第18話
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女性の亡者が嘘をつき続け、長引く裁判。
あの温厚な閻魔ですら大声を張り上げている。
「嘘を言え!この鏡を見よ!ここに証拠を残し、恥さらしにしてやってもよいのだぞ!」
玉座の隣にある大きな鏡を笏 で差すと、効果は抜群だった。
亡者は自分の罪を認め、自白する。
「白状しますっ!!確かに私はスーパーでベルマークだけを切り取って盗みました!」
凜は巻物を持つ鬼灯の隣で裁判を見学していて、その隣にはお馴染みの三匹。
ただの通りすがりのファンです、不躾に申し訳ありません。
(何故だかシロ君達もいるんだよね、もう慣れたよ。いちいち驚かないし、つっこまない)
それよりも、##NAME2#は気になるものを見つけた。
(閻魔様の隣にある鏡――浄玻璃鏡だね。引き出された人間の罪業を暴き出すと言われている……)
鏡に映像が「映る」という現象は、古来極めて神秘的なものとして捉えられた。
そのため、たんなる化粧用具としてよりも先に、祭祀の道具としての性格を帯びていた。
鏡面が光線を反射する平面ではなく、世界の"こちら"と"あちら側"をわけるレンズのようなものと捉えられ、鏡の向こうにもう一つの世界がある、という観念は存在し、世界各地で見られる。
特に、霊力を特別に持った鏡は、物事の真の姿を映し出すともされ――。
「――凜さん、またお得意の探求心ですか?」
鬼灯に声をかけられた。
返事しようとしたら、鬼灯が動いた。
凜の身体にぴったりと密着させてから言う。
「相変わらず、好奇心と探究心の塊で……これで、今日の裁判は終わりですよ」
突然のスキンシップに硬直した凜にしなだれかかる鬼灯を見て、閻魔と三匹は硬直した。
「へ、変なマネはしないでください!閻魔様もシロ君達も見てますよ!」
「――失礼いたしました。はしたない所をお目にかけた非礼、お許しください」
注意すると、少しだけ凜から身を離し、謝罪した。
しかし、さらにさりげなく彼女の手に自らの手を重ね、やや熱っぽい口調で謝罪を続ける。
「ですが――凜さんが私のもとに嫁げば、なんら問題はありません」
「てゆーかその話、何回も断ってんですけど!」
女の子を骨抜きにしてしまうようなバリトンボイスを漏らし、無理なお願いを繰り返す鬼灯に、凜は思わず声を大にして叫ぶ。
――ファイトあたし、頑張るんだあたし、目の前のイケメンに負けるなーー!
傍で待機していたシロが尻尾を振ってすり寄ってきた。
「ねー、ねー。鬼灯様、凜様。前から気になってたんだけど、あの鏡ってなぁに?」
「オマエ最近、格段になれなれしくなったな~~」
「それがシロ君の長所だと思うよ」
そう言って、凜は柿助とルリオへ向けて手招きする。
「撫でてもいい?」
疑問符を浮かべながら歩み寄ると、同じ高さになるようにしゃがみ込んだ。
「「ど…どうぞ」」
「お~~。意外と毛並みサラサラ~~」
トリートメントに気を遣う性格とも思えないのに毛並みはサラサラだし、毛皮からは嫌な獣臭も匂ってこない。
素直な可愛さがシロとは違う、恥じらう姿が新鮮だった。
「その優しさをどうして私に分けてくれないのか……」
「うーん……」
鬼灯は眉間に皺を寄せた表情で溜め息をつき、閻魔もちょっと困った感じで頷く。
そして、裁判に使われた鏡に向き直る。
「あの鏡は浄玻璃鏡といって、あらゆる亡者の現世での行いを映す鏡です。まぁ、いわば超高性能監視カメラです。映してみましょうか」
「えーと、電源……」
鏡の後ろからコンセントを取り出し、差し込み口を探す。
「電気コード!?」
不可思議アイテムに電力が必要という現実的な部分に、シロは驚きの声をあげた。
