第9話
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地獄の仕事は慣れても、問題は毎日増え続けて色々と大変になってきた。
午前中に面倒な書類を気合いで終わらせ、食堂へ向かう。
(はぁ……束の間の休み……)
至福の表情で豚肉のしょうが焼き定食を食べていると、唐瓜と茄子に出くわした。
「あっ、凜さん!」
「茄子、走ったら危ないだろ!」
持ち前の明朗な茄子としっかり者の唐瓜にクスリと笑いつつ、声をかける。
「ここ座る?」
「俺、一番乗り!」
「ありがとうございます」
コクコク頷く茄子の素直な姿は実に可愛らしく、礼儀正しい唐瓜の姿は実に愛おしいのである。
「あの、凜さん知ってますか……?」
唐瓜がおそるおそる訊ねると、
「ん?」
と口を動かして凜が反応する。
「えっと……凜さんと鬼灯様が付き合ってるらしいですよ?」
凜はおもむろに周囲に視線を向けると、ぱちくりと大きな瞳をまばたきさせる。
どうやら初耳らしい。
茶髪の美少女から視線を注がれた周辺の鬼達は一斉に誤魔化し、唐瓜は他の獄卒から聞いた噂話を急ぎ説明する。
「――へぇ、知らなかった。あたしは鬼灯さんの"嫁"じゃなく"彼女"だったんだ」
「この噂って地獄全体に広がってるみたいですよ?」
「まあ、君達二人もいろいろと気になるところだとは思う。しかし、期待しないでほしいね」
「でも、あの堅物で真面目な鬼灯様が告白するなんて信じらんないよ。それだけマジだったってことだよね!」
凜は彼のセクハラ三昧を脳裏に描いて、
「……はあ」
と溜め息をつく。
鬼灯の顔を思い出せば思い出すほど、あれは本気だとしか思えなくなる。
「二人の意見を聞かせてくれない?君達にはあたしと鬼灯さんが付き合っているように見える?」
「……はあ」
「仲良しに見えます!」
唐瓜が苦笑いを浮かべ、茄子が答えると、凜は口の端をつり上げた。
「そういうこと」
わかってはいたが改めて凜の口から否定の言葉を聞き、唐瓜からは安堵の溜め息と一緒に笑顔がこぼれる。
だがすぐに、肝心な質問がまだだったことに気づく。
「えっと、じゃあ、凜さんは鬼灯様の告白の返事を……」
「あのセクハラ上司にも困ったもんでね。いつだって言葉足らずなの」
瞬間、唐瓜の胸の辺りが窮屈になった。
「簡単に言えば鬼灯さんが告白して、あたしがフッた」
悲鳴と驚愕が食堂に満ちた。
勿論、唐瓜と茄子も突然のことに頭が真っ白になりかけた。
食堂が騒然とする間、しょうが焼きを食べ終えた凜は事態を収めることなく立ち上がった。
書類仕事を終え、通常の業務へ移るという凜の頭の中で精緻に存在するスケジュールは、上司の呼び出しで遮られた。
書類をひぃひぃ言いながら処理している閻魔に聞けば、どうやら調合室で動物達と共に何か作っているらしい。
場所は移って天国の桃源郷では、白澤は大きな鍋で漢方を調合しながら教えていた。
「漢方を熟知してると、女子に大人気なんだよ」
「え、下卑た動機だなぁ」
女の子大好きな上司の不純な動機に、桃太郎は呆れてしまう。
「いや、そもそも漢方は『弱った体を元気にする』のが基本だからね。西洋医学では治しにくい冷え症・生理痛にも効果的なんだ」
一方、地獄の調合室で鬼灯は大きな鍋で毒薬を調合しながら教えていた。
「簡法 を熟知していると、上司に大人気ですよ」
「え、下卑たやり方だなぁ」
部下大好きな上司の不純な動機に、シロは呆れてしまう。
「いえ、そもそも『自分で道を見つける』のが基本ですからね。マニュアルだけでは会得しにくいコツ・整理法を見つければ功科 に繋がります」
「鬼灯さん」
