第5話
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桃源郷の決裁書に判子を押して、桃太郎に渡す。
「ハイどうぞ。白澤さんにお渡しください」
「はい」
判子を頼まれた桃太郎は渡された書類を手に取ると、じっと鬼灯の顔を凝視する。
「………………」
「鬼灯さんの顔に、何かついてる?」
不意に、凜が発言した。
彼女専用のデスクで黙々と書類の選別作業をしていたところ、異変に気づいたのだ。
凜の問いかけに、桃太郎は淡々と言った。
「鬼灯さんって、やっぱり白澤様に似てますよね。目が切れ長で……」
――薬を買いにきた女性の職業に、白澤は驚きの声をあげた。
「へえ!天照大神 の侍女なんだ。凄いね、女の子の憧れじゃない。可愛いしね」
「ありがとうございます」
――すると、彼女の肩に手を置いてデートに誘う。
「この後、何か用事は?ちなみに僕は今晩、暇です」
「いや…あの、私、彼氏います……」
「えーそうなの?残念。別れたら教えてね」
――突然の誘いに戸惑う彼女は縁起の悪い言葉をかけられ、気分を落ち込ませる。
「別れません…」
「あっ、お香ちゃん、いらっしゃい」
――あっさりフラれても扉を開けてやって来た客……女性に目移りし、語尾にハートマークをつけて手を振る。
――その横では、口説かれた女性が所在なさ気に立っていた。
コロコロと口説く女性を変える自分の上司に肩をすくめて、桃太郎は話を終えた。
「…こういう歯が浮くようなこと、ペロッて言っちゃう人、いるんですねぇ」
グッ、と肌の色を失うほどに、鬼灯は手を強く握り込む。
反応できなかった。
まさに神速、振り下ろされた拳が、桃太郎の後ろ、ガッ、と柱に叩きつけられた。
叫ぶ間もなく、凜と桃太郎は驚愕に固まる。
「…申し訳ございません、気にしないでください」
叩きつけた自分の拳をそっと押さえて、先程の突発的行動を謝る。
(…あ、痛かったんだ……)
決して感情を顔に出さない鬼灯に冷や汗を流して、凜に聞いた。
「あの、朱井さん、お二人はもしかして、気が合う同士なんですか?」
「違うんじゃない?気は合わないけど、息が合う感じじゃない?」
凜は小さく嘆息してみせる。
「性格は全然違うのに、妙に似た部分があるような……」
「鬼灯さんも向こうも、体裁を取りつくろう方だから……どちらもきっと『自分だけは違う』と思ってるに違いないね」
「そうか。歪んだ鏡を見ている気がして、癇 にさわるだけだ」
「正反対の性格だけど、似ているところもあると自覚できるから、やけに反発してしまうというか。たぶん、録音した自分の声を聞く気分なんだろうね」
凜と桃太郎のひそひそ話が、真横から聞こえてくる。
好き放題言いやがって、と鬼灯はひそかに毒づき、眉をひそめる。
度胸があるのか凜の語り口は飄々としていて、まるで臆するところがない。
「一つどう?」
すると、凜が金貨の形をしたチョコレートを桃太郎に勧めてくる。
「あ、結構です」
仕事中なので遠慮したのだが、
「美味しいのに」
と凜が少し残念そうな顔でぱくりとチョコを食べるのを見て、悪いことをしたような気分になる桃太郎だった。
「私にもください」
「はいはい」
鬼灯の差し出す手に金貨チョコを置く。
「説明しよう!」
そこに、二人の仲の悪さについて事情を知る閻魔が現れた。
「え…閻魔大王様っ…こっ…こんにちはっ…」
「こんにちは。そうかしこまらなくていいよ。鬼灯君は白澤君に似てるって言われると怒るのだ」
「え…あ、ごめんなさい……」
「いえ、こちらこそ」
桃太郎が申し訳なさそうに見ていたので、鬼灯の方も突発的行動だったので謝る。
「他のどんな状況にも鋼の精神なのに、これは屈辱でならないらしいのだ。はっはっはーーー。だからワシはこのネタでたまーに反撃するのだー……」
閻魔が言い終わらない内に、鬼灯のいる方角から何かが発射された。
超高速で飛来したそれ――ボールペンは、閻魔の頬を掠めて大理石の柱に突き刺さった。
(…ボールペンが大理石へ刺さった……)
その脅威の投擲 に愕然とする桃太郎。
「閻魔様も食べますか?」
彼女の伸ばした手には一枚の金貨チョコがあった。
