『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
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「あ、ホワイトシクリッドちゃん」
「あ、フロイド」
翌日、フロイドと廊下でばったり会った私が、いつものように追い掛けて来るか? と身構えたがそんなことはなく、彼は私の頭をポンポンと撫でるとクッキー美味しかったとだけ告げて歩き去った。体操着だったから飛行術の授業なのかな? と思いつつ彼を見送ると、私も錬金術の授業がある為移動を開始した。
「ご一緒しても?」
「あ、ジェイド」
「昨日は大変な目に遭ったようですね? フロイドから聞きました」
「あ……うん……」
実験の準備を二人でしながらジェイドからの質問に答えていると、フロイドの事をどう思うかという質問を投げ掛けられた。え? フロイドの事? どうっていうのはどういう意味だ? と首を傾げていると、オスとしてどうかという事ですと返って来た。
「オスとして……? う~ん……容姿も整ってるし、強いし、気分のムラはあっても基本的には穏やかだし、やれば何だって出来るし優良物件なんじゃないの?」
「では、あなたなら番になりますか?」
「私はならないけど、普通ならなるんじゃない? 実際海ではモテただろうし、陸でも一般公開日は囲まれてるじゃん」
「まぁ、確かにそうなんですが……ティノさんはどうしてならないんです?」
「どうしてって……」
実験を始めながら会話を続けていると、ジェイドにフロイドの番にならない理由を聞かれ、追い掛け回してくるのが怖いからと答えると、なるほどと納得された。その後は一緒に実験をして課題であった魔法薬を作り、クルーウェル先生に提出して合格を貰った私達は、授業終了のチャイムが鳴る前に片付けを始めた。ジェイドからは再び、フロイドの番にはどうしたらなってくれるのかという質問が投げ掛けられたので、追い掛け回さない・お菓子をくれる・一日三回以上撫でてくれるならと、彼が絶対途中で飽きてやらなくなるだろう事を条件として並べ立てた。
「そんな条件でよろしいんですか?」
「いいよ? フロイドの事だから三日も持たないだろうし」
「おやおや。随分と僕の片割れを甘く見てらっしゃるようですね? 後悔しても知りませんよ?」
「普段のフロイド見てたら分かる事だよ。長く見積もっても一週間が限界だと思うね」
「ふふふ。あなたが泣きついてくる日が楽しみですね」
「安心しなよ。そんな日は来ない」
なんて、啖呵を切ったあの日の自分を恨みたい。ジェイドとそんな会話をした翌日からフロイドは私の事を追い掛け回す事はなくなり、すれ違いざまや授業が同じになった時にその大きな手で沢山撫でてくれるようになった。それだけじゃなくて、私をラウンジに呼んでは新作の味見して? とスイーツをテーブルに置き、ホールへと出て行く事が増えた。
「なんか思ってた感じと違う……」
「ははは! それだけフロイドが本気だって事じゃないのか?」
「ティノちゃん、もう観念したら?」
「そうっスよ? それに、フロイド先輩の事嫌いってわけじゃないんでしょ? ティノ先輩」
「それはそうなんだけど……」
トレイ先輩からおかわりしたイチゴムースを受け取り、エース君の言葉に頷きながらだから困っているんじゃないかと返した。フロイドの事が嫌いであれば、絶対無理と突っぱねる事が出来た。でも、あの日助けて貰ってからというもの何だか変なのだ。
「何かね? 最近変なの……」
「変とはどんな風にだい?」
「フロイドが近くにいると落ち着かなくて、撫でられたり笑ってくれたら胸がギュッてして苦しくなるの……コレってなに? もしかして私どっか悪かったりする?」
私の問い掛けにリドル以外の三人は、驚いたような表情を浮かべて私を見つめていた。え? なに? やっぱり良くない病気とか? 私が不安そうな表情をしていたんだろう。ケイト先輩がそんな顔しなくても大丈夫だよ? と、私の頭を撫でながら笑ってくれた。大丈夫ってどういう事? と問うと、トレイ先輩がそれは『恋の病』ってやつだと教えてくれた。え? これがそうなの?