ドアを開ければ隙間から熱気が漏れ、むせかえるような臭いが鼻につく。
「今手が放せないんです。入ってもらえますか」
臭いがきつくて嫌だったが仕方なく中に入って、鬼灯の背後まで近寄る。
鍋の中身は蛍光がかかっているというか、警戒色というか、とにかく禍々しい色をしていた……しかも、その刺激臭たるや。
「……これは?」
「質問より挨拶が先でしょう」
鍋の中をかき混ぜながら、こちらを睨みつけてきた。
「……お疲れ様です」
「あっ!凜様!」
尻尾をぶんぶん振って、こちらに駆け寄ってきたのはシロ。
――いやいや君達、鬼灯さんと一緒にいる確率高いな。
――いつも思うよ、仕事はどうした。
「で、それは何?」
「天罰鍋ですよ」
「天罰鍋…ああ、拷問中でしたか」
見れば、禍々しい毒薬の中に亡者が肩まで浸かっている。
こちらは天国。
白澤は鍋に入れる生薬を桃太郎に渡した。
「あ。コレを切って煮て」
「ハイ。この生薬は?」
「冬虫夏草 。蛾なんかの幼虫に寄生する茸の一種だよ。一種の変態」
※冬は虫で、夏は草になる。
「漢方には上薬・中薬・下薬とある。薬の他にも鍼や温熱、こういうのも使う」
漢方薬の効能と種類を説明し、鍼灸等の使い方も教える。
「あ、コイツを斬ってください」
鬼灯は悲鳴をあげる亡者の襟首を掴んで、シロへと投げ渡す。
「ワン」
それを世にも恐ろしい顔つきで噛み千切っていくのを指差し、凜は訊ねた。
「コイツの罪は?」
「盗聴と懸想」
「シロ君、もっと噛みちぎってしまえ」
「ほら、たまには凜さんもやってください」
そう言ってノコギリを渡された。
拷問初心者にノコギリはハードルが高すぎる。
凜が他の道具を探している間に、亡者の生前の罪を明かす。
「我の強い要注意人物で、気精 も強いようです。変態の一種」
人気のない夜道に現れ、コートをがばっと開いたら中が裸の変質者情報だ。
「凜様は大丈夫だと思うよ!」
「確かに反応薄そうだから、そういう性癖の人はスルーしちゃうかもな」
シロの言葉に柿助も頷く。
茶味色が強い艶やかな髪に白い肌、凛々しい瞳という涼しげな美貌も相まって、見る者を凜とした気分にさせる。
逆に言えばきつくて鋭くてちょっと怖い。
無理に気を張っての虚勢ではなく、生来の顔立ちであることが見て取れた。
「けど凜さんに耐性がなかったら、絶対とても可愛らしいリアクションしてくれるはずです。プロの変質者ならそういう内面の方も見ないと」
確かに強気なあの娘が不意に見せる可愛い素敵リアクションはいいですよね。
どうせ見るならそんなリアクションくれそうな娘を狙わないと!!……勿論、一般論ですよ?
「撃退方法は簡単です。貧相なナニを見た後、はんって鼻で笑ってやれば……」
さすが凜ちゃん、毒がだだ漏れてます。
「精神面までズタズタにする気だ!」
「……………凜さんに鼻で笑われたら、再起不能になりそうですね」
男代表鬼灯は切ない顔をする。
どうやら自分に置き換えて想像してしまったらしいですね。
見た目だけはスレンダー美少女の凜に鼻で笑われたら、そりゃ再起不能になるでしょう。
「変態にも上級 、中級 、下級 とあります。中には針や熱、こういうのを使う人もいます」
生々しい下ネタで女子にドン引きされる下級者。
誰もいない部屋で一人でこっそりエロ本を読む中級者。
そして、なんか女子にも人気な変態の傾向を説明し、道具を使うSMプレイも教える上級者。
「なんだ盗聴ってよ、堂々とこいや。でもって、返り討ちにしてやるよ」
「いいんですか、堂々と聴いても」
鬼灯は眉間に皺を寄せて険しい顔をしたまま、強烈な熱視線で聞く。
「鬼灯様、異常に反応早い!!」
「寝てる間に角切るからな」
「いけませんね、生殖器を切るなどそんな」
