『かけがえのない時間』
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「お? 帰って来たな?」
「えっと……その……た、だいま……」
「……こんぶ」
夕飯のすき焼きの準備もあるからと、棘君と手を繋いだまま食堂に向かうと、私達が帰って来るのを待っていたのだろう皆がいた。私達の繋がれた手を見たパンダ君にお前達もしかして……? と言われ、その恥ずかしさから俯いていると、棘君がしゃけと肯定を口にしつつ、私と繋いでいない方の手でピースサインを作っていた。
「やっとかよ……」
「はぁー……長かったですね……」
「焦れったかったよなぁ? 傍から見てたら両想いなのに本人達は全然分かってねぇんだから」
「まぁまぁ。ちゃんとまとまったんだから良かったじゃねぇか」
な? とパンダ君に頭を撫でられたけれど、羞恥で熱を持ち、真っ赤になっている顔を上げれなくて俯いたままでいると、野薔薇ちゃんに香葉先輩お腹空いたぁと、テーブルに突っ伏すように頬を付けた状態で告げられた。それに直ぐに夕飯の用意するね? と告げてキッチンへと向かおうとしたら、棘君に繋いでいた手をギュッと握られ、離して貰えなかった。
「えっと……棘君?」
「…………」
手を握るだけで何かを言うでもなく、私を引き留める彼に首を傾げていると、それを見ていた真希ちゃんが、はははっ! と盛大に笑った。
「はー……棘、お前もそんな顔すんだな?」
「さっきまで香葉先輩独り占めしてたんだから良いでしょ?」
「おかか」
「うーん? あ、棘君が手伝ってくれたら一緒にいられるよ?」
「しゃけしゃけ」
「ふふ。じゃあ行こう」
手を繋いだまま彼とキッチンへと入ると、冷蔵庫から今日の夕飯に必要な物を棘君に取り出して貰い、私はそれをひたすら切ってトレーに乗せていった。この間の事もあるし、具材は多すぎるくらいでも良いかなと切っていると、食堂のテーブルではトランプで七並べで遊んでいるのだろう声が聞こえてきた。
「ちょっと! ハートの九止めてる奴誰よ!」
「出して欲しかったらお前が止めてるスペードの五を出すんだな」
「んだとゴラァァア?!」
ケンカに発展しそうでハラハラする会話だなと思いつつ作業していると、棘君がソワソワしている事に気付いた。みんなの楽しそうな会話が耳に届く度に、手を止めてそちらを見ている彼に苦笑する。楽しい事が好きな彼だからきっと混ざりたいんだろうな。彼のその気持ちを尊重しようと棘君の名前を呼ぶと、ハッとしたように私を見た。
「棘君、行ってきていいよ?」
「お、おかか!」
「別に遊びに行ったからって怒ったりしないから大丈夫だよ?」
棘君が持っていた白菜を彼の手から自分の方へと引き取りながらそう告げると、棘君はおかかと首を振って私から白菜を取り返すと、包丁を手にしてそれをザクザクと切り始めた。私が何も言わなくても、きっと遊びに行ったら真希ちゃん達に色々言われちゃうだろうし、棘君もそれが分かっているから行くのをやめたんだろう。遊びたいのを我慢して頑張ってくれている彼が、少しでも早くみんなと遊べるようにしなければと、私も準備する手を速めた。
「棘君ありがとう。準備終わったから遊んできていいよ?」
「しゃけ!」
「え? 私も行くの?」
「しゃけしゃけ」
私の手を引いてキッチンから出ると、みんなが遊んでいる所へと彼に連れられるまま向かったそこでは、さっきまで遊んでいたトランプではなく、身体を使ったツイスターゲームが始まろうとしていた。一年生三人と真希ちゃんがカラフルなマットの上に立っていて、パンダ君が審判になるらしい。確かにパンダ君が参戦すると中々厳しいかもしれないなと納得して様子を見ていると、本来なら5人のゲームだと二対二のチーム戦なのだが、彼らは個人戦で行くらしい。全員ヤル気満々なのはいいんだけど、大丈夫かな? と苦笑していると、真希ちゃんに名前を呼ばれた。
「香葉、最下位の罰ゲームと勝者への褒美考えとけよ! 」
「えぇっ?! 私が?!」
「あと、棘は負けたヤツとチェンジな!」
「しゃけしゃけ!」
パンダ君の横に陣取ると、彼の手がルーレットをクルクルと回し、ゆっくりと静止した針が示した色は右手で赤。どうなるんだろうかと、動き出した各自を見つめながら、そろそろ野菜を煮詰めようかとテーブルにコンロを設置した。その後も流石普段から鍛えてるだけあって、みんな危なげなくゲームは続いていた。
「くっ……! 腕が、プルプルす、るっ……!」
「そうか? 全然大丈夫だぜ?」
「か弱い乙女とっ、筋肉ダルマのっ、アンタを一緒にっ、すんなっ!! パンダ先輩早く次!!」
「へいへい」
野薔薇ちゃんの腕が限界を迎えそうになっているけど大丈夫かなと、ハラハラしながら見守っていると、左足で黄色と出た瞬間限界が来たらしい野薔薇ちゃんがベシャッとその場に倒れ込んだ。
「クッソー!! こんなん不公平だ!! 後で香葉先輩と二人で勝負する!!」
「あはは……お手柔らかにお願いします」
「棘、入れよ!」
「んじゃ、棘の分回すからちょっと待てよー」
パンダ君が回したルーレットは右足で緑。棘君が立ってるのがそこだから特に変化はない。次! 次! とウキウキしているのが分かるくらい楽しそうな棘君を見て、ふふっと笑ってすき焼き準備をしていると、野菜を入れている私に野薔薇ちゃんが良かったですね! と笑ってくれた。
