『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
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あのキス現場を見てから、私はフロイドと関わらないようにと、授業が終わったらすぐ教室から逃げるように出たり、授業が始まるギリギリに教室へと戻り、彼の近くの席にならないようにして、彼と距離を置く日々を過ごしていた。そのせいか、日に日にフロイドの不機嫌さが表に現れ、アズールとジェイドだけじゃなく、クラスメイトにすら何とかしろと言われてしまった。
「何とかしろって言われてもなぁ……」
「ティノさん」
「ジェイド……」
「ご一緒しても?」
「……ダメって言っても座る気でしょ?」
「良くお分かりで」
ニコッと綺麗に笑って見せると私の隣に腰を下ろし、手に持っていたトレーには山盛りのパスタとハンバーガー、更にカレーライスが反対の手に乗せられていた。相変わらず良く食べるなと思いながら、自分の昼食のオムライスをスプーンで掬って食べていると、目の前にドカッと誰かが座ったのが分かった。誰だろうとそちらを見ると、私が避け続けているフロイドで、驚きの余り持っていたスプーンをカランと足元に落としてしまった。何で気付かなかったんだろう? 少し考えたら分かる事だったのに。ジェイドが来たって事はフロイドも来る可能性が高かったのに。
「ホワイトシクリッドちゃん……何でオレの事避けるの? オレ何かした?」
「……あの、わ、たし……図書館に行かなきゃ……!」
ガタッと立ち上がろうとした私の手首を掴み、引き留めるフロイドの顔を見ると、なんで? と不安そうにこちらを見つめるヘテロクロミアに、その手を振り払う事は出来ず、私は再びそのイスに腰を下ろした。それを見越していたように、ジェイドが私がさっき落としたスプーンではなく、新しいスプーンをこちらに差し出していた。それを受け取り、味のしないオムライスを食べ始めると、フロイドがで? さっきの答えは? と問い掛けた。
「……別に。会いたくなかっただけ」
「何で急にそんなんなっちゃったの? この間までそんな素振りなかったじゃん! 何かあるなら言えばいいじゃん!」
「……じゃあ、言うね?」
「なに?」
「もう私に構わないで。それと、監督生ちゃんとお幸せに」
「え……?」
味がしないまま食べ終わったオムライスの皿を持って立ち上がると、私の言葉に呆然として座っているフロイドを気にする事無く食堂を後にした。これでフロイドと関わる事もなくなるだろうと思っていたんだけど、そんな事はなかったようだ。監督生ちゃんが好きなんだったら、私に構わず彼女との時間を持てばいいのにと、私の近くに常にいる彼に呆れからくる溜息を零す事が増えた。
「また溜息……何なの? そんなにオレが傍にいるのが嫌?」
「……嫌とかじゃなくて、何で私の傍にいるの?」
「そんなのホワイトシクリッドちゃんといたいから」
「私といる時間を監督生ちゃんといる時間に使おうとか思わないの?」
「は? 何でそこで小エビちゃんが出てくんの?」
本当に心底分からないという表情を浮かべるフロイドに、困惑したのは私の方で、もしかしてフロイドは彼女の事が好きなのに、自分で気付いてないのでは? という考えが頭を過った。なるほど。それなら尚更彼女との時間を作るべきだろう。無自覚なら仕方ないので、私が一肌脱いで彼らの恋を成就させてあげようと決めた。そうと決まれば、後で早速監督生ちゃんの所へ行ってみよう。うんうんと一人頷いている私を、フロイドは頬杖を付きながら訝しむように見つめていたのだった。
*****
「あ、エース君!」
「ティノ先輩?! どうしたんスか?」
「監督生ちゃんいる?」
「監督生ー! ティノ先輩がお前に用事だってよ!」
「え?! すぐ行く!」
クラスの子と話していた監督生ちゃんは、お待たせしましたと申し訳なさそうにしながら私の元へと来てくれた。うん、いい子だ。それにかわいい。これならフロイドが好きになるのも分かる。一人でうんうん頷いていると、監督生ちゃんにあの? と遠慮がちに声を掛けられ、ハッとした。いけないいけない。本来の目的を忘れる所だった。彼女との接点を増やし、フロイドと徐々に二人きりにして、最終的にはちゃんとお付き合いをする所を見届けよう作戦を遂行しなければ。
