妖怪アリス
その日は一日ろくでもなかった。ウサギを追いかけもしないし穴に落ちることもないし扉だらけの空間で私をお食べなんてクッキーをかじることもなかった。
だがろくでもないことだけは事実だった。
燕尾坂をたらたらと上り、古ぼけた木製の電柱に一丁目という張り紙がされているのを見たアリスは、古民家の扉を無遠慮に開く。悲鳴のような甲高い音を立てて横に開いた戸は、二度と閉まらなかった。
「誰かおるかね」
アリスは言う。
金髪碧眼、燕尾坂の名に相応しく燕尾服を着た、逢魔ケ時のアリスは言う。
のそりと奥から姿を見せたのは河童だった。水キセルを吸っているハイカラな河童である。
「仕事なら、ねえぞ」
河童は忌々しげにアリスを見ると吐き捨てるように呟いた。アリスは無表情のまま河童の胸倉を掴み、もう一度問うた。
「誰かおるかね」
「……ちっ、ああ、分かった分かった! 青坊主と黒坊主と白坊主の茶会に出とくれ! 俺ぁあの茶会だけはどうしても好きになれねえんだ!」
「そうさ、お前はそういう奴だ。茶会に出るのが礼儀なのに代役も頼まず出席もしない。それが不義理だから私が来たんだ」
感謝したまえよ。
アリスは言った。
河童は忌々しげなままだった。
だがろくでもないことだけは事実だった。
燕尾坂をたらたらと上り、古ぼけた木製の電柱に一丁目という張り紙がされているのを見たアリスは、古民家の扉を無遠慮に開く。悲鳴のような甲高い音を立てて横に開いた戸は、二度と閉まらなかった。
「誰かおるかね」
アリスは言う。
金髪碧眼、燕尾坂の名に相応しく燕尾服を着た、逢魔ケ時のアリスは言う。
のそりと奥から姿を見せたのは河童だった。水キセルを吸っているハイカラな河童である。
「仕事なら、ねえぞ」
河童は忌々しげにアリスを見ると吐き捨てるように呟いた。アリスは無表情のまま河童の胸倉を掴み、もう一度問うた。
「誰かおるかね」
「……ちっ、ああ、分かった分かった! 青坊主と黒坊主と白坊主の茶会に出とくれ! 俺ぁあの茶会だけはどうしても好きになれねえんだ!」
「そうさ、お前はそういう奴だ。茶会に出るのが礼儀なのに代役も頼まず出席もしない。それが不義理だから私が来たんだ」
感謝したまえよ。
アリスは言った。
河童は忌々しげなままだった。
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