るアマテラスとスサノヲは姉弟喧嘩を始める。
スサノヲは天上で暴れ、身体から固形物を排出。
立派な大人なのにう○こと言って喜ぶ類の男だったんですね。
弟のアホさ加減が空恐ろしくなったアマテラス。
「天の岩戸に閉じこもるんだけど、太陽神である彼女がいなくなると世界が暗くなってしまう」
ふぅっと長く息を吐くと、凜はようやっと湯呑みに口をつけた。
「――とまぁ、スサノヲについての説明はこんな感じかな。どう、桃太郎?」
「難しい日本神話が、とてもよくかみ砕いてあって、ややこしい世界観もすっと頭に入ってきて、わかりやすかったです」
桃太郎は感じ入ったように言った後、胡乱そうにつぶやく。
「…正直、なんでこんな奴が英雄になったんだってつっこみたい気分です」
字面だけ見てみれば、マザコンでニートでダメな大人である。
すると、凜は小さく笑った。
「……ふふふ」
訝しげにする桃太郎を前に、にっこりと笑う亡者はこう述べる。
「ああ、ゴメンね。だけどね桃太郎、自ら英雄を名乗るなんて、そこからして勘違いしてるよ」
赤みがかかった瞳がじっと鬼退治の英雄を射抜いていた。
彼の反応を楽しんでいるのだろう。
「――英雄を決めるのは、いつだって力を持たない人間。力がないからこそ、力に憧れるからこそ、彼らは英雄を求め、選定する。桃太郎、君は誰かに担がれて英雄を演じようと決めたのかな?」
「………っ」
桃太郎は言葉も出ない。
そう、誰にも選ばれたわけではない。
自らそう生まれたからこそ、そうであるべきだと信じ込んだだけだ。
そうであることが、自らに流れる血と、自らに宿った運命が当然の環境なのだと――。
「龍虎の二重奏」
(変態的なところもやっぱり似ている二人には、凜からのお仕置きが待っています)
※白澤の女癖の悪さを指摘するシーンから抜粋。
「本気になったことがない男はこれだから」
「いつだって本気で遊んでるんだよ」
鬼灯は恒例のように女癖の悪さを指摘する。
すると、複数の女性と交際する白澤を見兼ねて、凜がぼそりと言った。
「見境なく女性に声かけて、
独り言で言ったにもかかわらず、その言葉は全員の耳に届いた。
――なんだと!?
(※よい子のみんなに説明しよう。腎虚とは……辞書で調べてくれたまえ。間違っても、お母さんに聞いちゃあいけないよ)
あんぐりと、口を開けたまま固まる鬼灯と白澤。
顔を真っ赤にさせた桃太郎は慌ててシロの耳を塞いだ。
「分かりました理解しました。性欲とかのよこしまな部分を吸い取りたいんですね。凜さんでしたら大歓迎です」
「こぉのスケベさんめー!なんていけない子なんだ、お兄さん負けないぞ!」
互いに憎まれ口は叩く二人だが、やることは揃う。
ただ眼前の少女とヤリたい。
波長や息は合わないが、目的は同じである。
「……意思疎通すら困難ですか……変態が二人いるせいですね。致し方ありません。少しだけ、この手をお貸しするとしましょう」
「「え?」」
するりと差し出された彼女の右手を、食い入るように見つめる。
柔らかそうで、しっとりしてそうで、思わず頬ずりしたくなる。
はっきりとした白さの中にも、温もりを感じさせた。
つまりこの繊手が自分に触れるということか?