「下ネタの話は一瞬たりともしてねぇよ!!」
鬼灯をさっきの階級で識別するなら間違いなくエロ男爵だ。
――この人の頭、仕事2割、下品8割で構成されてると思う。
――涼しい顔して言うことは過激だ。
気持ちを入れ替え、長い亜麻色の髪を軽やかに舞わせて振り返った彼女の手には、長さ五十センチほどの平たいスタンウィップ。
通電することで先端部分に空中放電が起こるだけでなく、弾力が高まりよくしなる板バネ状の鞭だ。
「あたし、アンタに苦痛を与えないで拷問する自信はないから、きっと肉塊にしてしまうけど、そのかわり…」
亡者の顔を見ると、上気した頬で興奮していた。
「血の一滴も残さず活用してあげるから、ありがたく思いなさい」
鞭の先端が舐めるように頬を下りていき、首筋の辺りで停止する。
「なにその嬉しそうな顔は?このド変態が」
言って――ためらわず鞭を振り、先端が顔を叩いた。
「あ!ああ!あああ……はあ、はあ、はあ……」
幸い渾身の一撃ということはなく、ダメージは軽い。
それでも亡者の顔には、袈裟懸けの形ではっきりと鞭の跡が刻まれ、当分消えそうにない。
「こんなことされて喜ぶなんて。ホント恥ずかしい亡者ね」
なんというか、雰囲気はもはや女王様。
意外(S)な一面を見て青ざめる一般的な反応の三匹と、頬を赤らめるエロ男爵の鬼灯。
様々な生薬を配合、煮込んだ鍋を掻き回す白澤。
ぽかぽかと湯気を立てる鍋を見て、必要な薬を思い出す。
「――あ、そうだ、牛頭 の角……」
「ゴズ?」
「地獄の門番の一人なんだ。その角をたまに削らせてもらうんだけど……ストックがないや、取りに行かないと……」
瓶をひっくり返す白澤の言葉に、桃太郎は某ゆるキャラの角を思い浮かんだ。
亡者を拷問した後、様々な毒薬を配合、煮込んだ鍋を掻き回す鬼灯。
ドロドロと濁った刺激臭を立てていた鍋を見て、必要な薬を思い出す。
「――あ、そうです、馬頭 の蹄 ……」
「メズ?」
「馬頭って……半獣鬼の獄卒のことですか?」
初めて聞く名前に疑問符を浮かべるシロに、凜が何事もなかったかのように答える。
「そうです、地獄の門番の一人です。その蹄をたまに削らせてもらうのですが……ストックがありません、取りに行かないと……」
棘状の瓶をひっくり返す鬼灯の言葉に、シロは胴体が省略された馬の蹄を思い浮かぶ。
鬼灯は馬頭の蹄を、白澤は牛頭の角を、それぞれ必要な物質を求めて両界の狭間とつながる境目を目指して歩いていた。
「ここが門だよ」
「天国・地獄・現世、全ての境目です」
「ここで、あたしの第二の人生が始まったんだ……」
いずこともなく仰ぐ彼女は、両界の狭間とつながる境目を通って地獄に入った。
どこか現世とは違う空気だったのを覚えている。
「私と凜さんの愛の場所ですね」
「人が思い出に浸ってるところに捏造すんな」
などと話していると、鬼灯と白澤は出くわした。
「「あ」」
門を潜った先には因縁の二人がいて、
「ソイヤッ」
顔を見合わせた瞬間、鬼灯は白澤の顔面にパンチをお見舞いした。
「何の挨拶もなくそれかコノヤロウ!!」
「…いや、どうせ貴方と会ったら最後、こうなるんですから。先に一発かましとこうと思って……」
「80年代のヤンキーか、お前は」
(…何でわざわざ絡むんだろう……)
桃太郎とシロは心の中で思った。
「やっ、桃太郎」
「あっ、凜さん。すいません、こいつらがまた……」
「まー、遊びに来るのはいいけど、仕事の方をおろそかにしないでくれれば……」
理不尽な暴力を受けた白澤は、桃太郎と話す凜に向かって走り出した。
「凜ちゃん、どうして天国に来なかったんだい?寂しかったよ~」
鬼灯は身構えたが、もう遅い……その時、す、と彼女の眉が平坦になった。