「あたしも最初はびっくりしたよ。『鏡よ、鏡~…』的な呪文を唱えると思ってたのに、変なところで現代的だもん」
その一幕を眺めて、凜は落胆したものだ。
ぱっと映し出されたのは、山を背景に撮影する登山者。
「シロ君、なんでも興味持つよね」
「見てて楽しいですがね」
「お~~。コレがあれば裁判スムーズですね」
「――と思うでしょう。でも映したい場面を自動で映してくれる訳ではないので……」
――罪を認めない亡者に、閻魔は浄波瑠璃鏡を使って自白を促すよう、鬼灯に指示する。
「証拠はここに………えーと……あっ…あと3年前…あ~~~~1カ月過ぎた……あっ違う違う…多分その前…もどかしいなーっ」
――リモコンで操作するのだが、いつでも当てられるものではない。
――それで何が見えるか、何に気づくかはその時次第。
――知りたい情報が得られる時もあれば、全く役に立たない時もある。
「案外不便」
「情報量が膨大すぎて…」
あまりにも情報量が膨大すぎて、探すのに苦労する。
まさに当たるも八卦 、当たらぬも八卦であった。
「現世は『パッと録画、パッと再生』のはずなのに!!」
「まぁ書記がキチンと記録してそれを補佐官 頭で覚えておくのが結局の所、一番早いですね」
「…そうか、そうだよなー……テキスト持ち込み可テストで、余裕ぶっこいてテキストだけどっさり持ち込んでも探すので、時間すぎちゃうもんな……」
――テスト範囲も把握しないままテキストだけ持ち込み、
「ヒェ~~。どこに答えがあるのかが、まずわからないっ」
――当日になって手を抜いたせいで、分厚いテキストを机に並べて苦心する。
探すだけで時間を浪費するのと同じことだ。
最初から予習し、ピンポイントで印でもつけておけば圧倒的に楽になる。
鬼灯がいつも巻物を見ているのも、その記録の確認をする為だ。
「そういうことです。凜さんは現世では高校生でしたが、そういうことはありましたか?」
『えっ!?そうだったの!?』
「なんかリアクションが失礼だな」
愚痴る凜の表情が逆に、目にするものが事実であると実感させられる。
『だって大人っぽいし!』
「だってムラムラするし」
「この中に一人だけ、変態が混ざってるぞー」
――こんなセクハライケメンとリア充とか、何回爆発すれば気がすむんだ。
――鬼灯さんも楽しそうだけど、いい加減やめてくれないかな。
「私がいつも巻物を見ているのは、その記録の確認をしているんですよ」
「へえ、そうなんだ。凜様は?」
「巻物の整理や必要な巻物を鬼灯さんに渡すって所かな」
「ですがヒトというのは、自らの口で言ったことに従う生き物ですから、本当は自白が一番いいんですけどね」
「人からの指摘が図星なほど、カチンとくるもんなんだよ」
これには柿助とルリオは納得する。
「あーー」
「そうかもしれないねー」
そう話している間もシロは鏡をじっと見つめて、なかなか離れない。
――好奇心旺盛なのはいいけど、肉球の後をつけないでほしいな。
――鏡を拭くのも、きっとあたしの仕事なんだから。
「これで現世の様子がわかるんだね~~」
「そうですね」
「アレかな?今時の足軽は火縄銃じゃなくてトカレフ使ったりするのかな?」
「シロ君、現世にはもう足軽がいないからね」
そうなの!?と、悲しく鳴きながら残念そうな顔をした。
そんなハイカラな足軽は江戸の末期にすらいない。
足軽ではないが、和服と拳銃といえば真っ先に坂本龍馬が思い浮かぶ。
スミス&ウェッソンを愛用していた彼でも、トカレフは扱いにくいだろう。
「どこか見てみたい所はありますか」
「いいんですか?私用に使って」
「いいですよ、こうでもしなきゃ離れないですし」
好きなように選びなさい、と言われると、人間は逡巡する。
「んーと…んーと…」
「都会!都会が見たい!!」
それはシロも例外ではないようで悩み、柿助は既に決まったようで、元気よく手を挙げて答えた。
