第12話
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鬼の群れをかわし間をすり抜け、階段を三段跳びで下り、スカートがめくれるのにも構わず、凜は駅をひたすら走る。
「鬼灯さん、あたしの足がもう無理です!!」
普段の鬼灯ならば、
「はしたないマネはやめなさい」
と小言を言われること請け合いであるが、幸いにして彼も全速力で走る最中であった。
「諦めてはいけません、凜さん!諦めたらそこで試合終了ですよ!」
「この状況なら安西先生も諦めなさいって言いますよ!」
――あたし達は今、等活地獄会議の会場に向かっています。
――駅には着いたけど、電車はもう到着している。
≪あの世鉄道、カンパネルラ号、間もなく発車致します。かけこみ乗車・跳び乗りは御遠慮ください≫
発車時刻を告げ、アナウンスがかかった。
鬼灯はともかく、凜の足はもう限界を迎えていた。
「チッ…凜さん、失礼します!」
「えっ、何…わっ!」
突然、横抱きにされて視界が高くなる。
背が高い人の世界はこんなんだ、なんて感動している暇も余裕もなく、ただただ目を丸くすることしかできなかった。
しかし、そんな努力も虚しく、どんどん閉まっていく扉。
刹那、あろうことか閉まったはずのドアの間に手を突っ込み、そのままぎしぎしと怪力で開け始めた。
「天の岩戸風乗車ならいいですか?天照もいます」
(いい訳ないでしょう)
「『ですか』…て、もう乗っちゃってるから…ハイ」
荒い息を吐いて切符を差し出す鬼灯に、駅員は顔を引くつかせた。
規則的な震動が小刻みに続く電車内で、乗客は複雑な顔をしている。
≪この電車は~~「等活」発「十一焔処」行き~~≫
なんとか電車に乗り込んだ二人は、切符に記された座席を目指して進む。
不意に、凜は乗客の複雑な顔に気づいて囁いた。
「…なんか、この車両ざわついてませんか?」
「ええ、そうですね…」
鬼灯も察したのか、凜の意見に同意する。
そして「D-2」席に到着し、顔を覗かせる。
そこには、桃の帽子を被り、桃のイヤリングに桃柄の着物……あまりにも目立ってしょうがない女性が座っていた。
唯一顔を隠すためのサングラスも、桃の模様をかたどっている。
「凜さん、Dー2席を見てください」
「はい?」
複雑な表情をした彼の言葉に促されて顔を出すと……なんというか、うん。
どこからどう見てもお尻にしか見えなくて。
凜の顔も自然と気まずいものに変わり、車内のざわめきの理由はこれかと理解した。
「えーと…あの、タレントのピーチ・マキさんですか?」
「バッ…バレた!!!?」
必死に人相を隠してたはずが芸能人だと告げられ、女性――マキは肩を跳ね上げ、赤面する。
「バレますよ、そりゃあ」
「さっきから社内中がチラチラここを見てると思ったら……」
「マジで!?」
乗客も添乗員も好奇心を隠し切れずにチラチラと見ているのが丸わかり。
「…『これなら逆にバレない』とか言いやがって……ちっくしょ~、マネージャーめ……」
「いや、マネージャーさんのせいだけでもないと思いますよ」
マネージャーに対しての文句を歯ぎしりしながらあげるマキ。
「あっ…あの、お隣、良いですか?」
「もちろん」
よそ行きの作り物っぽい笑顔を顔に張りつけて促すマキ。
凜は軽く頭を下げると微笑んだ。
ふんわりと唇を綻ばせるその微笑みは、誰もが見惚れるに違いない。
そしてそれは目の前にいたマキも同じこと。
マキは一瞬凜に見惚れ……そのことに気がつくと、屈辱に顔を歪ませた。
(私が他の女に見惚れるとはっ!)
