地獄の沙汰とあれやこれ
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――地獄の閻魔は多忙だが、余裕を持つことも忘れない。
閻魔が呼んでいる『マンガで読む四谷怪談』の本をちらりと見た凜は、ふと考える。
最近の現世では、百物語のような手頃なスリルを求める人が多いようだ。
わざわざ自ら恐怖を体験したいという感覚が自分にはわからない。
平安時代など、夜道を歩けば百鬼夜行に出くわしそうなくらい恐怖が身近にあった。
実際にそれを理由にして物忌み(という建て前のサボり)をする人もいたが。
体験しにいかなくとも、イギリスのように「貴方の隣人は幽霊です」と言われても納得する世界だったのだ。
不夜城と呼ばれるほどにまで発展した今の東京を見ると、人間がいかに暗闇を避けたいのかという心理的な部分が垣間見える。
明るさだけなら、単なる安全面を重視しただけかもしれない。
犯罪の種類は変わっても、いつの時代も物騒なことに変わりはないのだから。
しかし人口が増えたとはいえ、狭い領土の隙間を埋めるかのように建物を造り続ける様子には違和感を覚える。
まるで不確かな空き地を「人間のものだ」と主張しているかのようだ。
そのせいで端に追いやられた妖怪が、あの世に逃げてきているのも事実なのだが。
そうやって正体不明なモノや不確かなモノには排他的なくせに、自らそれらを求めに行く。
その姿勢を理解できる人がいたら誰か教えてほしい。
「言いたい事はわかります。しかし自分達にないモノを求める探求心は、人間に共通する事だと思いますよ」
「確かに鬼にも亡者にも通じますが、それだったらバンジージャンプでもいいと思うんです。手頃な恐怖ですよ」
「それはまた違った種類の恐怖でしょう。バンジージャンプは避けられない事態に対する恐怖。幽霊や妖怪との遭遇は未知に対する恐怖だと思います」
確かに、それは違うかもしれない。
平安時代の例で考えるならば、百鬼夜行との遭遇と闇討ちはまた別次元ということなのだろう。
どちらも怖いことに変わりはないが。
本読みながら話を聞いていた閻魔が、鬼灯の言葉に何度か頷いた。
「凜ちゃんも見てるだろうけど、亡者が初めて鬼を見た恐怖と拷問を受ける恐怖は違うように思わない?」
「鬼灯さんに限っては同列だと思います」
「どういう意味か小一時間ほど問いただしても?」
「鬼灯さんとの遭遇は、避けられない恐怖も含んでいるように感じるという事です!!」
眉間に皺を寄せた鬼灯が険のある口調で言うと、凜は怯えきった様子で身をすくませる。
(うわぁぁぁぁ!?何言っちゃってんの、あたしっ!?いや、確かに鬼灯さん、そこにいるだけで怖いしスパルタだし女子供関係なしに容赦ないと思ってたけど!実際に口にしちゃダメでしょ!?しかも本人がいる前で!)
