第6話
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今日も今日とて凜は地獄で働いていた。
三途の川にいる奪衣婆 が話があるとかで、
「まずは凜さん一人で交渉してきてください。もしもお手上げだったら、私を呼んでください」
と鬼灯の指示で凜が出向くこととなった。
「奪衣婆さん、こんにちは」
「おや、あんたは噂の第二補佐官かい」
「……ずいぶん知れ渡ってるんですね」
「当たり前だろ。地獄で補佐官をしてる人間なんざ、あんたしか当てはまらないさ……で、何の用だい?」
「あ、ご相談があるとのことでしたから伺いました」
この人に呼ばれたということは、おそらく話は一つ。
賃金の値上げだろう。
前々からその話は持ち出されてはいたのだが、今回は直談判らしい。
しかし、こちらも負けるわけにはいかない。
気合いを入れて、凜は形のいい眉をつり上げた。
――結果から言います。
――あたしみたいな新参者が古株の老婆に勝てるはずがなかった。
膝をついてがっくりとうなだれると、サラサラと結んだ髪が流れて彼女の表情を覆い隠す。
(こうなると、もう最終兵器を召還するしかない)
「すいません、ちょっと待っててくださいね。上を呼んできますから」
ドヤ顔をする老婆に一声かけ、凜は近くにいるであろう第一補佐官の元へと走り出した。
(あたしを言い負かしたと思ってるでしょうけど、こちらにだって最終兵器があるんですよ!)
いつも眉間に皺を寄せて仏頂面だが、なかなかの秀麗な容貌で頭が切れる。
閻魔大王の第一補佐官·鬼灯だ。
「鬼灯さーん!」
「凜さん、どうでしたか?」
それが凜の上司である鬼灯の肩書き。
簡単に言うと、地獄で二番目に偉い鬼。
そして凜の仕事は鬼灯の補佐をすること。
傍で仕事をしていると、鬼灯がどれだけ優秀な方なのかはすぐわかる。
「すいません、やっぱりあたしじゃ手に負えません。強すぎます」
「やれやれ…まだ15分しか経っていませんよ」
早くも降参したことを指摘する鬼灯に、
「あ…あたしだって頑張りましたよ。でも…あたしみたいな新参者が古株の老婆に勝てるはずないです。だからこうして、鬼灯さん呼んだじゃありませんか」
凜は怒ったことを示すため、頬を膨らませた。
「――女性の脚は隠さずに思い切って出した方が綺麗になるらしいですよ」
「唐突にどうしたんですか?」
「凜さんの引き締まった足が映えるので、スカートにして正確でした」
「職権乱用しやがった!」
「着物は動きにくいと思って現代風にアレンジしたものを支給したじゃないですか」
「だから上は着物で下はスカートなんですね!っていうか、丈が短すぎ!!」
短いスカートを掌で押さえ、凜は真っ赤な顔で抗議する。
「そうですね。凜さんは背が高いからせっかくいい脚をしているのに、隠しているのは勿体ないですからね」
「――あんたの仕業か…!っていうか、あたしの脚なんて見てどうするんですか…」
「興奮します」
「最低だ!この上司、最低だ!」
そんな不毛なやり取りをしている暇などないと、鬼灯の手を掴んで奪衣婆の元へと戻る。
彼がいれば、この交渉は上手くいったも同然だ。
変態なところがなければ素晴らしい上司なのに。
「おに~のパ~ンツ~は、い~いぱ~んつ~~」
二人の耳に、どこからか歌が聞こえてきた。
「「……」」
一旦足を止め、視線を向ける。
