第13話
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唐瓜は――獄卒の一環である仕事――昭和感漂う洗濯板で着物やタオルを洗っていた。
「あー畜生……オシャレ着洗いって楽じゃねーんだなぁ~。ここに就くってのは、思ったより大変なのかな~」
まだまだ下っ端であるが、やり方次第では昇進できるかもしれない。
勿論、それ相応の努力と年月がかかる。
「そう思えば、凜さんは凄いなぁ。亡者なのに異例の大抜擢で、鬼灯様に次ぐ第二補佐官だもんな……美人だし……」
目鼻立ちがくっきりしていて、見るからに大人びた美貌があったらドキドキする。
「なー、唐瓜。すっごい一発芸、思いついたぞ」
「何だよ。お前、仕事終わったの?」
縞柄 のタオルを頭に被せたら、あら不思議。
エジプトのツタンカーメンに早変わり。
「ファラオ」
おふざけする茄子の頭には拳、腹には蹴りと、地面に手をついた唐瓜の鉄槌が炸裂した。
赤提灯が服役所の門の端まですぅっと延びる様子は壮観で、この世のものではないようだ。
入り口の簾 花暖簾がはたはたと揺らぎながら、通りに鮮やかな色を投げている。
見世の二階から漏れる酒宴の灯りも、響く三味線の音も、さながら極楽浄土だ。
――今日は午前中から衆合地獄に視察に来ています。
――唐瓜君がここへ就きたいみたいなんですよ。
「あ~~~。頭と首と腰が同時に痛いよお~~~」
先程、仕事をサボった罰として鉄槌が下った茄子は痛む腹を押さえる。
そんな茄子を横目に、唐瓜は好奇心を隠し切れずに辺りを見渡す。
強い甘さを伴った香りが漂い、そこかしこに極彩色に着飾った女達も見えていた。
「――言っておきますが、目移りしているようでは衆合地獄には就けませんよ」
化粧っ気のない凜と並んで歩く鬼灯は厳しく注意する。
しかし、ここは美人が揃ってるなぁ、と感心してしまう。
ホストクラブやキャバクラも完備されているし、ここは現世で言うところの歌舞伎町みたいなものだろうか。
「凜さんも、ここで色気を学びなさい。容姿、若さ……この辺は全く問題ないですが……」
大胆に開けた着物から覗く、さらしに包まれた胸を見つめる鬼灯の眼差しは、既にとても眉間に皺とは言えないほどに崩れていた。
「あと残るとしたら、スタイル……」
刹那、凜の後ろ回し蹴り、しかもブーツの踵が側頭部直撃という一撃を受けて、華麗に吹き飛んだ。
何故だか羨ましそうな表情で唐瓜が見ていた。
――衆合地獄、刑の基本パターン概要。
うっすらと紫煙が立ちのぼる衆合地獄は、どこか艶 を孕んだ妖しさによって満ちていて、身の毛もよだつような恐ろしい地獄だとは微塵も感じさせない。
濃い霧に包まれた道を、亡者はやつれた頬で美人を探す。
「あぁ、イイ女がいねえかなあ」
そこへ、極彩色の着物を重ね、傾城 の笑みを浮かべる美女が手を招いてきた。
「おニイさあぁ~~ん。ちょイとこっちに来ておくれナ」
光に集まる蛾のようにふらふらと向かっていく亡者。
「ウホホ~~イ」
霧の向こうから現れたのは、厳つい形相で金棒を握る鬼。
「よう、兄ちゃん。ワイのツレに何か用かイ」
――というように美女が亡者を誘い、ふらふらと向かった瞬間に獄卒が現れて因縁をつけるのだ。
「衆合地獄は邪淫罪の地獄。よこしまな者、不品行な者、性犯罪者。そういう亡者を呵責 する者です」
艶やかな髪を簪でまとめ上げ、鮮やかな着物を身に纏う女達はクスクスと笑みをこぼす。
「ここの70%が女性です。男性の獄卒は筋金入りの硬派か、逆に軟派すぎるくらいの奴しか行けません」
