第29話

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山に訪れた人々は供物を捧げ、ご利益を授かろうと祈る。

「山の神様~、山神様~~。今年もオコゼをお供えします、どうか山の安全と豊穣を……」

普通の人間には見えていない、一際大きな樹に鎮座する女性の山神は、舞を踊る人々を無視して考え込んでいた。

「…………あ~~」

その顔立ちは、そばかすの混じった頬に厚ぼったい唇とお世辞にも綺麗とは言えなく、木の枝をパンパン叩く。

「美人が山入ったら大木倒して、マジ殺す!醜女しこめはよし!イケメンは尚よし!!」

目が据わっている。

もはや本音を隠そうとしない物騒な発言を、木の影から覗く木霊の精は顔を引きつらせた。


――…………………ああ……。







「……………」

閻魔殿の執務室、は緊張した面持ちで立っていた。

その先には、書類を隅々まで読み進める上司の鬼灯。

男にしては艶のある黒髪と秀麗な顔立ち。

しかし纏うオーラは厳しいもので、誰もが平伏してしまう。

「……いいでしょう」

「はぁぁぁ、ありがとうございます~~」

書類を確認し終え、鬼灯からのを返事を得た途端、はわかりやすく肩の力を抜いた。

「安心するのはまだ早いです。貴方に頼んでいた案件はどうなったんですか。それにこの後、最終確認があるんですよ」

鬼灯がぎろりと睨むと、の顔色が一瞬にして青くなるのがわかる。

こちらまで冷や汗をかいてしまうほどの迫力である。

「――では、午前の仕事はこれぐらいにして休憩としましょうか」

「やった、お昼!」

「じゃあ、わしも一緒に……」

「いえ、大王は仕事を続行してください」

「なんで!?」

鬼灯の台詞に、閻魔は本気で驚いた。

「今日中に仕上げなければならない書類があるのをお忘れでしょうか?」

しかし、淡々と返された回答に反論しようとして、反論すべき言葉が見つからないことに閻魔は愕然とした。







≪ねェ、そこさァ~~、もうすぐ友達来るからどいてくれる?≫

≪えっ…?あ…ハイ、スミマセン≫

席が空いているにもかかわらず、自分の座る箇所だけ示してくる先輩OLに首を傾げた。

≪アンタさア~~、調子こいててマジキモいんだけど。山田君としゃべるのやめてくれる?≫

≪………はあ…≫

トイレの中で化粧を整えていると、気安く話しかけるなと先輩OLに言われ、曖昧な返事をした。

「続いての再現VTRは、東京都の…」

テレビから流れているのは『OL100人に聞いた、アナタの職場の怖~い先輩』特集。

「…見た目がイジメの種になるというのは残念なことによくありますが女性は特にその傾向が強い……そんな印象がよくありますね」

同性から嫌われる女子について特集が組まれているテレビを見ながら食事する鬼灯と

そんな二人の向かい側に座るお香が口を開いた。

「…そうねえ……でもそれは簡単に分析できない問題だわ、鬼灯様」

すかさず、が便乗する。

「女のいさかいに男の人はなるべくかかわらないことですよ。こじれるから」

「…そういうものですか」

詮索してみたら、とお香から同時に止められた。

「鬼灯様でもわからないことってあるわ。女のことはね」

「復讐と恋愛においては、女は男よりも野蛮ですよ」

「……そう言うお二人の仲はどうなんですか?」

「……はい?」

「私とちゃん…ですか?」

「この特集を見てると、女性というのは一見仲のよさそうな雰囲気に見せて、裏では陰口を言い合う果てしなき泥沼の闘いを繰り広げるそうですね」

鬼灯の話を聞きながら、お香は親友の様子まで見なかった。

しかし、きっと同じような顔をして、同じようなことを思っている。

打ち合わせることなく、二人とも目を見開いて呆然、おまけに動揺している。

そして、彼女の視線が自分へと移ったことをは理解する。

一番大げさに驚くのは自分で、怒りだか動揺だかで身を震わせている――そう思われたのだろう。

隣にいる澄まし顔の鬼灯を見ると、はらわたが煮えくり返るとまではいかないが、相当にムカムカしてしまうのを、ぐっと我慢。

「………本気でそんなこと言ってるんですか?」

「いえ、ただの憶測です。男の私が、女同士の友情に割り込むなど、とんでもない。今の発言は忘れてください」

「そんな言葉ごときで、この友情は壊れないと確信をもって言えますから。切っても切れない、いや切ることができない……女の友情は怖いんですよ」

ちゃん…!そうよね、たとえアタシ達の誰かが嫌われても、アタシ達の縁は切れないのよ!」

お香がまぶしい笑顔での手を握ってきた。

(さすがお香さん。その笑顔にきゅんとしてしまった。だがしかし断じて、あたしは百合ではない)

「…ホントに難しい問題です……」

幼い容姿に似合わない、深い深い溜め息が聞こえた。

お香の隣に腰かけたのは、お子様ランチを頼んだ小柄な少年の姿をした森の精。

木霊こだまさんじゃないですか」

「「コダマ?」」

「ハイ、木の精です。あの世の入り口で亡者を見守る山神の一種ですよ。山はあの世の入り口ですから地獄へも簡単に来れるのです」


(※日本では古来より、山はあの世の入り口だった)