鬼灯がリモコンで操作をするのを見て、凜は内心でつぶやいた。
(結構慎重にやらないと、大昔を映しかねないからね)
――…あれ、ザッピングできるんだ……。
対照的に三匹は、リモコンを使って次々にチャンネルを換えることに内心だけでなく面 に出して驚いた。
鏡に映し出されたのは、ビルが建ち並び、車が大渋滞している都会だった。
地獄ではめったにお目にかかれない高層ビルや排気ガスを出しながら走る車に、三匹は感動する。
「わぁ、凄い。鉄のイノシシって本当にいるんだ。TVとゲームの中だけだと思ってた」
「あぁ…あの世の車は基本妖怪ですからね」
「あの世じゃ、妖怪が移動手段だからね」
元人間の彼女にとっては、いつ見ても妖怪は見慣れない。
「鬼灯様は本物、見たことある?」
「私は何度も視察に行ってますから」
ふ~ん、と言いながら鏡に手を添えて都会の風景を見つめる。
彼の脳内はテレビとゲームで得た知識ばかりだからか、頓狂な発言を言い出した。
「…でも透明な管の中にタイヤのないソーラーカーは走ってないんだね……」
シロが言う、車の形態が変わったことにより渋滞がなくなってしまった、近未来を差す。
「シロさんの知識は色々混ざっていますね」
場面が変わっては歓喜の声を漏らす三匹が可愛らしく見えてしまった。
高層ビルから永田町にある政治の中枢・国会議事堂へと場面が変わって、シロは身を乗り出す。
「この御殿の最上階にラスボスとかいる?」
「そこのラスボスは最近、ちょくちょく変わるんだよね」
「そこを眺めている時だけは閻魔大王が立派に思えるんです」
さりげなく閻魔を見下す物言い。
「身近な人も映りますか?例えば地獄内とか」
「試したことはありますが出来ませんでした。現世だけでも大変ですからね」
「なぁんだ。凜様の入浴シーンとか見れるのかと思ったのに」
残念そうにつぶやくシロに、ルリオはあえて人物を特定した。
「鬼灯様はそれを目的に試したと思うぜ、間違いなく」
「みんな、鬼灯さんに感化されてない?」
ただでさえ自分が悪立ちしているという自覚がある。
これ以上、波風を立てる真似をさせられるのは勘弁してほしいところだった。
「あっ!じゃあ生前を映せば見れるんじゃないか?」
「そんなに見たいか、裸を」
呆れ顔でつっこむ凜。
鬼灯は憂いのある吐息をついた。
「もう堂々とカメラをつけるしかないですね」
「堂々とカメラって…一般常識に照らし合わせてめちゃくちゃですよ。盗撮ですよ、変態ですよ」
「愛の前には変態かどうかなんて些細な問題です……いや、カメラなんてのは二流ですね。一流は……覗いていいですか?」
鬼灯の直接的な問いかけに、怒鳴り声に近い大声で却下した。
「いいわけないでしょ!」
「まぁまぁ、さすがに凜ちゃんの入浴シーンは見れないとはいえ、生前の学校シーンは見れるでしょ?」
『それだ!』
閻魔の提案で、生前の凜が通う学校風景を見ることになった。
制服に身を包んだ生徒達に、軽く目を見張る。
「わぁ、人がいっぱい!」
「同じ格好してるなー」
「こんな人込みの中で、凜様は見つかるのか?」
「ちょっと待ってください」
リモコンを操作し、広い校舎の中から彼女の姿を探す。
そして、いた。
校門で、手持無沙汰そうに桜の木を見上げている。
誰かを待っているのか。
茶味色が強く、淡い色合いに輝いている。
長い。
腰まで届く長さを赤いリボンで結っている。
すらりとした長身に黒のブレザーを身に纏い、物思うように伏せられた瞳の色は、赤みがかかった黒。
一見すれば大人しめな女子生徒、しかしそれだけだとは思えないのは赤色の瞳が抱かせる印象のせいだろう。
そんな彼女へ、女子生徒が近づいていく。
顔を上げた彼女の表情から察するに、待ち人はその二人であったらしい。
