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幻寂SS

静謐な質感があまりに、あんまりだ。
残酷な程の美しさと冷徹な優しさを持ってあなたはそっと手を差し出す。それは善人悪人の区別は愚か、人か人ならざるものかも関係なく、小生にも。
その手を、取ってしまった。
強く掴み、縋り、独占したいと声にならない悲鳴は眼から水滴となって零れ落ちた。それは小さな海。海に映る三日月は、薄雲に覆われていた。

真夜中にふと目が覚める。隣にはおおよそ人とは思えぬその身体が無防備に投げ出されている。寝息が聞こえるような、聞こえないような。確認しようとその顔に耳を近づければ命の証明が明るみになる。
一思いに、その証明を奪い去りたい。
あなたの博愛が、少しでもこちらに向けられているうちに、丁寧に剥製に出来たら。ねぇ貴方他にも『愛した人』が居たんでしょう。彼ら、彼女らはどこへ行ったのでしょうね。

「大っ嫌いだからさっ」
耳の下でくるりと跳ねる毛先には、呪いのような模様が浮かんでいる。均一に染めても、そうなってしまうのだそうだ。それが嘘か誠かなんて、瑣末なことですがね。
彼はあちらへこちらへと次々に、軽やかに舞う。それは蜜をせっせと集める蜂のように。そんな彼にもどこかに巣があるのでしょう。見失ってしまったふりをしてはいますが、小生はその場所を知っていますよ。
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