「可愛い坊っちゃんねぇ」

「これでも貴方より年上ですよ。そこにいる貴方は最近、任命された第二補佐官ですよね」

「初めまして、朱井と言います」

いくら可愛い容姿でも、それなりに丁寧な対応を心がけなければならない。

微笑みながら話しかけるお香に続いて、が丁寧に一礼する。

「コダマさんがここまでいらっしゃるのも珍しいですね」

「イヤ~…今は山も住みにくくて……まず私、花粉症なんです…」

ティッシュで鼻をかむ木霊に、鬼灯とがたまらずつっこむ。

「それ、マムシが自分の毒に当たるようなものですよね?」

「森の精が花粉症ってあり得るんですか?」
「先日あまりの花粉量に思わず千里眼を使ってみたら…」

花粉症に悩む木霊は思い切って、風に乗って飛び散る花粉を視てみた。

最初は空気中に漂う微粒子(×10)。

次第に丸みを帯びた花粉の大群(×100)。

最終的には、めしべと受粉しようと必死の形相で飛び回るおしべ(×1000)。

「メシベと、一つになる!!」

千里眼をくだらないことで使ってしまい、後悔の念が湧き出す。

「…アメリカのそのテのCMみたいな様子が見え……神としてそんなもんを見てしまったやるせなさでいっぱいに……」

「知らぬが仏ってことわざ、知ってます?」

「花粉の本分は受粉ですから、見てしまった貴方が悪いですよ」

「花粉の他にゴミも凄いですし……何だかいづらくて、最近は何やかんや理由をつけて、あの世へ来ています」

山の居心地の悪さから度々、地獄へ来ているという木霊。

「……ホントは、それだけじゃないんでしょ?」

しかしその時、この言葉と共に静かな声が届いた。

木霊に視線を移して、赤みがかかった瞳を細める亡者がいた。

「……ちゃん…?」

お香が訝しげな声を発し、

「また首をつっこんで…」

鬼灯が反論の構えを見せる。

だがは、それを未発段階で遮った。

「あれこれ理由をつけているのは、本当の悩みを打ち明けていいのかどうか、迷っているから……違う?」

木霊の視線が宙をさまよう。

「……………」

必死に脱出経路を探しているような仕草だった。

ある意味で、その通りだったのだろう。

少年は一つ溜め息をつくと、観念した顔で口を開いた。

「…いえ、様の言う通り、本当は他にいづらい理由があるのです」

「続きをどうぞ」

「…山には、神が多くおります。私のような木の精……それに山の大将、大山祗神おおやまつみ。岩長姫・木花咲耶姫・金山彦・金山姫……」

例によって神々のうんちく話を披露するが、誰が聞いても首を傾げるので省略する。

「まァ今、多くの方が『知らねぇよ』状態だと思うので全てまとめて『山神ファミリー』でいいです」

「「俄然わかりやすくなった」」

「その山神ファミリーの中でも山神ツートップが石長姫と木花咲耶姫。短くイワ姫とサクヤ姫としましょう。この二人、姉妹なのですが…」

そう言って、山神姉妹の写真を取り出した。

姉:イワ姫……つり上がったきつい目つきにそばかすの混じった頬、厚ぼったい唇。

妹:サクヤ姫……大きくつぶらな瞳に滑らかな頬、桃色のような唇。

「どんなことになるか、大体予想はつきますね」

「ここまで顔立ちが違うとは……」

「はい……」

この時点で、木霊が悩んでいる山神姉妹の仲の悪さが容易に想像できた。

