D.O.G

「い、いやぁぁー!」
 百合子が泣き叫ぶ。
 呆然とその様子を見ていた陸の視線が泳いだ。
 一心がハナ、ハナ、と心配そうに声をあげている。
 ハナに近づく。顔が青い。痙攣までしている。どういうことだ。何が起きた。泳いだままの視線を地面に向けたときだった。

 団子が、転がっている。

 ハナがかじったのだろう、三日月状に欠けた団子が二つ三つ、公園の大木の根元に転がっているではないか。
「……!!」
 陸は息を呑んだ。ここ数日のニュースで言っていたじゃないか。

 毒団子を食べて死んだ犬がいる、と。

「ハナ!! 百合子さん、ハナを貸して!!」
 陸は無理やりハナを受け取る。そして、指を二本、ハナの口に……喉に突っ込んだ!
 苦しさのあまり身もだえするハナ。ごめんな、でも、と指を突っ込み続け、喉を刺激することを止めない陸。
 ごぶっ、と何かがせり上がってくる音。
「今だ!」
 陸が指を勢い良く引き抜いた。
 びちゃびちゃ、と音を立てて、ハナの口から嘔吐物が飛び出してくる。陸のズボンを盛大に汚した内容物の中に、確かに団子の欠片があるのを、陸は見た。
「陸さん……ハナは……ハナは!?」
「……待ってて、何とかする! 何とかするから!」
 ざわざわと周囲の声が耳に付く。事件が起きたのだ、騒ぐのも仕方ない。
 陸は必死で一心の方を向いた。
「一心!」
「おう、ご主人!」
「百合子さんを励ましてあげて! 僕は、僕は……助けを呼んでくる!」
「任せろ!」
 汚れたズボンにも構わずに、陸は立ち上がった。
 そして。
 うろたえた。
 人、人、人、人、人。人の群れが、此方を見てひそひそと何かを囁きあっている。
 忘れていた。ここが公園のど真ん中だという事を。
 あのいじめの集団がフラッシュバックし、今までの勇気が途端に萎んでいくようだった。また笑われるのではないか。また蔑まれるのではないか。余計なお世話だったのではないか。
 どうすれば……どうすれば……。
 悲観的な想像に首を絞められていく。息ができない。自分が毒団子を食べたような気分だ。

「大丈夫だ! 百合子! 俺のご主人があんたたちを助けてくれる! 俺のご主人がいる!」

 力強い声に、弾かれたように後ろを見た。
 一心が百合子を励ましていた。
 そうだ。自分しかいない。
 陸しか、いないのだ。
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