「初恋がフロイド先輩って何か色々大変そうですけどね……」
「でも、落ちちゃったもんは仕方なくない?」
「これから私どうしたら良いのかな……」
「いつも通りで良いんじゃないかい?」
「そうだね? 好きだって言えそうなら言ったら良いんだよ」
「うん……」
先輩達に頭を撫でながら頑張れと励まされ、頑張ってみると頷くと、もし仮に振られても慰めてあげるよと、みんなが優しく笑ってくれたので、私はいつも通り過ごすように努めた。
✱✱✱
「んふふー! やっと読めるー! あれ? フロイドと、あれは監督生ちゃん……?」
図書館に通い詰めて一ヶ月。ずっと読みたかった本がやっと返却されていて、それをすぐ手にして貸し出し窓口へ行くと手続きをした。やっと手に入った本を胸に抱えて、スキップをし出すんではないかと思う程浮かれながら歩いていると、中庭の一本の木の側でフロイドと監督生ちゃんが一緒にいるのを発見した。何してるんだろう? と、二人に声を掛けようとした私は見てしまった。二人がキスをしている所を。
「恋だって自覚した途端に失恋とか……ケイト先輩に慰めて貰おう……」
やっと読めると喜んでいたさっきまでの嬉しい気持ちはもう見る影もなくなっていて、走る気にもなれなくて俯いたままトボトボと歩いていた私を、誰かがグッと引いて留めた。誰だろうと見上げると、心配そうな表情をしているカリムがいた。
「カリム……」
「どうしたんだ? ティノ」
「何でもない……」
「……軽音部来いよ! ケイトもリリアもいるし、歌ったらスッキリするかもだろ?」
私の意見なんて聞いてくれなくて、グイグイと腕を引いて、軽音部の部室へと押し込むと、イスに座らされた。カリムのこういう強引さが今日はとても有難いような気がした。一人でいたらきっと泣いてしまっていたから。
「ティノちゃん?」
「ケイト先輩……好きっていう前に失恋しました」
「えっ……? 何で?! ウソでしょ?! 何かの間違いじゃない?」
「フロイドが監督生ちゃんとキスしてる所を見てしまっても、それは間違いだって言えますか?」
「そ、れは……」
「初恋は実らないものって本当なんですね。いい勉強になりました」
だからもう大丈夫ですと笑って見せると、リリアちゃんによしよしと撫でられた。彼の撫で方はとても優しくて、泣くつもりなんてなかったのに、自然と頬に涙が伝っていくのを感じた。
「ここにはわしらしかおらん。強がったりせずとも、気が済むまで泣けばよい」
「リリアちゃ、ふっ、うぅっ……うわぁぁあん!!」
「ティノはまだ若い。卒業して外の世界に出れば、フロイドよりも良い男が沢山おる。焦らず今は自分を磨けばよい」
「うん、ありがとう」
彼にギュッと抱き着いて落ち着くまでそのままでいると、部活の終了時間まで軽音部で過ごし、ケイト先輩と一緒にハーツラビュル寮へと戻ろうと歩いていると、前からフロイドが歩いて来るのが見えた。私を見つけて嬉しそうな表情を浮かべた彼から隠れるように、ケイト先輩の後ろに身を潜めると、彼はムッとした表情を見せた。
「ホワイトシクリッドちゃん、何で隠れるの?」
「……会いたくないから」
「何で? オレ何にもしてないと思うけど?」
「フロイド君、ティノちゃんちょっと体調良くなくて、早く寮に連れて帰ってあげたいから、ゴメンね?」
ケイト先輩に抱えられるようにしてその場を離れた私を、彼は何か言いたげに見つめていたけれど、もう関係ないと気付かない振りをして、ケイト先輩にありがとうございますと運んで貰いながらお礼を述べた。
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