なんとか本心を隠し、マキも笑みを浮かべる。
こめかみがぴくりと動く鬼灯の顔にも気づかないまま凜は隣に座ろうとして、ぐい、と肩を引き戻される。
そのすぐ後に、マキの隣にすとんと座る。
「こんな全力で桃を主張してる人、桃太郎さん以来ですよ」
しかしそんなことをする犯人は一人しかいないため、じと目で睨んでみる。
効果がないなんてことはわかりきっているが、でもやっぱり。
(一言言ってくれたっていいじゃない…)
そんな彼女の恨みがましい視線を全て無視して、素知らぬ顔をする鬼灯。
「桃太郎って、鶴助けて熊と相撲して亀に乗った人でしたっけ?」
「それ、どこのムツゴロウさんですか」
「色んな童話が混ざって化学反応起こしてますよ」
「あっ、針の刀で悪い鬼を対退治した人?」
「惜しいような全然違うような」
――お椀に家来を連れて鬼退治に向かう桃太郎は、
「イヤ、コレ。違う違う」
――針の刀を掲げながらつっこんだ。
一般常識が通じないマキに、鬼灯は提案してみる。
「…今度是非、クイズ番組に出演してください」
「あっ!出たーい。マネージャーに言っとこ」
言葉の裏に隠された意味に気づかないマキは表情を明るくする。
(どう見てもバカにされてる気が…)
すると、鬼灯が口許に手を寄せて囁く。
「あの…先程から気になっていたのですが、帽子が御居処 に見えます」
「おいどって何ですか」
「帽子……あぁ、頭にお尻が乗ってる……」
うっかり滑らす凜の口を鬼灯が慌てて塞ぐも、時既に遅し。
「マジか!!」
桃の割れ目が尻のように見え、
「せっかくオブラートに包んだのに…」
せっかくオブラートに包んだはずの言葉を彼女が言ったことで台無しになった。
――ナイスツッコミ、D-2席さん!!
その反面、もやもやして口に出せなかったツッコミを真正面から言ってくれたことで、乗客の気持ちはスッキリする。
「車内中がここまで出かかっていたと思います」
「そんなっ」
喉の奥まで出かかっている心境を表す鬼灯に、マキはそそくさと帽子を取り、イヤリングも外す。
「…まぁ、タレントさんは外出も一苦労ですよね」
「そうですね、その度に変装というのもなかなか面倒くさそうです」
「え?貴方もそうですよね?」
「「…はい?」」
意図して鬼灯と凜の声が揃った。
「アレッ?でもテレビで…あ、タレントさんじゃなくて俳優さん?監督?」
「……私は官吏です」
「そして、あたしはこの人の部下です」
「え…っ!?テレビって芸能人以外も出るんだっ…マキ、衝撃!」
この前テレビに出ていたからと告げられ、そこで凜は思い至る。
もしかして彼女は、テレビに出るのは芸能人だけだと勘違いしているのではないか。
「カンリって、在庫とかのですか?家電?スーパー?」
見事な漢字変換ミスだ。
というかカメラの前に出るような人が在庫の管理って、番組で何するんだよ。
「……違います……」
「どこ行くんですか?営業?」
「…説明が面倒になってきた」
――確かにこれは、鬼灯さんが先ほどクイズ番組に出てはどうかと提案するのも頷ける。
「あっ、もしかしてメーカー事情による在庫過多品を『オススメ』として売るための仄暗い契約をしに」
「何で小売業界でしょっ中起こる裏事情にはそんな詳しいんですか」
「アタシ、芸能界入る前、店員やってて」
――あたしも第二補佐官になる前は普通の女子高生だったなぁ……。
なまじ現実的に考えてしまうから、夢はおろかおぼろげな目標すらない。
漠然とした進路で教師を困らせ、なんとか決まったが、卒業直前に交通事故で死んでしまった凜。