ふわりと涼やかな顔が綻び、唇を微笑みが彩る。
そこで映像は終わり、鬼灯と##NAME12##がしみじみと言い合う。
「今はもう見られない超レアな高校生凜さんですね」
あの温厚な閻魔ですら大声を張り上げている。
「嘘を言え!この鏡を見よ!ここに証拠を残し、恥さらしにしてやってもよいのだぞ!」
玉座の隣にある大きな鏡を
亡者は自分の罪を認め、自白する。
「白状しますっ!!確かに私はスーパーでベルマークだけを切り取って盗みました!」
凜は巻物を持つ鬼灯の隣で裁判を見学していて、その隣にはお馴染みの三匹。
ただの通りすがりのファンです、不躾に申し訳ありません。
(何故だかシロ君達もいるんだよね、もう慣れたよ。いちいち驚かないし、つっこまない)
それよりも、##NAME2#は気になるものを見つけた。
(閻魔様の隣にある鏡――浄玻璃鏡だね。引き出された人間の罪業を暴き出すと言われている……)
鏡に映像が「映る」という現象は、古来極めて神秘的なものとして捉えられた。
そのため、たんなる化粧用具としてよりも先に、祭祀の道具としての性格を帯びていた。
鏡面が光線を反射する平面ではなく、世界の"こちら"と"あちら側"をわけるレンズのようなものと捉えられ、鏡の向こうにもう一つの世界がある、という観念は存在し、世界各地で見られる。
特に、霊力を特別に持った鏡は、物事の真の姿を映し出すともされ――。
「――凜さん、またお得意の探求心ですか?」
鬼灯に声をかけられた。
返事しようとしたら、鬼灯が動いた。
凜の身体にぴったりと密着させてから言う。
「相変わらず、好奇心と探究心の塊で……これで、今日の裁判は終わりですよ」
突然のスキンシップに硬直した凜にしなだれかかる鬼灯を見て、閻魔と三匹は硬直した。
「へ、変なマネはしないでください!閻魔様もシロ君達も見てますよ!」
「――失礼いたしました。はしたない所をお目にかけた非礼、お許しください」
注意すると、少しだけ凜から身を離し、謝罪した。
しかし、さらにさりげなく彼女の手に自らの手を重ね、やや熱っぽい口調で謝罪を続ける。
「ですが――凜さんが私のもとに嫁げば、なんら問題はありません」
「てゆーかその話、何回も断ってんですけど!」
女の子を骨抜きにしてしまうようなバリトンボイスを漏らし、無理なお願いを繰り返す鬼灯に、凜は思わず声を大にして叫ぶ。
――ファイトあたし、頑張るんだあたし、目の前のイケメンに負けるなーー!
傍で待機していたシロが尻尾を振ってすり寄ってきた。
「ねー、ねー。鬼灯様、凜様。前から気になってたんだけど、あの鏡ってなぁに?」
「オマエ最近、格段になれなれしくなったな~~」
「それがシロ君の長所だと思うよ」
そう言って、凜は柿助とルリオへ向けて手招きする。
「撫でてもいい?」
疑問符を浮かべながら歩み寄ると、同じ高さになるようにしゃがみ込んだ。
「「ど…どうぞ」」
「お~~。意外と毛並みサラサラ~~」
トリートメントに気を遣う性格とも思えないのに毛並みはサラサラだし、毛皮からは嫌な獣臭も匂ってこない。
素直な可愛さがシロとは違う、恥じらう姿が新鮮だった。
「その優しさをどうして私に分けてくれないのか……」
「うーん……」
鬼灯は眉間に皺を寄せた表情で溜め息をつき、閻魔もちょっと困った感じで頷く。
そして、裁判に使われた鏡に向き直る。
「あの鏡は浄玻璃鏡といって、あらゆる亡者の現世での行いを映す鏡です。まぁ、いわば超高性能監視カメラです。映してみましょうか」
「えーと、電源……」
鏡の後ろからコンセントを取り出し、差し込み口を探す。
「電気コード!?」
不可思議アイテムに電力が必要という現実的な部分に、シロは驚きの声をあげた。
「あたしも最初はびっくりしたよ。『鏡よ、鏡~…』的な呪文を唱えると思ってたのに、変なところで現代的だもん」
