『大きくなったら番になって』
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「うん……完璧と言っても過言ではない」
「え? 本当?」
「アンタ、素材は良いんだからもっと色んな服着なさい?」
「はい……」
仕事終わりに同期と今度のフロイド君とのデート用の服を買う為に、ショッピングへとやって来た私は、彼女の着せ替え人形となっていた。その中で彼女が選んでくれ、私自身も可愛いと思える物を購入し、それに合わせた靴やアクセサリーも購入し、カフェで休憩を取っていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「小エビちゃん、フラフラじゃん! コッチのが軽いから交換ね?」
「え? ありがとうございます」
「どういたしまして~! ん? この匂い……クマノミちゃん?」
「え? クマノミ?」
「あ! やっぱりいたぁ♡ クマノミちゃん何してんの?」
私を見つけたフロイド君は隣の席へと腰を下ろすと、私を見つめながらニコニコと笑って話し掛けて来た。一緒に買い物に来ていたのだろう後輩の子は、私とフロイド君を見ては困った表情を浮かべていた。可哀想に。
「今日は服を新調したくてお買い物に来てたの。フロイド君はお使いの途中じゃなかったの? 後輩の子が困ってるわよ?」
「あ、自分は大丈夫ですが、お姉さんは先輩の彼女さんですか?」
緊張した表情でそう問い掛けた後輩の子に、首を振って否定するとフロイド君にも違うと言われていた。双方から違うと言われたその子は、どういう事だ? と困惑しているようで難しい表情をしていた。それを解消するべく声を発したのはフロイド君で、その子の頭を大きな手で一撫ですると、私の肩に腕を回してグッと引き寄せながら告げた言葉は何度か聞いたものだった。
「んふふ♡ クマノミちゃんはオレの番♡」
「番?!」
「そう〜! オレの命の恩人でもあるし、小エビちゃんといい勝負なくらいのお人好し~♡」
「もう……。初めまして。ポピーです。小エビちゃんでいいのかな?」
「初めまして、自分の名前はユウです。小エビ呼びはフロイド先輩だけです」
「なるほどね? ユウちゃんでいいのかな?」
「え?! 何で……」
男装してるのにと呟いたその言葉に、同期と二人で仕草と骨格で分かると笑いながら答えると、驚いた表情を浮かべていた。まぁ、男子高校生には分からない程度の仕草だから、バレないとは思うけどと伝えると安堵していたけど心配ではある。男子校に一人だろう女の子なので、何か欲しいものとか困った事があったら連絡して? と、同期と二人で彼女と連絡先を交換すると、お姉ちゃんが二人も出来て嬉しいです! と可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「ねぇ〜? オレだけ仲間外れにすんのぉ?」
「んふふ……フロイド君はいつでもユウちゃんと会えるんだからいいでしょ?」
「そうだけど! クマノミちゃんとはいつでも会えないじゃん!」
「連絡は取り合ってるじゃない」
「でも、会ってこうして話してギュってしてキス出来ないじゃん!」
ギュウギュウ私を抱き締めるフロイド君に苦笑していると、ユウちゃんの方に連絡が入ったようだった。その様子を眺めていると、ユウちゃんがフロイド君にそのスマホを手渡していた。何かあったんだろうか?