存在=恐怖みたいな感じだろうか。
目つきだけで射殺できそうだし、身長が高くて威圧感があるし。
何より手にしている金棒が目に入っただけで逃げ出したくもなるだろう。
「貴方という人は…自分から墓穴を掘ってどうするんですか」
呆れたような冷めた目で第二補佐官を見る鬼灯。
うっかりミスをしてしまった少女をさすがにかわいそうだと思ったのか、閻魔は助け舟を出すことにした。
「ところで凜ちゃん、どうしてそんな話を?」
柔らかい笑みをつくって話題を変える。
必死に鬼神の追及から逃れようとする少女に話しかけた。
「閻魔様が読んでいる本が気になったからですっ」
閻魔の手にある『マンガで読む四谷怪談』の本。
それを見て百物語(つまり怪談)のことが思い浮かんだのだ。
「ねェ鬼灯君。百物語って知ってるかい?」
「現世の人間がロウソク百本並べて百の怪談を語るアレですか?存じていますが…」
「やります?百物語。略式なら方法知っていますよ」
「いや、別にやりたくてネタ仕込みに読んでる訳じゃ……」
それが本当に正しい手法かどうかは怪しいが、それ以前に死後であるあたしがやってどうするという感はある。
それに変なものが寄ってきたところで、死んだ今となっては関係ない。
「アレ、面白いよねェ。みんな怖いのにやるんだね」
「手頃なスリルなんでしょう。それが何か?」
「いや、人って不思議だよね。怖い目には遭いたくないのに怖いものに惹かれるんだよね」
「ですよね。『怖いもの見たさ』って言う言葉があるくらいですし」
そんなふうに凜と閻魔が同じ亡者同士で他愛ない会話をしていると――。
「え。ああ、もしかして閻魔大王もスリルを欲して?わかりました。今すぐチェーンソーを持って参ります」
閃いた!というような顔で鬼灯が発言をした。
「違うよ!!何さらっと言ってんの!?」
いきなり恐ろしい発言をし出した鬼灯に、閻魔は慌てて言い直す。
「ワシが言いたいのはいつの時代も怪談が流行 るなあってこと!!」
「ああ、そういうことですか。怖い目に遭いたいのかと思いました」
「さては正にリアル鬼ごっこする気だったな!?」
「個人的にはジェイソンかひぐらしを想像してしまいました」
「そんなスプラッター映像を再現しなくていいよ!!」
まだシザーマンじゃないだけいいだろうに。
それに大王が恐怖を所望するなら、深夜に自分が部屋へ忍び込んでベッドの脇から這い上がった方が効果的だ。
そしてできるなら、そのままお腹の上でトトロごっこをしてみたい。
「ワシもず~っと前は人間だったけどさ。その頃も怖い話ってあったよ」
※閻魔…最初の死者とされている。
「でも閻魔様は最初の死者なのでしょう?でしたら人間の幽霊は存在しないのでは?」
「先住民っていうのも変だけど、原人の幽霊とかはいたんだ。もちろん動物霊もね。あと怪談じゃないけど、神や精霊の目撃談もあったよ」
なるほど、別の生物の幽霊ということか。
それらが洞窟の暗がりに出たら、確かに怖いかもしれない。
それに神や精霊は、それこそ人間が生まれるより遥か前から存在しているのだ。
「現代でも稲川淳二氏は夏の風物詩ですね」
夏季のテレビ番組によく登場し、
「こわいな~、いやだな~」
擬音を多用した舌足らずの江戸っ子口調の怪談は、もはや日本人なら知らぬものはいないほど。
その独特の語り口は『稲川節』と呼ばれる。
「君、鬼なのにそういうの見るの!?」
オカルトや歓談話などを鼻で笑いそうな鬼神の意外な告白に閻魔は仰天、凜も驚いた顔をした。
「好きですよ、語り口とか。まあ肝は一ミリも冷えないのが残念ですが…」
「そりゃそうだろうね…」
「鬼灯さんの肝が冷える怪談って、想像も創造もできないんですけど」
「大体後輩が酒の席で話す武勇伝とカブッているのでオチがわかってしまいますから」
「みんな現世で何してるの!?」
(――「でオレ、化けてやったんスよ」――)
――テレビに映った稲川氏の怪談話を聞いてみると、
「アレ、この話…」
――以前、別の番組で披露した同じ話だということに気づく。
「というか君、飲み会とか参加してるの!?そういう付き合いはしない主義だと思ってたよ!誘っても全然来ないんだもん」
どこか神経質そうでとっつきにくそうな印象の鬼灯が、皆が騒ぐ飲み会に参加する。
そんな事実を告げられて驚きを隠せない閻魔だったが、凜は眉を寄せた。
(飲み会かぁ…やっぱり社会人となると、参加しなくちゃいけないのかな)
人付き合いが苦手な上に酒を酌み交わすなんて、想像するだけで憂鬱な気分になる。
それまで未成年だった自分が酒を飲むなんて信じられない。
そう思っていると、鬼灯は続けてさらりと告げた。
