第8話

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目覚まし時計の忠告を無視すればどうなるかなど、一人暮らしのにとっては火を見るより明らかである。

案の定、が目覚めたのは昼前であった。

猫が時々するみたいに虚空の一点をしばし見つめてから、血糖値を上げるために布団脇にうずたかく積まれた財宝のような金貨チョコを一つ食べる。

それから時計を緩慢な動作で手に取り、朦朧と眺めるのである。

到底仕事にいく気分にはなれなかったのだが、とは言え翌日鬼灯から小言を聞かされるのも面倒である。

まとめず寝たために乱れた髪が、素の肩にバサバサとかかる。

「……ん~~っ!」

寝ぼけまなこを擦って、全身に強い力を行き渡らせるように伸びをする。

そして、布団から起き上がると寝巻きを脱ぎ始める……が、ここで場面が変わります!!

残念でした!!







閻魔殿に向かう途中で、あくびが出てしまった。

「ふぁ~…」


――まぁ、あたしより鬼灯さんの方が大変だったらしい。


――徹夜明けだから、今日はお休みしている。


が身だしなみを整えている時に、隣の部屋のドアが閉まる音がした。

起きたのかな?と思いきや、そのまま布団に一直線だったのか、バフッ、という音が聞こえ、数秒後には寝息が聴こえてきたものだから驚いた。







閻魔殿に訪れた家来の一匹、シロは鬼灯の不在に首を傾げた。

「え。鬼灯様、今日お休みなの?」

「うん。二日続きで徹夜だったから今日は休ませたよ、寝てるんじゃない?いつも多忙だしねぇ。ちゃんと休ませないと、効率も悪いし」

「えー。せっかくお話ししに来たのにな」

柔らかな耳を垂らして残念そうにつぶやくシロに、閻魔はもう一人の補佐官を思い出す。

「でもちゃんはいるよ。もうそろそろ出勤してくる頃じゃないかな」

「おはようございまーす」

「あっ、様!」

閻魔と三匹が話しているところに出くわしたは、挨拶を交わした後で訊ねた。

「アレ、三匹大集合じゃん。何か用?」

「お話しに来たんだけど、鬼灯様お休みなんだよ」

「それはまた急に…ここの所、徹夜続きだったからお休みだってさ。閻魔様、鬼灯さんはもう起きたんですか?」

「まだ寝てるはずだよ。うーん…まァ、もう昼だし、起こしてもいいけと思うけど……ヘタに起こすと君の顔の姿が変わるかも……

表情を曇らせて不吉なことを言う閻魔。

『何をされるの!!?』

ただ起こすだけの行動の理不尽な仕打ちに、達は仰天した。

「彼は寝坊なんてしないから、まず人に起こされるってことがなくて……というか、それが嫌みたいで……以前、出張で同じ部屋に泊まった時にさぁ……」


――以前、出張で同じ部屋に泊まった時、朝早く起床した閻魔が窓の外に目をやり、鬼灯に声をかける。


「あ、鬼灯君、起きなよ、凄いよ!そこの木、凄い数のカブトムシ!!ねー、鬼灯君ってば!」

「……………」


――だが、熟睡中の鬼灯はいっこうに布団から出ず、無視される。


――気丈にも閻魔は部下の無視にもめげず、声をかけ続ける。


「あっ、ほらほら、クワガタもいるっ!!鬼灯く…」


――次の瞬間、布団を跳ね上げて繰り出したローキックが膝に炸裂し、


「おフッ」


――その後、何事もなかったのように鬼灯は眠りに入り、痛みに苦しむ閻魔だけが残された。


「…寝てたのに適確なローキックをかましてきたよ……」

あの苦い思い出が、

「その後、寝言で『早起きすぎるぞジジイ』ってぼやいてたよ…」

と閻魔にストップをかけさせている。

