『あなたと甘い日を…』
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「棘君! あの……明日……」
「おかか……こんぶ すじこ」
「え? 二日掛かる任務?」
「……しゃけ」
「そっか……」
棘君とお付き合いを始めて、初めてのバレンタイン。
二人共お休みの予定だったから、二人でゆっくり過ごそうねって約束をしていたのだが、彼の方に少し遠方での任務が入ってしまったらしい。常に人員不足だから仕方ないかと思いつつも、やっぱり残念だなと思っていると、彼は私の手を引くとぎゅうっとその腕に私を収めた。彼とこうして抱き合うのは安心するから大好きだし、明日まで会えないのだから私も棘君を充電させて貰おうと、いい匂いのする胸元に顔を埋めた。彼に擦り寄っていると、彼の紫水晶の様なキラキラした瞳と視線が交わり、どちらともなく顔を寄せると、いつ誰が通るかも分からない廊下でキスを交わした。彼の大きな手に後頭部を支えられ、何度か啄むようなキスを交わしていると、足りなくなったらしい彼に角度を変えて貪られた。いつも通り私の腰が砕けるまで。
「はっ、はっ……も、立ってられな……!」
「こんぶ」
「はっ、え? も、無理っ……!」
彼にもう一回と強請られたけど、これ以上されると本当に一人で歩けなくなりそうで、無理だと伝えるも聞いてくれる筈もなく、彼の綺麗な唇があと少しで重なるという所で彼のスマホが着信を知らせた。待たされてる補助監督さんごめんね? と思いながら彼を見ると、少し不服そうに綺麗な唇を尖らせていた。かわいい。
「ツナ……」
「任務の時間でしょ? 頑張って来てね?」
彼の両手をキュッと握り、背伸びをしてチュッと彼の唇にキスを送ると、彼は私にチュッと触れるだけのキスを返し、一度だけギュッと抱き締めると、早めに帰ってくることを伝えて任務へと出かけて行った。
✱✱✱
「はぁ……寂しいなぁ……」
「香葉ちゃん!」
「あ、坂元さんこんにちは」
彼とさっきまで重ねていた唇に触れながら、硝子さんの所に行こうととぼとぼと歩いていると、向かい側からスーツを着た男性に声を掛けられた。彼は補助監督の一人である坂元さんで、たまに私の送迎をしてくれている人だ。歳もそんなに離れていないので、こうして見掛けたら良く声を掛けてくれるんだけど、最近は何だか距離が近いし、スキンシップが多い気がするんだよね? 気のせいかな?
「あ、あの……いきなりだけど明日って予定ある?」
「明日ですか? 明日は特にないですけど……」
自分で言ってて哀しくなり俯いていると、さっき棘君と繋いだ手を彼にギュッと握られた。え? と思って顔を上げると、彼に明日デートしよう! と誘われた。棘君がいつ帰ってくるか分からないから寮には居たいし、どうしよう。
「あの、私……「明日、香葉先輩は私らとデートなんで無理でーす!!」」
「「え?」」
私と彼の間に入って引き離した野薔薇ちゃんと、私を背に庇うように立つ悠仁君と恵君がいて困惑していると、約束したじゃないですか! と私を見ながら言った彼女に、話合わせて! と目で訴えられ、コクンと彼女に頷くと、拗ねる彼女にごめんね? と謝罪した。私の返答に満足そうな顔をすると、野薔薇ちゃんは坂元さんへと声を掛けた。
「あ、そうだ! アンタさぁ? 知らないみたいだけど……」
「な、なにかな?」
「香葉先輩彼氏いるから」
残念ねぇ? うぷぷと悪い顔をして笑っている彼女に、もう……と呆れていると、私の相手を聞いた坂元さんに、追い討ちをかけるように一年生達の声がハモって彼の名前を口にしたのだった。
「え?! 誰?! 知ってる人?!」
「「「狗巻先輩」」」
「……狗巻、術師が彼氏……?」
「あ、コレ証拠」
呆然とする彼にトドメというように、何処で撮っていたのか先程の一部始終……つまりハグからのキスシーンが収められたスマホを見せると、んじゃ! と野薔薇ちゃんは私の腕と組んで、グイグイと引っ張って歩き出した。
「さ、香葉先輩! 明日の事決めましょ!」
