『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
——翌日早朝……
着替えやメイクを済ませ、後は髪型だけという所まで出掛ける準備をしていた私は、その髪型が中々上手くいかず、悪戦苦闘している間に刻一刻と集合時間が迫っていた。このままで行くか? と思ったけれど、やっぱりちゃんと可愛くした状態でお出掛けしたい。でも時間がないという状況に既に半泣きになっていると、出掛ける時間になっても中々出て来ない事を心配したトレイ先輩が部屋へと様子を見にやって来てくれた。そして、ブラシを持ったまま半泣きの私を連れて、そのままケイト先輩の所へと行ってくれ、髪を可愛くセットして貰う事が出来たのだった。彼らにありがとうとお礼を伝えると、鞄を掴んでバタバタと集合場所である鏡の前に急いだのだった。
「あ~♡ ホワイトシクリッドちゃん来たぁ~」
「はぁ……はぁ……おはよう! はぁ、遅くなっちゃって、はぁ、ごめ、んね?」
「ティノ先輩おはようございます! では、みんな揃ったんで行きましょうか?」
「ホワイトシクリッドちゃん、手繋ご?」
「え? 何で? 監督生ちゃんと繋ぎなよ」
フロイドに大きく綺麗な手を差し出され、首を傾げて彼を見上げながらそう返すと、ムッとした表情を浮かべていた。何でそんな顔をするんだろうと困惑していると、ジェイドと監督生ちゃんの方から『相変わらず前途多難ですねぇ……』『全然意識されてない感じですね』という苦笑交じりの会話が聞こえてきた。
*****
「ティノ先輩! コレどうですか?」
「可愛いね! 試着してみたら?」
「それならティノ先輩も色違いで着ませんか?」
「私も?」
「いいじゃん! 小エビちゃんがその色ならホワイトシクリッドちゃんはコッチの色のが似合いそう」
困惑したままフロイドに渡された服を抱え、押し込まれるようにして入った試着室でその服に腕を通す。肌触りも良く、スカート丈も丁度いいそのワンピースの裾を持ってくるりと回ると、ふわりと綺麗に広がってとても可愛かった。そうやって一人で鏡の前でくるくる回って楽しんでいると、カーテンの向こう側からフロイドの声でまだぁ? と、少し拗ねたような声がして慌ててカーテンを開けた。
「どう……かな?」
「ティノ先輩、すごく似合ってます! ね? フロイド先輩」
監督生ちゃんに問われたフロイドは、私を見たまま固まっており、そんな彼の様子に似合わなかったかとカーテンを閉めてさっさと着替えると、監督生ちゃんに買わないんですか? と問われたけど、誤魔化すように苦笑してそのまま棚に戻した。
「さっきのワンピース、とても似合ってましたが、買わなくて良かったんですか?」
「可愛かったけど、フロイドのあの反応からして思ったより似合わなかったんじゃないかなって思うし、いいや」
ジェイドと並んで歩きながら、休憩するためのカフェを探していると、さっきの服の話を振られたけど、普段可愛かったら可愛いと素直に褒めてくれる彼が、あんな風に何の反応も示さない時点で、似合わなかったんだろうと推測した事を伝えると、ジェイドは特に何かを言うでもなく苦笑してみせただけだった。そんなジェイドを不思議に思いつつ周りを見渡していると、後ろからフロイドと監督生ちゃんが何かを話しながら付いて来ているのが視界に入った。本当に仲がいいなと思いながら前に向き直り、ジェイドが見つけたイイ感じのカフェに入る事になった。
「ホワイトシクリッドちゃん、何食べる?」
「う~ん……全部美味しそうなんだけど、コレとコレで悩むなぁ……」
「じゃあ、オレと半分こしよ?」
「フロイドと? でも、フロイドは別で食べたいのあるんじゃないの?」
「特にないから大丈夫!」
ニコニコと私に向かってご機嫌に笑っている彼にそう? とだけ返して、それぞれが食べたい物を注文すると、それらが来るのをこの後どこに行くかと話しながら待った。
