『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
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「ティノ? 帰ったのならただいま位お言いよ」
「っ……! リドルぅ~……」
「何かあったのかい?」
バタバタと寮の自室に駆け込もうとしていた私を呼び止めたリドルに、真っ赤な顔で半泣きのまま振り向くと、彼は一瞬驚いた表情を見せたが、私の手を引いて談話室へと向かって行った。その際に出会ったトレイ先輩とケイト先輩にも彼が声を掛けると、彼らは準備をしてくるとキッチンへと入っていった。
「さて、ティノ。外出は楽しめたかい?」
「うん……」
「じゃあ何でそんな顔をしているのか理由を聞いてもいいかい?」
「ゔっ……それは、あの……」
「なになに? ティノちゃん! フロイド君に帰り際にチュウでもされちゃった?」
「?! なっ、ん……で……」
「ありゃ? もしかして図星?」
監督生ちゃんを好きな筈のフロイドからキスをされ、驚きと困惑で彼を突き飛ばして走って逃げたのはついさっきの事で、そのまま寮へと続く鏡に逃げ込む際に、私を呼ぶジェイドの声がした気がしたけれど、そんな事を気にしている余裕なんてなく逃げ帰ってきたという次第だった。フロイドの気持ちも考えている事も分からなくて、色んな感情が綯交ぜになって部屋へ逃げ込もうとしていたらリドルに見つかり今に至るのだが、こうもあっさりとケイト先輩に言い当てられてしまうとは思わなかった。
「よし! 明日ボクがフロイドにどういうつもりなのか聞いて来るよ」
「それはやめといた方がいいと思うぞ?」
「どうしてだい? トレイ」
「俺達もティノが大事だからリドルの気持ちも分からんでもないんだが、これは当人達の問題だからな」
「ティノちゃん、フロイド君にどうしてキスされる事になったの?」
事の経緯をみんなに話すと、トレイ先輩とケイト先輩にはそりゃそうなるよなと苦笑された。私は思った事をフロイドに言っただけだったけれど、どうやらそれがまずかったらしい。だって監督生ちゃんが好きだと思ってたというか今でも思ってるけど、それなのに私にキスする意味が分からないし、誰でも良いのか? と思ったらイラっとしたと伝えると、頭を抱えられた。
「そこで自分の事が好きだからって方向に行かないのがティノちゃんだよねぇ~……?」
「だってありえないし」
「あはは……フロイドの奴も報われないな?」
「まぁ、明日もフロイドに何かされたらボクの所に来るといいよ。隣のクラスなわけだしね?」
「うん! ありがとうリドル」
皆に話を聞いて貰ったおかげでさっきよりも落ち着いた私は、トレイ先輩が用意してくれたお茶とお菓子に手を伸ばし、美味しいとそれを頬張った。そんな私を見て、話を聞いてくれた彼らも安堵したようにお茶会を開始した。
******
「あ……ホワイトシクリッドちゃん……」
「お、はよう……フロイド……」
「んぶふっ! ん、ふふ……」
「いきなり笑いだして何なんだ? お前は。ティノさんおはようございます」
「おはようアズール」
彼から視線を外しながら朝の挨拶を交わしていると、昨日の事をフロイドから聞いたのだろうジェイドが、笑いを耐え切れなかったらしく噴き出した。それを訝し気に見ながら私に挨拶をしてくれたアズールに、同じようにおはようと挨拶を返すと、フロイドに手を掴まれ死角となる廊下の隅へと連行された。昨日から良く私の手を握るなと思いつつ大人しく連行されていると、フロイドが私を見下ろしながら言い辛そうに口を開いた。
「……ホワイトシクリッドちゃん、昨日はその……ゴメンね?」
「いいよ? 気にしてないし」
「は? 気にしてないってどういう事?」
「そのままの意味だよ? 今度からはキスしたい時に監督生ちゃんが近くにいなかったからって私にキスなんてしちゃダメだよ?」
「ホワイトシクリッドちゃんは本気でそう思ってんの?」
「え? んんっ?! んっ、フロ……ン、っ……はぁっ……」
フロイドの問い掛けに答えようと口を開いた瞬間を見計らったように、彼の綺麗な唇に食べられるように私の唇は覆われた。顔を逸らそうと試みるが、彼の大きな手に後頭部を支えられ、腰も長く逞しい腕に絡め取られていた為、逃げる事は出来ず、されるがままだった。彼から解放された私は、ぐったりと彼の胸元に倒れ込むと、荒く乱れたままの呼吸を整えるべく肺を忙しなく動かした。
「何で……はぁっ、何でこんな……」
「ホワイトシクリッドちゃんが全然分かってねぇからじゃん!」
「え? 分かってない?」
「分かってねぇよ……オレずっとホワイトシクリッドちゃんにアピールしてたのに全然気付いてくれなかったじゃん……それどころか変な勘違いまでしてるし……」
彼の言葉にアピール? と首を傾げていると、ホワイトシクリッドちゃんがジェイドに伝えた事全部やったじゃん! と言われ、確かに継続してやってくれていたなと思い返し、そういえばそんな事もあったね? と伝えると、ムスッとした表情をされた。
「オレ頑張ってたのに全然意識してくれねぇし、ちょっと反応が変わったかもって喜んだら次の日から避けられるし……オレの事嫌い?」
「嫌いじゃないよ?」
「じゃあ何で? オレホワイトシクリッドちゃんに番になって欲しくていっぱい頑張ったのに、何で小エビちゃんの事ばっかりオレに言うの? オレが好きなのホワイトシクリッドちゃんだよ?」
「だって……フロイド前に監督生ちゃんと図書館近くの木のトコでキスしてたから……」
だから彼女が好きなんだろうと思った事を伝えると、あれはたまにジェイドがストレス発散の為にフロイドのフリをする日に起きた事らしい。だからあれはオレじゃなくてジェイドなの! と拗ねたように告げるフロイドに、勘違いだった事を謝罪するとぎゅうっと腕に閉じ込められた。いい匂いがするなぁと彼の腕の中に納まったままでいると、かぷっと頭頂部にある耳を甘噛みされた。
「ひやぁ?! 何で噛んだのっ?!」
「フワフワでいい匂いがすんね? オレこの匂い好き……」
「だからって耳噛まないで! 獣人は耳も尻尾も弱いんだから!」
「へぇ? こっちも弱いんだ?」
そう言いながら私のスカートの尻尾用の穴から出ている白く丸い尾を、その大きな手でそっと撫でるように触って来たのが分かり、ビクッと体を跳ねさせると同時に彼の頬を引っ叩いて、その場から逃げた。脱兎とはまさに私の事だなと頭の何処かで冷静に思いながら、フロイドにお尻を触られたんだと自覚すると、急激に恥ずかしくなってそのままリドルに泣きつきに行くと、憤慨したリドルに今日一日自分と一緒に居るようにと仰せつかった。憤慨した女王様というか、寮長様には逆らわない方が良い事をいつも見て分かっているので、彼の傍で一日過ごす事にした。自分の兄弟がセクハラをしたというのに、ジェイドはフロイドには困りましたね? と楽しそうに笑っていた。後でアズールに寮生の監督不行き届きだと慰謝料を請求してやろうと思っていると、トレイン先生がルチウス君と共に教室へとやって来た。普段は隣のクラスで授業を受けている私が、リドルの横で半泣きでいるのを視界に入れた先生は、何かあった事を察したのか特に何かを言う事なくそのまま授業が始まったのだった。
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