『かけがえのない時間』
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「病院?」
「そうっス! 以前から霊の目撃情報は多数あったらしいんスけど、最近は見回りの看護師やら医者が霊安室に閉じ込められる事案が多発してるみたいで、みんな辞めていってるらしいっス」
「看護師さんだけじゃなくてお医者さんも?」
「閉じ込められるのは女医さんだけみたいっス。これ以上スタッフが減ると病院を閉鎖しないといけなくなるから何とかしてくれって事みたいっス」
「なるほど……」
新田さんから説明を受けた私達は、病院へと足を進め、キィーっという音を立てて扉を開くと中へと足を踏み入れた。全体的に嫌な感じは漂っているけれど、今のところはそれだけで特に呪霊が襲ってくる感じはない。入口だからかなともう少し奥に足を進めると、さっきの比ではない呪霊の群れがいた。
「うわー……いっぱいいるね……」
「そうですね」
「ある程度はいつもので祓えるだろうけど、無理そうなのはワンちゃん達にお願いするよ」
「玉犬をペットみたいに言うのやめて下さい」
「まぁ、とりあえず祓ってみるから後よろしく!」
腰のポーチから試験管を四本取り出し、指に挟んで通路の両サイドにいる呪霊の間を走り抜け、行き止まりである奥で立ち止まった。数体は残ってしまったけれど、殆どの呪霊は予想通り祓えたことに安堵する。これならワンちゃん達の負担もそんなにないかな? と思っていると、一体大きな呪霊がこちらに向かって突進してくるのが見えた。
「ユズ……」
「ふふふ♡ みじん切りにしてあげる♡」
肩から通路へと下りる間際に、柚葉はその姿を手の平サイズから長身の女性へと変えた。私が譲り受けてからは四年だけど、私がまだハイハイしていた頃からその姿を視認していた事もあって、彼女にはずっと可愛がって貰っていた。だからか、私に危険が迫ると手の平サイズから今の大きさに変わり、性格も豹変する。
「香葉、終わったらダッツね?」
「半分も食べれないクセに……まぁ、いいよ。棘君と約束あるし早く帰ろ」
刀を構えて呪霊の元へと駆け込む。その際にこちらにのびて来る攻撃を刀で薙ぎ払い、切り刻みながらその懐を目指す。呪霊も易々と倒されてくれる訳じゃないから、攻撃の手が緩む事はないけれど、ユズのお陰もあってその呪霊はそこまで苦労する事無く祓うことが出来た。
「香葉先輩、大丈夫ですか?」
「うん、この辺はもう大丈夫だろうから霊安室行こっか」
「そうですね」
目的地である霊安室へと向かう道中にいた呪霊を祓いながらの移動だったから、恵君と二人だったけれど、思ったよりも時間が掛かってしまった。さっさと目的の呪霊を祓ってしまおうと霊安室の扉に手を掛けたら、手首に何かが絡み付き、私はそのまま霊安室へと引き摺り込まれた。そして、ギリギリと手首を締め上げ、その痛みで柚葉との繋がりである刀をカランとその場に落としてしまった。どうしよう。手から離れた事で、ユズの体も手の平サイズに戻ってしまった。
「先輩! くっそ! 何で開かないんだよ!」
外から恵君がこちらに来ようと頑張ってくれてるのが聞こえるけれど、扉を開ける事が出来ないらしい。この呪霊のせいか? と、私の手首を頭上に一纏めにして壁に張り付け、グフグフと笑っている呪霊を視界に捉えた。そして、分かってしまった。あぁ、さっき祓ったのはこの病院の患者や看護師、医師である女性がセクハラや慰みものにされていた恨みから生まれたもので、この呪霊が病院の中の誰かに取り憑いてそれをさせていたんだろうと。なら、コレは本体じゃない。
「恵君! 病院の中に本体の呪霊が取り憑いた人がいるはず! 男性だと思うから探して祓って!」
「先輩は?!」
「私なら大丈夫だから! 早く行って!」
「分かりました!」
バタバタと走っていく足音が遠ざかり、ここからどうしたもんかと思案する。とりあえずこの状態を何とかしないといけない。そう思っていると、その呪霊はグフグフ笑いながら私に近寄り、ベロッと私の頬を舐めた。
「ひいっ! 気持ち悪い!」
「香葉!」
「オンナ、ワカイオンナダ……オイシソウ……」
「やだやだ、来る、なっ!」
「それ以上その子に近寄んな! 聞いてんのか!」
呪霊の顔面に蹴りを入れるも、上半身が上手く使えていないせいで威力は殆どなかったようで、そのまま足首を掴まれ脹脛から内腿を舌先で辿るように舐められた。その気持ち悪さにじわっと涙が浮かびそうになったけれど、棘君との約束があるから戻るんだと歯を食いしばって耐えた。
「ワカイオンナハイイナァ……ドコヲナメテモ……アマクテオイシイ……」
「私はっ、お前のっ、おやつじゃ、ないっ!」
呪霊が掴んでいるのと逆の足で踵落としをお見舞すると、ユズを呼んでコンタクトを外すように促した。この状況を打破するにはそれしかない。
「ユズ、私のコンタクト外して」
「分かった!」
小さな手には大きいだろうレンズを外したユズは、そのまま私の肩に乗った。グッと力を入れて壁に張り付けられていた手首を浮かせると、一気にバリッと壁から引き剥がした。これでやっと自由だと思っていると、そうはいかないというように呪霊がこちらに手を伸ばして来た。
「ニガサナイ……オマエハ、オデノ……」
「残念だけど何度も捕まってあげる程優しくないのよね、私。それに好きな人いるからあなたのものにはなれませーん!」
落とした刀を拾い構えると、こちらに伸ばした手を切り落とした。けれど、やはり本体じゃないから切った所で意味はないようで、直ぐに再生していた。恵君はまだなんだろうかと思っていると、目の前の呪霊が奇声を発しながら消え去っていくのが見え、祓えたんだとホッとしていると、最後の抵抗だったんだろう。私の左肩から右の腹に向かって手を振り下ろし、制服の前を切り裂いた。その後すぐ肩から腹にかけて焼けるような痛みが走り、私は意識を手放した。意識を手放す寸前に見たのは焦ったような顔をしたユズと恵君だった。
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