「閻魔大王の誘いは断っています」
「何で!?ワシの何が嫌なの!?」
「特に何が嫌という訳でもないのですが……お孫様の話を延々、何時間も聞かされるのが辟易するというか、飽きるというか……」
「結構具体的に嫌なんじゃないか!!」
完全なる爺馬鹿だ。
孫を可愛がりすぎるあまりノロケを振りまくのは、凜もやめてほしいと思っている。
(可愛い、確かに可愛いですよ。でも五回目くらいからキツイんですよ)
気持ちはわかる。
可愛い動物については語り倒したい。
だが話すのは一回こっきりだ。
「というかワシ、そんなに孫の話してる?」
5~6歳くらいの男の子――閻魔が溺愛する孫はひょっこりと閻魔殿に顔を出しては、
「じっちゃーーん、あそぼーー」
可愛らしい笑顔で一緒に遊ばないかと誘う。
「してますね。気持ちはわかりますが、5回目からキツイです」
「悪い悪い、もうしないよ」
眉を寄せる部下の主張に、
「いやー、ついね、ははは」
今度から気をつけると閻魔は笑って謝る。
「孫溺愛中の人の『もうしません』は信用できません」
「『絶対怒らないから言ってごらん』や『一生のお願い』と同じくらい信じられませんね」
しかし、鬼灯は冷淡に斬り捨てる。
しかも、今までずっと苦笑してきた凜までつっこんできた、肩をすくめるおまけつきで。
「やけにグサッと来るチョイスの言葉な上に、それらと同列!?」
「この間も貴方、孫かわいさに……」
――ある亡者の裁判の最中、いきなり閻魔の孫が割って入ってきた。
「おまえ、じごくだっ」
「ええ~~。坊がそういうなら地獄逝きにしちゃおうかしらっ!」
――公平な判決をするべきにもかかわらず閻魔は孫可愛さに、亡者の判決を変更しようとする。
「ショッピング感覚で俺の今後を左右するなーッ!!!」
――この後、凜が少年の遊び相手となることでことなきを終え、亡者は天国行きとなった。
「仕事場へ引き込むのはやめてください」
眉間の皺を崩さず、
「お孫様に罪はありませんが」
鬼灯は続ける。
閻魔が呼んでいる『マンガで読む四谷怪談』の本をちらりと見た凜は、ふと考える。
最近の現世では、百物語のような手頃なスリルを求める人が多いようだ。
わざわざ自ら恐怖を体験したいという感覚が自分にはわからない。
平安時代など、夜道を歩けば百鬼夜行に出くわしそうなくらい恐怖が身近にあった。
実際にそれを理由にして物忌み(という建て前のサボり)をする人もいたが。
体験しにいかなくとも、イギリスのように「貴方の隣人は幽霊です」と言われても納得する世界だったのだ。
不夜城と呼ばれるほどにまで発展した今の東京を見ると、人間がいかに暗闇を避けたいのかという心理的な部分が垣間見える。
明るさだけなら、単なる安全面を重視しただけかもしれない。
犯罪の種類は変わっても、いつの時代も物騒なことに変わりはないのだから。
しかし人口が増えたとはいえ、狭い領土の隙間を埋めるかのように建物を造り続ける様子には違和感を覚える。
まるで不確かな空き地を「人間のものだ」と主張しているかのようだ。
そのせいで端に追いやられた妖怪が、あの世に逃げてきているのも事実なのだが。
そうやって正体不明なモノや不確かなモノには排他的なくせに、自らそれらを求めに行く。
その姿勢を理解できる人がいたら誰か教えてほしい。
「言いたい事はわかります。しかし自分達にないモノを求める探求心は、人間に共通する事だと思いますよ」
「確かに鬼にも亡者にも通じますが、それだったらバンジージャンプでもいいと思うんです。手頃な恐怖ですよ」
「それはまた違った種類の恐怖でしょう。バンジージャンプは避けられない事態に対する恐怖。幽霊や妖怪との遭遇は未知に対する恐怖だと思います」
確かに、それは違うかもしれない。
平安時代の例で考えるならば、百鬼夜行との遭遇と闇討ちはまた別次元ということなのだろう。
どちらも怖いことに変わりはないが。
本読みながら話を聞いていた閻魔が、鬼灯の言葉に何度か頷いた。
「凜ちゃんも見てるだろうけど、亡者が初めて鬼を見た恐怖と拷問を受ける恐怖は違うように思わない?」
「鬼灯さんに限っては同列だと思います」
「どういう意味か小一時間ほど問いただしても?」
「鬼灯さんとの遭遇は、避けられない恐怖も含んでいるように感じるという事です!!」
眉間に皺を寄せた鬼灯が険のある口調で言うと、凜は怯えきった様子で身をすくませる。
(うわぁぁぁぁ!?何言っちゃってんの、あたしっ!?いや、確かに鬼灯さん、そこにいるだけで怖いしスパルタだし女子供関係なしに容赦ないと思ってたけど!実際に口にしちゃダメでしょ!?しかも本人がいる前で!)