「女ばかりの集団に男が一人だけ。そんな状況は男にとって、憧れのハーレムだもんねぇ」
女ばかりの集団に男が一人だけ。
そんな状況を極楽、この世の楽園だと思う人間は大勢に等しい。
「それでも一年に何人もが『恋の病』などという恐ろしい理由でやめていきます。あの門の先が亡者の服役場。愛と欲と憎悪うずまく……」
「昼ドラ地獄?」
男女の関係において、演劇的に誇張された愛憎劇を思わせるドラマを連想させる。
「獄卒にとっては『阿鼻地獄より恐ろしい』と評判です」
「美女に囲まれて男としては本望だけど、実際、肩身が狭そだうし、居心地が悪そうだし、心が定まらないよ」
「不純な動機でここへ就くと痛い目を見ますよ」
「そんな野郎ばかりじゃないですよ、きっと」
棘のある言葉が胸に突き刺さり、唐瓜は顔を強張らせた。
(さすが衆合地獄と言うべきか、女のあたしでさえくらっときちゃうような色気がある)
四人は目立つ。
衆合地獄では珍しい男、しかも端正な顔立ちの鬼灯と並んで歩いているのだから、当たり前だ。
「……?」
だが花街で、そして今も凜に視線を注いでいる遊女達の目つきは、非常に特徴的だった。
色っぽい目元を緩ませて、真っ赤な唇を優しい笑みに変えて、こちらを見つめている。
敵対心のない、むしろ親しみのある目つき。
「獄卒の花街もここへ集中している。気を強く保たないと持っていかれますよ」
「ワーイ、焼き鳥だーー」
あちこちから漂ってくる食べ物の匂いに誘惑されて、茄子は屋台に立ち寄る。
「鬼灯さん、茄子君が焼き鳥屋さんに持ってかれた」
「あのコ、色んな意味で大丈夫ですか?」
「逆に強 な、この場所で」
注文した焼き鳥を待つ傍ら、店員(女性)の胸元に興奮する。
「唐瓜、このおねーさん、すっごい巨乳!」
「胸か、胸しか見とらんのか」
「見事に目先のよくに捕らわれている……」
「気移り、甚だしいですね」
「アイツよりチンパンジーのパン君の方が賢い気が……」
「行動が幼いよね」
某番組でおつかい企画から一躍人気者になった動物より、子供っぽい茄子の行動につっこむ三人。
この年頃の男の子達はまあこんなもんですよね。
エロス優先でバカばっかやってるのが楽しいんですよ。
青春なんですよ。
あと凜ちゃん、男同士の大事な話にナチュラルに入ってこない。
女の子に話すわけにもいかない話なんですよ。
人や動物の声真似、鳴き真似が上手な九官鳥を見つけ、
「あっ、九官鳥だ。う○こー、うん○ー。おい、う○こ言えよぉー」
と下品な言葉を連発している。
「……」
それに向き合う九官鳥は呆れているのか、無言だ。
「まあ…小5くらいですよね、行動が。それもアホの部類に入る小5」
「ガキみてーに薄いエロスしか語らねーし」
「濃いエロスを語れば大人という貴方の発想もガキですよ」
これまた、ひどい言いようですね。
「男は男で色々あるんだね」
二人の態度もしっかり見ている凜には、しょうもない問題だなと気づかれているようだ。
「アラー鬼灯様?遊びに来てくださったの?」
艶のある声に振り向けば、衆合地獄の官職、お香がやって来た。
相も変わらず、綺麗なお姉様である。
「あっ、お香姐さん」
声をかけた途端に頬を赤く染めた唐瓜。
「お香さん」
「あら、凜ちゃん!」
凜と目が合うと、お香は満面の笑みを浮かべた。
いつものニコニコより、本物の笑顔に見えてしまったような……最近、お香は凜に最高のニコニコ顔で接してくれる。
すると、凜の腕を取ると、自分の方へ引き寄せた。
「わっ」
