ロケ弁、承ります
「ちょい役でござろう?」
得意げな笑みで彼女は言う。自分の父親を『ちょい役』だ等と酷い言い回しで呼んでいるが、それを自慢に思っているのだろう事は表情を見れば明白だった。
「忍者役、というのは、本当に出番が少ないのでござるよ、ノボル殿」
満面の笑みで語り出す、芥川さん。
「その上目立たぬ故、時代劇役者を志す者は皆、嫌がるのでござる。しかし、父上は仰った。ちょい役も、時代劇の世界を彩る大切な存在なのだ、と」
お父さんの言葉に感銘を受けたという彼女は、画面の隅で活躍する父親を尊敬しているのだと言う。僕も芥川さんも、父を尊敬している所は同じなのだ。だが、同じ気持ちだと分かったからこそ、彼女との差に心細さを覚えてしまう。
「拙者は決めたのでござる! 父上と同じ忍者役の道に進もうと。そして、いつかは父上と肩を並べ、時代劇の世界を支えていきたいのでござる」
彼女は迷わず同じ職に就こうと考え努力している、という大きな違いが二人の間にあったからだ。
「反対は、されなかったの?」
「され申したよ、最初の頃は。楽な仕事ではない、と父上にも止められたでござる」
「でも、諦めなかったんだね」
「無論! 役に立つかは分からぬが、車のCMに出て来る忍者の踊りは、完璧に覚えてござるよ。忍者映画は大抵見ているし、日光江戸村には何度も通ってござる!」
演じる事に慣れる為、口調も作っているし、画面栄えがするよう、太刀筋だって意識する。芥川さんは胸を張って、目一杯自慢した。
尊敬しているから、全力で追い付こうと思えるんだろう。周囲からどんなに冷たい目で見られても、気にせず努力を続ける芥川さん。時代劇でお父さんと共演するのだ、と語っている彼女が、格好良く思えて仕方がなかった。
自分もそうあれたら。芥川さんのように胸を張って突き進めたら、どんなに良いだろう。彼女を見ていると、自分が周囲の目を気にしすぎているような気がしてきた。
結局、中途半端だったのだ。芥川さんと比べたら僕なんて、何一つ努力をしていないのが明白だ。彼女は、本当に格好いい。許されるなら、真似をしたいくらいだ。
「後を継ぎたいのは、実は、僕も同じなんだ」
カバンから弁当箱を取り出す。弁当箱の蓋を開ければ、不細工に歪んだ白米の塊が二つ、今にも崩れそうになりながら、並んでいる。
「でも、これじゃあね。家は定食屋なんだけど、僕は物凄く料理が下手でさ……」
「いただきます」
「え?」
見せるだけのつもりだった筈が、お握りのようなものは、あっという間に彼女の手に摘ままれてしまった。持っているだけでも壊れていく悲惨な米の塊を、彼女は口に放り込む。
「ああっ」
なんて事を、と、慌ててしまった。芥川さんは少し顔を歪め、米を飲み込む。
「しょっぱ!」
直後の第一声が、これである。
「水、水水、ノボル殿、水! 塩分過多で死ぬるっ!」
分かっていた事だが、正直、傷ついた。彼女のようにあれたらと思ったが、やはり無理なようだ。
水筒からお茶を注いで渡せば、芥川さんはひったくるように受け取り、一気に飲み干してしまう。不味いものを食べさせてしまい、とても申し訳ない気持ちになった。
「口直しに玉子焼きはどう? 父さんと一緒に作ったから、まともな味がすると思うよ」
弁当箱を差し出して言うと、彼女は考えるかのような素振りで、玉子焼きを見た。一緒に、の部分が引っかかるんだろう。あんなに酷いものを食べた後なのだから、無理もない。
「あむっ」
と、思いきや。
迷ったのは少しの間だけで、食べる時の思い切りの良さは、先程となんら変わりがないのだった。
得意げな笑みで彼女は言う。自分の父親を『ちょい役』だ等と酷い言い回しで呼んでいるが、それを自慢に思っているのだろう事は表情を見れば明白だった。
「忍者役、というのは、本当に出番が少ないのでござるよ、ノボル殿」
満面の笑みで語り出す、芥川さん。
「その上目立たぬ故、時代劇役者を志す者は皆、嫌がるのでござる。しかし、父上は仰った。ちょい役も、時代劇の世界を彩る大切な存在なのだ、と」
お父さんの言葉に感銘を受けたという彼女は、画面の隅で活躍する父親を尊敬しているのだと言う。僕も芥川さんも、父を尊敬している所は同じなのだ。だが、同じ気持ちだと分かったからこそ、彼女との差に心細さを覚えてしまう。
「拙者は決めたのでござる! 父上と同じ忍者役の道に進もうと。そして、いつかは父上と肩を並べ、時代劇の世界を支えていきたいのでござる」
彼女は迷わず同じ職に就こうと考え努力している、という大きな違いが二人の間にあったからだ。
「反対は、されなかったの?」
「され申したよ、最初の頃は。楽な仕事ではない、と父上にも止められたでござる」
「でも、諦めなかったんだね」
「無論! 役に立つかは分からぬが、車のCMに出て来る忍者の踊りは、完璧に覚えてござるよ。忍者映画は大抵見ているし、日光江戸村には何度も通ってござる!」
演じる事に慣れる為、口調も作っているし、画面栄えがするよう、太刀筋だって意識する。芥川さんは胸を張って、目一杯自慢した。
尊敬しているから、全力で追い付こうと思えるんだろう。周囲からどんなに冷たい目で見られても、気にせず努力を続ける芥川さん。時代劇でお父さんと共演するのだ、と語っている彼女が、格好良く思えて仕方がなかった。
自分もそうあれたら。芥川さんのように胸を張って突き進めたら、どんなに良いだろう。彼女を見ていると、自分が周囲の目を気にしすぎているような気がしてきた。
結局、中途半端だったのだ。芥川さんと比べたら僕なんて、何一つ努力をしていないのが明白だ。彼女は、本当に格好いい。許されるなら、真似をしたいくらいだ。
「後を継ぎたいのは、実は、僕も同じなんだ」
カバンから弁当箱を取り出す。弁当箱の蓋を開ければ、不細工に歪んだ白米の塊が二つ、今にも崩れそうになりながら、並んでいる。
「でも、これじゃあね。家は定食屋なんだけど、僕は物凄く料理が下手でさ……」
「いただきます」
「え?」
見せるだけのつもりだった筈が、お握りのようなものは、あっという間に彼女の手に摘ままれてしまった。持っているだけでも壊れていく悲惨な米の塊を、彼女は口に放り込む。
「ああっ」
なんて事を、と、慌ててしまった。芥川さんは少し顔を歪め、米を飲み込む。
「しょっぱ!」
直後の第一声が、これである。
「水、水水、ノボル殿、水! 塩分過多で死ぬるっ!」
分かっていた事だが、正直、傷ついた。彼女のようにあれたらと思ったが、やはり無理なようだ。
水筒からお茶を注いで渡せば、芥川さんはひったくるように受け取り、一気に飲み干してしまう。不味いものを食べさせてしまい、とても申し訳ない気持ちになった。
「口直しに玉子焼きはどう? 父さんと一緒に作ったから、まともな味がすると思うよ」
弁当箱を差し出して言うと、彼女は考えるかのような素振りで、玉子焼きを見た。一緒に、の部分が引っかかるんだろう。あんなに酷いものを食べた後なのだから、無理もない。
「あむっ」
と、思いきや。
迷ったのは少しの間だけで、食べる時の思い切りの良さは、先程となんら変わりがないのだった。