三途の川の掃除をしている、白いふわふわの髪に垂れ目と麻呂眉毛の茄子が歌っていた。
「なあ、唐瓜」
「ん」
二人の視線に気づかない茄子は、隣で同じように掃除する唐瓜に声をかけた。
「モラルって大事だなあ」
いささか唐突な質問にも答え、その意味に戸惑う。
「モラル…………うん、そうだよ、大事だよ。え、何?」
「何ってパンツのことだよ。パンツをはくことはモラルの基本だろ?」
――「地獄のチップとデール」こと唐瓜と茄子。
「だから俺はパンツをモラルと呼んでいる。ノーパン主義の人もいるけど…」
鬼灯を奪衣婆と会わせ、凜は内心、実際見た通りの年齢じゃないんだよなぁ……と考える。
「お前の話っていっつもよく見えねぇなあ。お前にとっての常識はみんなの常識じゃ…」
茄子は注意する唐瓜に対し、
「あっカニ」
意識を平然と逸らす。
相変わらず、表情は緩んでいるというかのんびりなんだか判別しがたい。
「オイ聞けよっ。茄子っ、そうやってすぐ気移りする癖、なんとかしろっ。そんなだからサダコ逃したりするんだよ」
「あっ、ゴメン」
「で、パンツが何だって?」
「え?ああイヤ別に、ふとパンツって大事だなって改めて思って……」
「思ったこと何でも口に出すなっ、混乱するから」
などと言っている間にも、茄子は話題を変えてくる。
「あ、なーなー。鬼のパンツっていえばさァ、お前パンツ従来 派?先端 派?」
「俺は綿100%。敏感肌なんだ」
「へえー。どこのヤツ?ピーチ・ジョン?チュチュアンナ?」
やけに女性向け下着ブランドに詳しい親友に唐瓜は怪訝な顔をする。
「いや……普通のだけど…何でお前は現世の女性用下着ブランドに詳しい訳?」
奪衣婆との交渉を終え、報告書をまとめる彼女の耳に顔を寄せ、鬼灯は囁いた。
「凜さん、彼らの話を聞いてふと思いましたが……今日のパンツは何色ですか?」
質問 には無言の腹パンで返し、直撃した鬼灯はその場にうずくまって痛みに悶える結果になった。
「だってこの前、雑誌で特集してて……」
「健全な紳士読者にはわかんねーだろ。わかんねーはずだ」
「唐瓜は何で知ってんだよ」
「姉ちゃんが愛用してて、実家帰るとよく届いてんだよ」
――久しぶりに実家に帰った唐瓜が見たのは、
「オメー、通販しすぎなんだよ」
「うっさい、愚弟」
――通販によって届けられた大量の段ボール箱と寝っ転がる姉の姿。
「………」
箒を振り回しながら歌を続行する茄子に、火鉢でゴミを拾う唐瓜は思い切って訊ねてみた。
「…ところでさァ、その歌ってなんだろうな?趣旨がよくわかんねーよな」
「え?鬼のパンツ制作会社の販売ソングじゃねえの?」
「違いますよ」
「あっ」
聞かれた本人でさえも首を傾げる質問に答えたのは、先程腹パンされた鬼灯と殴った凜がやって来た。
「…さっきから内容が気になって聞いてしまいましたが……おしゃべりしないで仕事してください」
「ごめんなさい。それで、鬼灯様は何でお腹押さえて、凜さんは顔真っ赤なの?」
凜が、ギラリと刺すような視線を鬼灯に向けた。
「それは聞かない方が身のためですよ」
眉間に皺を寄せた鬼灯の説明に凜が、
「そうそう」
と頷く。
「?……はい」
何か言いたそうだったが、素直に従った。
「…『違う』って……?」
「…ああ、その歌はですね、元々南イタリアのカンツォーネで、日本語詞は後づけなのです」
誰もがわからない豆知識をあっさりと言う。