「あ、え? 野薔薇ちゃん?! あれどこから撮ったの?! ねぇ!!」
「企業秘密でーす!」
彼女に引っ張られながら歩き出すも、悠仁君と恵君が来る気配はなく、後で合流するのかなと思っていると、しばらく歩いた先で野薔薇ちゃんに肩をガシッと掴まれた。
「はぁー……香葉先輩無防備すぎ……」
「え?」
「アイツ、坂元だっけ? 前から狙ってんのバレバレだったから警戒してて良かったわ……」
「え? そうなの?」
全然分からなかった。凄いね、野薔薇ちゃん! と彼女を褒めると、狗巻先輩が心配して私らに頼むのが分かった気がすると言われた。そんなに不用心じゃないもんと膨れていると、そういう事じゃないんですよと呆れられた。
「香葉、無事か?」
「真希ちゃん! おかえり! 無事って?」
「あ? お前いつも坂元ってヤツに言い寄られてたろ?」
「別に世間話するくらいだよ?」
「最近距離が近いし、スキンシップが多い気がするって言ってたじゃねぇか」
「真希さん、報告です! さっきも手を握られて、デートに誘われてました! 虎杖と伏黒も目撃してまぁす」
「「はい! 見ました!!」」
「野薔薇ちゃん! 悠仁君と恵君も!!」
悠仁君達はいつの間に合流したんだろうと思いながら、真希ちゃんにお前無防備だからなぁ? と額をツンツンしながら言われ、そんな事ないもん! と膨れていると、みんなに溜息を吐かれた。え? 全員無防備だと思うって事? 味方がいない。ツラい。
「あ、真希さん! 後で廊下でのゲロ甘ラブロマンス動画見せてあげますね!」
「マジか! 廊下で乳繰りあってたのかよ」
「真希ちゃん言い方!! 違うから!!」
「いやぁー……アレはコッチが恥ずかしくなるくらいの二人の世界でした!」
「「うんうん」」
「もぅヤダ……恥ずか死ぬ」
顔を隠して蹲っていると、パンダ君に大丈夫だったのか? と問われ、特に何も無かったと伝えると頭を撫でられ、お前もモテるからなぁ? と言われた。そうなの?
「女版憂太って感じだからなぁ、香葉は」
「え? パンダ君、どういう意味?」
「「天然タラシ」」
「「「あー……」」」
「一年生にも納得されたんだけど?! 確かに憂太君はそんな感じだけど私は違うもん!」
私の反論に、はいはい。と流して相手にしてくれないみんなに、ヒドイ! と拗ねているとスマホが震えた。電話みたいだ。任務かな? と表示を見ると憂太君で、慌ててスピーカーに変えて皆と話せるようにした。
「憂太君! 久しぶりだね! 元気?」
『うん、元気だよ? みんなは元気?』
「棘君は今任務でいないけど、真希ちゃんもパンダ君も一年生達も元気だよ?」
「憂太〜!」
「元気そうじゃねぇか」
『パンダ君! 真希さん! そっか……良かった! あ、そういえばさ? 言い寄ってる奴がいるって聞いたんだけど、どうなった?』
「……誰から聞いたの?」
『狗巻君とこの間コッチに来た五条先生と真希さんとパンダ君と伏黒君』
「……全員じゃん」
海外にいる憂太君にまで話さなくてもいいじゃん! って思ってここにいる三人を見ると視線を逸らされた。くそっ……! 彼から香葉ちゃんはほわほわしてるからねぇ? と笑いながら言われた。いやいや。ほわほわしてるの憂太君の方だよね? と返すと、そうかな? と返ってきたが、周りを見るとどんぐりの背比べだと言われた。
「真希ちゃん達にどんぐりの背比べだって言われたんだけど……」
『あはは! まぁ、早い話似た者同士って事かな?』
「なるほど。でも、憂太君と似てるのは嫌じゃないし、嬉しいよ? 私」
『本当? 僕も香葉ちゃんと似てるの嬉しいよ?』
「「「なるほど、確かに二人共天然タラシだ」」」
『あ、そろそろ行かなきゃ! じゃあ、また連絡するね!』
「無理しないでお仕事頑張ってね?」
『ありがとう! じゃあ、またね!』
ピッと通話を切ると、うんうんと頷く一年生と、浮気だな。棘に報告しよと話すパンダ君と真希ちゃんが視界に入った。みんな好き勝手言ってくれちゃって。もう怒ったもん!