――あたしは生前は怠け者でして、まず夢中になるものがない。
――休日は一日、だらだらと過ごす。
(半日ずっと寝たり、起きたらぼーっとテレビを見てたり…我ながら怠惰な休日)
とりあえず、走り過ぎた足を解放させるためにブーツをポイとすっぽ抜ける。
凜の足は華奢で細いが、座り方のせいで横からむっちりと柔らかそうに見えた。
膝枕をしてもらえば気持ちいいかもしれない。
足を上げたせいで軽くめくれたスカートは、かなり際どいところまでを露にしていた。
ギランッ、と鬼灯の瞳が野獣の輝きを宿す。
「なっ!」
凜が慌ててスカートを押さえる。
「――ッ!」
鬼灯は舌打ちをしながらも、ほんの一瞬の間隙を捉えていた。
白である。
そしてちょっとレースな感じである。
大人っぽい。
「どこを凝視してるんですか、ほ・お・ず・き・さん?」
大変冷たい声と共に、ぎゅっ、とつねられた頬が熱くなった。
「……いえ、ちょっと景色のよさに見惚れていたもので」
「ぜひ、あたしにもその景色、見せてくれませんか」
凜は鬼灯の頬をつねっていた手を外し、風呂敷からチョコレートを取り出す。
そうやって顔を寄せてひそひそ言い合う二人を見て、マキが驚いた表情を見せた。
「……二人とも、な、仲いいのね」
「そうですか?」
その窺うような視線と質問に、チョコレートを口にくわえて首を傾げる凜だが、マキは微妙な羨望を込めて言う。
「いやいや、いいって……ま~~色々ありましたね~~。中でも万引きがホント困って……ホント……店員の給料にダイレクトに響くし…」
困ったように話すマキの表情が次第に曇り、ついには物凄い剣幕で奥歯を噛みしめる。
「妖怪万引き婆め……」
「誰かの怨恨を代弁してません?」
官吏を管理と言われた時はどう説明しようか迷ったけれど。
「亡者の窃盗は黒縄地獄で服役13年。地獄の住民の犯罪は烏天狗が目を光らせていますよ」
「そうなの?へえ~~メーカーさん、物知り~~」
「違うってのに」
変わらず眉間に皺を寄せた鬼灯は、微妙に話が通じない疲労感を覚えた。
「鬼灯さん、あたしの足がもう無理です!!」
普段の鬼灯ならば、
「はしたないマネはやめなさい」
と小言を言われること請け合いであるが、幸いにして彼も全速力で走る最中であった。
「諦めてはいけません、凜さん!諦めたらそこで試合終了ですよ!」
「この状況なら安西先生も諦めなさいって言いますよ!」
――あたし達は今、等活地獄会議の会場に向かっています。
――駅には着いたけど、電車はもう到着している。
≪あの世鉄道、カンパネルラ号、間もなく発車致します。かけこみ乗車・跳び乗りは御遠慮ください≫
発車時刻を告げ、アナウンスがかかった。
鬼灯はともかく、凜の足はもう限界を迎えていた。
「チッ…凜さん、失礼します!」
「えっ、何…わっ!」
突然、横抱きにされて視界が高くなる。
背が高い人の世界はこんなんだ、なんて感動している暇も余裕もなく、ただただ目を丸くすることしかできなかった。
しかし、そんな努力も虚しく、どんどん閉まっていく扉。
刹那、あろうことか閉まったはずのドアの間に手を突っ込み、そのままぎしぎしと怪力で開け始めた。
「天の岩戸風乗車ならいいですか?天照もいます」
(いい訳ないでしょう)
「『ですか』…て、もう乗っちゃってるから…ハイ」
荒い息を吐いて切符を差し出す鬼灯に、駅員は顔を引くつかせた。
規則的な震動が小刻みに続く電車内で、乗客は複雑な顔をしている。
≪この電車は~~「等活」発「十一焔処」行き~~≫