閻魔は疲れた顔で笑い、ありがとうと感謝の言葉をかけた。
視線を移すと、チョコを未だ口にしない鬼灯に疑問符を浮かべる
「――アレ?食べないんですか?」
鬼灯は少し口を開けたまま、こちらを見た。
新しく持ってきたペンは未だに忙しそうに動き回る。
(これはアレか、あ~んというやつか)
包装を剥がし、チョコを鬼神の口へと運ぶ。
「ん?」
鬼灯は眉間に皺を寄せ、口を閉じてしまった。
そのまま観察していたら、さすがに頭を叩かれた。
「口を閉じたら食べられないでしょ?」
「口移しでよこせと伝わらなかったんですか」
「伝わらないよ!」
鬼灯は仕方ないと言わんばかりに溜め息をつき、チョコをぱくりと食べた。
「……あの、もしかしてお二人って付き合ってるんですか?」
傍にいる桃太郎が頬を赤らめながら訊ねた。
人目を気にせず仲睦まじくするバカップル。
今の自分達はそうとしか形容できない状態なのだ。
しかし、二人の口から紡がれた言葉は否定の言葉だった。
「付き合ってませんよ」
「付き合ってないよ」
「えぇっ!?だって、あ~んとか恋人同士でしかできないことして……」
「今、必死に口説いているんですが、彼女には通用しませんね。苦戦しています」
「まあ、最初は悪い人ではないだろうと思ってたらドSだし、スパルタだし、セクハラしてくるし。今となってはもう慣れたし。あ、でも出会った当初からむっつりだってことは分かった」
「結構酷いよね、凜ちゃん……こう、心にズドンと来る一言というか………うん、もういいや」
さて、これ以上突っ込んでも凜の毒舌が冴えるだけだからよそう。
「なんで、そんなに…何かキッカケとか訳でも?」
「あ、あたしもそれ聞きたいです」
「うーん……あれはもう、千年くらい前だっけなあ……」
二人の仲の悪さを、閻魔は約千年前の競技大会を話に出した。
――時は遡り、千年前。
――傍目にも盛り上がる雰囲気で、会場には大勢の鬼や亡者が集まって満席だった。
「昔『和漢親善競技大会』……まぁオリンピックみたいな大会があってね。中国代表『乳白色組』、日本代表『赤黒色組』の……」
――その環視 を受ける興奮の中、狩衣 に身を包んだ鬼灯と漢服に身を包んだ白澤が屹立していた。
「あのスミマセン、なんで白組と黒組じゃないんですか……」
「二人は審判だったんだ」
桃太郎の素朴な疑問には答えずに、閻魔は続ける。
凜と桃太郎は目をまばたきさせた。
「あ、審判?」
「代表選手とかじゃなく?」
「うん。普通はそうキメたい所だけど、二人とも選手の域、越えててさぁ……白澤君って、あんなヘラヘラしてるけど、中国じゃ『妖怪の長』とまで言われてるからね」
中国神話の時代、三皇五帝に数えられる黄帝 が東巡したおりに出会ったと言われ、白澤は一万一千五百二十種に及ぶ天下の妖異鬼神について語り、世の害を除くため忠言したと伝えられる。
「吉北の神獣だから天国にいるけど…」
獅子に似た姿で、尖った角を伸ばして下顎に髭を蓄え、額にも瞳を持つ三ツ目、さらには左右の胴体に三つずつ目を描き入れており、併せて九つ目としてある。
「中国だと麒麟とか鳳凰と同じく、徳の高い為政者の治世に姿を現すとされてて、病魔よけになると信じられているだって」
さらりとうんちく話を告げられて、桃太郎は驚いた。
「ええ!?知らなかった……凜さん、何でも知ってるんですね……」
彼女の言い回しの微妙な含みに気づいた鬼灯は憮然な面持ちで言った。
「凜さんは博識ですからね。あれが長では世も末です」
「日本の現世じゃぬらりひょんが長とされてるけど、こっちもどうかと……」
技:勝手に家に入り、勝手にくつろいで、そして帰る。
実際に会ったら絶対に拍子抜けする妖怪ナンバーワンだ。
イメージが勝手に覆されること請け合いだろう。
でも、と凜は話を続ける。
「意外と侮れませんよ、あの特技。知らぬ間に家の中に入ってくるということは、気配を消してやりたい放題ですからね」
「それはつまり、気配を消した私が凜さんにやりたい放題……いいですね」
鬼灯の頭上辺りに、もわもわと若干はだけた着物姿で髪に細い指を絡めている凜の姿が浮かぶ。
というか鬼灯さん、考えてること丸見えですよ。
背後に想像を浮かべたまま拳を握って力説する一方、勝手に使われた凜は、