「『フニクリ・フニクラ』」
途端、二人は納得の面持ちで理解した。
「「あーー、知ってる!」」
「それです、『フニクリフニクラ』は掛け声です。登山鉄道のアピールソングだったらしいですよ」
イタリアの登山電車「フニコラーレ」の集客のために作曲され、祭りで始めて発表された時に広く人気を集めるようになったのだ。
(この人、何でもよく知ってるなあ)
鬼神の見事な博識ぶりに目を見開く。
「なーんだ。地獄のオリジナルじゃなかったのか」
「鬼灯様は何でもよく知ってんなあ。有能な鬼灯様の下で働けるなんて、凜さんは凄いなあ」
その無垢な瞳が、凜の心をチクチクと刺激する。
「そんなに凄いもんじゃないよ……うん、マジで、だからそんな目で見ないでまぶしい」
(そりゃもうスパルタ教育でセクハラ上司だもん)
その意味ではなく冷や汗を浮かべる様子に、二人は疑問符を浮かべた。
「いいから、この先賽 の河原までしっかり大掃除してください」
賽の河原とは、引き寄せられるようにいじめっ子の亡者が幽閉され、49段の石を積み上げなければならない。
見れば、あちこちに六銭文やゴミが散らかっている。
「しっかし、汚ねーなァ」
「六文銭が散らばってますね」
「全く最近の亡者は……」
唐瓜が菓子袋を手に取って呆れる横で、茄子がカニと格闘する大蛇を発見した。
「あっ蛇だ、アレ三途之川の主だよなっ!?すげー!」
「えっ!そうなの!?」
「はいはい」
「貴方まで参加しないでください」
唐瓜は軽くあしらい、鬼灯は凜をたしなめる。
「時計がスゲー落ちてんだよな」
「遺品でよく一緒に納骨しますからね」
「あと眼鏡な」
鬼灯と唐瓜が真面目に、次々と見つかる亡者の遺品を片づける横で、
「「あっ、カニ食われたっ!!」」
大蛇に夢中の凜と茄子の目に緊迫の光景が広がっていた。
「あっ…ヅラだっ…」
生前、ハゲが悩みで死ぬまで隠し通していた亡者の心情が窺える。
「あんなでかいの食えるのかなァ…凜さんはどう思います?」
「蛇は基本、何でも丸呑みする動物だからね……」
動物対決に熱中する二人の視線の先で、蛇が大きな口を開けてカニの丸呑みに苦戦していた。
場所は移って閻魔殿。
今日も今日とて閻魔は亡者を裁いていた。
「ワシが貴殿に下す判決は……衆合地獄!下着ドロ等 、低俗の極み!よって『99年はき古された鬼のパンツまみれの刑』に処す!次の審査へ回せっ」
キリリと引き締めた顔で、びし、と笏 を突きつける。
「ハイッ」
地味な嫌がらせとしか思えない刑に判決された亡者は獄卒に腕を掴まれ、
「ヒイイイイ」
と引きずられていった。
「慈悲を…慈悲をォォォォ!!」
「慈悲はない!!」
絶望に打ちひしがれて泣き喚く亡者の腕を掴む鬼は頬を染めて指差し、
「ちなみに…俺のパンツなんだ…」
「へえ~~」
もう一人の鬼は適当に相槌を打つ。
「全くどいつもこいつも、下着ドロだの何だの…なげかわしい。つーか中身に興味持てよ」
「閻魔大王」
亡者とすれ違うようにして裁判所へ入ってきた鬼灯と凜に、閻魔が声をかけた。
「おお、鬼灯君、凜ちゃん。君にもらったオーストラリア土産、ちゃんと飾ったよ」
閻魔が指差す方を見ると、柱にカラフルで不気味な面が飾ってあった。
「うっわ!これ、あたしも貰ったヤツだ!閻魔様も貰ったんだ…」
「ああ。魔除けだそうです、綺麗でしょう」
(怖ぇよ!ていうか閻魔様"魔"除ける必要ある?)