「――せいっ!!」
抱きつこうとする白澤の手首を掴むと、そのままの勢いで身体を反転させ、一本背負いで地面に容赦なく叩きつけた。
背中を思い切り打ち据えて、
「ふぎゃっ」
と小さな悲鳴をあげた。
午前中に面倒な書類を気合いで終わらせ、食堂へ向かう。
(はぁ……束の間の休み……)
至福の表情で豚肉のしょうが焼き定食を食べていると、唐瓜と茄子に出くわした。
「あっ、凜さん!」
「茄子、走ったら危ないだろ!」
持ち前の明朗な茄子としっかり者の唐瓜にクスリと笑いつつ、声をかける。
「ここ座る?」
「俺、一番乗り!」
「ありがとうございます」
コクコク頷く茄子の素直な姿は実に可愛らしく、礼儀正しい唐瓜の姿は実に愛おしいのである。
「あの、凜さん知ってますか……?」
唐瓜がおそるおそる訊ねると、
「ん?」
と口を動かして凜が反応する。
「えっと……凜さんと鬼灯様が付き合ってるらしいですよ?」
凜はおもむろに周囲に視線を向けると、ぱちくりと大きな瞳をまばたきさせる。
どうやら初耳らしい。
茶髪の美少女から視線を注がれた周辺の鬼達は一斉に誤魔化し、唐瓜は他の獄卒から聞いた噂話を急ぎ説明する。
「――へぇ、知らなかった。あたしは鬼灯さんの"嫁"じゃなく"彼女"だったんだ」
「この噂って地獄全体に広がってるみたいですよ?」
「まあ、君達二人もいろいろと気になるところだとは思う。しかし、期待しないでほしいね」
「でも、あの堅物で真面目な鬼灯様が告白するなんて信じらんないよ。それだけマジだったってことだよね!」
凜は彼のセクハラ三昧を脳裏に描いて、
「……はあ」
と溜め息をつく。
鬼灯の顔を思い出せば思い出すほど、あれは本気だとしか思えなくなる。
「二人の意見を聞かせてくれない?君達にはあたしと鬼灯さんが付き合っているように見える?」
「……はあ」
「仲良しに見えます!」
唐瓜が苦笑いを浮かべ、茄子が答えると、凜は口の端をつり上げた。
「そういうこと」
わかってはいたが改めて凜の口から否定の言葉を聞き、唐瓜からは安堵の溜め息と一緒に笑顔がこぼれる。
だがすぐに、肝心な質問がまだだったことに気づく。
「えっと、じゃあ、凜さんは鬼灯様の告白の返事を……」
「あのセクハラ上司にも困ったもんでね。いつだって言葉足らずなの」
瞬間、唐瓜の胸の辺りが窮屈になった。
「簡単に言えば鬼灯さんが告白して、あたしがフッた」
悲鳴と驚愕が食堂に満ちた。
勿論、唐瓜と茄子も突然のことに頭が真っ白になりかけた。
食堂が騒然とする間、しょうが焼きを食べ終えた凜は事態を収めることなく立ち上がった。
書類仕事を終え、通常の業務へ移るという凜の頭の中で精緻に存在するスケジュールは、上司の呼び出しで遮られた。
書類をひぃひぃ言いながら処理している閻魔に聞けば、どうやら調合室で動物達と共に何か作っているらしい。
場所は移って天国の桃源郷では、白澤は大きな鍋で漢方を調合しながら教えていた。
「漢方を熟知してると、女子に大人気なんだよ」
「え、下卑た動機だなぁ」
女の子大好きな上司の不純な動機に、桃太郎は呆れてしまう。
「いや、そもそも漢方は『弱った体を元気にする』のが基本だからね。西洋医学では治しにくい冷え症・生理痛にも効果的なんだ」
一方、地獄の調合室で鬼灯は大きな鍋で毒薬を調合しながら教えていた。
「
「え、下卑たやり方だなぁ」
部下大好きな上司の不純な動機に、シロは呆れてしまう。
「いえ、そもそも『自分で道を見つける』のが基本ですからね。マニュアルだけでは会得しにくいコツ・整理法を見つければ
「鬼灯さん」
ドアを開ければ隙間から熱気が漏れ、むせかえるような臭いが鼻につく。
