一話限りの話

 輝きの山、と呼ばれる雪山があった。昼でも夜でも眩しいほどに輝く雪山は、いつしか、登山で命を失った者たちの魂が集まり光っているのだという噂になっていた。
 そんな山の麓にある村に住む青年たちに、試練が課されることになった。国からである。
 輝きの山の正体を暴きだせ、というのだ。
 まずは力自慢の男が山を登った。男は帰って来なかった。雪山で輝く魂の一部になったのだ、と誰かが言った。
 次に知識を持つ男が山を登った。彼も帰って来ることはなかった。村の者たちは皆、雪山を恐れるようになった。
 勇気ある男が山へ行こうと腰を上げたときには、皆で引き止めた。
 輝きの山は依然として輝き続けていた。
 国からの試練はこなさなければならない。しかし、村の男をこれ以上失いたくはない。
 村人たちは考える。そして思いつく。
 いらない人間を送り出してしまおう、と。
 不必要な人間ならば、雪山から戻って来なくても支障はない。それに、もし輝きの山の正体を掴んで戻って来たのなら、その時点で村にとって必要な存在になるだろう。
 村人たちに提案に、それは傲慢だ、と異を唱える青年がいた。身寄りのない青年だった。
 人々が見逃す筈もない。
 青年は荷物を押し付けられ、雪山へ追い出されることになってしまった。

 輝く魂の一部になるか、無事に村へ戻って利益をもたらすか。二択しかない分岐点に、青年は言葉もなく山を登る。
 夜が来て、朝が来た。
 やがて最も輝きが強い場所まで到達した青年は、信じられないものを見た。
 水晶だ。
 水晶がいくつもいくつもそびえ立っていた。
 そして、家。
「よお、お前も来たのか」
 いなくなった筈の、力自慢の男が言う。
「生きていたのか」
 驚く青年に答えるのは、二番目に姿を消した、知識を持つ男だった。
「盆地になっている麓の村よりも、こちらの方が過ごしやすくてね」
 今は力自慢の男が運び出した水晶を、知識を持つ男が加工しているのだという。
「いつか麓の村にも知らせてやろう」
 力自慢の言葉に、身寄りのない青年は首を横に振った。
「あの村は不必要な人間を山へ追い立てるようになってしまった」
 真実を知る青年の言葉に、二人は深く悲しんだ。青年の言葉を裏付けるように、それからも多くの“不要な人間”はやって来た。
 彼らは村を作った。誰も追いやる必要のない村を。
 麓の村には誰も帰らなかった。
 輝きの山は依然として輝き続けていた。
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