春の雨
村の老人たちが荒らされた神社の復興に力を尽くすのが見える。
死んだ若者たちは手厚く葬られたが、皆、彼らに対しては口を閉ざした。
無理もない話だ。行き過ぎたとはいえ、彼らが持っていた神社への偏見は、村人のほとんどがもっていたのだから。
直されていく神社を、ミコトは林の奥からこっそりと眺めていた。
「ここにご神体を置こう」
老人の一人が声をかける。若者たちが何かを抱えている。ミコトはよく目を凝らしてその様を見つめている。
女性をかたどった像のようだった。
祈りを捧げるように指を組んで、目を閉じている女性の像だ。
「……似てないなあ」
不満そうにミコトが呟いた。
「春ちゃんのつもりらしい。本物はもっと愛嬌がある顔をしているよ」
真っ白な大蛇が舌をちらりと出して小声でぼやく。
その隣で誰かが笑った。
「ご神体だなんて、神様みたい」
春だ。
彼女が、少しだけ透けた体で、蛇の隣に座っていた。
「神様だよ、春ちゃんは」
ミコトがこともなげに言うのに、春は困ったような顔をして首を振る。
「私はただの生贄で……」
「忘れているんだろう?」
「何を?」
「あの泉、本来は人が飛び込む場所じゃないんだよ。蛇神の妻になる蛇が入るための泉なんだ。そう、言っただろう、僕は」
春はぱちくりと目をしばたたかせた後、急に顔を赤くした。
え、え、と戸惑ったような声がする。
ミコトが蛇の姿のまま、くすりと笑い声をあげた。
「蛇は苦手かい?」
「今でも……少し」
「僕は苦手かい?」
「……いいえ」
答えた後、春は笑った。少しだけ大蛇に触れて、そして頭を預けるように、大蛇の体に身を寄せた。
頭を撫でてくれた時と同じ、ひやりとした感触がそこにあった。
惨劇があった村だが、今でもここは、夫婦の神によって見守られているという。
春の雨・終
死んだ若者たちは手厚く葬られたが、皆、彼らに対しては口を閉ざした。
無理もない話だ。行き過ぎたとはいえ、彼らが持っていた神社への偏見は、村人のほとんどがもっていたのだから。
直されていく神社を、ミコトは林の奥からこっそりと眺めていた。
「ここにご神体を置こう」
老人の一人が声をかける。若者たちが何かを抱えている。ミコトはよく目を凝らしてその様を見つめている。
女性をかたどった像のようだった。
祈りを捧げるように指を組んで、目を閉じている女性の像だ。
「……似てないなあ」
不満そうにミコトが呟いた。
「春ちゃんのつもりらしい。本物はもっと愛嬌がある顔をしているよ」
真っ白な大蛇が舌をちらりと出して小声でぼやく。
その隣で誰かが笑った。
「ご神体だなんて、神様みたい」
春だ。
彼女が、少しだけ透けた体で、蛇の隣に座っていた。
「神様だよ、春ちゃんは」
ミコトがこともなげに言うのに、春は困ったような顔をして首を振る。
「私はただの生贄で……」
「忘れているんだろう?」
「何を?」
「あの泉、本来は人が飛び込む場所じゃないんだよ。蛇神の妻になる蛇が入るための泉なんだ。そう、言っただろう、僕は」
春はぱちくりと目をしばたたかせた後、急に顔を赤くした。
え、え、と戸惑ったような声がする。
ミコトが蛇の姿のまま、くすりと笑い声をあげた。
「蛇は苦手かい?」
「今でも……少し」
「僕は苦手かい?」
「……いいえ」
答えた後、春は笑った。少しだけ大蛇に触れて、そして頭を預けるように、大蛇の体に身を寄せた。
頭を撫でてくれた時と同じ、ひやりとした感触がそこにあった。
惨劇があった村だが、今でもここは、夫婦の神によって見守られているという。
春の雨・終
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