「まァ経緯は省きますが、この二人がその昔、ニニギという神のもとに二人揃って嫁がれました。しかし姉のイワ姫だけが『醜い』という理由だけで、返されてしまったのです」

「ひどい話ねえ……」

「それ以来、イワ姫は美人がお嫌いで……美人が山へ入ると、ワタシをメキメキ倒すのです……」

自分ではどうすることもできず、木霊は暗い影を纏ってテーブルに突っ伏す。

「山ガールとか流行ってますけど、大丈夫ですか?」

「今夜は富士山で山神のパーティがあるのですが……あの姉妹の空気を考えると……」

「ちょっと行ってみたいですね」

ぼそりとつぶやいた独り言。

「ええっ!?本当ですか!?」

この発言は彼がこれから起こす出来事に深く関係していくことになるなど、この時は誰も気がつく者はいない。







パーティー当日、山神ファミリーだけでも多いのに、森の精を含めると大規模なものだった。

「ね~新しく山神ファミリーに入った花の精のコさぁ~、可愛くない?」

「あっ、思った~。うらやましいよね~」

少女の姿をした森の精達が、新しく山神ファミリーに入った話題で盛り上がる。

「え~~~~~、あの子?」

ところが、その会話を近くで聞いていたイワ姫が顔をしかめ、ダメ出しをする。

「相当化粧で作ってね?言葉遣いもなってないし、ああいう子って裏の顔、凄いわよ」

強引な独断に誰も言い返すことができず、

「そ…そうかな…」

とぎこちなく頷くしかない。

「むしろその隣にいた岩の精?あの子はきっといい子よォ~」

容姿が価値基準になっていて、なおかつ性格も判断するイワ姫を茂みの奥から窺う鬼灯達。

「新入社員が配属された時のボスお局?」

「女の格付けがすさまじいんだけど」

美人には容赦なく毒を吐き、ブサイクには悪い娘はいない、と断言するイワ姫には、美醜の話はタブーなのだ。

森の精達は何やら、触れてはいけないことを避けた感じだ。

にはそれが気にはなったものの、今はそれどころではない。

「いつしか『醜いものを供えた方が山は喜ぶ』という言い伝えまで、できてしまいました……」


※本当にそう言う伝承がある。


その時、遠目にも盛り上がる雰囲気で、

「オオオオオ」

恐ろしいまでの歓声が爆発する。

「木花咲耶姫のお着きだぞォォォ」

「サクヤちゃん、ようこそー」

「キャーッ、サクヤ姫可愛い」

溜め込んでいた期待が、ようやくの登場に湧き立ち、声となって弾ける。

口々にざわめく森の精の視線と歓声の間を、サクヤ姫が微笑みを浮かべて通り抜けた。

「…………」

周りに人が詰めかける妹の姿を見た途端、イワ姫から一切の表情が消えた。

「ああっまずい、サクヤ姫で盛り上がってる。ここでイワ姫の怒りが爆発すれば、富士山噴火になりかねません!とりあえず、気をそらさなきゃ」

(※宝永4年、その大きな規模と最も新しい富士山の噴火ということで知られている)

「え、そんな理由ですか?噴火」

「何それ、間近で見てみたいかも!」

様、火に油を注がないでください!」

「彼女の場合、火に油どころかガソリンかけて、それを面白そうに見つめる放火魔の所業ですよ」

早くも漂ってきた惨事の予感。

焦った木霊は鬼灯の手を引っ張ってイワ姫へと向かう。

「イ~ワ~姫ぇ~。素敵な方を御招待しましたよ」
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