その一幕を眺めて、凜は落胆したものだ。
ぱっと映し出されたのは、山を背景に撮影する登山者。
「シロ君、なんでも興味持つよね」
「見てて楽しいですがね」
「お~~。コレがあれば裁判スムーズですね」
「――と思うでしょう。でも映したい場面を自動で映してくれる訳ではないので……」
――罪を認めない亡者に、閻魔は浄波瑠璃鏡を使って自白を促すよう、鬼灯に指示する。
「証拠はここに………えーと……あっ…あと3年前…あ~~~~1カ月過ぎた……あっ違う違う…多分その前…もどかしいなーっ」
――リモコンで操作するのだが、いつでも当てられるものではない。
――それで何が見えるか、何に気づくかはその時次第。
――知りたい情報が得られる時もあれば、全く役に立たない時もある。
「案外不便」
「情報量が膨大すぎて…」
あまりにも情報量が膨大すぎて、探すのに苦労する。
まさに当たるも
「現世は『パッと録画、パッと再生』のはずなのに!!」
「まぁ書記がキチンと記録してそれを
「…そうか、そうだよなー……テキスト持ち込み可テストで、余裕ぶっこいてテキストだけどっさり持ち込んでも探すので、時間すぎちゃうもんな……」
――テスト範囲も把握しないままテキストだけ持ち込み、
「ヒェ~~。どこに答えがあるのかが、まずわからないっ」
――当日になって手を抜いたせいで、分厚いテキストを机に並べて苦心する。
探すだけで時間を浪費するのと同じことだ。
最初から予習し、ピンポイントで印でもつけておけば圧倒的に楽になる。
鬼灯がいつも巻物を見ているのも、その記録の確認をする為だ。
「そういうことです。凜さんは現世では高校生でしたが、そういうことはありましたか?」
『えっ!?そうだったの!?』
「なんかリアクションが失礼だな」
愚痴る凜の表情が逆に、目にするものが事実であると実感させられる。
『だって大人っぽいし!』
「だってムラムラするし」
「この中に一人だけ、変態が混ざってるぞー」
――こんなセクハライケメンとリア充とか、何回爆発すれば気がすむんだ。
――鬼灯さんも楽しそうだけど、いい加減やめてくれないかな。
「私がいつも巻物を見ているのは、その記録の確認をしているんですよ」
「へえ、そうなんだ。凜様は?」
「巻物の整理や必要な巻物を鬼灯さんに渡すって所かな」
「ですがヒトというのは、自らの口で言ったことに従う生き物ですから、本当は自白が一番いいんですけどね」
「人からの指摘が図星なほど、カチンとくるもんなんだよ」
これには柿助とルリオは納得する。
「あーー」
「そうかもしれないねー」
そう話している間もシロは鏡をじっと見つめて、なかなか離れない。
――好奇心旺盛なのはいいけど、肉球の後をつけないでほしいな。
――鏡を拭くのも、きっとあたしの仕事なんだから。
「これで現世の様子がわかるんだね~~」
「そうですね」
「アレかな?今時の足軽は火縄銃じゃなくてトカレフ使ったりするのかな?」
「シロ君、現世にはもう足軽がいないからね」
そうなの!?と、悲しく鳴きながら残念そうな顔をした。
そんなハイカラな足軽は江戸の末期にすらいない。
足軽ではないが、和服と拳銃といえば真っ先に坂本龍馬が思い浮かぶ。
スミス&ウェッソンを愛用していた彼でも、トカレフは扱いにくいだろう。
「どこか見てみたい所はありますか」
「いいんですか?私用に使って」
「いいですよ、こうでもしなきゃ離れないですし」
好きなように選びなさい、と言われると、人間は逡巡する。
「んーと…んーと…」
「都会!都会が見たい!!」
それはシロも例外ではないようで悩み、柿助は既に決まったようで、元気よく手を挙げて答えた。
鬼灯がリモコンで操作をするのを見て、凜は内心でつぶやいた。
(結構慎重にやらないと、大昔を映しかねないからね)