「もう! みんなには明日チョコレートあげないから!!」
「「「「「えぇーー?!」」」」」
ーー翌日……
バレンタイン当日である二月十四日。
昨日あの後私のご機嫌を取りに来た面々の必死さが面白くて、早々に許してあげた。そして、今はみんなにチョコレートを配って歩いている最中だったりする。
「あ、硝子さーん!」
「山桜桃か? どうした?」
「ハッピーバレンタイン! いつもありがとうございます!」
「良いのか?」
「はい! 甘さ控えめのチョコレートにしたんで食べて下さいね!」
「あぁ、有難く貰うよ」
じゃあ、また! と手を振って歩き出して暫くすると、七海さんと五条先生を見つけた。彼らにもいつもお世話になっているからとお礼のチョコレートを手渡す。
「私まで頂いて良いんですか?」
「はい! コーヒーに合うチョコレートにしてありますから是非!」
「ねぇねぇ香葉! 僕のは?」
「五条先生のは甘さたっぷりのトリュフと生チョコです! 量もいっぱい作ってあるのでいっぱい食べて下さいね!」
「聞いた七海? 僕の生徒最高じゃない?」
「貴方のようなクソの元にこんないい子がいるのが奇跡ですね」
「じゃあ、真希ちゃん達にも渡しに行くのでまた!」
チョコレートを抱えて歩き出すと、一年生達の姿を見つけた。彼らにも渡しておかないと。
「野薔薇ちゃん、悠仁君、恵君!」
「香葉先輩!」
「ハッピーバレンタイン!」
「やったー! チョコレート!」
「ありがとうございます」
「ラッピングもかわいー!」
喜んでくれている一年生達をニコニコと眺めて、そろそろ真希ちゃん達の所に行くね! と手を振って離れた。みんな喜んでくれて嬉しいな! とニコニコ歩いていると、グッと腕を引かれ廊下の壁に押し付けられた。
「え? 坂元、さん……?」
「ずっと君を見てきたのに、何で俺じゃないんだ!」
「な、にを……」
「君が好きなんだ香葉ちゃん」
手首を一纏めに頭上で押さえ付けられ、足先が微かに付く位の位置で固定された。彼から顔を逸らしていると顎を掴まれ、それすら出来ないようにされてしまった。初めてではないけれど、それでも棘君以外とキスはしたくない。でも、このままだと彼に唇を奪われてしまう。じわりと涙が浮かび始めた頃、大好きな人の『離れろ!』の声で私の手首は解放され、坂元さんは棘君によって拘束された。
「高菜?!」
「棘、くん? 棘、君……棘君!」
「しゃけ」
私に駆け寄って抱き締めてくれた彼の胸元に顔を埋めて抱き着くと、走って戻って来てくれたんだろうと分かる程、彼の心拍数が上がっていた。それに、ありがとうと抱き着いたまま伝えると、彼もぎゅうっと抱き返してくれて大きな手で優しく髪を撫でられた。
「おい、香葉! 私のチョコレートはまだか? ってどうした?」
「何があった?」
「おかか こんぶ」
「はぁ?! 香葉に迫ってたから絞めただぁ?!」
「しゃけ」
「大丈夫か? 香葉」
「うん、棘君が助けてくれたから大丈夫……あ! これがパンダ君でこっちが真希ちゃんのね?」
「あぁ、サンキュー!」
「美味そうじゃん!」
ありがとな? とわしゃわしゃと髪を撫でると、二人はコイツ伊地知さんに引き渡すわと引き摺って廊下を歩いて行った。二人の背中を見送っていると、棘君に手を引かれて立ち上がり、そのまま歩き出すと、少しずつ気持ちが落ち着いてきた気がした。やっぱり棘君の傍がいい。彼と繋いだ手を指を絡める恋人繋ぎに変え、キュッと腕に抱き着いて甘えるように擦り寄った。