「今手が放せないんです。入ってもらえますか」
臭いがきつくて嫌だったが仕方なく中に入って、鬼灯の背後まで近寄る。
鍋の中身は蛍光がかかっているというか、警戒色というか、とにかく禍々しい色をしていた……しかも、その刺激臭たるや。
「……これは?」
「質問より挨拶が先でしょう」
鍋の中をかき混ぜながら、こちらを睨みつけてきた。
「……お疲れ様です」
「あっ!凜様!」
尻尾をぶんぶん振って、こちらに駆け寄ってきたのはシロ。
――いやいや君達、鬼灯さんと一緒にいる確率高いな。
――いつも思うよ、仕事はどうした。
「で、それは何?」
「天罰鍋ですよ」
「天罰鍋…ああ、拷問中でしたか」
見れば、禍々しい毒薬の中に亡者が肩まで浸かっている。
こちらは天国。
白澤は鍋に入れる生薬を桃太郎に渡した。
「あ。コレを切って煮て」
「ハイ。この生薬は?」
「
※冬は虫で、夏は草になる。
「漢方には上薬・中薬・下薬とある。薬の他にも鍼や温熱、こういうのも使う」
漢方薬の効能と種類を説明し、鍼灸等の使い方も教える。
「あ、コイツを斬ってください」
鬼灯は悲鳴をあげる亡者の襟首を掴んで、シロへと投げ渡す。
「ワン」
それを世にも恐ろしい顔つきで噛み千切っていくのを指差し、凜は訊ねた。
「コイツの罪は?」
「盗聴と懸想」
「シロ君、もっと噛みちぎってしまえ」
「ほら、たまには凜さんもやってください」
そう言ってノコギリを渡された。
拷問初心者にノコギリはハードルが高すぎる。
凜が他の道具を探している間に、亡者の生前の罪を明かす。
「我の強い要注意人物で、
人気のない夜道に現れ、コートをがばっと開いたら中が裸の変質者情報だ。
「凜様は大丈夫だと思うよ!」
「確かに反応薄そうだから、そういう性癖の人はスルーしちゃうかもな」
シロの言葉に柿助も頷く。
茶味色が強い艶やかな髪に白い肌、凛々しい瞳という涼しげな美貌も相まって、見る者を凜とした気分にさせる。
逆に言えばきつくて鋭くてちょっと怖い。
無理に気を張っての虚勢ではなく、生来の顔立ちであることが見て取れた。
「けど凜さんに耐性がなかったら、絶対とても可愛らしいリアクションしてくれるはずです。プロの変質者ならそういう内面の方も見ないと」
確かに強気なあの娘が不意に見せる可愛い素敵リアクションはいいですよね。
どうせ見るならそんなリアクションくれそうな娘を狙わないと!!……勿論、一般論ですよ?
「撃退方法は簡単です。貧相なナニを見た後、はんって鼻で笑ってやれば……」
さすが凜ちゃん、毒がだだ漏れてます。
「精神面までズタズタにする気だ!」
「……………凜さんに鼻で笑われたら、再起不能になりそうですね」
男代表鬼灯は切ない顔をする。
どうやら自分に置き換えて想像してしまったらしいですね。
見た目だけはスレンダー美少女の凜に鼻で笑われたら、そりゃ再起不能になるでしょう。
「変態にも
生々しい下ネタで女子にドン引きされる下級者。
誰もいない部屋で一人でこっそりエロ本を読む中級者。
そして、なんか女子にも人気な変態の傾向を説明し、道具を使うSMプレイも教える上級者。
「なんだ盗聴ってよ、堂々とこいや。でもって、返り討ちにしてやるよ」
「いいんですか、堂々と聴いても」
鬼灯は眉間に皺を寄せて険しい顔をしたまま、強烈な熱視線で聞く。
「鬼灯様、異常に反応早い!!」
「寝てる間に角切るからな」
「いけませんね、生殖器を切るなどそんな」
「下ネタの話は一瞬たりともしてねぇよ!!」
鬼灯をさっきの階級で識別するなら間違いなくエロ男爵だ。
――この人の頭、仕事2割、下品8割で構成されてると思う。
――涼しい顔して言うことは過激だ。