ごくりと、唾を飲み込む。
「手、手を貸すって……」
「なんだろ、手って……」
すべすべの手。
ふにゅふにゅの手。
「「手なんて、手なんて……」」
このたおやかな手が股間をまさぐり、優しくいじくって撫で上げてくりくりして――たまりません。
「「ぜひ手でお願いしますっ!!」」
「いきますよ――」
様々な意味で直立する二人が見たものは、ひゅるりと宙に舞う
一声漏らす暇すらなく、頬に猛烈なプレッシャーが迫る。
「このド変態!」
激痛の間際に聞こえた台詞は、いやらしさの欠片もなかった。
第10話
「精神的運動会」
(二つ名がお姉様の他にもう一つ増えそうです)
※鬼灯が無茶振りするシーンから始まります。
「では予定を変更して……凜さん、ケルベロスさんに何か一つ芸を……」
「これもあたしが行くの!?」
「凜ちゃん、ワシからもお願い!」
閻魔からも両手を合わせて懇願され、凜は仕方なく席を立ってケルベロスの方へ向かった。
「うわっ、朱井さん、まっすぐ向かってますよ!?」
「普通ならオロオロするか怒るところなんだけど、こっちが予想だにしなかったことを平気でやってのける子だなぁ…」
桃太郎は慌てふためき、白澤は冷静な意見を述べる。
新卒の応援席からは、唐瓜が心配そうに見つめる。
「凜さん、食われたりしないかなぁ……」
「なー、唐瓜」
すると、茄子がのんびりとした声をかけた。
「お前なぁ、ちょっとは心配しろよ!」
「もし、凜さんがケルベロス手懐けたらすげーよなー」
唐瓜は狼狽し、茄子の突拍子もない発言に耳を疑う。
歓声が飛ぶ中で凜が、長い髪を揺らしてグラウンドに入ってきた。
「「……」」
そして、ズンズンと歩み寄ってくるケルベロスと対峙する。
獣の荒い息。
恐怖は強烈な緊張感と共に彼女の感覚を研ぎ澄まし、唇を引き結ぶ。
犬とは言うものの、ケルベロスは本来犬でも狼でもない。
既存の生態系に組み込めるようなものではないのだ。
でも、こちとら地獄の第二補佐官に任命されてドS上司に毎日しごかれているんだ。
人間なめんな。
「お手」
凜は手を出して優しく微笑みました。
そう、ただ微笑んだだけなのです。
なのに怖いです、マジ怖いです、超怖いです。
慈愛に溢れた、まるで聖母のような微笑みなのに、伝わってくるのは何故か恐怖です。
「お、て」
噛みつこうとしたケルベロスが固まっちゃいましたよ。
ガクガクと震え、顔色も真っ青なケルベロスは前足を彼女の手に置く。
「いい子ね~」
調教完了。
完全にケルベロスを手なずけた少女に向けて、恐ろしいまでの歓声が飛ぶ。
閻魔はひそかに、あっぱれと叫びたい気持ちになった。
――さすがは凜ちゃん!!
――鬼灯君が惚れた人!!
何か動物の本能的な部分で彼女に逆らっちゃダメって感じたんでしょう。
どうやら凜ちゃん、この僅かな間に群れの序列をはっきりさせたようです。
第11話
「ニャパラッチ」
(相変わらず凜の周りにはドSと変態しかいないです)
小判が去ってから数日後、閻魔殿に悲鳴が響き渡り、鬼灯が飛んでくるのをすんでのところで避けると、凜を睨む。
「なんでかわすんですか腹正しい」
「ムチャ言わないでくださいよ!」
凜が背中を見せて逃走に移ると、鬼灯も手をわきわきさせながら追っかけてきて、執務室の周りをぐるぐる逃げ回る。
「あ~もう、記者がいなくなったらコレ!この変態上司!」
「一日も凜さんに触っていなかったんですよ。そりゃあムラムラします」
二人は興奮と嫌悪、対照的な表情で、
「我慢しろよ」
「我慢なんてできません」
じりじりと間合いを取り、まるで試合のように対峙する。
「一日という短い間でも凜さんに触っていなかったから、下半身が熱くなる……」
一瞬、何を言われたのか全く理解できなかった。
意識せずに声が漏れた。
「……………なっ、え?今、何て」
「ですから、下半身が熱いんです」
そう言って、普段のように眉間に皺を寄せていながらも、やはり少し赤い頬をしたまま自分の下腹部を指差した。
ああ、つい目を向けてしまった。
慌てて視線を戻す。
「……鬼灯さん、冗談ですよね?」
「冗談?私はいつも真剣です」
彼の生真面目な表情に、ふざけた色は一欠片だってなかった。
――だとしたら何だ、彼は一日でもあたしに触れないだけで……なるのか、そんなバカな。
「わかりました。とりあえず、あたしから離れてください」
「イヤです」
きっぱりと言った鬼灯に、凜は頭を抱えた。
隣には勃起した成人男性、しかもむっつりスケベ。
「ちょっ、来ないでください!」
「大丈夫です、最後まで致しませんから!先っぽだけでも」
「いやあああああ!!」
今はそんな場合じゃないだろう、本当にお前は官吏か、角切り取るぞ、と凜は思う。
しかし言えない。
ああもう、貞操の危機と羞恥心と理性がごちゃごちゃ。
「ああ、もう!反撃してやる!」
「やれるものならやって…んっ」
「えええ!?」
――何、今の喘ぎ声!?