「キックボクサー魔裟斗まさとのどんなキックより鋭かったと思う……」

プロのキックボクサーを遥かに超える蹴りの威力には胡乱な表情になって、三匹は戦慄する。

「そっ……そんなに……」

「寝てる奴がそんな技を使ってたまるか」

「本当なんだよ~!」

と閻魔は騒ぐから、うるさいったらありゃしない。

「それにあのコ、結構起爆型だからなかなか起きないかも……」

「オイ、シロ、起こして来いよ」

ルリオが言うと、シロは嫌そうに眉をしかめた。

「えーー、なんで俺?」

「いいじゃん。お前、鬼灯様大好きだろ?あと様も。ついでに、俺も様好きだ」

「ルリオずるい!俺だって様好きなのに!」

「俺にも言わせてよー!様、好きー!」

シロは彼女の足元ですりすりしてくる。

自分の愛らしさを武器にしてアピールとは……侮れない。

「そこで争奪戦になられても……まぁ、気持ちは嬉しいよ」

様大好き』宣言する動物達の会話に困り顔の

その後ろでは、閻魔が部下の彼女に囲む三匹を羨ましそうに眺めていた。

「シロ君達ばかりズルい!ワシだって鬼灯君が休みだから、ちゃんに思いきり甘える予定だったのに!」

心優しい第二補佐官との仕事を楽しみにしていた閻魔の目から大粒の涙がこぼれる。

「泣いた!」

は怪訝な顔で考え込む。

鬼灯に比べれば、まだ閻魔との付き合いは短い。

これまで歩んできた人生が人格形成に大きな影響を及ぼすのは、間違いないだろう。

しかし、それを考えても閻魔の場合はどこか腑に落ちない。


――千年も生きて、なんて子どもっぽい性格…。


千年単位で生きて、亡者を裁く閻魔大王なんて想像がつかない。

「なんかこう……アメリカンホームドラマみたいにフランクに行け。よくいるじゃん、ちょっとおバカなマスコット犬が」

ルリオが朝、アメリカのホームドラマを例えに出す。

飼い主の顔をベロベロ舐めて起こす犬みたいにやってみればと言えば、シロは困ったように顔をしかめた。

「そんなアットホームな展開、期待できるかなァ。それに俺、アメリカのバカ犬みたいにトイレの水とか飲まねーもん!一緒にしないで!」

「蛇口から垂れる水はよくなめてるじゃん」

「なんか気になるんだもん、アレは!」

すっかりノリノリな二匹とは裏腹に、柿助は顔を青ざめて止めようとする。

「なー……やめとこうよ。『触らぬ鬼神にタタリなし』って言うだろ?」

「『鬼神』じゃなくて『神』だろ?」

「どしたの?そんなに怯えて」

「ちょっとした出来心が身を滅ぼすこともあるんだぜ?」

真っ青な柿助の脳裏には、うっかり柿をカニの上に落とし、死なせた猿に敵討ちする物語(過去)がよみがえった。

「出来心で青い柿をカニにぶつけた600年前のお前の精神状態って何?」

「こりゃ、トラウマみたいだねー…」

「しかも栗と蜂はいいとして……何、臼って……どんな交友関係!?」

記憶の中に刻み込まれたトラウマが軋みをあげ、柿助は頭を抱えた。

「まァでも確かに、起こすなら慎重にだな」

「ソフトにだね」

「とりあえず、ちゃんもよければ行ってみたら?君なら大丈夫かもしれないし」

トラウマを思い出して顔色の悪い閻魔は、

「住み込みだから、部屋はこの奥」

と鬼灯の部屋を教える。

「…そういえば起こしたことないかも」

(ちょっと興味が沸いてきたぞ)

ふむ、と興味が湧いてきた

「ローキックには気を付けてね」

「あっ…じゃあ、閻魔様も…」

「ワシは行かないっ!絶対逝かないッッ!!」

シロの誘いに断固として拒否する閻魔。

キックボクサーより的確なローキックかまされたらそうもなるよね。

(これが終わったら、後で閻魔様にチョコあげよう……)