「あのね? 私も監督生ちゃんと仲良くなりたくて……種族は違うけど女の子同士だし、お友達になってくれないかな?」
「はい!! こちらこそよろしくお願いします!!」
「本当?! なら連絡先教えて?」
「はい!」
彼女と連絡先を交換して、今度一緒にお買い物に行く予定を立てた。高校に入って初めての女の子のお友達に素直に喜んでいると、背後から伸びて来た長いものにギュッと体を拘束された。この感じは久しぶりだなと思っていると、ムスッとした表情の通り、不機嫌そうな声音で私を呼ぶフロイドがいた。
「ホワイトシクリッドちゃん何処行ってたの?」
「え? 一年生の教室。監督生ちゃんとお友達になって来たんだー♪」
「ふーん……?」
「もしかしてヤキモチ? 心配しなくてもフロイドから監督生ちゃん奪ったりしないから安心しなよ」
「は? だから何で小エビちゃんが出てくんの?」
「何でってフロイドのお気に入りでしょ? 監督生ちゃん」
違うの? と問い掛けると、彼は更にムスッとした表情で私を見つめると、パッとその長い腕を放した。解放された事にホッとしていると、ホワイトシクリッドちゃんの鈍感! と何でかディスられた。鈍感はフロイドの方では? と思いつつ、自寮で今日は何でもない日のパーティーがあるので急いで戻っていると、スマホにメッセージが入った。
「え? ジェイド? 何だろう? 『あまりフロイドをいじめないであげて下さい』?」
私は別にフロイドをいじめてるつもりはないし、何ならこれからは彼らの為に頑張ろうとしているのだ。いじめるなんて心外である。ジェイドにいじめてないと返すと、直ぐに返信が来た。そこには『そうですか。しかし、あなたに監督生さんの話ばかりされるとしょげていましたよ? フロイドよりも同性の監督生さんの方がお好みなんでしょうか?』と書かれていた。ジェイドは何を言っているんだろう? フロイドが監督生ちゃんを好きだって知らないのだろうか? 片割れであるジェイドに話していないとは考えにくいので、私をからかう為だろうと気にせず、スマホをポケットに仕舞うと、パーティーの準備をする為に駆け出した。
「ティノちゃん、フロイド君とはその後どう?」
「え? 普通ですよ? それに、私フロイドと監督生ちゃんの恋のキューピッドになる事に決めたんで!」
「「「え……?」」」
「フロイドってば監督生ちゃんの事好きなくせに、私とばっかりいるし、自分の気持ちに気付いてないっぽいんですよね? 私が監督生ちゃんとの時間作らなくて良いのかって聞いたら、『何でそこで小エビちゃんが出てくんの?』って不機嫌そうに言うんですよ? だから、私が二人の仲を取り持ってあげようと思ったんです!」
「うん……それはやめとこうか?」
「何でですか?」
「それは何ていうかフロイド先輩が可哀想っていうか……ねぇ? トレイ先輩」
「そうだな……? まぁ、そういうのは当人同士が頑張る事だろうから見守ってやったら良いんじゃないか?」
「なるほど……じゃあ、監督生ちゃんにフロイドの情報を、フロイドには監督生ちゃんの情報を流す程度にします」
私の宣言に苦笑している三人と、ほどほどにね? と釘をさすリドル。終始分かっていなさそうなデュース君とその日のお茶会を楽しく終え、寮に戻ってポケットからスマホを出すとメッセージが入っていた。
「明日のお買い物にフロイドとジェイドも来る?! まぁ、二人きりにするいい機会かもしれないな?」
監督生ちゃんとフロイドがいい感じにデートすれば、その分早くキューピッドのお役御免になるかもしれないし? そうしたら、私も心置きなく新しい恋を探せるかもしれないし? よし! 頑張らないと! グッと拳を握って気合を入れると、明日の服を選ぶためにクローゼットを開いた。
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