「嫌な例えですね」
とテンション低い顔。
「あ、でね、つまり不公平が無いように、お互いの国から審判を出した訳。競技は武道系と……あと知恵比べや妖怪による術対決」
話が反れたが、要するに不公平がないように互いの国から審判を出したのだ。
競技は武闘系と知識系。
他にも妖怪による術の対決もあった。
「へえ、楽しそう」
「二人には全競技の総合審判として出てもらったんだ。それまでに何回か会ったことはあったけど、長期で一緒に仕事するのはこれが初めてだったかな」
冷静に判決する審判の鬼灯と白澤が身に纏う、長い袖と裾が翻る衣装の趣は、天帝の宮殿もかくやと錯覚させてくれる。
「でもはっきり言ってあの大会、女子達は『鬼灯派VS.白澤派』でフィーバーしてた。選手そっちのけで」
「そうでしょうね。衣装キバリすぎでしょう…これじゃ、女性は二人を見ますよ……衣装マジックで何割以上も良く見えるし…」
一見、眉目秀麗で黙っていれば美貌の鬼神と神獣。
性格が控えめに言っても物凄く残念。
「うん…今思えば、そうかもね……日本の織物とかをアピールしたくて…そしたら中国もアピールしてきて…」
「イケメンの衣装マジックとか一部の方々は俺得でしょうけども、あたしは絶対に認めませんよ!」
凜の剣幕に対し、鬼灯は何かに気づいたようだ。
嫌な予感がした。
彼がこちらの意を正確にくみ取るとは思えない。
「人形のように着飾った私より、ありのままの私がいいと……?」
「そんなこと、一秒たりとも考えちゃいません」
そんな二人の様子を眺めていた閻魔は逸れた話を軌道修正すべく、競技の様子を語る。
「あ、でも、当時両国で大人気だった選手、諸葛孔明(234年没)VS.聖徳太子(622年没)による知恵比べは、みんな見入ってたよ。アレ、面白かったっな~~」
「「何それ、超見たい」」
興奮気味に頬を紅潮させる朱井と桃太郎。
「途中VIP席にいた策士・太公望が混ざっちゃってさ」
――観客席から中国で活躍した軍師が、
「わしもやるっ!もーじっとしてらんないっ」
――人込みを掻き分けるように興奮気味に前に出て、
「わらわも~」
――と弥生時代の女王も名乗り出る。
「それを見た邪馬台国の卑弥呼まで降りてちゃって。最後はドンチャン騒ぎだった。偉人達ってやっぱりどこかブッ飛んでるよね」
「それはともかくものすっごい写メ撮りたい、その様子」
「ハイどうぞ。白澤さんにお渡しください」
「はい」
判子を頼まれた桃太郎は渡された書類を手に取ると、じっと鬼灯の顔を凝視する。
「………………」
「鬼灯さんの顔に、何かついてる?」
不意に、凜が発言した。
彼女専用のデスクで黙々と書類の選別作業をしていたところ、異変に気づいたのだ。
凜の問いかけに、桃太郎は淡々と言った。
「鬼灯さんって、やっぱり白澤様に似てますよね。目が切れ長で……」
――薬を買いにきた女性の職業に、白澤は驚きの声をあげた。
「へえ!
「ありがとうございます」
――すると、彼女の肩に手を置いてデートに誘う。
「この後、何か用事は?ちなみに僕は今晩、暇です」
「いや…あの、私、彼氏います……」
「えーそうなの?残念。別れたら教えてね」
――突然の誘いに戸惑う彼女は縁起の悪い言葉をかけられ、気分を落ち込ませる。
「別れません…」
「あっ、お香ちゃん、いらっしゃい」
――あっさりフラれても扉を開けてやって来た客……女性に目移りし、語尾にハートマークをつけて手を振る。
――その横では、口説かれた女性が所在なさ気に立っていた。
コロコロと口説く女性を変える自分の上司に肩をすくめて、桃太郎は話を終えた。
「…こういう歯が浮くようなこと、ペロッて言っちゃう人、いるんですねぇ」
グッ、と肌の色を失うほどに、鬼灯は手を強く握り込む。
反応できなかった。
まさに神速、振り下ろされた拳が、桃太郎の後ろ、ガッ、と柱に叩きつけられた。
叫ぶ間もなく、凜と桃太郎は驚愕に固まる。
「…申し訳ございません、気にしないでください」
叩きつけた自分の拳をそっと押さえて、先程の突発的行動を謝る。
(…あ、痛かったんだ……)
決して感情を顔に出さない鬼灯に冷や汗を流して、凜に聞いた。