「お待たせいたしました」
「美味しそう……」
「いい匂いがしますね!」
「ジェイドは相変わらず良く食べるね?」
「燃費が悪いものでお恥ずかしい……」
んふふと唇に手を当てて恥ずかしそうに頬を染めたジェイドに、元気な証拠でいいじゃないと返すと、いただきますとみんなで手を合わせて食事を始めた。ふわトロ卵のオムライスとエビフライ、添えられていたパスタを半分取り皿に入れてフロイドに差し出すと、彼は好きなだけ食べてからで良かったのにと言いながら、私が差し出した取り皿を受け取った。
「美味しいものは共有した方が良いじゃん? それにお料理は温かい内に食べた方が美味しいし?」
「あは♡ ホワイトシクリッドちゃんらしいね?」
ありがと♡ と彼は取り皿に入っているそれらに手を付け始めた。そんな私達の様子を見ていたらしい監督生ちゃんとジェイドは、何でかニコニコと笑っていた。そんなに笑顔になる程彼らの食べている物は美味しいのだろうか? と、少し気になった私は監督生ちゃんに一口ちょうだい? と声を掛けた。私の言葉に良いですよ? とハンバーグを切り分けた彼女は、私に肉汁たっぷりで蕩けたチーズが乗ったハンバーグを差し出した。
「はい、あーん」
「あーん! ん……?! 美味しい!」
「ですよね? 肉汁がたっぷりで口の中で溢れ出るのが堪らないですよね?」
「うんうん!」
監督生ちゃんとハンバーグの美味しさを共有していると、フロイドが監督生ちゃんを小エビのくせにと拗ねた口調で咎めていた。あーんして貰ったのは私なんだから、私が怒られるなら分かるんだけど、何で監督生ちゃんが怒られているんだろう? 何でか分からなくて、ジェイドに声を掛けようと彼の方に振り向き口を開けたら、私の口の中に彼が食べていたのだろうハンバーグの付け合わせのポテトが差し込まれた。それをモグモグと咀嚼して、再び彼に問い掛けようとして口を開けると、今度は生クリームとジャムが絡められたふわふわのパンケーキが差し込まれた。
「んふふ……何だか餌付けしているようで楽しいですね」
「ゴクッ……もう! 美味しかったけど聞きたい事あったのに!」
「おや、そうだったんですか? 僕はてっきり食べ物を要求されているのかと……」
すみませんと反省した様子が微塵も感じられない彼の言葉に拗ねていると、ふとフロイドの声がしない事に気が付いた。彼が座っていた方を見るとそこに彼の姿はなく、隣に座っていた監督生ちゃんの姿もなかった。なるほど。私の知らない間に二人で抜けたのかと納得していると、ジェイドに聞きたい事と言うのは? と問われたけれど、フロイド達が二人きりになれたならそれでいいやと、忘れたからもういいやと返した。ジェイドとじゃれていて少し溶けてしまったパフェにスプーンを差し込み、アイスを掬って口に含むと、その冷たさと甘さに頬を緩めた。
「ティノさんは……フロイドの事がお嫌いですか?」
「……いきなり何?」
「以前よりもフロイドと関わる機会が減っているようですし、距離を取られているように見受けられるので……」
「嫌いじゃないよ? でも、好きな人がいるなら私の所に来ないでその人の所に行けばいいのになとは思うかな?」
「え……?」
私の言葉に心底驚いた表情を見せたジェイドに、フロイドが監督生ちゃんを好きな事聞いてないの? と彼に問い掛けると、彼はあぁ、なるほど。だからですかと一人で納得していた。どうやらフロイドはジェイドにも彼女の事を好きな事を教えていなかったらしい。ん? だとしたら私が言ってしまって良かったんだろうか? まぁいいや。
「ティノさんはどうしてフロイドが監督生さんを好きだと気付いたんですか?」
「随分前に図書館からの帰りに、中庭でフロイドと監督生ちゃんが一緒に居たのを見掛けて、声を掛けようかと思った時に、フロイドが彼女とキスしてるのを見たんだよね? だからそういう事なんだなって思ったんだけど……何でか私にばっかり構ってくるし、良く分からないよね」