魔除けへの効果があるものをお土産にしたのも、閻魔への皮肉を込めてのことだろう。
「うん。ワシ、魔除ける必要ないけどね」
「「掃除、終わりました」」
「お疲れ様」
唐瓜と茄子が河原の掃除の終わりを報告すると、笑顔でねぎらいの言葉をかける。
「三途之川は特に問題ありません」
「凜さん今日、奪衣婆と交渉してましたよね。大丈夫でした?」
「うん、まあ…途中でギブアップしたけどね。『賃金上げろ』ってキレてた」
「えーー」
早々にギプアップした凜が疲れたように言うと、閻魔も顔を青ざめる。
※奪衣婆…三途之川のほとりで亡者の服をはぎとるのが仕事の怖い婆さん。
「あのオババ、わがままなんだよなー」
「亡者からも通行料とって給料値上げなんて、贅沢すぎやしません?」
凜が困ったように言うと、唐瓜や茄子も相槌を打つ。
「でも相手の男によって、態度違 -よな」
「うん」
三途の川にいる
「まずは凜さん一人で交渉してきてください。もしもお手上げだったら、私を呼んでください」
と鬼灯の指示で凜が出向くこととなった。
「奪衣婆さん、こんにちは」
「おや、あんたは噂の第二補佐官かい」
「……ずいぶん知れ渡ってるんですね」
「当たり前だろ。地獄で補佐官をしてる人間なんざ、あんたしか当てはまらないさ……で、何の用だい?」
「あ、ご相談があるとのことでしたから伺いました」
この人に呼ばれたということは、おそらく話は一つ。
賃金の値上げだろう。
前々からその話は持ち出されてはいたのだが、今回は直談判らしい。
しかし、こちらも負けるわけにはいかない。
気合いを入れて、凜は形のいい眉をつり上げた。
――結果から言います。
――あたしみたいな新参者が古株の老婆に勝てるはずがなかった。
膝をついてがっくりとうなだれると、サラサラと結んだ髪が流れて彼女の表情を覆い隠す。
(こうなると、もう最終兵器を召還するしかない)
「すいません、ちょっと待っててくださいね。上を呼んできますから」
ドヤ顔をする老婆に一声かけ、凜は近くにいるであろう第一補佐官の元へと走り出した。
(あたしを言い負かしたと思ってるでしょうけど、こちらにだって最終兵器があるんですよ!)
いつも眉間に皺を寄せて仏頂面だが、なかなかの秀麗な容貌で頭が切れる。
閻魔大王の第一補佐官·鬼灯だ。
「鬼灯さーん!」
「凜さん、どうでしたか?」
それが凜の上司である鬼灯の肩書き。
簡単に言うと、地獄で二番目に偉い鬼。
そして凜の仕事は鬼灯の補佐をすること。
傍で仕事をしていると、鬼灯がどれだけ優秀な方なのかはすぐわかる。
「すいません、やっぱりあたしじゃ手に負えません。強すぎます」
「やれやれ…まだ15分しか経っていませんよ」
早くも降参したことを指摘する鬼灯に、
「あ…あたしだって頑張りましたよ。でも…あたしみたいな新参者が古株の老婆に勝てるはずないです。だからこうして、鬼灯さん呼んだじゃありませんか」
凜は怒ったことを示すため、頬を膨らませた。
「――女性の脚は隠さずに思い切って出した方が綺麗になるらしいですよ」
「唐突にどうしたんですか?」
「凜さんの引き締まった足が映えるので、スカートにして正確でした」
「職権乱用しやがった!」
「着物は動きにくいと思って現代風にアレンジしたものを支給したじゃないですか」
「だから上は着物で下はスカートなんですね!っていうか、丈が短すぎ!!」
短いスカートを掌で押さえ、凜は真っ赤な顔で抗議する。
「そうですね。凜さんは背が高いからせっかくいい脚をしているのに、隠しているのは勿体ないですからね」
「――あんたの仕業か…!っていうか、あたしの脚なんて見てどうするんですか…」
「興奮します」
「最低だ!この上司、最低だ!」
そんな不毛なやり取りをしている暇などないと、鬼灯の手を掴んで奪衣婆の元へと戻る。
