ロケ弁、承ります

「先ほどはありがとうござった!」
 授業の終わりに、彼女から、お礼の印にとお握りを受け取った。綺麗な俵型をしていて、食べてみると、絶妙な塩加減が米の味を引き立てた。僕の握る米の塊、という名の塩の塊とは比べるのもおこがましい。
 お礼の仕方が少し変わっているが、嬉しい事に変わりはなかった。『変わっている』と言えば。
「芥川さんってさ」
 何でもない事のように切り出す。
「周りから、口調が変だって言われてるの、知ってる?」
「承知してござるよ」
「わ、分かってるのなら、やめようとは思わないの?」
 驚く程あっさりと返され、思わず食い下がるように問いかけてしまった。彼女は不思議そうに首を傾げる。
「皆が変だと思うからと言って、何故やめねばならぬ」
「え」
 真っ直ぐ見つめられ、言葉が詰まった。その問いに対する答えを僕は知らない。何かを言おうとするが言葉は一向に出て来ず、酸欠の金魚のようになってしまった。
「芥川」
 廊下から声がかかった。別のクラスの生徒がこちらを覗いていた。彼女は、おお、と、片手を挙げて答える。生徒は口を開いた。
「芥川おまえ、今日、剣道部に来るか?」
「うぬ」
 簡単に終わった会話。
「剣道部なんだ」
 彼女に、何とはなしに言うと、芥川さんは何度か頷いて、こちらを見た。
「太刀筋が上達せねば、見栄えが致さぬからな」
 ……何の話だろう。うまく飲み込めていないのが表情で伝わったのか、芥川さんは悪戯っぽく笑った。
「夢を現実にする為の第一歩でござる」
 芥川さんは誇らしそうに言う。夢とは進路の事だろうか。真剣さが伝わって来ると同時に、少しだけ彼女の事を羨ましく感じていた。

 ござる口調の彼女が、ジャンプの直後に横へ転がる、という奇妙な行動をとっているのを目撃したのは、翌日の昼休みの事だ。いつも通り屋上で昼食をとろうと、大して頑丈でもない扉を開けた向こう側。持参したらしい小型のDVDプレイヤーを睨み付けながら、軽やかとは言いがたい跳躍を真剣に繰り返していた。
「何、してるの」
 なんとも不思議な光景に、思わず尋ねていた。物凄く集中していたのか、声をかけられて、芥川さんはようやく、こちらに気付く。
「あ、ノボル殿、奇遇でござるなっ」
 明るく挨拶してくれる彼女に近づくと、プレイヤーに映っているものが何なのか、はっきりと分かった。時代劇だ。ただ妙な事に、プレイヤーを操作して、ちゃんばらのシーンのみを繰り返し再生しているようなのだ。
 僕の視線がプレイヤーに向かっているのに気付いたのか、芥川さんは動画の隅を指で示す。一人の忍者が、塀から飛び降りた直後に横へ転がり、フェードアウトしていった。それだけだった。
 その人がどうしたと言うんだろう、と、顔を上げる。彼女は、にんまりと笑っていた。
「拙者の父上でござるよ」
「お、お父さん!?」
 もう一度画面に目を向けたけれど、彼女のお父さんと思しき忍者は、出て来ない。芥川さんが電源を切ったので、ちゃんばら以降に、忍者の姿は影も形もないのだと分かった。
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