「あ、棘君のチョコレートは棘君の部屋の冷蔵庫に入れてあるから一緒に食べようね?」
「しゃけ」
✱✱✱
ーー夜……
夕飯を食べ、お風呂も済ませた私は、棘君の部屋へとお邪魔させて貰っていた。緊張するなぁ……。
「棘君、ハッピーバレンタイン!」
彼の前に置かれた折り畳みテーブルに、昨日作った生チョコとそれに合う紅茶を用意して隣に座ると、彼はその紫水晶のような綺麗な瞳をキラキラさせてスマホを構え、箱のまま、箱を半分開けて、完全に開けてとそれぞれを色んな角度で数枚撮り、気に入ったものが撮影出来たのか、満足そうに私に見せてきた。ん゛ん゛……私の彼氏が可愛すぎる。スマホをそのまま操作すると、先程撮影したものを添付して誰かに送り付けたようだった。
「誰に送ったの?」
「ん……」
彼にスマホの画面を見せられ、送り先を確認するように見ると、海外にいる憂太君だった。そういえば憂太君の分どうしよう? 先生に甘い物を献上して届けて貰おうかな? と思考を飛ばしていると、棘君にクイクイと袖を引かれた。
「ツナマヨ?」
「あ、ごめんね? 食べていいよ?」
「しゃけ!」
ピックに刺して生チョコを口にした彼は、モグモグと口を動かした。舌触りの滑らかさや甘さもいい感じに仕上がったから美味しいとは思うけど、どうだろうと思っていると、彼はとても気に入ったらしく、幸せそうにパクパクと食べ進めていった。その様子を見ているだけで、私も幸せな気持ちになるなとニコニコしていると、彼にピックに刺さった生チョコを差し出された。それをパクッと口内に招くと、柔らかく甘いチョコレートがゆっくりと口内の熱で溶けだしていくのを味わう。美味しく出来てると満足していると、棘君に唇を塞がれた。それに驚いていると、私の口内にヌルッとした感触が入り込み、今口に入れた生チョコを二人で味わうように舌を絡め合った。その食べ方を気に入ったらしい棘君に、生チョコがなくなるまでされた私は息も絶え絶えな状態だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……も、ギブ……」
「高菜?」
「はぁっ、大丈夫……」
「 …… 」
「! 棘君、今……んっ!」
照れを隠すように私の唇を塞いだ彼の唇はとても甘い味がした。
『……すき』
(おまけ)
「おい野薔薇、アイツらの乳繰り動画は?」
「あ、見ます?」
「なになに? 新作AV?」
「違うぞ悟。棘と香葉のラブロマンス動画」
「マジ?」
「じゃあ、再生!」
ーー再生終了……
「胸焼けした……」
「私もさっき生で見てたけど、砂糖吐きそう……」
「キスって気持ちいいのかな?」
「……さぁな」
「いいねぇー! 青春だねー! 野薔薇このデータ僕にも頂戴?」
「……何に使うわけ?」
「見守って来た憂太と硝子にも見せたいじゃん♡」
「……それだけ?」
「もちろん!」
✱✱✱✱
「硝子ー! 面白いもん持ってきたよー!」
「は? 面白いもん? またろくでもないもんだろ?」
「えー? 折角棘と香葉のラブロマンス動画手に入れたから持って来たのに……」
「早く出せ」
こうして野薔薇ちゃんから先生に渡った私と棘君の廊下での動画は、海外にいる憂太君にまで届けられ、棘君といるとみんなに弄られるようになったのはまた別の話……。
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