『かけがえのない時間』
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「硝子さん……私、棘君と顔を合わせられないです……」
硝子さんを手伝ってお仕事を教えて貰いながらそれらをこなし、終わった事を告げられると、お疲れ様の言葉と共に甘めのカフェオレを渡してくれた。それを受け取り、ゴクリと飲むとそのまま机に突っ伏した。
「さっき告白の一歩手前まで行ったんだったか? なら、そのままの勢いで言っちまえばいい(まぁ、言う前に狗巻に言われるだろうが)」
「無理ですよ! 棘君に嫌われてはないと思うけど、女の子としては見られてないだろうし……」
頬を机に付けてはぁーと長い溜息を吐き出す。最近は気付いたら彼が近くにいる事が増えた。でも、それと同じ位真希ちゃんの傍にいる事もあるから、やっぱり私の勘違いかもしれない。はぁー……溜息が止まらない。女の子の日だからかメンタルが不安定なんだろう。
「山桜桃、お前今アレか?」
「……バレました?」
「いつも明るいお前がそうなるのはアノ日だけだからな」
「なんか女の子の日は毎回ダメなんですよね……」
そう口にした私の頭を綺麗な指の手で撫でてくれる硝子さんにゴロゴロと懐いていると、保健室の扉がコンコンとノックされた。硝子さんと顔を見合わせていると、新田さんが失礼するっス! と入って来た。開けていいよなんてなんて言われてないのに開けちゃうんだ? と思っていると、彼女は私を視界に捉え、やっと見つけたっス! と口にした。どうやら私を探していたらしい。
「私に何か用ですか?」
「任務っス!」
「えっと……一緒に行く人は?」
棘君以外でお願いしたい。今彼に合うときっと任務どころではなくなってしまいそうだ。そんな私を知ってか知らずか、彼女は今回は伏黒君っスよ! と答えた。その回答にふぅと息を吐き出すと、硝子さんにそんなに身構えなくてもと笑われてしまった。
「だって!」
「もしかして、他の人だったら何か不都合があった感じっスか?」
「えっと……用意してきまーす!」
バタバタと走って保健室を出る。あんまり体調良くないけど任務か。まぁ、ペアを組むのが恵君だから大丈夫だろうと思うけど、行く前に薬は飲んでおかないといけないだろう。先輩が後輩である恵君の足を引っ張る訳にはいかない。部屋に入り、薬箱から自分で調合した薬を取り出して口に含み、ペットボトルの水で流し込んだ。うぇっ、にっが。味の改良をもう少ししないといけないと毎回飲む度に思っているけど、実際は中々時間がなくて、月に一度程度飲むだけの薬だしと、結局は後回しになり、毎回飲む度に改良する事を思い出すのだった。
「ユズ、今日一緒に来てくれる?」
「んー……おはよう香葉、もうそんな時期?」
「うん、あれから一か月くらい経ったよ?」
私には生理中のような体調が優れない時にだけ持って行く武器がある。憂太君や日下部先生と同じ刀だけど、少し違っているのは『柚葉』は手の平サイズに実体化することが出来る。実体化する際は、現在の持ち主と似た姿で出てくるんだけど、柚葉を見た恵君と真希ちゃん、それから五条先生には私そっくりだと言われた。お母さんと五条先生曰く、柚葉は呪いではなく、精霊や付喪神に近い存在らしい。そんな柚葉とは、初潮を迎えた際にお母さんから譲り受けてからの付き合いだ。
「ユズとの付き合いももう四年になるね?」
「あんなにちんちくりんだったのに、大きくなったものね? 主にどこがとは言わないけど」
「ちんちくりんじゃないもん! ちゃんと身長伸びたもん!」
「どれ位?」
「ゔっ……五ミリ」
「で?
