『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
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「金魚ちゃ~ん!」
「……フロイド。今度は何だい?」
「あの、私がフロイドの利き手を怪我させちゃって……」
「だから、オレの手が治るまでホワイトシクリッドちゃん借りて良いよね? って聞きに来たの♡」
私の言葉に本当なのかという視線を向けるので、フロイドは包帯を巻かれた左手をリドルに見せた。彼が思っていたよりも重症だったその手を目の当たりにしたリドルは、全治どれ位なんだい? とフロイドではなく、私に問い掛けた。きっとフロイドに問い掛けると、ずっと私が帰って来なくなると踏んだのだろう。その問いに中度の捻挫らしいので、二週間との診断を受けている事を伝えると、そうかいと彼は一度その大きな瞳を閉じ、ゆっくりと開いた。
「フロイド。二週間でちゃんとティノをハーツラビュルへ帰すなら今回の提案を飲んでもいいよ」
「え~……二週間は短い! 三週間!」
「二週間だよ。保健医が完治に掛かる日数を二週間と言ったならそれ以上は認められない。もし、二週間という期限が守れないというのであれば、ボクはティノをキミの所へ行かせるわけにはいかない」
「え~……ホワイトシクリッドちゃんが来ないのはヤダ」
「なら、二週間だよ」
リドルの言葉に仕方ないと頷いたフロイドは、じゃあ今日から二週間ホワイトシクリッドちゃん借りるねぇ~♡ と私を右腕で軽々と小脇に抱えると、教室へと歩き出したのだった。
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「あの、えっと……そういう事なので、暫くお世話になります」
「はぁ……フロイドが怪我をしたというから何事かと思いましたが、そういう事なら分かりました」
「暫く楽しくなりそうですね?」
「ホワイトシクリッドちゃんはオレのだから、お前らちょっかいかけんなよ?」
「「「はいっ……!」」」
フロイドに凄まれた寮生たちは身を寄せ合って震えていた。その様子を見ながら、その恐怖分かるよと頷いていると、何してんの? と彼に覗き込むように顔を寄せられ、驚いた私はそのまま一歩後退った。その際バランスを崩してしまってジェイドに支えられたのだが、フロイドは眉間に皺を寄せ、その綺麗な唇をへの字に曲げてムスッとした表情を浮かべていた。
「ホワイトシクリッドちゃん!」
「はい?」
「部屋! 教えるから行くよ!」
「え? あ、待ってよフロイド!」
元々歩幅が違い過ぎる私とフロイドなので、彼がさっさと歩いて行ってしまうと、走っても追いつくのがやっとだった。そこでふと気付いた。いつもの追いかけっこは彼が手加減していたという事に。そうだよね? 足の長さも手の長さも違い過ぎるのに彼に捕まらない方がおかしい筈だった。むしろ何で今まで気付かなかったんだろう? 逃げる事に必死だったからと言ってしまえばそれで終わるんだけど。うーん?
「ホワイトシクリッドちゃん、何してんの? 本当に置いてくよ?」
「あ、待って!」
彼に駆け寄ると、ん。と彼は右手を差し出してきた。その手と彼を交互に見ていると、フロイドは恥ずかしくなってきたのかもういい! とその手を引っ込めようとしたので、慌ててギュッとその手を握った。前に繋いだ時も思ったけど、本当に大きい手だな。それに少しひんやりしてる。
「ホワイトシクリッドちゃんの手、熱いね?」
「獣人だからかな? フロイドは反対に少し冷たいね?」
「んー? 人魚ってみんなこんなもんだと思うけど」
「そうなの?」
「……ホワイトシクリッドちゃん。後でアズールとジェイドの体温も確認しようとか思ってないよね?」
「えっと……ダメ?」
「ダメ」
フロイドにダメと言われたけれど、気になるものは気になるから二人にコッソリお願いしてみようかな? と、フロイドと手を繋ぎながら彼の事をチラッと見ると、そんな事はお見通しだというように、にっこりと綺麗な表情で笑いながらダメだからね? と、しっかりと釘を刺されてしまったのだった。
「フロイドのケチ」
「ケチでも何でもいいでーす」
「アズール達なら別に幼馴染なんだからそんな心配する事ないじゃん! ジェイドだって監督生ちゃんっていう番がいるんだし」
「そういう事じゃないの!」
「えー……全然分かんない」
ムッと頬を膨らませていると、フグみてぇと左手の指でツンツンと頬を突かれた。そんな私を見兼ねたフロイドは、じゃあ例えばだけどと私が分かりやすいように例を挙げてくれた。
「じゃあ、そのジェイドの番である小エビちゃんと、オレが手を繋いでてもホワイトシクリッドちゃんは平気なの?」
「監督生ちゃんと? うーん……平気、かなぁ? 監督生ちゃんだし」
「じゃあ、一般公開日にラウンジに来たホワイトシクリッドちゃんが全く知らないメスとだったらどう?」
「え……? そ、れは……」
「それは?」
「……イ、ヤかも」
俯いてそう告げた私を、フロイドはやっと理解出来た? と、特に咎めるでもなく自分の腕の中に招くと、彼はそのまま私をギュッと抱き締めた。彼の腕の中でジッとしていると、フロイドは私の頭頂部にある耳に囁くように、言葉を落とした。
「ホワイトシクリッドちゃんは自分が知ってる奴なら平気かもしんないけど、オレは自分以外がホワイトシクリッドちゃんに触ってるとこなんて見たくねぇの」
「っ……!」
「分かったら返事は?」
「ゔっ……そんな声でそんなこと言うのズルい!!」
「へぇ? ホワイトシクリッドちゃんはこういう声が好きなんだ?」
「違っ……! そんな事言ってない!」
真っ赤になって否定していると、柱の陰からこちらの様子を窺っている人物に気付き、フロイドに彼は誰? と問い掛けると、私が指で示した方へと視線を向けた。フロイドが彼を視界に入れた途端、ビクッと彼も蛇に睨まれた蛙のように縮こまっていた。フロイド達は普段どれだけ威圧的なんだろうと、思わずにいられないその反応に呆れていると、私を腕に納めたまま何か用? と心底興味なさそうに彼に声を掛けていた。
「あ……フロイドさん達が中々戻ってこないので、寮長と副寮長に様子を見てくるように言われて……」
「チッ……」
「ひっ……!」
「フロイド……寮生を怖がらせたら可哀想でしょ? 彼はアズール達に言われて見に来てくれたんだからさ? とりあえず早く部屋の場所確認して荷物置いて戻ろ! アズール達も何か用事があるのかもしれないし!」
「部屋でホワイトシクリッドちゃんとゆっくりしたかったのに……」
「それは全部終わってからね?」
ほらほら行くよとフロイドを促し、様子を見に来てくれた寮生の子には、すぐ行く旨の伝言を頼み、私とフロイドはバタバタと荷物を置きにこれから二週間過ごす事になる部屋へと向かったのだった。
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