なんとか電車に乗り込んだ二人は、切符に記された座席を目指して進む。
不意に、凜は乗客の複雑な顔に気づいて囁いた。
「…なんか、この車両ざわついてませんか?」
「ええ、そうですね…」
鬼灯も察したのか、凜の意見に同意する。
そして「D-2」席に到着し、顔を覗かせる。
そこには、桃の帽子を被り、桃のイヤリングに桃柄の着物……あまりにも目立ってしょうがない女性が座っていた。
唯一顔を隠すためのサングラスも、桃の模様をかたどっている。
「凜さん、Dー2席を見てください」
「はい?」
複雑な表情をした彼の言葉に促されて顔を出すと……なんというか、うん。
どこからどう見てもお尻にしか見えなくて。
凜の顔も自然と気まずいものに変わり、車内のざわめきの理由はこれかと理解した。
「えーと…あの、タレントのピーチ・マキさんですか?」
「バッ…バレた!!!?」
必死に人相を隠してたはずが芸能人だと告げられ、女性――マキは肩を跳ね上げ、赤面する。
「バレますよ、そりゃあ」
「さっきから社内中がチラチラここを見てると思ったら……」
「マジで!?」
乗客も添乗員も好奇心を隠し切れずにチラチラと見ているのが丸わかり。
「…『これなら逆にバレない』とか言いやがって……ちっくしょ~、マネージャーめ……」
「いや、マネージャーさんのせいだけでもないと思いますよ」
マネージャーに対しての文句を歯ぎしりしながらあげるマキ。
「あっ…あの、お隣、良いですか?」
「もちろん」
よそ行きの作り物っぽい笑顔を顔に張りつけて促すマキ。
凜は軽く頭を下げると微笑んだ。
ふんわりと唇を綻ばせるその微笑みは、誰もが見惚れるに違いない。
そしてそれは目の前にいたマキも同じこと。
マキは一瞬凜に見惚れ……そのことに気がつくと、屈辱に顔を歪ませた。
(私が他の女に見惚れるとはっ!)
なんとか本心を隠し、マキも笑みを浮かべる。
こめかみがぴくりと動く鬼灯の顔にも気づかないまま凜は隣に座ろうとして、ぐい、と肩を引き戻される。
そのすぐ後に、マキの隣にすとんと座る。
「こんな全力で桃を主張してる人、桃太郎さん以来ですよ」
しかしそんなことをする犯人は一人しかいないため、じと目で睨んでみる。
効果がないなんてことはわかりきっているが、でもやっぱり。
(一言言ってくれたっていいじゃない…)
そんな彼女の恨みがましい視線を全て無視して、素知らぬ顔をする鬼灯。
「桃太郎って、鶴助けて熊と相撲して亀に乗った人でしたっけ?」
「それ、どこのムツゴロウさんですか」
「色んな童話が混ざって化学反応起こしてますよ」
「あっ、針の刀で悪い鬼を対退治した人?」
「惜しいような全然違うような」
――お椀に家来を連れて鬼退治に向かう桃太郎は、
「イヤ、コレ。違う違う」
――針の刀を掲げながらつっこんだ。
一般常識が通じないマキに、鬼灯は提案してみる。
「…今度是非、クイズ番組に出演してください」
「あっ!出たーい。マネージャーに言っとこ」
言葉の裏に隠された意味に気づかないマキは表情を明るくする。
(どう見てもバカにされてる気が…)
すると、鬼灯が口許に手を寄せて囁く。
「あの…先程から気になっていたのですが、帽子が
「おいどって何ですか」
「帽子……あぁ、頭にお尻が乗ってる……」
うっかり滑らす凜の口を鬼灯が慌てて塞ぐも、時既に遅し。
「マジか!!」
桃の割れ目が尻のように見え、
「せっかくオブラートに包んだのに…」
せっかくオブラートに包んだはずの言葉を彼女が言ったことで台無しになった。
――ナイスツッコミ、D-2席さん!!
