D.O.G

「助けて、ください!」
 陸は声を張り上げて周囲の人間に助けを求めた。
「毒団子です! テレビで見たでしょう!? ハナが毒団子を食べてしまったんです! 誰か! 誰か病院の場所をしりませんか!」
 友人の愛犬を守らなければならない。
 一生懸命に声を嗄らし、陸が泣きそうな顔になりながらも飼い主たちに語りかける。語りと言うよりは叫びに近いが。陸は息を大きく吸い込んだ。
「助けてください! お願いします!」

「サンタナ動物病院ならすぐ近くよ!」

 中年女性が、答えてくれた。
「道順分かる? メモしてあげるから!」
「ワンちゃん、揺らさないであげてね。団子のことは私たちが通報しておくからね!」
 途端に沸き起こる親切な声、声、声。
 言葉を失う陸に手渡されたのは動物病院までの地図だ。
「あなた、大丈夫よ! この子が助けてくれるからね!」
 百合子の肩を叩き、そう元気付けてくれるご婦人までいた。
 人間は。
 醜いだけの生き物では、ないのだ。
「行こう、百合子さん!」
「うん……うん!」
 地図を片手に走り出す。苦しそうなハナを見て、できるだけ揺らさないように、しかしできるだけ急いだ。
 一心はなおも百合子を励まし続け、それが陸の力となっていた。


「団子を吐き出させていなかったら、今頃危なかったですね」
 獣医がにこやかに告げる。
 サンタナ動物病院のベッドの上で、ハナは安らかな寝息を立てていた。
 病院に飛び込んできた陸と百合子に驚きはしたものの、事情を説明された獣医はすぐに緊急の施術でハナを救ってくれたのだ。
「……ありがとう、ございました」
 陸は頭を下げた。
「ありがとう、は此方の台詞だよ」
 獣医は笑っていた。
「え?」
「君でしょう? 団子を吐かせてくれたのは……ほら、ズボンが汚れてる」
「……あ」
「ありがとうね」
 獣医の手が、陸の手を握った。暖かく、大きく、しっかりした手だった。
 陸の目に涙が浮かんでくる。そうだ、陸が救ったのだ。大切な友人の、大切な家族を救うことができたのだ。嬉しさを噛み締めていたその時だった。
 そっと抱きしめられたのは。
「……百合子、さん?」
「ありがとう……ありがとう、陸さん! 本当に……本当にありがとう!」
 こんなにも誰かに感謝されたのは初めてだ。
 じんわりと暖かくなる胸に戸惑いを感じながら、陸は一心に目を向ける。安心したように此方を見てくる、大切な家族を。
「よく頑張ったよ、一心」
「ご主人もな」
 笑みがこぼれた。
 陸の表情を見て、獣医も、百合子も微笑んでいた。
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