『かけがえのない時間』
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「香葉、調子どうだ?」
「あ、パンダ君! 大分いいんだけど、硝子さんにはまだ軽めの運動位しか許して貰ってない」
「まぁ、そこまで深くなかったにしても、切り裂かれたんだからそうだろうな」
「あはは……早くみんなといっぱい訓練したり任務行ったりしたいんだけどなぁ……」
しょんぼりとしながらそう告げた私の頭をポンポンとすると、焦ってもいい事なんてねぇよとパンダ君に諭されてしまった。確かにその通りだけど、私が油断さえしなければ恵君や柚葉にあんな思いはさせなくて済んだだろうし、みんなにも心配させたりしなくて済んだ。特に棘君が心配して毎日保健室に通ってくれてたって硝子さんに聞いたし。好きな人に心配かけて、寝不足にさせたりして本当に何やってるんだろう。
「そういえば、棘が任務で二日程帰って来れないから花の水やり頼まれてたんだった」
「あ、私がやっとくよ? パンダ君この後一年生達と訓練でしょう?」
「悪いな、じゃあ頼む」
「うん! 頑張ってね?」
バイバイと手を振って、パンダ君から頼まれた棘君の代わりの水やりをしに花壇へと歩いていると、グラウンドに近付くにつれて一年生達の元気な声が耳に届き、ふふっと笑みが零れた。
「みんな元気だなぁ……」
「そうですね……」
「七海さん!」
「お久しぶりですね山桜桃さん」
「はい! お元気そうで良かったです!」
水やりをしながら窓越しに彼と話していると、怪我の具合はどうかと問われた。七海さんにも知られているとは恥ずかしい。五条先生辺りが話したのかな? 彼に大分良くなって軽い運動程度なら問題ない事を伝えると、無理はしないようにとポンポンとその大きな大人の手で撫でられた。かっこいいなぁ、七海さん。彼の方を見上げ、惚けて彼に撫でられた頭に手を当てていると、それを覚まさせるようにポケットに入れていたスマホが震えた。
「え? パンダ君? なに?」
彼からのメッセージを開くと、『香葉浮気か?(。-∀-)』と書かれていて、それに『違います!! 付き合ってないもん!!』と返すと、ポケットにスマホを仕舞った。結局あの後から棘君が忙しくて話す事が出来ずにいた。私が任務に行けない分、一年生を含めたみんなに任務が回っているのが分かっているから、本当に申し訳ない。よし! 今日はみんなの為に美味しい物作ろう! そう決めた私は、水やりが終わったじょうろを片付け、買い物バッグとお財布が入ったサコッシュを持つと、高専を出た。
***
「お仕事でお疲れなのに持って貰ってすいません」
「いえ。こんなに買い込むなら高専の人を呼んだ方が良かったんでは?」
「皆さん忙しいですからただの買い出しでそんな事出来ませんよ」
「はぁ……あなたはまだ完治したわけではないんですよ? 家入さんにも手伝って貰うように言われているでしょう?」
「あぅ……」
「……この材料で何を作るんですか?」
ガサッとスーパーの袋を少し掲げて問い掛けた七海さんに、怪我をしてからみんなに私の分の任務も任せてしまっているから、美味しい物を食べて貰おうと思ってと答えると、いいですねとフッと柔らかく微笑んでくれた。
「七海さんも良かったら一緒にどうですか? 今日の任務はもう終わったんですよね?」
「終わりましたが、よろしいんですか?」
「はい! 七海さんが一緒だって知ったらきっと悠仁君がすごく喜ぶと思います!」
七海さん大好きな悠仁君の嬉しそうな顔が頭を過り、ふふっと笑っていると、私達の前にひょっこりと五条先生が現れた。ビックリするからいきなり現れるのはやめて欲しい。
「なーなみ! いつの間に幼妻貰ったの?」
「……私の事は何と言って貰っても構いませんが、そういう事は彼女に失礼なのでやめて下さい」
「私が七海さんみたいな素敵な人の相手だなんて……恐縮です」
「香葉僕は? 僕は?」
「先生はもう少し七海さんの態度を見習って下さい」
私の返答にえー! こんなナイスガイが旦那さんだったらって思わない? と、私の頭に顎を乗せてギュッと抱き締めるようにして凭れ掛かる先生に、縮むし重いからやめて下さいと抗議すると、だって香葉抱き心地いいもんと返って来た。後で硝子さん達にセクハラされたって言いに行こう。何なら学長に直談判しよう。
「それにしても随分大荷物だね?」
「私が任務行けない分みんなが頑張ってくれてるので、美味しい物食べて貰おうと思って買い込みました!」
「デザートはある?」
「ありますよ? フルーツポンチとプリンを作ります」
「いいねぇ! よし! 早く帰ろう!」
「え?」
そう言うと七海さんと私から離れ、ポケットからスマホを取り出し、ポチポチと操作すると、それを耳へと当てた。そして、電話口の相手へとその綺麗な唇を開いて言葉を紡ぐのを見ていると、相手はどうやら伊地知さんのようだった。
「あ、伊地知? 今すぐ迎えに来て? は? そんなのほっとけよ。場所は送っとくから。んじゃ、一分以内ね? 遅刻したらマジビンタな」
「先生、せめて十分はあげないと来れないですよ」
「……君もあまり変わらない時間しか提示してませんよ」
「え? そうですか?」
「伊地知君も可哀想に……」
その後、急いで来てくれたのであろう伊地知さんにごめんなさいと謝罪すると、彼は汗をハンカチで拭きながら首を振り、車の後部座席のドアを開けてくれた。助手席には七海さんが座っていて、伊地知さんの後ろには私が座った。先生に座らせたら伊地知さんが何されるか分からないし。
「ねぇねぇ、香葉」
「はい。何ですか?」
「膝枕して?」
「え?! あの……」
「五条さん、いたいけな少女にそんな事を頼むなんて何を考えてるんですか。このまま警察に突き出してあげましょうか?」
「もぉー! 冗談じゃん! 七海はすーぐ本気にするんだから」
ねぇ? 香葉? と同意を求められたけれど、それにうんと簡単に頷いていいのだろうかと悩んだ。後でこの事も野薔薇ちゃんと真希ちゃんに相談しよう。あと、硝子さんにも。
「着きましたよ」
「伊地知さん、忙しいのに来てくれてありがとうございました! あ、これ温くなってるかもしれないけど貰って下さい」
「ありがとうございます」
送ってくれた伊地知さんにコーヒーのペットボトルを渡して見送り、七海さんと五条先生に袋を持って貰って食堂へと入ると、食材を冷蔵庫へと仕舞って、二人にお茶請けと飲み物を用意して手伝ってくれたお礼を述べた。
「山桜桃、私にもコーヒー」
「はい!」
「ちょっと硝子、僕の幼妻使うなよ」
「違います」
「ダッセ! フラれてやんの!」
ゲラゲラと笑う硝子さんにコーヒーを出すと、先生の奥さんは色んな意味で大変そうなんで嫌ですと丁重にお断りをしておいた。それに私がなりたいのは棘君のお嫁さんだし。まぁ、彼女にもなれてないから無理だろうとは思っているけれど。
「山桜桃がなりたいのは狗巻のお嫁さんだもんな?」
「しょ、硝子さん!!」
「まぁ、先に彼女にならねぇとな?」
「うぅっ……」
真っ赤になって俯いていると、大丈夫だよ。きっとうまく行くからと優しい手付きで硝子さんに撫でられながら言われ、保証はないはずなのに何でか本当に大丈夫な気がしたのだった。
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