「なぁにアズール? オレ今クマノミちゃんと大事な話してたんだけど?」
『お前達が帰って来ないとラウンジが開けられないんだよ! 油売ってないでさっさと帰ってこい!!』
「えー……あ! じゃあ、クマノミちゃん連れて帰っていい?」
『クマノミでも何でもいいから今すぐ戻れ!!』
「はぁ~い♡」
通話を終了したらしいフロイド君からスマホを受け取ったユウちゃんは、それをポケットに仕舞って荷物を持つと、フロイド君に急ぎますよ? と声を掛けていた。それを見送ろうとしていたら、グッと彼に手を引かれて席から立たされた。ん? と困惑していると、今日買ったもののショッパーを彼が肩に掛け、行くよ? と私の手を引いて立ち上がるように促した。
「え? あの……え?」
「アズールが早く帰って来いって言ってたから急ぐよ?」
「いや、あの……私も?」
「アズールがクマノミちゃん連れて帰っても良いって言ったから♡ 一緒に帰ろうね?」
ニコニコと可愛い笑顔を向けられてしまっては行かないとは言えず、惚れた弱みかと諦めて分かったと了承を口にした。同期にごめんねと謝罪して、二人分のお金をテーブルに置くと、それを見た彼の肩に担がれるようにしてその場を後にした。自分の買い出しの荷物と私の荷物、更に私まで肩に担いでいても平然と歩いているフロイド君に、男の子なんだなぁと改めて思っていると、鏡の前で降ろされた。
「鏡?」
「そ! コレでオレ達の学校に帰るんだよぉ?」
お手をどうぞ? と私に差し出して来た彼の、白い手袋をした私よりも遥かに大きな手に、自分の手を乗せるとキュッと握られ、そのまま鏡の中へと足を踏み入れた。
「うっ……眩しいっ!」
「学園に到着〜! んじゃ、今度は寮に帰るからコッチの鏡に入ってね?」
「また鏡に入るの?!」
「ほらほら、アズールがうるせぇから早く!」
「あ、ちょっと!」
グッとフロイド君に背中を押され鏡の中へと入り、外へと出ると今度は海の中のような風景が眼前に広がっていた。その光景に驚きと感動で立ち尽くしていると、行くよ? とフロイド君に再び手を引かれた。辺りをキョロキョロと見渡して歩く私を咎めることなく、楽しい? と笑って聞いてくれる彼にうんと頷くと、そっかと嬉しそうに弾んだ声が返って来た。そうやって暫く歩いていると、目の前に綺麗な建物が現れた。
「とうちゃ~く!」
「先に入ってアズール先輩に戻った事伝えてきますね!」
「よろしく~」
パタパタと走って大きな扉を開けて中へと入っていたユウちゃんを見送っていると、フロイド君に手を引かれるようにして先程ユウちゃんが入っていった扉を潜った。ジェイドただいまと彼の兄弟であるジェイド君へ声を掛けると、抱えていた荷物を彼に預け、私の元へと戻って来た。そのまま仕事を始めるのかと思っていたらそうではないようで、私の手を引いて大きな水槽の前で立ち止まった。
「スゴイ大きいしスゴイ綺麗……」
「んふふ♡ 気に入った?」
「うん! ていうか、フロイド君お仕事しなくて良いの?」
「オレ今日はホールだし、掃除とかも終わってるから大丈夫! だからオープンまではこうしてクマノミちゃんと引っ付いてる事にしたの♡」
「引っ付いてる事にしたの♡ じゃありませんよ!! 手が空いてるならキッチンで仕込みの手伝いをしてきなさい! このままではオープンに間に合わない」
「え~……? オープンに間に合わないのはアズールのせいであってオレのせいじゃねぇもん」
私を後ろから抱き締めたまま、頭頂部に顎を乗せて拗ねたような口調で、目の前にいる銀髪のアズールと呼ばれた男の子に抗議をする彼に手を伸ばしてその髪を撫で、宥めるように手を動かすとアズール君に訝しげな顔をされた。そういえば初めましてだったなと思い直し、彼に向き直って自己紹介をすると、彼はその薄く綺麗な唇を開いて、自己紹介をしてくれた。フロイド君はというと、本当に修羅場なんだろう、普段の彼からは想像が出来ない程表情が抜け落ちた状態で、いつぞやの私のように包丁を片手にキッチンから出て来たジェイド君に連行されていった。
「改めましてポピーさん。その節はウチのウツボ共が大変お世話になったようで、お礼が遅くなってしまい申し訳ありません。アズール・アーシェングロットと申します。彼らが所属するオクタヴィネル寮寮長兼モストロ・ラウンジのオーナーを務めております」
「寮長さんでオーナーさん! すごいね!」
「ありがとうございます。ところでポピーさん、いつもフロイドがご迷惑をお掛けしているんではないですか?」
いきなりそう言われ、どうだろうかと彼の行動を振り返ると、確かに強引なところもあったりはするけれど、無理矢理どうこうしようとしているわけではないし、私も彼といるのは楽しかったりするから大丈夫だと首を振って否定を示した。そんな私の行動にそうですかとだけ答えると、彼は先程見惚れた大きな水槽の前の席へと案内してくれた。
「貴方はフロイドの命の恩人です。今日はお代の事は気にせず、お好きな物をご注文下さい」
「え?! そんな! 払うよ?」
「僕はそれでも構いませんが、アイツが貴方には一マドルたりとも払わせるつもりはないと思いますよ?」
では。とクスクス笑いながら席を立ったアズール君が向かった方に視線を向けると、籠いっぱいのジャガイモを抱えたフロイド君と目が合った。どうやら私とアズール君が何を話していたのか気になって仕方ないようで、彼に何の話してたの?! と問い詰めるも、さぁ? 何だと思います? と意地悪く笑って返され、欲しかった答えを貰えなかったフロイド君は、そのままの足で私の方へと向かうと、真相を解明しにやって来たのだった。
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