「嬉しいわぁ、来てくれるなんて。他の女の子に何かされなかった?」
「いえ、特に何も」
特に話しかけられたり、邪険にされたりしなかったため、凜はそう答えた。
美女達が着飾り、艶やかに微笑む光景にも慣れてきた。
――隣で笑うお香さんも例外ではなく、本音をこぼすと、少しでいいからその色気をわけてほしいものだ。
何やら賑やかに、かしましくおしゃべりに興じる二人に鬼灯が訊ねる。
「おや、お香さんとも知り合いですか」
「はい。私、カワイイ凜ちゃんとお友達になりましたの」
妖艶な雰囲気を醸し出すお香は皆の憧れだ。
唐瓜の憧れでもある。
「唐瓜さんが将来的に衆合 へ就きたいそうなので、視察ついでに一日体験させています」
「まあ。ここに就きたいの?楽しみねェ」
片手で凜の腕を取りながら、もう片手で唐瓜の頭を撫でる。
「お香姐さんは色っぺねーなあ。凜さんも美人だし」
凜が胡乱な言葉を口にした茄子に訊ねた。
「え?今なんて?」
「あら、知らないの?朱井ちゃん、噂じゃ『お姉様』なんて呼ばれてるのよ。クールで落ち着いているけど決して愛想がないわけじゃなくて、獄卒にも妖怪にも分け隔てなく接し、優しいって」
「いろんな成り行きの結果でしょうね。僅か数カ月の間に予想を上回る早さで知識を覚えましたから」
「獄卒じゃ今年ナンバーワンの有名人、噂の人ですよ。朱井さんはそんな鬼灯様の部下であると広く知られた次第です」
あまりの過激な言葉攻めに意識が別次元。
(ヤベ、9割も話聞いてなかった)
こんなぼっちを誑(タブラ)かさないでくれ、鬼の皆様。
お願いだから、自重して叱咤する発言に切り替えてくれると心底ありがたい。
「……ワォ」
(とりあえず相槌うっとけ。世の中、相槌と愛想笑いで大体のことは上手くいく……と信じたい)
「朱井ちゃん自身も綺麗な方だし、鬼灯様の部下にふさわしいほど成長したから。そういうあれこれが影響してるんだと思うわ」
甘い声音を漏らしながら、お香は朱井にぴったりと密着する。
(お香さんの髪からすんごい良い匂いがして、あたしの鼻孔を最大級に刺激してくる!)
「「……うわぁ」」
「あー畜生……オシャレ着洗いって楽じゃねーんだなぁ~。ここに就くってのは、思ったより大変なのかな~」
まだまだ下っ端であるが、やり方次第では昇進できるかもしれない。
勿論、それ相応の努力と年月がかかる。
「そう思えば、凜さんは凄いなぁ。亡者なのに異例の大抜擢で、鬼灯様に次ぐ第二補佐官だもんな……美人だし……」
目鼻立ちがくっきりしていて、見るからに大人びた美貌があったらドキドキする。
「なー、唐瓜。すっごい一発芸、思いついたぞ」
「何だよ。お前、仕事終わったの?」
エジプトのツタンカーメンに早変わり。
「ファラオ」
おふざけする茄子の頭には拳、腹には蹴りと、地面に手をついた唐瓜の鉄槌が炸裂した。
赤提灯が服役所の門の端まですぅっと延びる様子は壮観で、この世のものではないようだ。
入り口の
見世の二階から漏れる酒宴の灯りも、響く三味線の音も、さながら極楽浄土だ。
――今日は午前中から衆合地獄に視察に来ています。
――唐瓜君がここへ就きたいみたいなんですよ。
「あ~~~。頭と首と腰が同時に痛いよお~~~」
先程、仕事をサボった罰として鉄槌が下った茄子は痛む腹を押さえる。
そんな茄子を横目に、唐瓜は好奇心を隠し切れずに辺りを見渡す。
強い甘さを伴った香りが漂い、そこかしこに極彩色に着飾った女達も見えていた。
「――言っておきますが、目移りしているようでは衆合地獄には就けませんよ」
