『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
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「はぁ……どうしよう……このままだとフロイドに食べられる……」
錬金術の教室から出て、切れたインクをサムさんの所へ買いに行く為にリドル達と別れた私は、彼にもどうしたら良いかなと相談したのだが、彼は『嫌ならはっきり嫌だと伝えても良いと思うよ? どうするかの最終決定権は小鬼ちゃん、君が決めるんだから』と言われてしまった。確かにその通りではあるんだが、どうしたもんか。
「ティノ先輩?」
「そんな今にも死にそうな顔してどうしたんです?」
「エース君、デュース君……実はさっきの錬金術の授業でいい物が出来たんだけど、フロイドにご褒美欲しいって言われて……」
「「言われて?」」
どう言おうかと思案していると、二人に駆け寄るようにやってきた監督生ちゃんに何の話? と聞かれたので、さっきの話を再びすると、意を決してご褒美に私が欲しいと言われた事を告げた。私の言葉を聞いた三人は一瞬キョトンとしたが、三人共一応意味が分かっているようで、同じように悩んでくれていた。後輩を悩ませるとは先輩としてどうなんだと思わなくはないけれど、さすがに付き合ってもない人と〝そういう事〟をするのはいかがなもんかと思ってしまうわけで。最終的に自分で決めるにしても参考にするための意見位は欲しいと思うのが人だと思う。
「ティノ先輩はリーチ先輩と付き合って……?」
「ないよ?」
「ですよね……? でも、フロイド先輩はティノ先輩の事本気だしな……」
「え? 本気なの? 欲求不満だからとかじゃなくて?」
「「「…………」」」
私の言葉に三人が沈黙し、顔を見合わせたかと思うと嘆息して私を可哀想なものを見るような目で見て来た。え? 何でそんな顔するの?
「ティノ先輩……フロイド先輩はちゃんとティノ先輩の事好きですよ? 私ずっと相談受けてるんです。あのお出掛けした日も二人でいなくなった時に相談受けてたんですよ?」
「え……?」
「私とお揃いでワンピース買おうって試着したの覚えてますか?」
「うん……」
「あの時フロイド先輩ティノ先輩が試着室から出て来ても何も言わなかったでしょう? あれには理由があるんです。ワンピース着た先輩が可愛くて何も言えなかったんですって。買わずに棚に戻した先輩見てフロイド先輩しょげてたんですよ?」
「私、似合ってなかったから何も言わなかったんだとばっかり……」
あの日のフロイドの事を思い出すと、確かに常に私を気に掛けた行動をしてくれていたけれど、私がとんでもない思い違いをしていたせいで擦れ違っていたんだとようやく気付く事になった。申し訳ないというか、何というか思い込みって怖い。
「三人共ありがとう! フロイドの所行って来る! 今度お昼ご飯奢るから!」
「フロイド先輩ならさっき中庭でお昼寝してましたよ!」
「ありがとう! 行ってみる!」
廊下を走ってたらまたトレイン先生に怒られそうだけど、今はそんな事よりもフロイドに会う方が重要だった。もしも、トレイン先生に反省文を書かされそうになったらフロイドも巻き込もうと決めて、彼がその長い肢体を転がしているであろう中庭へと向かった。
「はぁ……はぁ……いない? はぁ、もう移動しちゃったのかな?」
「誰がいないの? ホワイトシクリッドちゃん」
「え? フロイドが……ってフロイド!」
「なぁに? オレの事探してたの?」
中庭を探しても見当たらず、諦めるようにベンチへと腰掛けた私の頭上に影が差し、項垂れたまま問い掛けられた声に答えていると、それは今まさに探していた人物のフロイドの声であった。それに驚いて顔を上げると、彼は嬉しそうにニコニコと笑いながら私を見下ろし、チュッと走って来たから少し汗ばんでいる額にキスを落とした。
「フ、ロイド! 汗掻いてるから!」
「そんなの別に気になんねぇけど? で? ホワイトシクリッドちゃんオレに用があったんじゃないの?」
私が座っているベンチの隣に腰を下ろしながらそう問い掛ける彼に、どうやって切り出そうかと俯いたまま指を組んでもじもじとしていると、急にポスッと太腿が重くなった。え? と重くなった場所を見下ろすと、フロイドが私の膝に頭を乗せてこちらを見上げていた。彼の左右非対称の色をした瞳とバッチリ視線が合い、どうしようと固まっていると、サラッと私の髪が彼の長い指に一束掬われ、そのままチュッとそこにキスを落とされた。その動作がとても綺麗で、頬に熱が集まっていくのを感じながら彼の名前を呼んだ。
「フロイド……あの、私の勘違いというか思い込みで色々嫌な思いさせてゴメンね? さっき監督生ちゃんから四人でお出掛けした日の事聞いて、その……」
「……ホワイトシクリッドちゃん。今日の放課後空いてる?」
「え? あ、うん」
「じゃあ、今日授業が終わったらラウンジに来て? 不安だったら金魚ちゃんとか小エビちゃんと一緒でも良いから」
「うん、分かった」
それだけ私に伝えると、フロイドは楽しみにしてるね? と元々タレ目で柔らかく見える目をフッと細めて私の太腿から頭を退けると、授業始まるしそろそろ教室行こっかと私の手を引き、こちらの歩幅に合わせるようにゆったりとした足取りで校舎に向かって歩き出したのだった。
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