存在=恐怖みたいな感じだろうか。
目つきだけで射殺できそうだし、身長が高くて威圧感があるし。
何より手にしている金棒が目に入っただけで逃げ出したくもなるだろう。
「貴方という人は…自分から墓穴を掘ってどうするんですか」
呆れたような冷めた目で第二補佐官を見る鬼灯。
うっかりミスをしてしまった少女をさすがにかわいそうだと思ったのか、閻魔は助け舟を出すことにした。
「ところで凜ちゃん、どうしてそんな話を?」
柔らかい笑みをつくって話題を変える。
必死に鬼神の追及から逃れようとする少女に話しかけた。
「閻魔様が読んでいる本が気になったからですっ」
閻魔の手にある『マンガで読む四谷怪談』の本。
それを見て百物語(つまり怪談)のことが思い浮かんだのだ。
「ねェ鬼灯君。百物語って知ってるかい?」
「現世の人間がロウソク百本並べて百の怪談を語るアレですか?存じていますが…」
「やります?百物語。略式なら方法知っていますよ」
「いや、別にやりたくてネタ仕込みに読んでる訳じゃ……」
それが本当に正しい手法かどうかは怪しいが、それ以前に死後であるあたしがやってどうするという感はある。
それに変なものが寄ってきたところで、死んだ今となっては関係ない。
「アレ、面白いよねェ。みんな怖いのにやるんだね」
「手頃なスリルなんでしょう。それが何か?」
「いや、人って不思議だよね。怖い目には遭いたくないのに怖いものに惹かれるんだよね」
「ですよね。『怖いもの見たさ』って言う言葉があるくらいですし」
そんなふうに凜と閻魔が同じ亡者同士で他愛ない会話をしていると――。
「え。ああ、もしかして閻魔大王もスリルを欲して?わかりました。今すぐチェーンソーを持って参ります」
閃いた!というような顔で鬼灯が発言をした。
「違うよ!!何さらっと言ってんの!?」
いきなり恐ろしい発言をし出した鬼灯に、閻魔は慌てて言い直す。
「ワシが言いたいのはいつの時代も怪談が
「ああ、そういうことですか。怖い目に遭いたいのかと思いました」
「さては正にリアル鬼ごっこする気だったな!?」
「個人的にはジェイソンかひぐらしを想像してしまいました」
「そんなスプラッター映像を再現しなくていいよ!!」
まだシザーマンじゃないだけいいだろうに。
それに大王が恐怖を所望するなら、深夜に自分が部屋へ忍び込んでベッドの脇から這い上がった方が効果的だ。
そしてできるなら、そのままお腹の上でトトロごっこをしてみたい。
「ワシもず~っと前は人間だったけどさ。その頃も怖い話ってあったよ」
※閻魔…最初の死者とされている。
「でも閻魔様は最初の死者なのでしょう?でしたら人間の幽霊は存在しないのでは?」
「先住民っていうのも変だけど、原人の幽霊とかはいたんだ。もちろん動物霊もね。あと怪談じゃないけど、神や精霊の目撃談もあったよ」
なるほど、別の生物の幽霊ということか。
それらが洞窟の暗がりに出たら、確かに怖いかもしれない。
それに神や精霊は、それこそ人間が生まれるより遥か前から存在しているのだ。
「現代でも稲川淳二氏は夏の風物詩ですね」
夏季のテレビ番組によく登場し、
「こわいな~、いやだな~」
擬音を多用した舌足らずの江戸っ子口調の怪談は、もはや日本人なら知らぬものはいないほど。
その独特の語り口は『稲川節』と呼ばれる。
