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幻寂SS

何度目の逢瀬か。特別な間柄ではないが、彼との時間は穏やかで、心地がいい。
「神宮寺先生は、小生をどこまで病気だとお思いですか?」
長い髪の隙間から顔を出す耳の先まで愛おしい。
「……幻太郎くん、君はどこも悪いところなんてないだろう?」
覗き込んでくる瞳は温かく、なんだか全てを受け入れてもらえるような心持ちになる。すっと細く筋の通った鼻は先端まで整っている。丸みのない頬に落ちる影は怪しげな色香を放つ。なんと危ういバランスの美しさだろう、それは壊れかけのような。
「虚言癖だって、立派な病気だと先生ならご存知でしょう?それとも二重人格か、もしかしたら統合失調症かもしれませんねぇ。何か目に見えないものが見えているのかもしれませんよ?」
にこりと笑って見せれば、彼もふっと微笑む。はにかみあうだけのこの甘美な時間が永遠になればいいのにと、思ってもいないことを願う。
開かれる唇はカサついているものの不思議と劣情を抱かせる。
「君のそれは、嘘というよりは…思い遣りなのではないかなと思うよ」
今、何と。
「まだ彼に面白い話をして、彼を笑わせるために作り話をしているんだろう?…それは単なる嘘というよりは、思い遣り、だよね」
誰かと、同じことを言うのだと思った。鮮やかなピンクの髪に、くるくる変わる表情を纏った彼を思い出す。そうだった、二人はもともと、仲間だったのだ。それも、ただの「仲間」ではなかった。
まさかこんなところで、こんな形で、思い知らされるなんて。
心の中に陰鬱な影が燻る。
その感情は、憎悪と呼ぶには美しすぎ、愛と呼ぶには醜すぎた。
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