パフェを食べ切り、少し冷めた紅茶を口に含むと、ごちそうさまでしたと手を合わせた。ジェイドと紅茶を飲み、そろそろ移動しようかと話してカフェから出ると、フロイドと監督生ちゃんが丁度戻ってきたところだったようで、次に行こうと話していた雑貨屋さんへと一緒に移動する為に合流した。その道中で監督生ちゃんにフロイドと二人きりになってどうだったかと聞いてみる事にした。
「フロイドと二人きりになってどうだった? 進展した?」
「え? 進展なんてないですよ?」
「え? そうなの?」
「そうですよ? それにさっき離れたのは、フロイド先輩の買い物に付き合わされただけです」
「へ、へぇ……」
彼女とキスまでしたのに付き合ってないとかなのかな? 人魚がどうかは分からないけど、監督生ちゃん的にはそういう事をするのは好きな人とって考えの子だっていうのは、この数日のメッセージのやり取りで分かっているからあの日見たアレは事故だったりとか? でもアレは絶対キスしてたしなぁ……。
「ティノ先輩? さっきから難しい顔してますけど、どうかしたんですか?」
「え? あ、ううん! 何でもない!」
「ティノ先輩がぼんやりしてるのをいい事に、フロイド先輩が先輩の髪を好きなように弄ってましたよ?」
「え?」
鏡を見ると監督生ちゃんの言う通り、朝とは違う髪型になっていたし、何処かのお姫様のように髪に小さな花やリボンが付けられていた。それを可愛いと思っていると、フロイドがホワイトシクリッドちゃん可愛いね? と上機嫌でこちらを見つめていた。この髪型でさっきのワンピースを着たら可愛いんだろうな。買ってないからそれは叶わないんだけど。
「そろそろ学園へ戻りましょうか」
「そうだね? そろそろ帰らないとリドルとトレイ先輩に怒られちゃう……」
「ウミガメ君ホワイトシクリッドちゃんの保護者みてぇ……」
「まぁ、あながち間違いでもない気はするね?」
フロイドの言葉を笑いながら肯定すると、彼は不服そうにその綺麗な唇を尖らせた。実際何だかんだと気に掛けてくれている彼は、頼れるお兄ちゃんなので保護者である。歯磨きに煩いけれど、あんなお兄ちゃんなら欲しかった。
「トレイ先輩みたいなお兄ちゃんなら欲しいかな? あと、監督生ちゃんみたいな妹も欲しい」
「自分もティノ先輩みたいなお姉ちゃん欲しいんでなって下さい!」
「本当? なら、今日から妹ね?」
「ホワイトシクリッドちゃん、オレは?」
「え? フロイドは友達かな?」
「えー?! そこは恋人って言うところじゃないの?!」
「ふふふ。ティノさん、僕は?」
「ジェイド? ジェイドも友達かな?」
そんな事を話しながら学園へと戻ると、ジェイドが監督生ちゃんを送って行くと言うので鏡の間で二人と別れた。私も寮へと帰ろうと、フロイドに手を振って歩き出そうとしたら手首を掴まれた。なに? と彼に向き直ると送って行くと言われ、彼の大きな手がギュッと私の手を握って来た。一瞬握り潰されるかと思ったけれどそんな事はなく、壊れ物を扱うかのように優しく握って来た事に驚きを隠せなかった。
「そんな優しく握って来るなんて思わなくてビックリだよ」
「メスは優しく扱うものって親父が言ってたからそうしてるだけ」
「そっか。その調子で監督生ちゃんにも優しくね?」
「ホワイトシクリッドちゃんは何でいつも小エビちゃんを出してくんの?」
「え? フロイドが監督生ちゃんを好きだからだけど?」
「は? 誰が言ったの?」
あれ? 何かすっごい怒ってるし、気付いたら壁ドンされてるんですけど? え? もしかして口に出したらダメだった? この逃げ場のない状況をどうしようかと視線を彷徨わせていると、唇に柔らかくしっとりとしたものが触れ、至近距離にあるフロイドのヘテロクロミアを視認した事で、彼に唇を塞がれているのだとようやく気付いたのだった。
.