「君、鬼なのにそういうの見るの!?」
オカルトや歓談話などを鼻で笑いそうな鬼神の意外な告白に閻魔は仰天、凜も驚いた顔をした。
「好きですよ、語り口とか。まあ肝は一ミリも冷えないのが残念ですが…」
「そりゃそうだろうね…」
「鬼灯さんの肝が冷える怪談って、想像も創造もできないんですけど」
「大体後輩が酒の席で話す武勇伝とカブッているのでオチがわかってしまいますから」
「みんな現世で何してるの!?」
(――「でオレ、化けてやったんスよ」――)
――テレビに映った稲川氏の怪談話を聞いてみると、
「アレ、この話…」
――以前、別の番組で披露した同じ話だということに気づく。
「というか君、飲み会とか参加してるの!?そういう付き合いはしない主義だと思ってたよ!誘っても全然来ないんだもん」
どこか神経質そうでとっつきにくそうな印象の鬼灯が、皆が騒ぐ飲み会に参加する。
そんな事実を告げられて驚きを隠せない閻魔だったが、凜は眉を寄せた。
(飲み会かぁ…やっぱり社会人となると、参加しなくちゃいけないのかな)
人付き合いが苦手な上に酒を酌み交わすなんて、想像するだけで憂鬱な気分になる。
それまで未成年だった自分が酒を飲むなんて信じられない。
そう思っていると、鬼灯は続けてさらりと告げた。
「閻魔大王の誘いは断っています」
「何で!?ワシの何が嫌なの!?」
「特に何が嫌という訳でもないのですが……お孫様の話を延々、何時間も聞かされるのが辟易するというか、飽きるというか……」
「結構具体的に嫌なんじゃないか!!」
完全なる爺馬鹿だ。
孫を可愛がりすぎるあまりノロケを振りまくのは、凜もやめてほしいと思っている。
(可愛い、確かに可愛いですよ。でも五回目くらいからキツイんですよ)
気持ちはわかる。
可愛い動物については語り倒したい。
だが話すのは一回こっきりだ。
「というかワシ、そんなに孫の話してる?」
5~6歳くらいの男の子――閻魔が溺愛する孫はひょっこりと閻魔殿に顔を出しては、
「じっちゃーーん、あそぼーー」
可愛らしい笑顔で一緒に遊ばないかと誘う。
「してますね。気持ちはわかりますが、5回目からキツイです」
「悪い悪い、もうしないよ」
眉を寄せる部下の主張に、
「いやー、ついね、ははは」
今度から気をつけると閻魔は笑って謝る。
「孫溺愛中の人の『もうしません』は信用できません」
「『絶対怒らないから言ってごらん』や『一生のお願い』と同じくらい信じられませんね」
しかし、鬼灯は冷淡に斬り捨てる。
しかも、今までずっと苦笑してきた凜までつっこんできた、肩をすくめるおまけつきで。
「やけにグサッと来るチョイスの言葉な上に、それらと同列!?」
「この間も貴方、孫かわいさに……」
――ある亡者の裁判の最中、いきなり閻魔の孫が割って入ってきた。
「おまえ、じごくだっ」
「ええ~~。坊がそういうなら地獄逝きにしちゃおうかしらっ!」
――公平な判決をするべきにもかかわらず閻魔は孫可愛さに、亡者の判決を変更しようとする。
「ショッピング感覚で俺の今後を左右するなーッ!!!」
――この後、凜が少年の遊び相手となることでことなきを終え、亡者は天国行きとなった。
「仕事場へ引き込むのはやめてください」
眉間の皺を崩さず、
「お孫様に罪はありませんが」
鬼灯は続ける。