D.O.G

「次のニュースです。毒団子による犬の怪死事件の犯人が、捕まりました」
 神妙な面持ちでニュースを見る陸と、陸の母。
 ここらで起こっていた毒団子事件が収束に向かっているらしい。
 団子の正体はネズミ駆除に使われるホウ酸団子だったのだという。犯人は仕事でのストレスを発散させるためにやった、と供述しているようだった。
「勝手な話よねえ」
 陸の母が怒り心頭に発している。
 陸も同じ気持ちだった。
 ストレスのはけ口として家族を殺された飼い主の無念さたるや、想像を絶するものだろう。人の気持ちが分からないのだ、この犯人は。
 そして、中学時代の同級生たちも。
 陸は立ち上がると、いつものように散歩のためのリードを手にとった。
「一心、おいで、散歩だよ」
「うお! ご主人、やる気満々だな! 最高だ! 今日のご主人はいつも以上に最高だ!」
「分かったから……落ち着いて、リードつけられない……一心、ストップ、ストップ」
 喜びで駆け回る一心。取り押さえようにも元気が良すぎて捕まえることができない陸。
 陸の母が、一人と一頭のじゃれあいを見て笑っていた。
「行って来ます」
「行ってらっしゃい」
 向かうはいつもの散歩コース。
 坂ノ下フレンドリー公園だ。
 住宅街を抜けて、街路樹の代わりに街灯がたっているゴミステーション前を通り抜ける。
 公園の手前に、誰かが立っていた。
 百合子だ。
「こんにちは!」
 先に手を振って挨拶したのは、陸のほうだった。
「こんにちは、陸さん! 一心くん!」
 駆け寄ってくる百合子の足元には、すっかり元気になったハナの姿がある。陸は嬉しそうにハナを撫でると、一心のことも撫でてやり、公園に向かった。
「あのな、ご主人。あの事件以来、俺は人気者みたいでな」
 百合子を励ましていた姿が格好良かった、という理由からか、公園の犬という犬にやたら声をかけられ友達が増えたのだという一心が、誇らしそうに話してくる。
 それなら此方は悲劇のヒロインとして注目の的だわ、とハナも負けじと対抗してくるのに、それは自慢にならないでしょうと百合子が苦言を呈していた。
 友人と家族たちのやり取りに、陸が笑う。
 笑って、まっすぐ前を向いた。
 もう恐れる心は和らいでいた。

「どんな人が飼い主なんだろうね、楽しみだ」

 完
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