「……三センチ」
「あんたはずっとちんちくりんのままね」
あはは! と笑うユズにもう! と怒って刀を腰に差すと、ユズは私の肩にぴょんと飛び乗り付いてきた。部屋を出て廊下を歩いていると、真希ちゃんと棘君が何やら話している所に遭遇した。紙を見てるから課題か何かかな?
「おー香葉! 今から任務か?」
「うん!」
「真希! 久しぶりね?」
「へぇ? 今日はユズも一緒か」
「高菜?」
私の肩にいる柚葉を驚いた表情で見る棘君に、この子は刀に憑いてる柚葉だよと説明すると、なるほどというように手をポンと叩いた。そして、よろしくというように指を差し出す彼を柚葉はジッと見つめ、なるほどね? と何かを察したように頷くと、彼と握手を交わし、真希ちゃんを呼んだ。
「真希、ちょっと……」
「あ? 何だよ」
二人で何の話だろうと思っていると、棘君と二人きりだという事に今更ながら気付き、どうしようと視線を彷徨わせた。さっきの事何にも聞いてこないけど、やっぱり気にするほどの事じゃないって思われてるのかな? えー……それはそれでツライ。
「……こんぶ ツナマヨ 高菜」
「え? 任務から帰ってきたら話があるの?」
「しゃけ」
「……分かった! 私も話したい事があるから待っててね?」
「しゃけ」
頷いてくれた彼に行って来るね? と告げ、真希ちゃんと話し込んでいる柚葉を掴んで、恵君と新田さんが待っているだろう駐車場へと向かいながら、真希ちゃんと何を話していたのかと問うた。
「ねぇ、真希ちゃんと何話してたの?」
「香葉の好きな子の確認してただけ」
「なっ?! 私今回ユズには言ってないのに何で?!」
「アンタと私の付き合いよ? 分かるに決まってるじゃない。さっきの呪言師の子でしょ?」
「……はい」
観念して白状すると、まぁ、頑張んなさいな! と頭をぽふぽふとその小さな手で撫でられた。過去に私が好きになった人について話すと、決まってユズは『その男はやめときなさい』と真剣に止めて来たけれど、今回はそうじゃなかった。むしろ頑張れと言ってくれているという事は、彼の事はユズなりに気に入ってくれたのかもしれない。
「あ、やっと来たっスね! 香葉っち」
「新田さん、恵君お待たせ」
「あれ? 今日は刀っスか?」
「はい」
「あー! メグだ! 久しぶりだね! またおっきくなった?」
「お久しぶりです、柚葉さん。まぁ、多少は」
恵君の頬を小さな手でグリグリと触り倒すユズを捕まえて、新田さんの前に出すと、わ……手の平サイズの香葉っちっスねと呟き、よろしくっスと挨拶を交わしていた。
「んじゃ、そろそろ行くっスよ?」
「はーい」
車に乗り込み、ゆっくりと発進したそこから流れていく景色を眺め、蒼白い月が窓から見え綺麗だなとそれをぼんやり見つめていると、新田さんがそういえばと思い出したかのように口を開いた。
「月が綺麗ですねっていい言葉っスよね?」
「遠回しな愛の告白でしたっけ?」
「そうっス!」
「似たようなのを前に見た事ありますよ?」
「どんなの? 恵くん」
「星が綺麗ですねって言葉で、意味は二つあって『あなたに憧れています』と『あなたは私の想いを知らないでしょうね』だったと思います」
「片想いですって伝える為の言葉って感じっスね?」
「片想い……」
ボソッと呟いた私の言葉を聞いた新田さんに、香葉っち好きな人いるんスか?! と言われてしまった。うぅ……いるけどいると言っていいのか悩むな。
「この子の好きな子は呪言師の子よ?」
「ユズ!!」
「マジっスか?!」
「俺達も協力してるのでマジです」
「め、恵君!!」
「良いっスね! 青い春っスね」
羨ましいっスと言いながら車を走らせた彼女は、ある場所でそれを停車し、着いたと告げると私達を降りるように促した。
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