化粧っ気のない凜と並んで歩く鬼灯は厳しく注意する。
しかし、ここは美人が揃ってるなぁ、と感心してしまう。
ホストクラブやキャバクラも完備されているし、ここは現世で言うところの歌舞伎町みたいなものだろうか。
「凜さんも、ここで色気を学びなさい。容姿、若さ……この辺は全く問題ないですが……」
大胆に開けた着物から覗く、さらしに包まれた胸を見つめる鬼灯の眼差しは、既にとても眉間に皺とは言えないほどに崩れていた。
「あと残るとしたら、スタイル……」
刹那、凜の後ろ回し蹴り、しかもブーツの踵が側頭部直撃という一撃を受けて、華麗に吹き飛んだ。
何故だか羨ましそうな表情で唐瓜が見ていた。
――衆合地獄、刑の基本パターン概要。
うっすらと紫煙が立ちのぼる衆合地獄は、どこか
濃い霧に包まれた道を、亡者はやつれた頬で美人を探す。
「あぁ、イイ女がいねえかなあ」
そこへ、極彩色の着物を重ね、
「おニイさあぁ~~ん。ちょイとこっちに来ておくれナ」
光に集まる蛾のようにふらふらと向かっていく亡者。
「ウホホ~~イ」
霧の向こうから現れたのは、厳つい形相で金棒を握る鬼。
「よう、兄ちゃん。ワイのツレに何か用かイ」
――というように美女が亡者を誘い、ふらふらと向かった瞬間に獄卒が現れて因縁をつけるのだ。
「衆合地獄は邪淫罪の地獄。よこしまな者、不品行な者、性犯罪者。そういう亡者を
艶やかな髪を簪でまとめ上げ、鮮やかな着物を身に纏う女達はクスクスと笑みをこぼす。
「ここの70%が女性です。男性の獄卒は筋金入りの硬派か、逆に軟派すぎるくらいの奴しか行けません」
「女ばかりの集団に男が一人だけ。そんな状況は男にとって、憧れのハーレムだもんねぇ」
女ばかりの集団に男が一人だけ。
そんな状況を極楽、この世の楽園だと思う人間は大勢に等しい。
「それでも一年に何人もが『恋の病』などという恐ろしい理由でやめていきます。あの門の先が亡者の服役場。愛と欲と憎悪うずまく……」
「昼ドラ地獄?」
男女の関係において、演劇的に誇張された愛憎劇を思わせるドラマを連想させる。
「獄卒にとっては『阿鼻地獄より恐ろしい』と評判です」
「美女に囲まれて男としては本望だけど、実際、肩身が狭そだうし、居心地が悪そうだし、心が定まらないよ」
「不純な動機でここへ就くと痛い目を見ますよ」
「そんな野郎ばかりじゃないですよ、きっと」
棘のある言葉が胸に突き刺さり、唐瓜は顔を強張らせた。
(さすが衆合地獄と言うべきか、女のあたしでさえくらっときちゃうような色気がある)
四人は目立つ。
衆合地獄では珍しい男、しかも端正な顔立ちの鬼灯と並んで歩いているのだから、当たり前だ。
「……?」
だが花街で、そして今も凜に視線を注いでいる遊女達の目つきは、非常に特徴的だった。
色っぽい目元を緩ませて、真っ赤な唇を優しい笑みに変えて、こちらを見つめている。
敵対心のない、むしろ親しみのある目つき。
「獄卒の花街もここへ集中している。気を強く保たないと持っていかれますよ」
「ワーイ、焼き鳥だーー」
あちこちから漂ってくる食べ物の匂いに誘惑されて、茄子は屋台に立ち寄る。
「鬼灯さん、茄子君が焼き鳥屋さんに持ってかれた」
「あのコ、色んな意味で大丈夫ですか?」
「逆に
注文した焼き鳥を待つ傍ら、店員(女性)の胸元に興奮する。
「唐瓜、このおねーさん、すっごい巨乳!」
「胸か、胸しか見とらんのか」
「見事に目先のよくに捕らわれている……」
「気移り、甚だしいですね」
「アイツよりチンパンジーのパン君の方が賢い気が……」
「行動が幼いよね」
