【個人賞】
「人の名前の後に賞って言葉をつけると、それっぽくならない?」
 彼女は笑いながら言った。
「山田幸太郎賞、アリス・ブラウン賞」
「なんだか文学や人権活動の賞に聞こえるね」
「私は赤井夕日賞で、君は海野葵賞」
「……なんか競馬の賞にも聞こえてきたぞ」
 賞の大安売りは安っぽくなるらしい。

【夏のどろぼー】
 泥棒が出た。きゅうり泥棒だ。
 泥棒は今まさに畑を駆け抜け、追っ手から逃げている。きゃあと悲鳴をあげながら。
 いや。悲鳴じゃない。泥棒は笑っているのだ。
 あ、またきゅうりをもいだ!
「それ、捕まえた!」
 後ろから抱きしめると、三歳の姪っ子は嬉しそうにきゅうりをかじり、きゃあと笑った。

【小さな信仰心、大きなご加護】
 道祖神の賽銭箱に十円玉を差し入れただけだった。それだけで異界に飲み込まれた。
 道祖神なのだろう、楽しげな女性が此方を見ている。
「交通安全を祈願しただけなんですが」
 僕が言うと神は笑って頷いた。後ろを指差され、振り向いて理解する。
 事故が起きていた。
 彼女は安全を守ってくれたのだ。

【生】
「生きるってどういう事?」
 中学生だった私は、叔父に尋ねた事がある。叔父は二秒だけ考えて
「死んでる途中ってこと」
 とだけ答えた。
「何それ」
 私の問いに、叔父は答えなかった。その叔父は、私が成人を迎える前に亡くなった。
 叔父の言葉は今でも分からない。分からないけれど、忘れもしない。
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