その反面、もやもやして口に出せなかったツッコミを真正面から言ってくれたことで、乗客の気持ちはスッキリする。
「車内中がここまで出かかっていたと思います」
「そんなっ」
喉の奥まで出かかっている心境を表す鬼灯に、マキはそそくさと帽子を取り、イヤリングも外す。
「…まぁ、タレントさんは外出も一苦労ですよね」
「そうですね、その度に変装というのもなかなか面倒くさそうです」
「え?貴方もそうですよね?」
「「…はい?」」
意図して鬼灯と凜の声が揃った。
「アレッ?でもテレビで…あ、タレントさんじゃなくて俳優さん?監督?」
「……私は官吏です」
「そして、あたしはこの人の部下です」
「え…っ!?テレビって芸能人以外も出るんだっ…マキ、衝撃!」
この前テレビに出ていたからと告げられ、そこで凜は思い至る。
もしかして彼女は、テレビに出るのは芸能人だけだと勘違いしているのではないか。
「カンリって、在庫とかのですか?家電?スーパー?」
見事な漢字変換ミスだ。
というかカメラの前に出るような人が在庫の管理って、番組で何するんだよ。
「……違います……」
「どこ行くんですか?営業?」
「…説明が面倒になってきた」
――確かにこれは、鬼灯さんが先ほどクイズ番組に出てはどうかと提案するのも頷ける。
「あっ、もしかしてメーカー事情による在庫過多品を『オススメ』として売るための仄暗い契約をしに」
「何で小売業界でしょっ中起こる裏事情にはそんな詳しいんですか」
「アタシ、芸能界入る前、店員やってて」
――あたしも第二補佐官になる前は普通の女子高生だったなぁ……。
なまじ現実的に考えてしまうから、夢はおろかおぼろげな目標すらない。
漠然とした進路で教師を困らせ、なんとか決まったが、卒業直前に交通事故で死んでしまった凜。
――あたしは生前は怠け者でして、まず夢中になるものがない。
――休日は一日、だらだらと過ごす。
(半日ずっと寝たり、起きたらぼーっとテレビを見てたり…我ながら怠惰な休日)
とりあえず、走り過ぎた足を解放させるためにブーツをポイとすっぽ抜ける。
凜の足は華奢で細いが、座り方のせいで横からむっちりと柔らかそうに見えた。
膝枕をしてもらえば気持ちいいかもしれない。
足を上げたせいで軽くめくれたスカートは、かなり際どいところまでを露にしていた。
ギランッ、と鬼灯の瞳が野獣の輝きを宿す。
「なっ!」
凜が慌ててスカートを押さえる。
「――ッ!」
鬼灯は舌打ちをしながらも、ほんの一瞬の間隙を捉えていた。
白である。
そしてちょっとレースな感じである。
大人っぽい。
「どこを凝視してるんですか、ほ・お・ず・き・さん?」
大変冷たい声と共に、ぎゅっ、とつねられた頬が熱くなった。
「……いえ、ちょっと景色のよさに見惚れていたもので」
「ぜひ、あたしにもその景色、見せてくれませんか」
凜は鬼灯の頬をつねっていた手を外し、風呂敷からチョコレートを取り出す。
そうやって顔を寄せてひそひそ言い合う二人を見て、マキが驚いた表情を見せた。
「……二人とも、な、仲いいのね」
「そうですか?」
その窺うような視線と質問に、チョコレートを口にくわえて首を傾げる凜だが、マキは微妙な羨望を込めて言う。
「いやいや、いいって……ま~~色々ありましたね~~。中でも万引きがホント困って……ホント……店員の給料にダイレクトに響くし…」
困ったように話すマキの表情が次第に曇り、ついには物凄い剣幕で奥歯を噛みしめる。
「妖怪万引き婆め……」
「誰かの怨恨を代弁してません?」
官吏を管理と言われた時はどう説明しようか迷ったけれど。
「亡者の窃盗は黒縄地獄で服役13年。地獄の住民の犯罪は烏天狗が目を光らせていますよ」
「そうなの?へえ~~メーカーさん、物知り~~」
「違うってのに」
変わらず眉間に皺を寄せた鬼灯は、微妙に話が通じない疲労感を覚えた。