某番組でおつかい企画から一躍人気者になった動物より、子供っぽい茄子の行動につっこむ三人。
この年頃の男の子達はまあこんなもんですよね。
エロス優先でバカばっかやってるのが楽しいんですよ。
青春なんですよ。
あと凜ちゃん、男同士の大事な話にナチュラルに入ってこない。
女の子に話すわけにもいかない話なんですよ。
人や動物の声真似、鳴き真似が上手な九官鳥を見つけ、
「あっ、九官鳥だ。う○こー、うん○ー。おい、う○こ言えよぉー」
と下品な言葉を連発している。
「……」
それに向き合う九官鳥は呆れているのか、無言だ。
「まあ…小5くらいですよね、行動が。それもアホの部類に入る小5」
「ガキみてーに薄いエロスしか語らねーし」
「濃いエロスを語れば大人という貴方の発想もガキですよ」
これまた、ひどい言いようですね。
「男は男で色々あるんだね」
二人の態度もしっかり見ている凜には、しょうもない問題だなと気づかれているようだ。
「アラー鬼灯様?遊びに来てくださったの?」
艶のある声に振り向けば、衆合地獄の官職、お香がやって来た。
相も変わらず、綺麗なお姉様である。
「あっ、お香姐さん」
声をかけた途端に頬を赤く染めた唐瓜。
「お香さん」
「あら、凜ちゃん!」
凜と目が合うと、お香は満面の笑みを浮かべた。
いつものニコニコより、本物の笑顔に見えてしまったような……最近、お香は凜に最高のニコニコ顔で接してくれる。
すると、凜の腕を取ると、自分の方へ引き寄せた。
「わっ」
「嬉しいわぁ、来てくれるなんて。他の女の子に何かされなかった?」
「いえ、特に何も」
特に話しかけられたり、邪険にされたりしなかったため、凜はそう答えた。
美女達が着飾り、艶やかに微笑む光景にも慣れてきた。
――隣で笑うお香さんも例外ではなく、本音をこぼすと、少しでいいからその色気をわけてほしいものだ。
何やら賑やかに、かしましくおしゃべりに興じる二人に鬼灯が訊ねる。
「おや、お香さんとも知り合いですか」
「はい。私、カワイイ凜ちゃんとお友達になりましたの」
妖艶な雰囲気を醸し出すお香は皆の憧れだ。
唐瓜の憧れでもある。
「唐瓜さんが将来的に
「まあ。ここに就きたいの?楽しみねェ」
片手で凜の腕を取りながら、もう片手で唐瓜の頭を撫でる。
「お香姐さんは色っぺねーなあ。凜さんも美人だし」
凜が胡乱な言葉を口にした茄子に訊ねた。
「え?今なんて?」
「あら、知らないの?朱井ちゃん、噂じゃ『お姉様』なんて呼ばれてるのよ。クールで落ち着いているけど決して愛想がないわけじゃなくて、獄卒にも妖怪にも分け隔てなく接し、優しいって」
「いろんな成り行きの結果でしょうね。僅か数カ月の間に予想を上回る早さで知識を覚えましたから」
「獄卒じゃ今年ナンバーワンの有名人、噂の人ですよ。朱井さんはそんな鬼灯様の部下であると広く知られた次第です」
あまりの過激な言葉攻めに意識が別次元。
(ヤベ、9割も話聞いてなかった)
こんなぼっちを誑(タブラ)かさないでくれ、鬼の皆様。
お願いだから、自重して叱咤する発言に切り替えてくれると心底ありがたい。
「……ワォ」
(とりあえず相槌うっとけ。世の中、相槌と愛想笑いで大体のことは上手くいく……と信じたい)
「朱井ちゃん自身も綺麗な方だし、鬼灯様の部下にふさわしいほど成長したから。そういうあれこれが影響してるんだと思うわ」
甘い声音を漏らしながら、お香は朱井にぴったりと密着する。
(お香さんの髪からすんごい良い匂いがして、あたしの鼻孔を最大級に刺激してくる!)
「「……うわぁ」」