は三匹を引き連れて、鬼灯の部屋へと向かった。







が歩いていれば当然、周りの視線が飽きることなく向けられてきたが、いい加減に慣れてきてしまう。

まあいいか、という気分になるのだった。

関係者以外立入禁止の看板が掲げてある寄宿舎、その奥に鬼灯の部屋はあった。

様もここに住んでるの?」

「そーだよ。あたしの部屋は鬼灯さんの隣」

「じゃあ、二人は部屋を行き来する仲なのか?」

恋話コイバナにしたがるな、女子高生じゃあるまいし」

興味津々に話を聞く三匹に、は軽くあしらう。

「…………休日のイケメンを起こしにいくとか、とんだリア充」

今の自分の状況をつぶやいて小さく吹き出した直後、激しく後悔し始めた。

「セクハラ上司が休みだっていうから、今日一日は遅く起きて叱られずに平和に仕事しようっていうのに!」

好奇心に逆らえない自分の性格を嘆きつつ、逆さ鬼灯のある部屋に到着した。

ドアからは渦巻くような殺気が目に見えそうな勢いで溢れており、三匹は圧倒される。

「…なんか妙に威圧感があるな……」

「インディ・ジョーンズって、こんな気分なのかな……」

いつも訪れている部屋だからには感じ取れないのだが、彼らを萎縮させる何かがあるのだろう。

扉を少し開けて顔を出し、部屋を覗く。

部屋の前は何度も通ったことはあるが(ていうか隣だし)、中は初めてだ。

広さは多分同じくらい。

鬼灯の方が物は圧倒的に多い。

一人と三匹はそっと足を踏み入れる。

「…ホントだ。ちょっとの音じゃ、起きないんだな」

「うん」

「誰かが部屋に入るだけで起きそうな顔してるのにね。意外」

「なんとなく、ああいうタイプって敏感にすぐ起きそうだけどな。常に警戒態勢!みたいな」

「まァ別に『常に大ピンチジャック·スパロウ』じゃねーしな」

早速、好奇心を見出した彼らは物珍しそうに室内を見回し始めた。

先程の緊張感が嘘のようだ。

「フゥン……」

「難しそうな本がいっぱいだ」

「わぁ、生薬だ」

玩具やらぬいぐるみ、本棚を見上げながら感想を述べる動物達。

も珍しそうに辺りを観察する。

「あっ…クリスタルヒトシ君」

「アレ?それ鬼灯様のデスクにもあったような……」

視聴者プレゼントで当選した冒険服を着た人形を見つけ、首を傾げる。

「この前、オーストラリア旅行に当選した時にもらったんだよ」

「え、もしかして2個目!?すげっ……」

「なんだろ、コレ……ヘンなのー」

「それ、鬼灯さんの前で絶対に言っちゃいけないよ」

「そりゃ蘭鋳らんちゅうって金魚だよ」

「アハハ、これもランチュー?」

煌びやかなトロフィーを見上げて、シロは感心したように尾を一振りする。

「この辺はもらい物っぽいな」

「食玩がちょこちょこあるな」

「結構、収集癖があるタイプなんだな」

すると、布団の方からもぞっと動く気配がした。

さすがに起きたのかと思えば、ただ寝返りを打っただけだった。

「あ…なんだ、寝返り打っただけか……」

びくりとして様子を窺う柿助は、

「びっくりした…」

と胸を撫で下ろす。

「びっくりした~…あっ、頬に跡がついてる」

驚いたふうに言うに続いて、シロも鬼灯の頬についた跡を前足で差す。

「あっ、見て見て!アハハ、頬に跡ついてる」

「そうか。うつぶせにはなれないんだ」

「え、なんで?」

「そりゃあ、構造的に」

もしうつ伏せで寝たりしていたら、額の角が枕に刺さるので大変だ。

「鬼灯さん、着物の扱い酷過ぎ」

かけ布団に乗っている着物をそっと持ち上げ、丁寧に畳んで机の上に置く。

すると、三匹は少女をじっと見つめ、急に緩んだ笑顔を見せた。

「奥さんみたいだな」

「確かに!」

「ねぇねぇ、二人は部屋行き来する仲なんでしょ?だって、お堅い鬼灯様を惚れさせるなんて凄いよ!」

考える間に、動物達の方から凄い勢いで群がって来た。

(いや、凄いのはあたしじゃないんだけど……まあいい、あたしは他人に何を言われても気にしない性格だ。だけど、真正面から言われちゃ否定するしかないだろ)

は、徒労のようなやり取りを打ち切るために口を開く。

「やけに好きだね、その話題。流してよ、水と一緒に」

「流れてくるよ、桃と一緒に!」

「上手いな」
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