ただ、彼女は詰め寄ってくる彼の脇腹を押したに過ぎない。
(え?あたしがイケナイとこ触ったみたいじゃない、してない断じて!それとも何、あたしが悪いの!?)
「…凜さんが悪いんですよ」
凜が焦って両手を眺めていると、鬼灯が口を開く。
その目元は自身の手で覆われていて、表情は見えない。
「なっ、何がですか?」
「ずるいです。特にその笑顔と、引き込まれそうな目。ずるくて亀みたいに鈍感で、時々薔薇のように鋭くて、ガムシロップみたいに甘いです。ああもうまったく……どうして貴方はそう――」
そう言って掌をどけると、先程より赤くなった頬。
「私の想いが伝わっていながら嫁にならず、私の気持ちがわかっていながら逃げ回って、こんなにも胸が苦しいんです」
「鬼灯さ……」
「全部…貴方のせいです」
(わかっちゃいたけど、面倒くさい人だなぁ……そんな人の告白に応えたあたしも変わってるし……)
先程までの狼狽も鳴りを潜めているが、自分の変人ぶりに嘆息する。
まずは鬼灯に言葉でもかけよう、と考えて、それも失敗に終わる。
何故なら、鬼灯によって抱きしめられていたのだ。
重量を押しのけようと身動ぎしたが、全く微動だにしない。
「苦しいんです。熱が収まるまで、このままの状態でいてください」
苦しい抱擁の中、凜は思った。
――鬼灯さんの当たってます、どけてください。
第13話
「男と女と衆合地獄」
(SとMの真骨頂)
※唐瓜が責められるシーンから始まります。
「…なんか甘いんだよなぁ」
鬼灯の拷問を見慣れているせいか、マダム達の生ぬるい拷問にちょっと落ち着かない。
(試してみる……かな?)
それは邪念と言うべき、不謹慎な思いつきだった。
凜は頭を振って、そのアイディアを捨てようとした。
いくらなんでも冗談がすぎる。
獄卒でもない自分がやったら洒落にならない。
だが、地獄で働いているなら拷問くらいできなくてどうすると、鬼灯にきつく言われている――。
「鬼灯さん」
二分だけ悩んで声をかけると、こちらの内心を察したらしくご自由に、と頷く。
上司の了承を得た凜は木刀を構え、ニタリとサディスティックな表情をつくった。
「お香さん、拷問ってのはこんなに優しくっちゃあ駄目なんですよ?」
バガン、と木刀の切っ先が唐瓜のすぐ近く、地面に突き刺さった。
「……ッ!」
恐ろしい衝撃が頬に数センチ空けて弾ける。
おそるおそる顔を上げれば、すぐ傍に白い脚があった。
踏まれたり、すがりついて舐めちゃいたいくらいにすらりと長く伸びた脚。
「目は覚めた?」
とどめに凜の、なんだか寒気がするような笑顔。
心拍数が一気に跳ね上がる。
「うわあああっ!!」
唐瓜は叫んで跳ね起き、大慌てで退散した。
「逃げられてしまいましたね。追いますか?」
「これ以上の深追いは無用ですね。それにしても…この程度でビビって逃げるなんて、唐瓜君もまだまだだね」
走り去る唐瓜の後ろ姿を見て、手厳しい評価をする鬼灯と凜。
――どうしよう、走っていった時の顔がとてもいい表情をしていたなんて言えない……。
動向を見守っていたお香と茄子は目撃してしまった。
てっきり恐怖で逃げたと思われる唐瓜の顔が、なんだか嬉しそうに紅潮していたことを。
第17話
「溢れ返ってきたヨッパライ」
(珍しく真面目なお話……?)