彼がいれば、この交渉は上手くいったも同然だ。
変態なところがなければ素晴らしい上司なのに。
「おに~のパ~ンツ~は、い~いぱ~んつ~~」
二人の耳に、どこからか歌が聞こえてきた。
「「……」」
一旦足を止め、視線を向ける。
三途の川の掃除をしている、白いふわふわの髪に垂れ目と麻呂眉毛の茄子が歌っていた。
「なあ、唐瓜」
「ん」
二人の視線に気づかない茄子は、隣で同じように掃除する唐瓜に声をかけた。
「モラルって大事だなあ」
いささか唐突な質問にも答え、その意味に戸惑う。
「モラル…………うん、そうだよ、大事だよ。え、何?」
「何ってパンツのことだよ。パンツをはくことはモラルの基本だろ?」
――「地獄のチップとデール」こと唐瓜と茄子。
「だから俺はパンツをモラルと呼んでいる。ノーパン主義の人もいるけど…」
鬼灯を奪衣婆と会わせ、凜は内心、実際見た通りの年齢じゃないんだよなぁ……と考える。
「お前の話っていっつもよく見えねぇなあ。お前にとっての常識はみんなの常識じゃ…」
茄子は注意する唐瓜に対し、
「あっカニ」
意識を平然と逸らす。
相変わらず、表情は緩んでいるというかのんびりなんだか判別しがたい。
「オイ聞けよっ。茄子っ、そうやってすぐ気移りする癖、なんとかしろっ。そんなだからサダコ逃したりするんだよ」
「あっ、ゴメン」
「で、パンツが何だって?」
「え?ああイヤ別に、ふとパンツって大事だなって改めて思って……」
「思ったこと何でも口に出すなっ、混乱するから」
などと言っている間にも、茄子は話題を変えてくる。
「あ、なーなー。鬼のパンツっていえばさァ、お前パンツ
「俺は綿100%。敏感肌なんだ」
「へえー。どこのヤツ?ピーチ・ジョン?チュチュアンナ?」
やけに女性向け下着ブランドに詳しい親友に唐瓜は怪訝な顔をする。
「いや……普通のだけど…何でお前は現世の女性用下着ブランドに詳しい訳?」
奪衣婆との交渉を終え、報告書をまとめる彼女の耳に顔を寄せ、鬼灯は囁いた。
「凜さん、彼らの話を聞いてふと思いましたが……今日のパンツは何色ですか?」
「だってこの前、雑誌で特集してて……」
「健全な紳士読者にはわかんねーだろ。わかんねーはずだ」
「唐瓜は何で知ってんだよ」
「姉ちゃんが愛用してて、実家帰るとよく届いてんだよ」
――久しぶりに実家に帰った唐瓜が見たのは、
「オメー、通販しすぎなんだよ」
「うっさい、愚弟」
――通販によって届けられた大量の段ボール箱と寝っ転がる姉の姿。
「………」
箒を振り回しながら歌を続行する茄子に、火鉢でゴミを拾う唐瓜は思い切って訊ねてみた。
「…ところでさァ、その歌ってなんだろうな?趣旨がよくわかんねーよな」
「え?鬼のパンツ制作会社の販売ソングじゃねえの?」
「違いますよ」
「あっ」
聞かれた本人でさえも首を傾げる質問に答えたのは、先程腹パンされた鬼灯と殴った凜がやって来た。
「…さっきから内容が気になって聞いてしまいましたが……おしゃべりしないで仕事してください」
「ごめんなさい。それで、鬼灯様は何でお腹押さえて、凜さんは顔真っ赤なの?」
凜が、ギラリと刺すような視線を鬼灯に向けた。
「それは聞かない方が身のためですよ」
眉間に皺を寄せた鬼灯の説明に凜が、
「そうそう」
と頷く。
「?……はい」
何か言いたそうだったが、素直に従った。
「…『違う』って……?」
「…ああ、その歌はですね、元々南イタリアのカンツォーネで、日本語詞は後づけなのです」
誰もがわからない豆知識をあっさりと言う。
「『フニクリ・フニクラ』」
途端、二人は納得の面持ちで理解した。
「「あーー、知ってる!」」
「それです、『フニクリフニクラ』は掛け声です。登山鉄道のアピールソングだったらしいですよ」