気持ちを入れ替え、長い亜麻色の髪を軽やかに舞わせて振り返った彼女の手には、長さ五十センチほどの平たいスタンウィップ。
通電することで先端部分に空中放電が起こるだけでなく、弾力が高まりよくしなる板バネ状の鞭だ。
「あたし、アンタに苦痛を与えないで拷問する自信はないから、きっと肉塊にしてしまうけど、そのかわり…」
亡者の顔を見ると、上気した頬で興奮していた。
「血の一滴も残さず活用してあげるから、ありがたく思いなさい」
鞭の先端が舐めるように頬を下りていき、首筋の辺りで停止する。
「なにその嬉しそうな顔は?このド変態が」
言って――ためらわず鞭を振り、先端が顔を叩いた。
「あ!ああ!あああ……はあ、はあ、はあ……」
幸い渾身の一撃ということはなく、ダメージは軽い。
それでも亡者の顔には、袈裟懸けの形ではっきりと鞭の跡が刻まれ、当分消えそうにない。
「こんなことされて喜ぶなんて。ホント恥ずかしい亡者ね」
なんというか、雰囲気はもはや女王様。
意外(S)な一面を見て青ざめる一般的な反応の三匹と、頬を赤らめるエロ男爵の鬼灯。
様々な生薬を配合、煮込んだ鍋を掻き回す白澤。
ぽかぽかと湯気を立てる鍋を見て、必要な薬を思い出す。
「――あ、そうだ、
「ゴズ?」
「地獄の門番の一人なんだ。その角をたまに削らせてもらうんだけど……ストックがないや、取りに行かないと……」
瓶をひっくり返す白澤の言葉に、桃太郎は某ゆるキャラの角を思い浮かんだ。
亡者を拷問した後、様々な毒薬を配合、煮込んだ鍋を掻き回す鬼灯。
ドロドロと濁った刺激臭を立てていた鍋を見て、必要な薬を思い出す。
「――あ、そうです、
「メズ?」
「馬頭って……半獣鬼の獄卒のことですか?」
初めて聞く名前に疑問符を浮かべるシロに、凜が何事もなかったかのように答える。
「そうです、地獄の門番の一人です。その蹄をたまに削らせてもらうのですが……ストックがありません、取りに行かないと……」
棘状の瓶をひっくり返す鬼灯の言葉に、シロは胴体が省略された馬の蹄を思い浮かぶ。
鬼灯は馬頭の蹄を、白澤は牛頭の角を、それぞれ必要な物質を求めて両界の狭間とつながる境目を目指して歩いていた。
「ここが門だよ」
「天国・地獄・現世、全ての境目です」
「ここで、あたしの第二の人生が始まったんだ……」
いずこともなく仰ぐ彼女は、両界の狭間とつながる境目を通って地獄に入った。
どこか現世とは違う空気だったのを覚えている。
「私と凜さんの愛の場所ですね」
「人が思い出に浸ってるところに捏造すんな」
などと話していると、鬼灯と白澤は出くわした。
「「あ」」
門を潜った先には因縁の二人がいて、
「ソイヤッ」
顔を見合わせた瞬間、鬼灯は白澤の顔面にパンチをお見舞いした。
「何の挨拶もなくそれかコノヤロウ!!」
「…いや、どうせ貴方と会ったら最後、こうなるんですから。先に一発かましとこうと思って……」
「80年代のヤンキーか、お前は」
(…何でわざわざ絡むんだろう……)
桃太郎とシロは心の中で思った。
「やっ、桃太郎」
「あっ、凜さん。すいません、こいつらがまた……」
「まー、遊びに来るのはいいけど、仕事の方をおろそかにしないでくれれば……」
理不尽な暴力を受けた白澤は、桃太郎と話す凜に向かって走り出した。
「凜ちゃん、どうして天国に来なかったんだい?寂しかったよ~」
鬼灯は身構えたが、もう遅い……その時、す、と彼女の眉が平坦になった。
「――せいっ!!」
抱きつこうとする白澤の手首を掴むと、そのままの勢いで身体を反転させ、一本背負いで地面に容赦なく叩きつけた。
背中を思い切り打ち据えて、
「ふぎゃっ」
と小さな悲鳴をあげた。