――…あれ、ザッピングできるんだ……。
対照的に三匹は、リモコンを使って次々にチャンネルを換えることに内心だけでなく
鏡に映し出されたのは、ビルが建ち並び、車が大渋滞している都会だった。
地獄ではめったにお目にかかれない高層ビルや排気ガスを出しながら走る車に、三匹は感動する。
「わぁ、凄い。鉄のイノシシって本当にいるんだ。TVとゲームの中だけだと思ってた」
「あぁ…あの世の車は基本妖怪ですからね」
「あの世じゃ、妖怪が移動手段だからね」
元人間の彼女にとっては、いつ見ても妖怪は見慣れない。
「鬼灯様は本物、見たことある?」
「私は何度も視察に行ってますから」
ふ~ん、と言いながら鏡に手を添えて都会の風景を見つめる。
彼の脳内はテレビとゲームで得た知識ばかりだからか、頓狂な発言を言い出した。
「…でも透明な管の中にタイヤのないソーラーカーは走ってないんだね……」
シロが言う、車の形態が変わったことにより渋滞がなくなってしまった、近未来を差す。
「シロさんの知識は色々混ざっていますね」
場面が変わっては歓喜の声を漏らす三匹が可愛らしく見えてしまった。
高層ビルから永田町にある政治の中枢・国会議事堂へと場面が変わって、シロは身を乗り出す。
「この御殿の最上階にラスボスとかいる?」
「そこのラスボスは最近、ちょくちょく変わるんだよね」
「そこを眺めている時だけは閻魔大王が立派に思えるんです」
さりげなく閻魔を見下す物言い。
「身近な人も映りますか?例えば地獄内とか」
「試したことはありますが出来ませんでした。現世だけでも大変ですからね」
「なぁんだ。凜様の入浴シーンとか見れるのかと思ったのに」
残念そうにつぶやくシロに、ルリオはあえて人物を特定した。
「鬼灯様はそれを目的に試したと思うぜ、間違いなく」
「みんな、鬼灯さんに感化されてない?」
ただでさえ自分が悪立ちしているという自覚がある。
これ以上、波風を立てる真似をさせられるのは勘弁してほしいところだった。
「あっ!じゃあ生前を映せば見れるんじゃないか?」
「そんなに見たいか、裸を」
呆れ顔でつっこむ凜。
鬼灯は憂いのある吐息をついた。
「もう堂々とカメラをつけるしかないですね」
「堂々とカメラって…一般常識に照らし合わせてめちゃくちゃですよ。盗撮ですよ、変態ですよ」
「愛の前には変態かどうかなんて些細な問題です……いや、カメラなんてのは二流ですね。一流は……覗いていいですか?」
鬼灯の直接的な問いかけに、怒鳴り声に近い大声で却下した。
「いいわけないでしょ!」
「まぁまぁ、さすがに凜ちゃんの入浴シーンは見れないとはいえ、生前の学校シーンは見れるでしょ?」
『それだ!』
閻魔の提案で、生前の凜が通う学校風景を見ることになった。
制服に身を包んだ生徒達に、軽く目を見張る。
「わぁ、人がいっぱい!」
「同じ格好してるなー」
「こんな人込みの中で、凜様は見つかるのか?」
「ちょっと待ってください」
リモコンを操作し、広い校舎の中から彼女の姿を探す。
そして、いた。
校門で、手持無沙汰そうに桜の木を見上げている。
誰かを待っているのか。
茶味色が強く、淡い色合いに輝いている。
長い。
腰まで届く長さを赤いリボンで結っている。
すらりとした長身に黒のブレザーを身に纏い、物思うように伏せられた瞳の色は、赤みがかかった黒。
一見すれば大人しめな女子生徒、しかしそれだけだとは思えないのは赤色の瞳が抱かせる印象のせいだろう。
そんな彼女へ、女子生徒が近づいていく。
顔を上げた彼女の表情から察するに、待ち人はその二人であったらしい。
ふわりと涼やかな顔が綻び、唇を微笑みが彩る。
そこで映像は終わり、鬼灯と##NAME12##がしみじみと言い合う。
「今はもう見られない超レアな高校生凜さんですね」