ロケ弁、承ります

 八時を過ぎ、父さんと二人で調理場に残る。
 最初のうちはぼろぼろと崩れていたお握りが、父さんから繰り返し教わっているうちに、何とか形を保てるようになっていった。

 僕は机に突っ伏す。
 今日も早くに起き、基礎を学んだのだが、初めての五時起きと慣れない仕事の手伝いで、高校に着く頃にはすっかり疲れ果ててしまっていた。
「おはようございます」
 先生が教卓に立つ。
「忍法、遅刻しそうなのでヘッドスライディングの術……痛っ!」
 芥川さんが教室に突っ込み、教卓に頭を強打する。
「はい、アウト。それと、危ない事はやめなさい」
 一連のやり取りに笑いながら、立ち上がった。カバンから一枚の紙を取り出すと、先生に手渡す。第一志望の欄に、家業を継ぎます、と書いた調査票だ。
「お?」
 ふらふらと立ち上がった未来の時代劇役者は、調査票を見て声を出す。嬉しそうに、こちらを見て笑った。
「お互い、親の後を継ぐのは大変だと思うけど、頑張ろうね」
 彼女に笑いかけると、芥川さんは元気良く頷いた。

 弁当箱には、なんとか俵の形を保っている二つのお握り。昼休み、彼女を屋上に誘い、少し緊張しながら言う。
「この前よりうまくなったとは思うんだけど」
「ほう。いただきます」
 彼女が一つを口に放り込む。胸を高鳴らせて感想を待った。芥川さんは、一言。
「……無塩でござるか」
「え、嘘? 塩、減らしすぎちゃったかな」
 慌てて僕も一口食べてみた。そこで分かった。本当に味がしない。素材の味そのものを生かしましたって感じだ。
 しょげる僕を見て、彼女は笑って言った。
「こちらの方が、ずっと美味でござるけどな」
「そっか……良かった」
 ほっとして、笑い返す。続けて僕は、尊敬する友達に向かって言った。

「次は、これよりも美味しく作って来るよ」

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