「あの、朱井さん、お二人はもしかして、気が合う同士なんですか?」
「違うんじゃない?気は合わないけど、息が合う感じじゃない?」
凜は小さく嘆息してみせる。
「性格は全然違うのに、妙に似た部分があるような……」
「鬼灯さんも向こうも、体裁を取りつくろう方だから……どちらもきっと『自分だけは違う』と思ってるに違いないね」
「そうか。歪んだ鏡を見ている気がして、
「正反対の性格だけど、似ているところもあると自覚できるから、やけに反発してしまうというか。たぶん、録音した自分の声を聞く気分なんだろうね」
凜と桃太郎のひそひそ話が、真横から聞こえてくる。
好き放題言いやがって、と鬼灯はひそかに毒づき、眉をひそめる。
度胸があるのか凜の語り口は飄々としていて、まるで臆するところがない。
「一つどう?」
すると、凜が金貨の形をしたチョコレートを桃太郎に勧めてくる。
「あ、結構です」
仕事中なので遠慮したのだが、
「美味しいのに」
と凜が少し残念そうな顔でぱくりとチョコを食べるのを見て、悪いことをしたような気分になる桃太郎だった。
「私にもください」
「はいはい」
鬼灯の差し出す手に金貨チョコを置く。
「説明しよう!」
そこに、二人の仲の悪さについて事情を知る閻魔が現れた。
「え…閻魔大王様っ…こっ…こんにちはっ…」
「こんにちは。そうかしこまらなくていいよ。鬼灯君は白澤君に似てるって言われると怒るのだ」
「え…あ、ごめんなさい……」
「いえ、こちらこそ」
桃太郎が申し訳なさそうに見ていたので、鬼灯の方も突発的行動だったので謝る。
「他のどんな状況にも鋼の精神なのに、これは屈辱でならないらしいのだ。はっはっはーーー。だからワシはこのネタでたまーに反撃するのだー……」
閻魔が言い終わらない内に、鬼灯のいる方角から何かが発射された。
超高速で飛来したそれ――ボールペンは、閻魔の頬を掠めて大理石の柱に突き刺さった。
(…ボールペンが大理石へ刺さった……)
その脅威の
「閻魔様も食べますか?」
彼女の伸ばした手には一枚の金貨チョコがあった。
閻魔は疲れた顔で笑い、ありがとうと感謝の言葉をかけた。
視線を移すと、チョコを未だ口にしない鬼灯に疑問符を浮かべる
「――アレ?食べないんですか?」
鬼灯は少し口を開けたまま、こちらを見た。
新しく持ってきたペンは未だに忙しそうに動き回る。
(これはアレか、あ~んというやつか)
包装を剥がし、チョコを鬼神の口へと運ぶ。
「ん?」
鬼灯は眉間に皺を寄せ、口を閉じてしまった。
そのまま観察していたら、さすがに頭を叩かれた。
「口を閉じたら食べられないでしょ?」
「口移しでよこせと伝わらなかったんですか」
「伝わらないよ!」
鬼灯は仕方ないと言わんばかりに溜め息をつき、チョコをぱくりと食べた。
「……あの、もしかしてお二人って付き合ってるんですか?」
傍にいる桃太郎が頬を赤らめながら訊ねた。
人目を気にせず仲睦まじくするバカップル。
今の自分達はそうとしか形容できない状態なのだ。
しかし、二人の口から紡がれた言葉は否定の言葉だった。
「付き合ってませんよ」
「付き合ってないよ」
「えぇっ!?だって、あ~んとか恋人同士でしかできないことして……」
「今、必死に口説いているんですが、彼女には通用しませんね。苦戦しています」
「まあ、最初は悪い人ではないだろうと思ってたらドSだし、スパルタだし、セクハラしてくるし。今となってはもう慣れたし。あ、でも出会った当初からむっつりだってことは分かった」
「結構酷いよね、凜ちゃん……こう、心にズドンと来る一言というか………うん、もういいや」
さて、これ以上突っ込んでも凜の毒舌が冴えるだけだからよそう。
「なんで、そんなに…何かキッカケとか訳でも?」
「あ、あたしもそれ聞きたいです」
「うーん……あれはもう、千年くらい前だっけなあ……」
二人の仲の悪さを、閻魔は約千年前の競技大会を話に出した。
――時は遡り、千年前。
――傍目にも盛り上がる雰囲気で、会場には大勢の鬼や亡者が集まって満席だった。
「昔『和漢親善競技大会』……まぁオリンピックみたいな大会があってね。中国代表『乳白色組』、日本代表『赤黒色組』の……」
――その
「あのスミマセン、なんで白組と黒組じゃないんですか……」
