『大きくなったら番になって』
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「はぁ……」
「ポピーどうかしたの? 重い溜息吐いちゃって」
「この間帰ってる時にさ? 変な男に誘拐紛いの事されそうになって、それを前に保護してた人魚の男の子に助けられたんだけど……」
「だけど?」
「……キス、された。あと、保護してる時に『大きくなったら番になる』って約束しちゃって……」
「どうしようか悩んでるってことね?」
同期の子に相談すると、悩むって事は少なくても嫌いではないって事じゃない? と言われ、確かに嫌いではないし、むしろ好意を持ってはいると思う。でも、付き合うだとか番になるかと言われると、うんとは言えなかった。
「相手は高校生だし、年上に憧れる時期なのかなって思わなくもないっていうか……」
「なるほどね? ならさ? お友達ってスタンスで付き合えば? キスとかそういうのはされないように上手く躱してさ?」
「そう、だね……うん。そうする! ありがとう」
同期に相談して良かったと、機嫌良く在庫確認の仕事をしていると、店長に呼ばれて店の方に出ると、見知った顔がそこにいた。驚いて立ち尽くしていると、彼は嬉しそうに笑ってその長い腕を広げてこちらに歩み寄って来た。
「クマノミちゃん、久しぶりだね♡」
「フロイド君、学校は?」
「ちゃんと終わってるし、今日はアズールのお使いでジェイドと来てるよ?」
「そうなんだ? 買い物は終わったの?」
「今用意して貰ってる♡」
ギュッと私をその長い腕に収めて、はぁー……落ち着く♡ と擦り寄ってくる彼を、可愛いなと思いつつ撫でていると、店長に手伝いの為に呼んだんだがなと苦笑された。私もそのつもりだったけど、彼のこの甘え具合からして腕の中から出るのは無理だと思う。店長には早々に諦めて貰おうと口を開こうとしたら、落ち着いた声がフロイド君を嗜めた。
「フロイド。ポピーさんを困らせてはいけませんよ?」
「別に困らせてねぇし……」
「あなたが彼女を腕に閉じ込めている事で彼女の仕事の邪魔をしていてもですか?」
「……クマノミちゃん、オレ邪魔してる?」
向かい合うように私の向きを変えたフロイド君に、顔を覗き込むようにして問われ、どう返そうかなと思って黙っていると、彼はスッと私から腕を離した。え? と驚いて彼を見上げると、何も言わずそのままジェイド君の元に歩いて行くと、彼にギュッと抱き着いていた。
「おやおや」
「あの、フロイド君?」
「…………」
「フロイドの事は僕に任せて仕事にお戻り下さい」
「う、うん! フロイド君! なるべく早く終わらせて来るから待ってて?」
「! うん♡」
私の言葉に嬉しそうに笑って手を振ってくれたので、機嫌は直ったのかなと安堵すると、そのまま店長の手伝いを始めた。その間、フロイド君の視線を凄く感じてチラッと彼の方を見ると、ニコッと可愛い笑顔を向けられるので、気になるから見ないでとは言えなかった。それを見ていた同期に、アンタの事大好き♡ って感じじゃんと言われてしまい、やっぱりそう見えるのかと項垂れた。
「ほら、用意出来たぜ?」
「ありがとうございます」
「クマノミちゃん! 大人しく待ってたから褒めてー!」
「うん! エラいね?」
カウンターの席に座って待っていたフロイド君の、手触りのいい海を思わせる髪をよしよしと撫でると、彼の喉からキュウキュウと以前聞いた音が発せられ、首を傾げて彼を見ると真っ赤になっていた。隣のジェイド君は以前と同じように顔を逸らして肩を震わせているし、どういう事かと困惑していると、フロイド君が帰る! と立ち上がった。
「ん"ふっ、ふふっ、また来、ます……んふふ……」
「ジェイド笑いすぎ!!」
「それはフロイドが……んふふふ……」
「もう! クマノミちゃんまたね!」
「あ、うん? 気を付けてね?」
荷物を抱えて笑っているジェイド君を、ズルズルと引き摺りながら店から出たフロイド君の白い頬は、西日かさっきまでの照れからくるものか分からない程度に赤く染まっていた。
「ポピー」
「あ、お疲れ様!」
「ずっと見てて思ったけどさ? アンタ、あの子の事凄い好きじゃん」
「え……?」
同期に言われてそうなんだろうか? と首を傾げると、好きじゃなかったらあそこまで褒めたりしないし、まず抱き着く事を良しとはしないと言われ、確かにそうかもしれないと納得せざる得なかった。私がフロイド君を好き……? うーん? よく分からない。
「分からないから現状維持にするよ!」
「現状維持もいいけどさ? 一歩踏み出さないとあの子彼女出来ちゃうかもよ?」
「そうなったらそうなったでしょ? 彼が誰を選ぶかは彼の権利なんだから」
品出しと棚の整理をしながら同期にそう話していると、アンタはいつもそうやって恋を逃してるんだからね? と呆れられた。まぁ、彼女が心配してくれているのは分かるんだけど、恋というものがよく分からない私には、中々ハードルが高い。
「全く……イマドキの学生のがちゃんと恋してるわよ……」
「かもしれないねー?」
笑ってその話を終わらせようとしていると、彼女に尻ポケットに入れていたスマホを奪われた。何をするんだろう? と思っていると、画面をタップして何かを打ち込むと、私にはい。と返した。何だったんだ? と画面を見ると、フロイド君からのメッセージがあり、開くと行く!! と書かれていた。行くって何を書いたんだ? と少し遡ると、同期が彼に次の休みに出掛けないかとデートの約束を取り付けていた。彼からの返事は、嬉しさ全開なスタンプを連続で押して来る為、同期が書いたとは言い出せなくなってしまった。
「諦めてイケメン君、フロイド君だっけ? とデートして来なよ! はい、チケットあげる」
「これって今人気の水族館じゃ……」
「そうだよ? 狙ってた男と行こうと思ってたのにさ? 嫁いたから余ってるの!」
アンタにあげるからちゃんと楽しんできなよ? と、応援してくれる彼女に、ありがとうと笑って見せると、恋してる女の顔してると嬉しそうに言われた。
「今度デート行く時の服とか買いに行くわよ?」
「え? 普段着じゃダメなの?」
「アンタはパンツが多いからたまにはスカート穿きなさい?」
「スカートかぁ……」
「嫌いって訳じゃないんでしょ?」
「うん……ふわふわ、ヒラヒラしてるのを穿いてる人を見ると可愛いなぁって思うけど、似合わないしなぁって思っちゃうんだよね?」
私の言葉を聞いた同期に、絶対似合うの選ぶから任せなさい! と言い切られたので、フロイド君とのデート服のコーディネートは彼女に任せる事にして、私は目の前の仕事を片付ける為に集中したのだった。
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