イタリアの登山電車「フニコラーレ」の集客のために作曲され、祭りで始めて発表された時に広く人気を集めるようになったのだ。
(この人、何でもよく知ってるなあ)
鬼神の見事な博識ぶりに目を見開く。
「なーんだ。地獄のオリジナルじゃなかったのか」
「鬼灯様は何でもよく知ってんなあ。有能な鬼灯様の下で働けるなんて、凜さんは凄いなあ」
その無垢な瞳が、凜の心をチクチクと刺激する。
「そんなに凄いもんじゃないよ……うん、マジで、だからそんな目で見ないでまぶしい」
(そりゃもうスパルタ教育でセクハラ上司だもん)
その意味ではなく冷や汗を浮かべる様子に、二人は疑問符を浮かべた。
「いいから、この先
賽の河原とは、引き寄せられるようにいじめっ子の亡者が幽閉され、49段の石を積み上げなければならない。
見れば、あちこちに六銭文やゴミが散らかっている。
「しっかし、汚ねーなァ」
「六文銭が散らばってますね」
「全く最近の亡者は……」
唐瓜が菓子袋を手に取って呆れる横で、茄子がカニと格闘する大蛇を発見した。
「あっ蛇だ、アレ三途之川の主だよなっ!?すげー!」
「えっ!そうなの!?」
「はいはい」
「貴方まで参加しないでください」
唐瓜は軽くあしらい、鬼灯は凜をたしなめる。
「時計がスゲー落ちてんだよな」
「遺品でよく一緒に納骨しますからね」
「あと眼鏡な」
鬼灯と唐瓜が真面目に、次々と見つかる亡者の遺品を片づける横で、
「「あっ、カニ食われたっ!!」」
大蛇に夢中の凜と茄子の目に緊迫の光景が広がっていた。
「あっ…ヅラだっ…」
生前、ハゲが悩みで死ぬまで隠し通していた亡者の心情が窺える。
「あんなでかいの食えるのかなァ…凜さんはどう思います?」
「蛇は基本、何でも丸呑みする動物だからね……」
動物対決に熱中する二人の視線の先で、蛇が大きな口を開けてカニの丸呑みに苦戦していた。
場所は移って閻魔殿。
今日も今日とて閻魔は亡者を裁いていた。
「ワシが貴殿に下す判決は……衆合地獄!下着ドロ
キリリと引き締めた顔で、びし、と
「ハイッ」
地味な嫌がらせとしか思えない刑に判決された亡者は獄卒に腕を掴まれ、
「ヒイイイイ」
と引きずられていった。
「慈悲を…慈悲をォォォォ!!」
「慈悲はない!!」
絶望に打ちひしがれて泣き喚く亡者の腕を掴む鬼は頬を染めて指差し、
「ちなみに…俺のパンツなんだ…」
「へえ~~」
もう一人の鬼は適当に相槌を打つ。
「全くどいつもこいつも、下着ドロだの何だの…なげかわしい。つーか中身に興味持てよ」
「閻魔大王」
亡者とすれ違うようにして裁判所へ入ってきた鬼灯と凜に、閻魔が声をかけた。
「おお、鬼灯君、凜ちゃん。君にもらったオーストラリア土産、ちゃんと飾ったよ」
閻魔が指差す方を見ると、柱にカラフルで不気味な面が飾ってあった。
「うっわ!これ、あたしも貰ったヤツだ!閻魔様も貰ったんだ…」
「ああ。魔除けだそうです、綺麗でしょう」
(怖ぇよ!ていうか閻魔様"魔"除ける必要ある?)
魔除けへの効果があるものをお土産にしたのも、閻魔への皮肉を込めてのことだろう。
「うん。ワシ、魔除ける必要ないけどね」
「「掃除、終わりました」」
「お疲れ様」
唐瓜と茄子が河原の掃除の終わりを報告すると、笑顔でねぎらいの言葉をかける。
「三途之川は特に問題ありません」
「凜さん今日、奪衣婆と交渉してましたよね。大丈夫でした?」
「うん、まあ…途中でギブアップしたけどね。『賃金上げろ』ってキレてた」
「えーー」
早々にギプアップした凜が疲れたように言うと、閻魔も顔を青ざめる。
※奪衣婆…三途之川のほとりで亡者の服をはぎとるのが仕事の怖い婆さん。
「あのオババ、わがままなんだよなー」
「亡者からも通行料とって給料値上げなんて、贅沢すぎやしません?」
凜が困ったように言うと、唐瓜や茄子も相槌を打つ。
「でも相手の男によって、態度
「うん」