日本神話の英雄がまさか脱糞をしていたなんて、地味にショックだった桃太郎。
ぐるぐると大鍋の中身を掻き回しながら考える。
――大蛇を退治して英雄へとのし上がったスサノヲって、1話目の俺よりも相当ヤンチャだったんだな。
――そもそも、なんでそんなことになったんだ……?
桃太郎が思い浮かべるスサノヲは、大蛇を退治して娘を助けたという英雄
姉がいるということはおぼろげながらも理解している。
だが、姉弟の仲が決裂した理由はなんなのだろうか。
懸命に頭を回転させたのち、桃太郎はあっさりと努力を放棄した。
この疑問に答えを見出すには、あまりにも知識が足りなさすぎる。
あの世に関しても、そして日本神話についても。
こんな時は、先達に助言を仰ぐべきではないだろうか。
――そういえば白澤様、こんな事言ってったっけ。
(――「まぁ、もっと詳しい話が聞きたかったら凜ちゃんにでも言ってみな。あの涼しげな美貌と凛々しい声音で豊富に語ってくれるから」――)
そう、彼女ならどちらの知識も十分に持っているはずだ。
しばしためらう。
自分の中の≪純粋に相談したい度合い≫と≪それにかこつけて話したいだけ度合い≫の比率を検討した結果、
――うーん、六:四!
と結論づけて桃太郎は火を止めて薬膳作りを一旦中断、閻魔殿に電話する。
最下層の地獄にいる、亡者にして閻魔大王の第二補佐官にアポを取るために。
桃太郎が凜と話すために用意した場所は、あの世絶景100選に選ばれた桃源郷。
卓の上に置かれたお茶と団子には一切手をつけず、凜は声音を改めて語る。
「アマテラスは天上を支配、ツクヨミは夜の世界を、そして海を担当するはずのスサノヲはヒゲが生える年齢になっても母親に会いたくて泣き叫びまくってね」
母親のイザナギはそんな息子に業を煮やし、スサノヲを追い出すのだ。
家族が解散し、ホームレス状態になった弟が向かったのは、既に一人暮らしをしていたアマテラスのところ。
しかし、天上界を乗っ取ろうとしてんじゃないかしら、と勘繰るアマテラスとスサノヲは姉弟喧嘩を始める。
スサノヲは天上で暴れ、身体から固形物を排出。
立派な大人なのにう○こと言って喜ぶ類の男だったんですね。
弟のアホさ加減が空恐ろしくなったアマテラス。
「天の岩戸に閉じこもるんだけど、太陽神である彼女がいなくなると世界が暗くなってしまう」
ふぅっと長く息を吐くと、凜はようやっと湯呑みに口をつけた。
「――とまぁ、スサノヲについての説明はこんな感じかな。どう、桃太郎?」
「難しい日本神話が、とてもよくかみ砕いてあって、ややこしい世界観もすっと頭に入ってきて、わかりやすかったです」
桃太郎は感じ入ったように言った後、胡乱そうにつぶやく。
「…正直、なんでこんな奴が英雄になったんだってつっこみたい気分です」
字面だけ見てみれば、マザコンでニートでダメな大人である。
すると、凜は小さく笑った。
「……ふふふ」
訝しげにする桃太郎を前に、にっこりと笑う亡者はこう述べる。
「ああ、ゴメンね。だけどね桃太郎、自ら英雄を名乗るなんて、そこからして勘違いしてるよ」
赤みがかかった瞳がじっと鬼退治の英雄を射抜いていた。
彼の反応を楽しんでいるのだろう。
「――英雄を決めるのは、いつだって力を持たない人間。力がないからこそ、力に憧れるからこそ、彼らは英雄を求め、選定する。桃太郎、君は誰かに担がれて英雄を演じようと決めたのかな?」
「………っ」
桃太郎は言葉も出ない。
そう、誰にも選ばれたわけではない。
自らそう生まれたからこそ、そうであるべきだと信じ込んだだけだ。
そうであることが、自らに流れる血と、自らに宿った運命が当然の環境なのだと――。