「二人は審判だったんだ」
桃太郎の素朴な疑問には答えずに、閻魔は続ける。
凜と桃太郎は目をまばたきさせた。
「あ、審判?」
「代表選手とかじゃなく?」
「うん。普通はそうキメたい所だけど、二人とも選手の域、越えててさぁ……白澤君って、あんなヘラヘラしてるけど、中国じゃ『妖怪の長』とまで言われてるからね」
中国神話の時代、三皇五帝に数えられる
「吉北の神獣だから天国にいるけど…」
獅子に似た姿で、尖った角を伸ばして下顎に髭を蓄え、額にも瞳を持つ三ツ目、さらには左右の胴体に三つずつ目を描き入れており、併せて九つ目としてある。
「中国だと麒麟とか鳳凰と同じく、徳の高い為政者の治世に姿を現すとされてて、病魔よけになると信じられているだって」
さらりとうんちく話を告げられて、桃太郎は驚いた。
「ええ!?知らなかった……凜さん、何でも知ってるんですね……」
彼女の言い回しの微妙な含みに気づいた鬼灯は憮然な面持ちで言った。
「凜さんは博識ですからね。あれが長では世も末です」
「日本の現世じゃぬらりひょんが長とされてるけど、こっちもどうかと……」
技:勝手に家に入り、勝手にくつろいで、そして帰る。
実際に会ったら絶対に拍子抜けする妖怪ナンバーワンだ。
イメージが勝手に覆されること請け合いだろう。
でも、と凜は話を続ける。
「意外と侮れませんよ、あの特技。知らぬ間に家の中に入ってくるということは、気配を消してやりたい放題ですからね」
「それはつまり、気配を消した私が凜さんにやりたい放題……いいですね」
鬼灯の頭上辺りに、もわもわと若干はだけた着物姿で髪に細い指を絡めている凜の姿が浮かぶ。
というか鬼灯さん、考えてること丸見えですよ。
背後に想像を浮かべたまま拳を握って力説する一方、勝手に使われた凜は、
「嫌な例えですね」
とテンション低い顔。
「あ、でね、つまり不公平が無いように、お互いの国から審判を出した訳。競技は武道系と……あと知恵比べや妖怪による術対決」
話が反れたが、要するに不公平がないように互いの国から審判を出したのだ。
競技は武闘系と知識系。
他にも妖怪による術の対決もあった。
「へえ、楽しそう」
「二人には全競技の総合審判として出てもらったんだ。それまでに何回か会ったことはあったけど、長期で一緒に仕事するのはこれが初めてだったかな」
冷静に判決する審判の鬼灯と白澤が身に纏う、長い袖と裾が翻る衣装の趣は、天帝の宮殿もかくやと錯覚させてくれる。
「でもはっきり言ってあの大会、女子達は『鬼灯派VS.白澤派』でフィーバーしてた。選手そっちのけで」
「そうでしょうね。衣装キバリすぎでしょう…これじゃ、女性は二人を見ますよ……衣装マジックで何割以上も良く見えるし…」
一見、眉目秀麗で黙っていれば美貌の鬼神と神獣。
性格が控えめに言っても物凄く残念。
「うん…今思えば、そうかもね……日本の織物とかをアピールしたくて…そしたら中国もアピールしてきて…」
「イケメンの衣装マジックとか一部の方々は俺得でしょうけども、あたしは絶対に認めませんよ!」
凜の剣幕に対し、鬼灯は何かに気づいたようだ。
嫌な予感がした。
彼がこちらの意を正確にくみ取るとは思えない。
「人形のように着飾った私より、ありのままの私がいいと……?」
「そんなこと、一秒たりとも考えちゃいません」
そんな二人の様子を眺めていた閻魔は逸れた話を軌道修正すべく、競技の様子を語る。
「あ、でも、当時両国で大人気だった選手、諸葛孔明(234年没)VS.聖徳太子(622年没)による知恵比べは、みんな見入ってたよ。アレ、面白かったっな~~」
「「何それ、超見たい」」
興奮気味に頬を紅潮させる朱井と桃太郎。
「途中VIP席にいた策士・太公望が混ざっちゃってさ」
――観客席から中国で活躍した軍師が、
「わしもやるっ!もーじっとしてらんないっ」
――人込みを掻き分けるように興奮気味に前に出て、
「わらわも~」
――と弥生時代の女王も名乗り出る。
「それを見た邪馬台国の卑弥呼まで降りてちゃって。最後はドンチャン騒ぎだった。偉人達ってやっぱりどこかブッ飛んでるよね」
「それはともかくものすっごい写メ撮りたい、その様子」