「うん。色々とありがとうね? 皆が助けてくれなかったらもっと時間掛かってたと思うし、本当に感謝してます」
「どういたしまして! あ、今度女子だけで買い物行きましょ!」
「楽しそう! 行こう行こう!」
私達が買い物の話で盛り上がっていると、ツイスターゲーム側から声が上がった。何かあったのかな? とそちらを見ると、真希ちゃんが陣取る場所の下に棘君がいた。真希ちゃんが棘君に覆い被さっているような状態だったのだ。え? 羨ましいんだけど。少しでも動くと真希ちゃんのふかふかのおっぱいに顔が埋まりそうなその位置に、野薔薇ちゃんと二人でズルいと零していると、真希ちゃんに呆れられた。
「おい香葉。お前、自分の男が他の女の胸に顔埋めててもいいのかよ?」
「その辺の知らない人なら絶対嫌だけど、真希ちゃんとか野薔薇ちゃんなら別に大丈夫かなぁ? 真希ちゃんと野薔薇ちゃんが棘君とどうにかなるって思えないし、棘君を信じてるから」
「棘、香葉が懐の広い女で良かったな?」
「しゃけしゃけ! こんぶ ツナマヨ!」
棘君からの『そういう所も好き』発言に真っ赤になっていると、パンダ君にニヤニヤしながら、惚気てる奴らは放っておいて次行くぞーとルーレットを回された。棘君って見た目に反して男らしいところがあるのは知ってるし、そういう所も好きなんだけど、不意打ちはズルい。
「棘君ズルい……」
「何か香葉先輩、これから毎日真っ赤になってそうね?」
「そうなったら棘君のせいだもん……」
「狗巻先輩も伝え方が素直よね? 付き合う前とは真逆って感じ」
「あはは……素直な所は悠仁君とか憂太君とちょっと似てるかも?」
「虎杖はただのバカなのよ」
「そこが可愛いと思うけどね?」
皆のツイスターゲームを観戦中の野薔薇ちゃんと二人で、ゆっくりお茶を飲みながら話していると、急に手元から湯呑が消えた。それに首を傾げて辺りを探していると、五条先生に取られていた。野薔薇ちゃんは人のもん取るなよと眉間に皺を寄せていた。
「楽しそうな事してるね?」
「はい! 皆でツイスターゲーム中です」
「へぇ? 二人は見学?」
「私は夕飯の準備があるので見学中ですが、野薔薇ちゃんは一戦した後ですよ?」
「もしかして野薔薇早々に離脱したの? ウケる」
「うっさいわね! 私だって頑張ったし!」
「ふふふ。今は野薔薇ちゃんと交代で棘君が参戦中です」
すき焼き鍋をコンロに掛けて熱し、牛脂を鍋全体に馴染ませると、ねぎを焼いていく。いい香りがして来たら、野薔薇ちゃんと悠仁君が頑張って確保してくれた牛肉を焼いていく。うん、美味しそう。割り下を入れて弱火にすると、他の具材を入れて中火で煮込み始めた。もう一つのコンロにも同じように鍋をセットし、同じように具材を煮込んでいる間に、キッチンにある追加の野菜が入ったトレーを取りに行き、背を向けてあれとこれとと抱えていると、ツイスターゲームで遊んでいた筈のみんなが、すき焼き鍋の近くに集まっている事に気が付いた。まぁ、この匂いだと集まっちゃうかと苦笑し、みんなに手を洗ってくるように促すと、野薔薇ちゃんに手伝って貰いながら器などを全員分セットした。
「こんぶ」
「わっ! もう、棘君」
後からギュッと急に抱き締めてきた彼に、驚いて持っていた卵を落としそうになり、危ないでしょ? と彼を咎めると、特に気にした様子もなく引っ付いたままだった。そんな彼を気にする人は誰もおらず、各々席に着き始めた。え? ちょっとみんなスルーなの? 付き合う前はあんなに弄って来たのに? え? と困惑していると、真希ちゃんに卵が入っているボールを取られた。
「香葉、米は?」
「え? あ、炊いてあるよ? ご飯欲しい人いる?」
欲しい人に手を上げて貰ったら、野薔薇ちゃんと私以外の全員で、気付いたら五条先生と硝子さんも席に着いていた。いつの間に来たんだろう? 油断も隙もないな。っていうか、二人共仕事は良いんだろうか?
「仕事ならひと段落したから大丈夫だぞ?」
「僕もさっき片付けて来たから大丈夫」
「勝手に心を読まないで下さい!!」
「読んでないよ? 香葉は顔に出るから分かるだけ」
そんなに分かりやすいのだろうかと思いながら、自分の顔に触れていると、棘君に座るようにと手を引かれた。彼の隣に座る前に、ご飯が欲しいと言った人に順番に渡すと、棘君の隣に座って私もすき焼きを食べ始めた。うん、美味しい♡ とモグモグと口を動かしていると、五条先生に小動物みたいと笑われた。
「そんな事言うなら五条先生にはデザートあげませんからね?」
「えー! ヤダ! 機嫌直してよ香葉」
「……今度美味しいタルト買ってくれるなら考えます」
「折角なら食べに行こうよ? その日は僕とデートしよ?」
「おかか! ツナ いくら!」
「もー……棘ってばそんなに束縛したら香葉に嫌われちゃうぞ?」
棘君を揶揄うように話す五条先生に嘆息していると、硝子さんにバカは放っておいていいぞ? と言いながらお茶が入っていたコップを差し出された。そこにおかわりのお茶を注ぎ、未だに言い合いを繰り返している五条先生と棘君に苦笑するのだった。
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